第15節 造 園

 

第1.「造園」の性格と目標  「造園」は,われわれの生活環境に諸材料を用いて,観賞や実用のために修景された地域を築造することを学習する科目である。

 したがって「造園」には,園芸的植物や森林樹木の育成・植栽・管理・観賞などの点で,園芸および一般農林業的な内容を含むほか,その設計・施工に当っては,測量・製図,意匠のくふう,土工・建築などを行う点で,土木建築および一般芸術的な内容が含まれる。

 なお「造園」は,都市・地方および国の公園緑地計画や風景の保存,開発計画として都市計画・地方計画,さらに国土計画へと発展している。

 「造園」の目標を細分すると次のようになる。

1.生活環境に造園施設がなぜ必要かを理解する。

2.自然的・社会的・経済的条件に応じて,生活環境に造園をどのようにとり入れ,またどのように計画したらよいかを理解する。

3.造園についての技術的な知識を身につける。

4.目的および条件に応じて,おのずから創意くふうに富んだ造園設計をなし,施工し,維持管理する能力を養う。

5.各種の造園施設および保勝地を観賞し,批判する能力を養う。

6.造園材料について,識別・利用・保護・管理・経営の能力を養う。

7.造園の個人的・社会的・文化的意義と使命とを自覚し,これに打ち込む態度を養う。

8.生活環境に造園的美的要素をとり入れ,文化の向上に貢献する喜びと楽しみを見いだす態度を養う。

 

第2.「造園」の具体的な到達目標

〔技  能〕
〔一般的な知識・理解〕
 (汎 論)

1.庭園や風景地などを観賞して,これらの優劣の判断をすることができること。

2.簡単な建築の平面図や透視図がかけること。

 

1.造園は,われわれの生活環境において保健・教化,美化・防災などの施設として重要な役割をもっている。

2.造園は,全体・部分・局部および材料から構成されている。

3.造園の意匠には美の要素が応用される。

4.造園の形式は自然式と整形式の二つに大別されるが,世界各国にそれぞれ特異の様式と意匠とが見られる。

5.造園の発達は,その国土・地理的環境・国民性および歴史的文化の経過のいかんによって影響される。

6.わが国および諸外国の造園の発達を知ることは,新たに造園を設計する場合の基礎になる。

7.造園の観賞力と批判力とを高めることによって,さらにすぐれた作品をつくることができる。

8.造園は,都市の重要な公共施設である公園緑地として,都市計画と緊密な関係をもっている。

9.緑地は,これを所有・管理・施設の状態によって分ける。

10.造園は,都市・地方および国の公園緑地計画や風景の保存,開発計画として,都市計画・地方計画,さらに国土計画へと発展している。

ll.建築の様式や構造の大略を知るのは造園の設計と観賞に役だつ。

 (造園設計)

3.庭園設計に当り,敷他選択・地勢・風土・環境・既成諸施設および,依頼者の希望事項など諸条件の予備調査がつくられること。

4.歩測あるいは巻尺などを使って庭園を測量し,簡単な見取図面がつくれること。

5.平板・トランシット・レベルなどを使って,いろいろな縮尺で大面積や複雑な地形の測量ができること。

6.測量調査の結果に従って正確な現況図や地形図がつくれること。

7.一般図面の正確な複写・拡大・縮小および青写真の焼付ができること。

8.製図器具の使用,設計図面の鉛筆仕上・墨入れ・着色がじょうずにできること。

9.設計用図面として,平面図・立面図・鳥瞰(ちょうかん)図,土工用図,配植図などがつくられること。

10.路線の縦横断面図ができる。

ll.設計図面に基いた模型の作製ができること。

12.日本庭園全体の大体設計ができること。

13.日本庭園の部分および局部(植栽・池泉・石がき・苑路(えんじ)・添景物など)設計ができること。

14.西洋庭園全体の大体設計ができること。

15.西洋庭園の部分および局部(植栽・見通し線・水池・苑路・露壇・添景物など)設計ができること。

16.花壇の設計および植栽計画ができること。

17.いろいろな住宅庭園の設計ができること。

18.和洋折衷式あるいは実用本位の西洋庭園の設計ができること。

19.造園設計書が作成できること。

20.普通公園・運動公園・自然公園・近隣公園・児童公園などの大小公園の設計ができること。

21.公園道路・広場の設計ができること。

22.総合運動場・陸上競技場・野球場,蹴球(しゅうきゅう)場など各種運動場の設計ができること。

23.校庭の設計ができること。

24.墓苑の設計ができること。

25.社寺苑の設計ができること。

26.動物園などの設計ができること。

27.遊園地や団体厚生園の設計ができること。

28.簡単な路傍施設(ベンチ,ピクニックテーブル・指標など)の設計ができること。

 

12.造園設計には,諸材料と様式・意匠とを活用して独創的な造園の構成をつくりだすことがたいせつである。

13.造園設計には,敷地の選択・地勢・風土・環境・既成諸施設および依頼者の希望事項など諸条件の予備調査がいる。

14.設計には実地踏査を行い,各種測量によって見取図や現況図をつくるとよい。

15.設計図面には,大体の設計図と詳細な設計図とがある。

16.設計には,図面の複写・拡大・縮小および青写真焼付などの技術がいる。

17.設計図面について模型をつくることは,立体感を表わすのに役だつ。

18.日本庭園および西洋庭園の設計は,時代・風土などによって様式にそれぞれ特徴がある。

19.住宅庭園の設計は,住宅に応じてその大きさ(規模)と種類とを異にするが,特に建物との調和が必要である。

20.近代の住宅庭園には,和洋折衷式あるいは実用本位の西洋式が多く要望される。

21.花壇の設計は,西洋庭園や公園にとり入れられることが多い。

22.庭園の地割は設計上最もたいせつである。

23.造園設計書は,その後の造園施工・管理に必要なものである。

24.各種の大小公園の設計は,公共造園施設の中で最も重要である。

25.公園・道路・広場などの設計には造園技術を必要とする。

26.各種運動場の設計は,公園緑地系統の一環としてたいせつである。

27.校庭の設計は,運動場・教材園などを主にした特殊なものである。

28.墓地の設計は,都市計画上からも公園式墓地が要望されている。

29.社寺苑の設計は神聖な境域として尊厳で静寂なものが望ましい。

30.動物園その他特殊園は市民の教化・慰安施設として利用される。

 (造園材料)  

31.造園には多種多様の材料が用いられる。

32.造園植物はわれわれの生活環境と密接な関係をもっている。

33.樹木は周囲の環境によく合ったものが用いられる。

34.庭木は,種類・品種によってそれぞれ独特な樹形と美しさを表わす。

35.樹木のふやし方にはいろいろな方法がある。

36.樹木を移植するには適当な時期と方法とがある。

37.樹木を健全に美しく育てるためにはいろいろな手入れが必要である。

38.老木となって弱った樹木は,注意深い手術によって回復させることができる。

39.樹木の性質をよく観察して,従来の庭木の中に新しい樹種をとり入れることが必要である。

40.樹木の栽培をとり入れて農業経営を有利に導くことができる場合がある。

41.日本庭園では庭石が大きな役割を占めている。

42.庭石には,外形・野面(のづら)・色沢・節理・硬度・勢いなど,それぞれの特徴がある。

43.庭石には,花崗(かこう)岩のほか安山岩・凝灰岩などが用いられる。

44.庭石には,石を加工してつくられた灯籠(とうろう),手水鉢(ちょうずばち)などの添景物が用いられる。

45.木材は入手が容易であり,取扱や工作に便利のため庭園工作物の材料として多く使用される。

46.竹材は質が堅く,弾性に富み,東洋独特な材料として庭園に利用されることが多い。

47.れんが・タイル・テラカタ・土管などの窯(かま)製材は,構造用・装飾用材として使用されることが多い。

48.セメントはそのすぐれた特徴をもって,各種工事・主要材料の一つとして欠くことのできないものである。

49.鉄・銅,その他の金属製品は彫塑構造用として用いられる。

50.わら・なわ・綱などは原料製品の種類多く,それぞれ異なった用途がある。

 (造園施工)

29.諸資材を使って工事の計画ができること。

30.土の切取り・盛土・運搬の作業に使われる器具・機械を選びうること。

31.レベルを使って土坪の計算および平均ができること。

32.簡単な面積計算および,プラニメーターを使って精密な面積計算ができること。

33.三角測量ができること。

34.土工の測量作業として,くい打ち・遣方(やりかた)などができること。

35.土工の労力計算・見積りができること。

36.土地の状況に応じた排水の計画を立て,工事ができること。

37.路線の選定および設定ができること。

38.苑路(えんろ)の勾配(こうばい)・幅員や構造などを決めうること。

39.苑路や階段の工事ができること。

40.池・プールなどの工事ができること。

41.簡単な土橋・木橋などができること。

42.簡単な工作物や基礎工事ができること。

43.張芝の準備と作業ができること。

44.張芝の計画と見積りができること。

45.庭石の運搬とすえ付ができること。

46.地形に応じた各種の擁壁(ようへき)工事ができること。

47.れんが積み工事の設計・見積りができること。

48.簡単なコンクリート工事の設計ができること。

49.コンクリート工事の材料および型わくを準備するとともに,その配合ができること。

50.簡単な鉄筋コンクリート工事の設計および施工ができること。

51.かき・日陰だな,および簡単な庭門などの工事ができること。

52.庭石として最も使いやすい石を選ぶことができること。

53.石の形を生かした使い方ができること。

 

51.庭園(施設)が完成するまでにはいろいろな工事がある。

52.工事は労力と資材などの経費を少なく,確実にしかも短期間に完成するように計画することが必要である。

53.土工の作業は,土の切取り・盛土および運搬の三つに分けられる。

54.一般に土工の計画は,盛土と切取りとの量が同一になるように設計される。

55.地形や移動の距離などによってそれぞれ適した切取り・運搬の方法が選ばれる。

56.排水工では,降雨量・地形および排水の目的などによってそれぞれの方法がとられる。

57.苑路(えんろ)は,距離,勾配(こうばい)・幅員・横断面形などの条件を考慮して設置される。

58.苑路工には,使用目的および地形・地質などの条件に応じた構造や構成材料が選ばれる。

59.階段は,昇降につごうのよい構造にすることがたいせつである。

60.池・プールなどの工事では,漏水の防止,給排水の設備,護岸などがたいせつである。

61.橋の構造およびその材料,交通,架橋(かきょう)の位置,周囲との調和,費用などによって決まる。

62.基礎工事は工作物の規模・土質などに応じ適当に行われるが,安全さに注意しなければならない。

63.張芝工は,土地の状態・経済的条件などによっていろいろな方法が選ばれる。

64.庭石の運搬とすえ付には,周到な準備と慎重な取扱とが必要である。

65.土地の勾配を土の静止角以上に急傾斜にするときは,土の崩壊を防ぐため擁壁がいる。

66.れんが積みには,イギリス積みなどがあって,擁壁・壁体などに用いられる。

67.コンクリート・モルタルは耐久力に富み使用に便利で,基礎工事を始め擁壁・鋪装などに用いられる。

68.鉄筋コンクリートは,コンクリートと鉄筋とを組み合わせてそれぞれの欠点を補い長所を発揮させたもので,特に堅固な構造物に用いられる。

69.庭園の設備として,かき・日陰だな・庭門・あずまや・壁泉,プールなどの建設物の工事が行われる。

 (都市計画)

54.公園および風致地区調査資料をまとめうること。

55.都市のいろいろな調査ができること。

 

70.都市計画とは,それぞれの地方で経済・政治・文化の中心となっている都市を理想的に建設するための総合計画である。

71.内外都市の発生と発達にはいろいろな条件と特徴とが見られる。

72.都市計画遂行のためには,都市と農村とを一体とする地方計画が必要である。

73.地方計画は,国土全体の計画(国土計画)のもとに立てられてはじめて健全な効果を発揮する。

74.都市計画の実際には,保健衛生施設・交通施設・地域制・土地区画・整理などがあり,それぞれ造園に関係が深い。

75.都市計画の法制は,都市計画事業に対しいろいろな便宜と手段とを与えるとともに,都市計画に対して法律上の権限を与えている。

76.多くの都市計画事業は多額の経費を要し,しかも収入の伴わない公共施設であるので,健全な財政計画を立てる必要がある。

 (風景計画)  

77.風景計画は,特にすぐれた風景を保護開発し,国民の保健・休養・教化のために行うものである。

78.風景地(保勝地)は,自然の風光に恵まれているわが国にとって重要な観光資源である。

79.国立公園は,代表的な大風景地に国で設定する公園であって,全国民の享用に当てるとともに国際的利用価値もまた大きい。

80.森林は風景地の要素となる場合が多く,これを美的に取り扱うことは造園上たいせつである。

 

第3.造園の教育内容 A 概 論 造園の必要,造園計画,公園と緑地,造園の発達,造園の様式,造園材料,造園意匠,造園設計,造園施工,造園の保護と管理,造園の調査,造園の観賞と批判。 B 造園材料 庭石,加工石材,木材および竹材,窯(かま)製材,金属材,その他の材料。 C 造園設計 造園設計の基礎,日本庭園の設計,西洋庭園の設計,住宅庭園の設計,公共建築付属庭園の設計,設計書類の作製,各種公園の設計,運動競技場の設計,校庭の設計,墓苑の設計,動植物園の設計,遊園地の設計,国立公園施設の設計。 D 造園施工 張芝工,樹木の根回しと植えかえ,排水工,土工,コンクリート工,基礎工,岩組工,かき・たな,苑(えん)路工,工事の見積り,工事のしかたと順序。 E 都市計画 都市計画の必要  都市の発達,最近の都市計画。

都市計画の実際  都市計画の法則,都市計画の財政。

F 風景および建築 国立公園,天然公園,基礎的建築。 G 造園史 奈良朝時代,平安時代,鎌倉時代,室町時代,安土(あずち)桃山時代,江戸時代,現代。

 

第4.教育課程構成への適用

1.造園は,現実の材料を使って現実的な構造をつくり,それを美的に,経済的に,また実用的に利用するものであるから,まず材料とその築造法とに重点をおいて教育課程をつくることが望ましい。

2.造園材料の8〜9割は樹木が占められているので,樹木(草花・花木)に関する生育上の特性,形態上の特質や,その自然を構成している状況などに関する,めんみつ・周到な知識・理解を必要とすることを考慮しなければならない。

3.岩石・土・河川・渓流など,一般地表を構成している各材料に関する知識と気象に関する知識とは,自然について完全な理解をする上に必要である。

4.築造上の根本原則は一般美学によるが,さらに自然美の研究と絵画・彫刻・建築など造形美術の理解がたいせつである。

5.文学・建築・宗教・社会・政治などの知識も必要である。中でも建築と彫刻とは園内建設物として有力なもので,常に美的に実用的に調和を保つ必要があるから,これらに関する知識・理解は特にたいせつである。

6.実地の設計や施工などにさきだって測量が必要である。また,排水,道路などには土木の仕事もあり,手入れには病気・害虫の防除や植物生理の知識・理解を欠くことができない。