単元5「世界の人々は,どのように結びついているか」

 

 要 旨

 これまでの学習によって,世界各地方の生活様式とその特色について理解してきた。しかし世界の人類諸集団は体質的にも一様ではない上に,それぞれ特定の国家その他の集団に属して,一般に言語・宗教・文化を異にしている。これらの人類諸集団は交通・通信・商業の発達によって,時代とともにその交渉範囲を地方・国・世界へと漸次拡大され,現在では世界のほとんどの人々は,たとえどのように相離れていようとも,経済的にも,政治的にも,文化的にも相関連した立場におかれ,真に孤立化して生活することはできない。このような社会圏の拡大は,つまり人間の住む相関連した世界の拡大にほかならない。。

 このように相関連した立場におかれている世界の人々は,常に理想どおりに相互扶助の関係を結び,平和な関係が維持されてきたとは限らない。ときには反発的に離反したり,敵対視して係争を起してきた。そこに人類愛や国際平和が叫ばれ,この理想を追求するために絶えざる人々の努力が続けられているのが現実の姿である。特に第二次世界大戦によって世界平和への熱望が高まり,国際連合およびユネスコその他の専門機関が組織されたし,その他にも多くの国際団体が生れて,各分野において人類の幸福の増進,平和な世界の確立に努力している。しかし世界平和への道は決して平らではない。

 そこでこれまでの学習の成果を総合し,さらに発展させて,このような世界構造における諸集団の立場を理解し,日本の地理的位置を認識するように学習指導が意図されなければならない。このような国際上における日本の立場を認識することによって,生徒によき国際人としての教養とよき日本人としての自覚を具備した公民としての資質を養わせることができる。

 人文地理については,その領域に属する自然・経済・社会などに関する部門がこれまでの諸単元の学習によって順次展開されてきたが,人文地理の学習を終るに際して人々の結びつきの観点から,もう一度世界を見直すことは,世界的視野にたつ日本人の育成に対して大きな効果があることと信ずる。

 

 目 標

1.世界に関する人類の知識が,どのように拡大してきたかについての知識と理解。

2.交通・通信機関の発達による時間的距離の克服は,世界をますます狭くしてきたことの理解。

3.社会生活を営むために,商業や貿易がどんなに重要な機能を果たしているかの理解。

4.世界の人類諸集団の種々な特色についての知識・理解。

5.経済・政治・文化に関する基本的な地理的術語・用語についての知識・理解。

6.民族的,国民的優越感あるいは劣等感に対する正しい批判ならびに自分と生活様式が違う人々に対する心からの理解の促進。

7.世界平和に向かって種々な努力が払われていることの理解およびこれに協力する態度。

8.現代におけるわが国の国際的地位に関する理解。

9.正しい愛国心を養うこと。

10.現代の世界の種々なできごとに対する関心。

 

 内 容

1.世界地図の範囲は,どのように拡大されてきたか。

2.交通や商業の発達は,わが国や世界の諸地域を,どのように結びつけてきたか。 3.世界の人類諸集団はそれぞれどんな特色を持っているか。 4.世界の人々の融和は,どのようにして促進できるか。  

 学習活動の例

1.古事記などに表現された古代日本人の国土や世界についての考えは,どのようなものであったかをこの方面の研究者に聞いたり,これについて研究した資料が得られたら,これを調べて学級に報告せよ。また古代の中国人やヨーロッパ人の考え方についても,資料の得られる範囲で調べて,これらと比較してみよ。

2.トレミー・ヘロドトス・ストラボ・ベハイム・メルカトルなどの世界地図を比較して,ヨーロッパ人の世界に関する地理的知識が,どのように変ってきたかを歴史的背景と合わせて考え学級で討議せよ。

3.コロンブス・ガマ=ヴァスコ=ダ・アメリゴ・マゼラン・クックなどによる探検の航路・地域・年代を地図の上に記入せよ。またこれらの探検の結果は世界の歴史の発展の上にどのような影響を与えたか,について各自の意見を発表せよ。

4.「魏志倭人伝(ぎしわじんでん)」・「東方見聞録」などによって,わが国がどのように外国に紹介されたかを調べて,その正しい点や誤っていた点について討議せよ。

5.倭冠(わこう)・南洋町・高砂(たかさご)・自由都市としての堺町,キリスト教伝来などの事項から,鎖国以前におけるわが国人が外国についてどのような知識をもっていたかを調べよ。

6.伊能忠敬・間宮林蔵などの業績によって,わが国人の地理的知識はどのように正確なものとなったかについて調べよ。

7.福沢諭吉の「世界国尽」その他の著書によって,日本人の世界に関する関心や知識がどのように高められたかについて,先生から話を聞け。

8.近代の諸探検家の努力によって,世界に関する地理的知識が,どのように豊かになったかを示す表を作れ。

9.オーマ道路や絹街道について書いてある本を読んで,その大要を学級で話せ,これを基にして,先生から,これらの道路が当時の政治・軍事・経済・文化などの上にどのような機能を果たしていたか。またこれらの道路は今日どのような機能を果たしているかなどの説明を聞け。

10.世界鉄道密度図によって,各大陸の諸地域における鉄道の発達の特色およびそれぞれの特色が生れた自然的,社会的背景について討議せよ。さらに日本の鉄道発達の世界的地位についても討議せよ。

11.世界の交通・運輸の幹線としてよく利用される鉄道や航路を利用して,わが国から外国のいろいろな地点に達する所要時間を計算せよ。

12.世界のおもな国の自動車交通の発達状態を示すグラフや図表を作れ,また外国へ行ったことのある人から,それぞれの国では自動車が交通・運輸の上にどのような役割を果たしているかの話を聞け。

13.日本の自動車交通について,改善を要すると思われる点を討議せよ。

14.世界の内路水路の発達を示す図について,それぞれの地域の特色を発見し,その理由を考えよ。特にヨーロッパ・北アメリカ五大湖地方などで発達している理由について討議せよ。

15.過去の世界における主要な帆船航路を図示し,風向きや海流との関係,所要日数・輸送貨物などについて調べよ。また資料が得られたら,現在の主要帆船航路について調べて,その結果を学級に報告せよ。

16.世界のおもな航路と航路上における物資の動きなどを示した図を中心として,現在の海上交通発達の特色を話し合え。さらに資料が得られたら寄港地や燃料・水の補給地などをこれに記入して,それぞれの地点のもつ意味について話し合え。

I7.パナマ運河とスエズ運河の開通は世界の交通史上において,どのような変化を起し,また経済上,社会上,どんな影響を与えるに至ったかについて討議すること。またこれが開通するまでにはどのような困難を克服しなければならなかったかについて調べて,その話を学級でせよ。

18.わが国の戦前と戦後の海運界の状況を比較して現在不振の原因を明らかにせよ。さらに海運と貿易・国民経済相互の関係を調べ,貿易外収支ということはどのような意味かについても考えてみよ。

19.世界のおもな定期航空路を示した図によって,航空路の発達状態を概観せよ。また航空路の図示に適した投影法についてて討議せよ。さらにおもな航空会社からの資料によって,東京から世界のおもな地点に行くに要する時間や運賃を計算せよ。この場合,日付変更線や世界のおもな標準時の意味およびその取扱方について研究せよ。

20.汽車・汽船・航空機などで世界的に優秀なものの写真を集め,それぞれの性能の説明文をつけて展覧せよ。

21.日常まだ幼稚な交通・運搬機関が一般に利用されているにすぎない世界の諸地域を調べて,その理由を考えよ。

22.日本からサンフランシスコ・ニューヨーク・パリ・ロンドンなどへ通信する場合,普通便・航空便・電報によれば,それぞれどのくらいの時間がかかるかを調べよ。

23.国際連合の専門機関である国際民間航空機関(ICAO),万国郵便連合(UPU),国際電気通信連合(ITU)などは,どのような仕事をしているかについて調べて学級に報告せよ。

24.「世界の縮小とわれわれの態度」という題で論文を書け。

25.現代の世界諸地域における各国民の経済生活は互に依存し合っていて,国の産業や各個人の経済は,常に世界経済の影響を受けて変化するもので,決して孤立的には存在しえない。次に示された事項の商品はどのような生産・流通過程を経て海外の消費者の手もとに至るかを調べた上で,上述の原則が実際上どのようにこれまでに適用され,また適用される可能性があるかについて考究してみよ。

 日本の生糸,フィリピンの砂糖,ブラジルのコーヒーなど。

26.地域的分業とか世界的分業とかいうことばを聞くが,世界における生産上の分業はどのような形で行われているか。

  ① 食料  ② コーヒー・紅茶・煙草などの嗜好品。

  ③ 砂糖  ④ 塩  ⑤ 羊毛・締花・皮  ⑥ゴム

  ⑦ 生糸・織物・綿織物などの繊維製品  ⑧ 機械金属の鉄鋼製品

  ⑨ 石油・石炭・鉄鉱石  ⑩ 特殊な手工芸品  ⑪ 化学品・医薬品

  ⑫ 雑貨

 上の諸事項について従来の学習の結果を総合した上で,世界における工業品の生産供給国と需要国,工業原料の供給国と需要国,食料品の供給国と需要国との関係がどのようになっているかについてまとめてみよ。

27.「現在,世界の諸国民は,ほとんどのものが世界経済機構の中におかれていて,有無相交易し互に恩恵をわかち貢献し合うことができる。したがってわれわれはこの経済機構の中においては個人としても,その特色を最も発揮できるような生産部門をますます発展さして,その分野において専門化していけば,あえて個人としても国としても自給自足化の体制をとるように努力する必要はない。現代社会においては特定の産業部門あるいは特定の単一または少数の生産部門に専門化することが個人にとっても国にとっても多方面的な生産形態をとることよりも,国家それ自体にも世界にも貢献し,その生活水準は向上するものである。このような見解は正しいだろうか。世界の実例をあげたり,将来の見とおしから,この見解を批判せよ。そして生産上における個人的,社会的,世界的分業について,わが国の立場において最も妥当的な姿について考え,その結果を互に討議してみよ。

28.わが国の海外貿易は明治以後どのように発展してきたか,統計その他の資料により,貿易品・貿易額・取引国などについて図表化したり地図化して,その発展のあとや原因について調べてみよ。戦前までのわが国の世界市場における地位はどのようなものであったか。そして貿易の伸展は,自国の産業にどのような影響を及ぼし,国民の生活水準の向上にどのような関係があったかについて考察してみよ。わが国は,自国の産業を保護するために,どのような貿易政策をとってきたかについても研究してみよ。

29.現在のわが国の海外貿易はどのような状態になっているか。貿易品・貿易額・取引国などについて戦前とはどのように違っているかについて,これまで自分たちの調査研究の結果を総括して,今後の貿易振興策について討議してみよ。

30.いろいろな人類や民族の分布図を比較して,それぞれはどのような点で違っているかを明らかにせよ。そしてどのような基準によって人種や民族を分けるかによって,そのような違いが起ってくるのかを調べた上で,さらに先生から説明を聞け。そしておもな人種あるいは民族の特色・数・分布を示す表を作れ。

31.世界の言語や宗教の分布図によって,各集団の分布の特色を研究せよ。

32.人類諸集団の文化的相違,たとえば言語.宗教・学問・芸術・日常の生活様式などの違いは,各集団の生れながらの知的能力の優秀性や劣等性に基くものであるかどうかを討議せよ。また過去には日本民族の優秀性が主張されたことがあるが,これにははたして科学的根拠があるかどうかを討議せよ。

33.「世界人権宣言」では,諸人種・諸民族・諸国民などに対して,どのような基本的立場をとっているかを明らかにせよ。さらに「世界人権宣言」をよく読んで,その感想を作文に書け。

34.世界のおもな国の国民は,人種あるいは民族という点から,どのようなものから構成されているかを調べて表にせよ。そしていろいろな人種あるいは民族から成る国では,国民的理解(National Understanding)に関して,どのような努力を払っているか。資料が得られたら具体例について調べ,それがはたして国際理解(International Understanding)の立場から正しい方向であるかどうかについて討議せよ。

35.高等学校第1学年社会科第5単元「われわれの生活には,外国の文化や物資がどのように取り入れられているか」で学習したことを中心として,「われわれの生活と外国の文化」という題で作文を書け。

36.これまでの学習によって,世界のおもな国の地理について,どれだけの理解が得られているか。たとえば次の事項について簡単に答えてみよ。

37.世界は互に経済的,社会的にも密接な関係におかれているにもかかわらず,国と国との争いや戦争はなぜ起るのだろうか。たとえば第一次,第二次世界大戦の原因と考えられるものをそれぞれ箇条書にしてみよ。そして地理の立場からは,戦争の防止に対して,どのような方面で貢献できるかを討議せよ。

38.緩衝地帯(緩衝国)・中立地帯(中立国)・保護国というのはどのようなものをいうのか。世界における実例をあげて調べてみること。「小国の現状と将来」という題目で論文を作ってみよ。

39.次の地域について世界の関心はどのようになっているか。新聞上の記事を切り抜いて整理し,これらの国際的問題のひき起す原因について調べてみよ。

40.信託統治理事会はどのような仕事をするものか,信託統治について調べてみよ。わが国の領土は戦前とどのように違ったか。

41.国際連合の安全保障理事会について調べ,世界における国際間の安全保障に関する諸問題とその取り上げられている問題の理由などについて考えてみよ。

42.国際連合の専門機関がしている現在の仕事の中で,特に地理に関係が深いものを選んで表にせよ。

43.人文地理の研究はどのような点で,ユネスコ運動に貢献できるかについて各自の研究の結果得た意見を互に交換して討議してみよ。

44.わが国の自然・人文諸現象について世界のおもな国々のそれと比較して,その特色のある点,他国の長所を取り入れるべき点などの項目に整理してまとめてみること。またわが国は現在どのような国際的地位にあるか。その地理的位置についても考えてみよ。

 

 

 評価の例

1.学習指導要領第①巻第26〜28ページの「各単元に共通した評価法」を参照すること。

2.次の事項についての知識・理解はどの程度明確になったか,またそれをいっそう有効に利用することができるようになったか。

3.次のような技能・能力は養われたか。  

 

中学校高等学校学習指導要領

社会科編

Ⅲ(C)人 文 地 理

 

MEJ 2126

 

昭和27年2月15日 印 刷

昭和27年2月20日 発 行

 

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