第1章 職業・家庭科の性格と目標

第1節 職業・家庭料の性格

1. 中学校における職業・家庭科は実生活に役だつ仕事を中心として,家庭生活・職業生活に対する理解を深め,実生活の充実発展を目ざして学習するものである。

 この教科は次の節にあげたような諸目標をおもに家庭生活・職業生活に役だつ仕事の学習を通じて達成しようとするものである。これまでの教育においては,このような教育はとかく軽んぜられたり曲げられたりしていたのであるが,新しい中学校の性格から考えるときはきわめて重要な意義をもつものである。

 「実生活に役だつ仕事を中心として」ということは,中学校の教育課程におけるこの教科の位置や範囲を決める上の目安となるであろう。しかし,これはただ手足を動かして働くということではない。仕事をすることの個人的な意義や社会的な意義をじゅうぶんに自覚して仕事に向かい,しかも,それを,いっそうよく,いっそう能率的,協力的になし遂げようとしてくふうしたり,また,興味ある問題に当面した場合には,それを深く研究しながら仕事にいそしむのでなくてはこの教科の諸目標を達成することはできない。このような学習をするためには,技能や,技術に関する知識・理解はいうまでもなく,家庭生活・職業生活に関する社会的,経済的な知識・理解,たとえば家族関係や,産業・職業の知識などで,この教科において学習したほうが望ましいものはこの教科の教育内容として取り上げなければならない。

2. 職業・家庭科の仕事は啓発的経験の意義をもつとともに,実生活に役だつ知識・技能を養うものである。

 中学校の生徒の進路や将来の職業はまだ決まっていない場合が多く,学年の進むとともにだんだん具体的に考えられるようになる程度であろう。また,いったん決まったように思っても,いつ変るかわからないし,またさらに,今日の社会においては,自分で進みたいと思うところへだれもが行きうるとは限らない。したがって,ある特定の職業を決めて,それに必要なことだけを学習するようなことは適当でない。いろいろな分野の仕事を経験して,それに関連する職業や仕事に対する理解を深めるとともに,自分の能力や環境について考えてみる機会を与える必要があり。この意味においてこの教科の仕事は啓発的経験の意味をもつものである。しかし,このことは知識・技能を養うということと別のことではない。前の項で述べたような学習によって,知識・技能を身につけてみてはじめてその方面の仕事とか職業に対する理解が深まり,みずからを正しく評価する機会も得られるのである。したがって,ある種の技能にある程度まで熟練するということも啓発的経験の範囲外ではない。選択教科としての職業・家庭科の時間に学習する内容は,生徒の必要や能力によって相当深く学習するようなこともあるであろうが,これもまた,啓発的経験の意味をじゅうぶんにもっている。ここにおいて,職業や仕事を選ぶ能力と家庭生活や職業生活に必要な知識・技能とは一体として得られるのである。

3. 職業・家庭科の教育内容は,地域社会の必要と学校や生徒の事情によって特色をもつものである。

 これは都市・農村というような地域の違い,また,その都市や農村の課題の違い,性別・個性・環境・進路というような生徒の事情,大きい学校,小さい学校,施設のよい学校,悪い学校というような学校の事情に応じて,選ばれる教育内容が違うということである。すなわち,同じく機械について学ぶ場合でも,都市では工作機械が使われ,農村では農業機械が使われ,女子は裁縫機械によって機械の構造や能率を理解するのが最も自然である。また,都市においては,農村と同じような栽培や飼育をこの教科の内容として取り入れることはできないし,また,その必要もない。反対に農村においては,栽培や飼育の仕事が多くなり,工作や記帳・計算などを都市と同じように取り入れるわけにはいかない。そうして,一般に,女子については裁縫・調理や衛生保育などが多くなり,その他の部分が少なくなるのである。

 このような地域差,個人差はどの教科についてもいえるのであるが,この教科は特に教育内容を生活の実際から組み立て,それを実践させるところをねらっているので,他の教科とは比較にならないほどその違いが著しいのである。

 

第2節 職業・家庭科の目標

 職業・家庭科の目標は,家庭および社会の一員として,その家庭や社会の発展のために力を合わせることの意義を自覚し,それに必要な知識・技能・態度を身につけ,みずからの能力に応じた分野を受け持って,その力をじゅうぶんに発揮するようになることにあるが,これをさらに細かく分けてみると次のようになる。