第4節 漁村男子向き課程の例

 

 わが国は四囲を海に囲まれ,昔から水産物を利用することが盛んで,現在では世界の主要な水産国である。地理的に南北に細長い列島であって,広い海域に臨み,海岸線の出入が多く,好漁場に囲まれている。一方,狭い陸地は地勢が急で,耕地面積が少ないので,集約的な農業によっておもに穀物・野菜の生産が行われているが,諸外国のように多量の畜産物を生産することが困難である。したがって水産業はきわめて盛んで,動物性食品の大部分を海に求めている。

 水産業の形態は年とともに科学化され,大規模になってきていて,巨大な施設を要する母船式捕鯨や,優秀な大型漁船による遠洋漁業や,多量に資材を要する大型の網漁業等が行われ,また,他面,小型和船によるつり漁業等も盛んで,小規模ながらその数はばく大である。

 漁獲された水産物は漁港や市場に送られ,ただちに消費されたり,加工貯蔵されてから使われたりする。水産物は他の産物と違い,水分が多く腐敗しやすいから,それをいかにして新鮮に保つかということがたいせつな仕事になっている。そのために塩乾品の製造や冷凍工場・かんづめ工場による貯蔵食品の製造が盛んである。

 また,一方水産物といっても無尽蔵ではないので,これを保護したり,ふやしたりして合理的に漁獲することの必要が強調され,着々実行されている。また,内陸の河川・湖沼等でも,各地各様の増殖事業が行われている。

 このように水産業の内容は複雑であり,しかもあるいは都市的,工業地域的な処で行われ,あるいは,半農半漁の村で行われているので,一口に水産業地域といっても,その地域の産業構造はきわめて複雑である。したがって,その地域社会の実際をよく調べて,その地域社会の必要や,生徒の事情,学校の事情によく合った計画を立てる必要がある。

 

 第1.この学校の還境

 この例は太平洋に面した漁村で一方が海に開け,他方は山を負い,一面,小都市に近接した所で,わずかながら耕地もある中で,主として漁村生活を営んでいる村の,6学級編成の中学校を想定して作成したものである。

 この水域は岩礁地帯が多く,海草類が繁茂する水産物豊かな海岸で,一方,沖合は沿岸性魚類の好漁場である。

 したがって,海上に出てつりや網漁を行い,また,潜水夫となって磯漁を行い,あるいは,他の地域へ出かせぎするものもある。

 また,近くに都市をひかえているので,水産物の加工製造が盛んで,これに従事するものも少なくない。

 第2.単元一覧表

      第 1 学 年             140時間

   1.身のまわりのしまつ            17時間

   2.家庭生活への協力             42時間

   3.い そ づ り              18時間

   4.漁 家 の 手 伝            47時間

   5.家 畜 の せ わ            16時間

      第 2 学 年             140時間

   1.漁 村 の 生 活            32時間

   2.水産資源の愛護              29時間

   3.え  び  網              30時間

   4.水産物の加工               40時間

      第 3 学 年             140時間

   1.びんづめ・かんづめと肥料・魚油      58時間

   2.漁 船 の 運 転            58時間

   3.わたくしたちの将来            24時間

 

 第3.第1学年の学習指導

   A.第1学年の学習指導

 小学校を終って中学校に入学したばかりの生徒が,自分の身近かな仕事をとり上げて,それを合理的,実践的に処理してゆくことを通じて,実生活に役だつ基礎的な知識・技能を身につけるとともに,人間生活において仕事をするということがどんなにたいせつな仕事であるかということを理解し,みずから進んで仕事をするように指導する。

 生徒はすでに家庭においていろいろな仕事を手伝っているであろうが,中学校に新しく入学したのをきっかけとして,今までとは違った積極的な気特で仕事をとりあげるようにするのであるが,そのきっかけとして,まずもっとも手近な身のまわりのしまつを問題にする。

 次に家庭生活におけるさまざまな仕事に目をつけ,自分たちにできる仕事にはどんなのがあるか,自分たちが手伝うことによつて家庭の人々はどんなに助かるかを問題にして,適切な仕事の方法を学び,その能力をもってただちに家庭の仕事に協力し,その家庭での仕事のうちに起った問題を学校に持ち込んで,いっそうよく協力できるように話し合ったり,技能の上達を図ったりして,ふたたび家庭で実践するようにする。

 次には,水産的な仕事の入門として,いそづりをとりあげることにした。生徒は小さい時からつりを遊びとしてやっているにちがいないが,それをこの教科でとりあげるのは,単なる遊びから抜け出して科学的,能率的に,そうして生産的に進めるためであるから,いつまでも遊びの延長であってはならない。

 この例においては継続的な仕事が少ないから,単元を季節的に一つずつかたづけていく方式をとった。そのために春に始めた畑の仕事は,その単元だけでけかたづかず,秋の単元「漁家の手伝い」でふたたびとりあげることになる。

 最後にとりあげた「家畜のせわ」という単元は,2年生がこのころまで当番制によって飼育していたものを引き受けて飼育するのである。

 

   B.単 元 の 主 眼
 
単 元 名
主        眼
1.身のまわりのしまつ  自分自身で身のまわりのしまつができるように衣服のよごれをとり,洗たくしたり,仕上げをしたり,破れた処をつくろったりする。また,それに関連して電気アイロンの取り扱いを学ぶ。

 一方急病,けが等が家庭内に生じた場合の応急処置のしかたを学ぶ。

2.家庭生活への協力  自分たちが協力できる家庭の仕事にはどんなものがあるかを調べて,畑の仕事や海辺にでて,海草をとる仕事,加工して製品を作る仕事,あるいは帳簿に記入するような事務的な仕事のしかたを学び,それが家庭生活の実際に反映するようにしてよい家庭をつくる能力を身につける。
3.い  そ  づ  り  漁の手引になるつりについて,まずつり具を自分たちでこしらえ,それを用いて沿岸の魚類をつる。獲物を食用にするに当って,悪くならないように,貯蔵のしかたを学び,あるいは副食として,調哩のしかたや利用の方法を習得する。
4.漁 家 の 手 伝 い  むぎ・いものとり入れや野菜つくりを行って,生活に協力し,一方漁具類の簡単な加工を行い,漁網の破れ穴をつくろい,あるいは家計簿のつけ方や珠算などを学習して,家の生産的な仕事の手伝いができるようになる。
5.家 畜 の せ わ  うさぎやにわとりの箱あるいは小屋を製図し,それにもとづいて箱を作り,実際に家畜を飼育する。その飼い方や利用のしかたを覚え,生物を愛育する態度を身につける。

 

   C.単元の構造

(表中の太数字は年間時数,かっこ内の数字は知識・理解の内容の番号を示す)


 

項目

単元

第  1  類
第  2  類
第  3  類
第  4  類
社会的,経済的

知 識・理 解

栽   培
飼 育
食品加工
手技工作
機械操作
製  図
文書事務
経営記帳
計 算
調 理
衛生保育
 

 

 

 

身のまわ

りのしま

 

 

 

 

 

22

        ・湿式洗たく

 (まる洗い)

・しみ抜き

 (油・汗)

・仕上げ

 (アイロン

 仕上げ)

・つくろい

 (布類・ボタ

 ンつけ・は

 なおのすげ

 かえ)

10

・電気器具

 (電気ア

 イロン)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ・通信文

 (案内文)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・日常取引

 記入帳簿

 (こずかい

 帳・現金

 出納帳)

 

 

 

 

 

 

 

    ・家庭看護

 (応急

 処置)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・家庭生活のあり方

    (1)(2)

 

 

 

家庭生活

への協力

 

 

 

 

37

・む ぎ

 (おおむぎ・

 こ む ぎ)

・い も

 (さつま

 いも)

・野 菜

 (な す・

 トマト)

10

  ・海 草

 (ひじき・

 てんぐさ)

 

 

 

 

 

 

・加 工

 (海 草)

・乾 物

 (海 草)

 

 

 

 

 

・包装・荷造り

 (こも包み

 なわかけ)

 

 

 

 

 

 

          ・主 食

 ( 飯

 めん類)

・副 食

 (しる物・

 煮物・焼

 物・いた

 めもの)

 

10

・幼児のせ

 わ

 (着せ方・

 負い方・

 寝かせ

 方・遊ば

 せ方)

 

 

・家庭経済

     (1)(2)

・衣・食・住の計画

 管理(5)(6)

 

 

 

いそづり

 

 

18

    ・つ り

 (いそうお・

 めじな・か

 さご・くろ

 だい)

 

・貯 蔵

 (鮮 魚

 その他)

 

 

 

・竹 工

 (つり竿)

・なわ結び

 (つり具)

・染 物

 (浸 染)

          ・解 体

 (魚貝)

・副 食

 (煮物

 焼物)

 

  ・わが国の産業と職

 業(1)〜(3)

 

 

 

 

漁 家 の

手 伝 い

 

 

 

 

47

・む ぎ

 (おおむぎ・

 こ む ぎ)

・い も

 (さつま

 いも)

・野 菜

 (ほうれん

 そう・キャ

 ベツ)

10

    ・乾 物

 (塩ぼし)

・漬 物

 (塩づけ・ぬ

 かづけ・す

 づけ)

 

 

 

 

・竹 工

 (網目・針板)

・編み物

 (網すき)

 

 

 

 

 

 

12

      ・日常取引

 記入帳簿

 (家計簿)

 

 

 

 

 

 

 

・珠 算

 (加減

 乗除)

 

 

 

 

 

 

 

15

    ・各種産業における

 職業人の実情

     (2)(3)

 

 

家 畜 の

せ   わ

 

16

  ・家 畜

 (うさぎ)

・家きん

 (に わ

 と り)

    ・木工・金工

 (うさぎ箱・

 とり小屋)

 

 

  ・製 図

 (製図)

 

 

 

          ・家庭生活のあり方

     (2)(3)

140
20
12
15
37
15
13
 
53
43
22
22
 

 備 考 この学年の社会的,経済的知識・理解には時間を配当してないが,適当な時間を当てることが必要である。

 

   D.選択の時間の運営

 必修教科は広く職業・家庭科の仕事を組み合わせたが,選択では,可能な範囲で水産のプロジェクトをとりあげ技能の訓練を重視した。

 この学年では一歩進めば特技ともなる水産の仕事の中で,簡単な道具を用いる魚貝類の育て方や,その地域の水産業はどのようであるか等のはいりやすい内容を配置した。

   E.選択の時間の単元

 その他,次のような単元を挿入することもある。  

   単 元 の 主 眼
 
単 元 名
主        眼
1.あ  じ  づ  り  釣具のしかけや,糸わくをみなで作り,漁場・天候・船等を調べたり,つり具の手入れをして漁の準備をしたりしたのち,実際のつりを行う。漁がすんだら,船・道具のしまつをし,獲物は調べさせたり,簡単な加工をしたり,副食にしたりするなど適当に利用する。
2.ひ じ き の 利 用  海草の利用の一つとして,ひじきを例にとり,まず,海草がふえるように海岸をたいせつに保護することを学ぶ。とりあげたひじきはただちに干したり調理して食べてみたり,煮熱・乾燥して,それを包装し,保存食品にし,あるいは販売する。
3.家  畜  の  せ  わ  漁村でも多くは田畑で農作を行っているので,それらの手伝いをしたり,豚やにわとり,あるいは牛馬等の家畜の飼育を行い,それがどのように一家の経理に関係があるか理解する。
4.こ い と う な ぎ  池や水槽を使って,こい・うなぎ等を飼育し,魚類の増殖の初歩を学ぶ。気象・水質・水温・飼料等と魚類との関係を学び,魚類の生態・習性・成長等を調べる。
5.わたくしたちの村  自分たちの村がわが国のどのような位置にあってどのような地勢であるか,天然の地理的な状況を理解し,この村が栄えていくためには,私たちがどのような仕事に従って,どのような産業を盛んにしていったらよいか,農工商水産等の業を理解する。

 

 第4.第2学年の学習指導

   A.第2学年の学習指導

 一年間の学習によって,身近かな仕事を実際に行い,その技能を身につけてみると,一日も早くおとなたちのように上達したいという学習意欲が出てくるであろうから,この学年では内容の充実した技術を習得するように指導する。それであるから,単元の内容は水産的なものを濃く配置した。しかしながら,これによって強制的に水産業に従事する人に作り上げてしまうのでない。これらの単元の学習は,その内容において,水産的ではあるが,いろいろな技能を含む仕事が組み合わされているから,将来の職業を選ぶために,広い分野にわたる啓発的経験となり,自分の個性を発見することができるのである。また,できるだけそのように指導していかなければならない。

 前学年に指導したことをもとにして,一段と心身の発育した生徒に,郷土の資源,増殖の手法,漁獲物の有効な処理,あるいは網漁業の一端についての知識・技能を身につけ,ともすれば忘れがちな漁村の衛生と潤いのある民主的な漁村の建設を目標にした学習を展開させていく。

 学年の初めに「漁村の生活」について学び,家庭の衛生のことや,野菜・草花の栽培について学ぶ。6,7月には海に出て海岸の資源保護の仕事を行い,水産業について正しい理解を得る。秋にはえびをとることにし,おもに網の扱いや,作り方等を学ぶ。秋の末から翌春3月まで「水産物の加工」を重点的にとりあげ,食品加工のいろいろな方法を学習する。

 

   B.単 元 の 主 眼
 
単 元 名
主        眼
1.漁 村 の 生 活  野菜を作ったり,庭に草木を植えて屋外を美しくし,屋内の照明のぐあいを直したり,害虫や病気の媒介体を除いて清潔にしたりする。それについて家庭をどのように管理したらよいか計画をたてたり,また,応対のしかたを学んだりする。
2.水産資源の愛護  水産資源を愛護しなければならないことをじゅうぶんに認識し,実際に海岸をいろいろと手入れして,草がふえたり魚が住んだりするようにする。そのために,海岸のどこをどのようにするか図面をかいて調べ,必要な岩石を運んだり,コンクリートでつくったりして,生物をたいせつにして育てていく。さらに資源を絶やさないように漁を禁じたり,制限したりすることについて学ぶ。
3.え  び  網  漁にたいせつな網について理解させるために,簡単なさし網を実際に作り,その網を使って,えびをとる。それに伴って手こぎ舟の扱い方を覚える。獲

物は箱を作って蓄養し,あるいは調理したり,あるいは獲物を商品として販売したりする。

4.水産物の加工  その地域で入手できる漁具を使って,いろいろの加工を行い,多量にできたものを商品として,包装・荷造りする。一方,食品加工のようすを広告したり謄写印刷にして方々に知らせたりする。

 

   C.単 元 の 構 成

 (表中の太数字は年間時数,かっこ内の数字は知識・理解の内容の番号を示す)


 

項目

単元

第  1  類
第  2  類
第  3  類
第  4  類
社会的,経済的

知 識・理 解

栽 培
飼 育
食品加工
手技工作
機械操作
製 図
文書事務
経営記帳
計算
調 理
衛生保育
 

 

漁 村 の

生   活

 

 

 

32

・野 菜

 (かぼちゃ

 きゅうり)

・花

 (草花・花

 木・庭木)

 

10

        ・照明器具

 (電気ス

 タンド)

 

 

 

 

    ・家庭管理

 (労力の配

 分・仕事の

 計画)

・応 接

 (電話応対)

 

    ・屋内の害虫

 および媒介

 体の駆除

 (か・はえ・

 のみ・ねず

 み)

 

・能率と体養

   (2)〜(4)

・家庭生活のありか

 た(1)〜(3)

・家族関係(1)〜(3)

 

 

11

 

 

水産資源

の 愛 護

 

29

    ・海 草

 (いそそう

 じ・投石・付

 着層新設)

 

10

  ・セメント工

 (海 草

 付着材)

 

 

  ・製 図

 (写図

 海図)

 

 

          ・わが国の産業と職

 業(1)〜(3)

 

 

 

 

 

 

え び 網

 

 

 

39

    ・網

 (さし網)

・漁−その他

 (ろ・さお

 蓄 養)

 

 

17

  ・編み物

 (網すき)

・染 物

 (浸染・カ

 ッチ染め)

・木 工

 (蓄養の箱)

    ・通信文

 (電報文)

 

 

 

 

 

・生産管理

 (道具の

 管 理)

・伝 票

 (売上伝票)

 

 

  ・副 食

 (煮物・

 あげ物)

 

 

 

 

  ・わが国の産業と職

 業(1)(2)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

水 産 物

 

の 加 工

 

 

 

 

 

40

      ・乾 物

 (めざし・煮

 干いわし)

・節

 (さば節)

・くん製

 (大羽いわ

 し・さんま)

・魚

 (ちくわ・さ

 つまあげ)

・醸造−その他

 (い か

 塩から)

18

・包装・荷造

 (こも包み

 なわかけ

 かんづめ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    ・通信文

 (広告文)

・謄 写

 (謄写

 印刷)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    ・解 体

 (魚)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ・各種産業における

 職業入の実情

   (1)〜(3)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

140
10
 
27
18
17
 
35
55
25
15
10

 

   D.選択の時間の運営

 この学年ではその地域で行われる実際の水産業の用で,重要であって,比較的手軽に行われるものをいくつか選んで学習させる。

 この段階では他の類似の水産業についても理解するように指導する。

   E.選択の時間の単元

 その他,次のような単元を挿入することもある。   単 元 の 主 眼
 
単 元 名
主        眼
1.学  校  農  園  みなで計画をたて,準備をして,農園を経営する。いろいろな作物や草花等を有てて,農作の知識・技術をじゅうぶん身につける。
2.ひ き な わ づ り  擬餌つりのいろいろについて覚え,小型の機械船を使って,ひきなわづりを行なう。これと合わせて漁船の運行・沿岸の航行法について,目標の見方,船の位置の決め方,海図の見方等の実際を習得する。
3.海 岸 の 網 漁  地引網や定置網等の沿岸で行われる網漁について実物を扱ったり,手伝ったりして,大型の網の構造や扱い方について習得する。

 どのような獲物があるか,獲物について調べたり,また乾物にしたり調理したりする。

4.い わ し の 利 用  その地域で多量にいわしがとれる時期にその獲物をいろいろに加工し,保存する。

 新しいものは塩乾物・節・くん製にし,鮮度の落ちたものは油をしぼり,かすを肥料につくってみる。

5.漁  と  農  耕  漁に専門に従事する人もあるが,大半は田畑を作っているので,漁と併行して,農作を行い,このような半農半漁の一家の経理について理解する。

 

 第5.第3学年の学習指導

   A.第3学年の学習指導

 第2学年までの職業・家庭科の学習は,水産に関するいろいろの仕事とともに家庭生活や農耕の仕事も組み合わせてきたのであるが,第3学年は,その大部分を水産的な仕事に集中して,その実際的な能力を養成するようにする。しかも,その水産的な仕事の中にも,各種の技能を含む仕事が含まれているので啓発的経験の意味はもちろん重要視する。

 心身共に第2学年よりも一段と発達した卒業期の生徒が,これまでの学習の基礎のうえに,さらに技能において高い程度のびんづめ・かんづめの製造や,漁村に必要な漁船の運転・運行の基礎の技能を学ぶと同時に,郷土や日本の水産の将来について学び,その見通しをもつように指導するのである。

 第3学年は,相当に水産に集中しているので,多くの地域においては,このほかに男子向きの課程をもう一つ設ける必要があるかもしれない。

 

   B.単 元 の 主 眼
 
単 元 名
主        眼
1.びんづめ・かんづめと

  肥料・魚油

 それぞれの機械を扱って,漁貝類のびんづめやかんづめをつくり,それに不適当なものは油をしぼったりする原料とする。びんづめ・かんづめは販売品になるように,レッテルをつけたり,できぐあいを検査したりする。それに伴って,物品取引の書類をつくったり,生産の状態・販売等について調べたり記帳したりする。
2.漁 船 の 運 転  船の動力機関をとりあげて操作を学ぶとともに小型の漁船を運転できるようにし,また,航海のしかたを習得する。船を走らせている時にひきなわづりを行ったり,航海燈類や集漁燈を取り扱ったりする。
3.わたくしたちの将来  学校卒業後,どの方面の職業に進んだらよいか,水産だけでなく,これまで調べてきた職業についての知識をうるように,その地域の漁・増殖・加工やその他の職業の実情を見学させ,他地域の状態を調査する。

 

   C.単 元 の 構 成

 (表中の太数字は年間時数,かっこ内の数字は知識・理解の内容の番号を示す)


 

項目

単元

第  1  類
第  2  類
第  3  類
第  4  類
社会的,経済的

知 識・理 解

栽培
飼育
食品加工
手技工作
機械操作
製 図
文書事務
経営記帳
計算
調 理
衛生

保育

 

 

 

 

 

びんづめ・

かんづめと

肥料・魚油

 

 

 

 

 

 

58

      ・びんづめ・か

 んづめ

 (魚類・海草)

・油

 (魚 油)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

15

・染 物

 (ニスぬり)

・手技工作−そ

 の他

 (レッテル張り

 ・打検)

 

 

 

 

 

 

 

 

・機 械

 (びんづめ・か

 んづめの組立

 て・調節・計器

 類・くぎ抜き・

 バンド締め・

 搾油機)

 

 

 

 

 

 

 

・広告図案

 (レッテル)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・取引関係書類

 (見積書

 送り状

 請求書)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・生産管理

 (道具の管理

 歩留り計算)

・保 管

 (物品の保管)

・販 売

 (商品の取り

 扱い

 販路の調査)

・日所取引記入

 帳簿(売上帳)

・その他

 (費用明細表

 労力日記)

10

  ・解 体

 (魚貝)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

・わが国の産業と職

 業(2)(3)

・個性と適職(1)(2)

・各種産業における

 職業人の実情

   (2)(5)(6)

 

 

 

 

11

 

 

 

漁船の運転

 

 

 

58

    ・漁

 (航法・漁

 船の操縦)

・つ り

 (ひきな

 わづり)

 

    ・照明器具

 (航海用燈類

 集 魚 燈)

・発動機

 (船舶機関の

 分解,総合

 運転)

 

 

 

 

 

 

 

  ・生産管理

 (道具の管理)

 

 

 

 

 

      ・能率と休養

    (1)(2)(4)

・各種産業における

 職業人の実情

    (1)(2)(4)

 

 

11

 

わたくした

ちの将来

 

24

    ・漁・増殖

 (実態調査)

 

 

・食品加工

 (実態調査)

 

 

      ・通信文

 (履歴書)

 

 

        個性と適職(3)(4)

各種産業における

職業人の実情

    (3)〜(6)

13

140
   
14
19
38
13
 
6
 
35
33
48
18

   D.選択の時間の単元

 この学年では,相当専門的なものでも能力に応じて学び,海洋の資源・生産力について理解し,科学化された漁業・水産製造あるいは水産物の栄養価等について学習する。

 この課程の終りの段階では,水産業の各分野についてどのようであるかを判断して,自己の適職が選べる能力が得られるように指導する。

   E.選択の時間の単元

 その他次のような単元を挿入することもある。  

  単 元 の 主 眼
 
単 元 名
主        眼
1.田 畑 と 肥 料  水産物の鮮度の落ちたものは肥料に作る。そしてこれを利用し,田畑に施肥をして,作物の収穫を増加させる。このようにして,作物の発育,生理を理解して,農作にじゅうぶんな知識をもつようにする。
2.漁 場 と 漁 期  地域の漁場で,漁を行ったり,漁獲物を調査したりして,漁場や漁期について理解するとともに,目的物としての魚貝類の習性・繁殖・生長等を調べる。
3.漁船と水産機械  海岸における漁船の操作・運転を行い,航海術の初歩を覚え,また船の種類・構造について習得する。さらに集魚燈・巻揚機その他水産に関する機械類について,実際の操作を学ぶ。
4.水産製造の現状  いろいろな水産製造について,その現状や将来の発展性を理解し,びんづめ・かんづめの製造を実際に行い,商品価値のあるものを作って,仕入れから販売まで実際に行う。
5.郷土の産業と職業  郷土の産業や職業のなりたちをいろいろな点から理解して,今後どのような産業をさらに盛んにしたらよいか,そして自分に適した職業にはどのようなものがあるかについて理解する。

 

 第6.単元展開の一例

   A.単元名  えび網  第2学年  39時間

   B.単 元 の 主 眼

 水産物を捕える方法の一つとしてさし網を作ったり,古いものを修繕したりして漁具を準備する。次に,ろ・かい等を使って舟のあやつり方を覚え,海上に出て適当な場所を選んで網をしかける。時期を見て網をあげて獲物をとりあげ,舟や漁具は後に備えて,じゅうぶん手入れをする。その獲物を観察したり調理したり,あるいは箱を作って蓄養したり,販売したりしてみる。どんな所で,どんな方法で,どんなものがとれるか,その地域ではどんな水産業を行ったらよいかなど,郷の産業の諸問題について学習する。

   C.単 元 の 展 開
 
学習内容
学習活動
時間
準備と資料
評  価
1.網漁法にはどのようなものがあるか
   
(1)漁業の種類

(2)漁の分類

(1)地域でどのような漁業が行われているかを調べる。

(2)網漁業を大別するとどのように分けられるか。

(3)水産物のとり方を分類してみる。

    (1)漁具標本

(2)漁法の図表

(3)簡単な漁具の実物

(1)平常,水産業にどのように注意しているか。

(2)水産業についてどのような見方をしているか。

(3)どのような漁法を選んだらよいか判断する能力。

2.さし網の構造はどのようであるか
   
(1)種類・構造

(2)網目・編網法

(3)うき・おもり

(1)材料の種類,つな糸のより方,太さ,染め方を調べる。

(2)網目の太さ,編み方を調べる。

(3)へりづなのつけ方,うき・おもりの種類,太さを調べる。

(4)その区域の実際のさし網漁を見にゆく。

    (1)材料の種類,つな糸のより方,染め方を示した標本

(2)さし網の実物

(1)観察

(2)実物の構造を判断する。

(3)構造を自分で解決してゆく。

(4)網・つなを整理する態度

3.さし網を実際にこしらえ蓄養箱をつくる
   
(1)編網貝

(2)編網

(3)いけす・蓄養箱

(1)網針をこしらえる。

(2)目板をこしらえる。

(3)物指をこしらえる。

(4)網を編む。

(5)うき・おもりを作る。

(6)網を組み立てる。

(7)網を染める。

(8)蓄養箱を作る。

 

    (1)綿糸その他の材料

(2)簡単な木工具

(3)網針・目板・物指・さし網の実物

(4)実際の業者の網や手入のようすを見る。

(5)染料・そめがま

(6)蓄養箱の実物

(1)手先の技能

(2)工作の技能

(3)工作品の良否

(4)注意深い態度

(5)熱心な態度

4.漁具や舟を用意する
10
   
(1)網具

(2)船具

(3)天気・潮汐

(4)操船

(1)網が痛んでいないか調べる。

(2)海上の操作に必要な道具をそろえる。

(3)舟は整っているか調べる。

(4)天気の状態を調べる。

(5)潮汐を調べる。

(6)ろ・かいの使い方,舟の動かし方を練習する。

    (1)さし網

(2)つな・いかり

(3)手こぎ舟

(4)気象図・潮汐表・海図

(1)用意周到な態度

(2)自分たちで準備する態度

(3)海上操作に積極的な態度

(4)海洋・気象を判断する態度

5.舟に乗って網をかけにいく
10
   
(1)漁場

(2)網入れ

(1)場所をさがす。

(2)網がかけられるように舟をあやつる。

(3)漁具を使いやすいように整頓する。

(4)網を入れる。

    (1)〜(4)同上

(5)その地域の海岸に出かける。

(1)現場における判断力

(2)船上の動作

(3)舟や漁具を扱う態度

(4)共同一致の態度

6.獲物をあげ,漁具や船の始末をする
10
   
(1)網あげ

(2)漁具のそうじ

(1)とりあげる時期を調べる。

(2)舟のあやつり方

(3)漁具の取扱

(4)舟のそうじ,網の後仕末

    (1)舟台・網干場

(2)そうじ用具

(3)地域の海岸

(4)作業場

(1)生物に対する注意力

(2)海上の変化を判断する態度

(3)舟・漁具をたいせつにする態度

(4)進んであとかたづけをする態度

7.網を干したり,つくろったりする
10
   
(1)網干し

(2)修理

(3)防腐保存

(1)網の干し方

(2)破れ穴の直し方

(3)防腐のしかた

(4)網のしまい方

    (1)染料の標本

(2)網修繕の解説図

(3)作業場

(1)器物を尊重する態度

(2)綿密な態度

(3)将来に備える態度。

8.獲物を蓄養したり調理する
10
   
(1)蓄養

(2)観察

(3)調理

(4)処理利用

(1)獲物の種類を調べる。

(2)獲物を蓄養する。

(3)獲物の大きさ,年齢・成育状態を調べる。

(4)内臓・骨髄を調べる。

(5)調理法を調べる。

(6)調理して味わってみる。

(7)漁獲のようすを知らせる。

(8)獲物を取引してみる。

    (1)蓄養箱

(2)分類図集

(3)解剖図

(4)解剖道具

(5)調理道具

(6)獲物の利用関係書類

(1)生物愛護の態度

(2)研究的な態度

(3)手さきの技能

(4)清潔にする態度

(5)食生活に結びつける態度

(6)獲物を商品に扱う態度

9.海岸の水産物とそのとり方
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(1)水域調査

(2)漁獲方法

(1)海岸の状態を調べる。

(2)その区域の水産物の生態を調べる。

(3)海岸で行われる漁法を調べる。

(4)その地域の水産物をどのようにしてとったらよいかを考える。

    (1)海岸の模型

(2)生物標本

(3)漁法の解説図

(4)海岸を見学する。

(1)自然との関連を判断する態度

(2)資源愛護の態度

10.郷土の水産業の状態はどのようであるか
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(1)水産業の状態

(2)社会との関係

(3)地域の特殊性

(1)その地域の水産業の状態を調べる。

(2)その区域の漁船・漁業者を調べる。

(3)その区域の漁業と一般社会について調べる。

(4)その区域の特殊性を調べる。

    (1)各種のグラフ・統計表 (1)総合的な考え方

(2)経済的な見方

(3)社会機構を判断する態度