第1章 高等学校における農業教育
第1節 高等学校における農業教育の一般目標
高等学校における農業教育の目標は,将来,みずから農業を営み,あるいは初級技術者として農業に関する職業に従事して,わが国農業の改良・発展の指導力となるために必要な科学的・実際的な能力を養成するにある。
なお,この目標を細分すれば,あらまし次のようになる。
2.農業経営と土地・資本財・労力との関係を理解する。
3.農業・林業に関する各種技術の科学的な根拠を理解するとともに,それらの技術を科学的に高めるために必要な知識・理解を養う。
4.農業あるいは,農業に関する仕事についての経営的な能力を養う。
5.農業に関する技術に習熟する。
6.郷土の農業の実態を理解し,進んでこれを改良しようとする態度を養う。
7.農業の個人的・社会的意義を自覚し,これに打ち込む態度を養う。
8.農業および農村生活に喜びや楽しみを感じ,作物・家畜・森林などを愛育する態度を養う。
農業科の科目とその単位数は次のとおりである。
総合農業 12〜36 農業経済 2〜10
耕 種 2〜20 林業一般 2〜20
園 芸 2〜20 森林生産 2〜10
畜 産 2〜20 林産加工 2〜15
蚕 業 2〜20 森林土木 2〜15
農産加工 2〜20 林業経済 2〜10
農業土木 2〜20 造 園 2〜20
農業工作 2〜10 その他
農業の実際的能力を身につけるには,農業経営の実際に即して学ぶことがたいせつであるが,農業経営の実際は決して耕種とか畜産とかいうように独立しているものでなく,互に密接に関連し合っている。したがって,農業経営の実際に即して学習しようとすると,稲作のところで畜産や経営の問題をとり上げたほうがつごうのよい場合もあるし,経営のところで,栽培技術や農具の問題に深入りしたほうが教育の効果を高めることもある。それで,能率的な指導の体系をつくるには,耕種とか畜産とかいうような境を設けないで,郷土の農業の実際の調査や,生徒が行う仕事の適当なところに適当な事がらを織り込んで指導しなければならない。
であるから,農業課程・園芸課程・畜産課程,農林課程などの必修教科としての農業科においては,できるだけ「総合農業」のように,農業教育の指導内容全体の中から,直接に単元を構成して指導することが望ましい。そうして,こういう学習の体系をつくると,一定の生徒に対する農業教育の内容を,何人かの教師が分け合って指導するようなことは効果的でないといわなければならない。したがって,これを指導する教師の数はできるだけ少なくし,できればひとりの教師が全分野を受け持つことが望ましいのである。
ところが,わが国においては,これまで多くの科目を設け,それを何人かの教師が分け合って指導していたので,学歴・経験などからいって専門の教師が多く,農業教育の全分野を受け持ちうる教師は少ない。そこで,ひとりの教師が全部受け持ち得ないような場合には,その学級の学習する内容を最も広く受け持ちうる教師がその学級の農業教育の主任となり,農業の教育内容の全分野にわたって計画を立て,そのうち,自分の受け持ち得ない部分は全体との関連を保ちながら,一つのまとまりを持った部分となるように組み立てて,他の教師に受け持ってもらうようにし,しだいに自分の受け持つ分野をひろげていくようにすることが望ましい。そうして,教師は広い分野に立ってそれぞれの専門を築き上げ,互に助け合うときに,真によい教育ができるようになるであろう。
選択教科としての農業科は,分科した科目をとり上げ,それぞれ専門の分野を受け持って,必修教科としての農業科だけではみたすことのできない仕事や問題をいっそう深く,あるいは,いっそう広く指導することが望ましい。
農業土木課程などでは,必修教科としての農業科も,第1学年だけ「総合農業」をとり上げ,その後は分科された科目で課程を構成する場合もあるであろうし,また,林業課程などでは,第1学年から分科された科目で課程を構成するようなこともあるであろう。