単元4「人々はどのように地表に居住し,都市や村を作っているか」
要 旨
人間は,地表上のある特定の土地を占有して,生産活動を営み,村落や都市を形成して,集団生活を続けている。人間がある特定の土地に居住するためには,それだけの条件が必要で,すべての場所が居住に適したり,便利であるわけではない。それにしてもある集落に属する住民は,それぞれ違った社会環境にあり,それぞれ特色のある姿を具現している。都市は近代産業の影響をはるかに多く受けているのに対して,村落は伝承文化をはるかに多く保持し,しかもこれらの村落や都市は,経済的,社会的,政治的に不離不即の関係におかれている。
人的活動の表現ということについて,これまで世界の各地方における生活舞台としての自然環境や生産活動の部面を大きく抜き出して,順次学習を発展させてきた。この段階では集落そのものを人間の諸活動が統合された一つの有機体とみなし,これまでの単元における学習よりもさらに包括的な立場で,人間活動の表現ということを学習していく。人口現象に関しては,各単元に散在して学習するように機会が与えられてはいるが,この単元の学習を頂点としてまたこの単元の学習において中核的なものについて考察することが効果的と思われる。
生徒はそれぞれある特定の市町村に居住し,そこに生起している事象を観察するのに便利な立場におかれているし,ときにはこれらの事象に自分自身も関連した位置におかれている。しかも将来必ずいずれかの市町村の公民として活動しなければならない。したがってこの単元の学習においては,このように生徒が絶えず観察でき,ときには経験することもある事象の個別的なものに関する知識と,日本や世界の視野に立った広い全体的なものに関する知識とを結びつけて,人間の活動形態を考察する態度が,この単元ではいっそう強調されなければならない。またこのような学習上に与えられた機会を有効に活用するように指導上着意する必要がある。
そこでこれまでの学習によって養われてきた自然環境の諸事項に関する知識や原則,人間と自然との関係,地理的環境に関する知識や原則の理解,読図の能力,地図を描く技能などは,この学習に活用されるとともに,身近な具体的な事象を通じていっそう深められて発展させられる。このようにして,将来市町村の公民としてその社会の諸問題を解決していくのに必要な地理的知識や態度が養われていくように指導されることが望ましい。
目 標
1.地表における人口分布状態やその他の人口現象に関する知識・理解。
2.人類は,居住地域の拡大に絶えず努力してきたことの理解。
3.都市や村の自然的および社会的立地条件の理解。
4.都市と村の生活は,互に深い関係を持って営まれていることの理解。
5.現代のおもな都市の発達状態に関する知識・理解。
6.現代のわが国の都市や村の生活には,解決しなければならない種々な問題のあることの理解,およびこれらの問題解決に協力する態度。
7.集落・人口・経済・社会に関する基本的な地理的術語・用語に関する知識・理解。
8.都市や村について,種々な実地調査を行う興味や,地理的観察力の養成。
9.比較的大きい縮尺の地図を正しく読んだり,略図を描いたりする技能。
内 容
1.地表の人口分布状態などの人口現象は,地域によってどのように違っているか。
(1) 人口の調査はどのようにてして行われているか。
(2) 人口分布や人口密度は,どのようにして地図に表現できるか。
(3) わが国の人口分布状態には,どんな特色があるか。
(4) 世界の人口分布状態は,国や地域によってどのように違っているか。これにはどんな条件が深い関係を持っているか。
(5) 人類は不利な自然条件をどのように克服しながら,居住地域の拡大に努力してきたか。
(6) わが国の人口についてはどのようなことが問題になっているか。
2.村の生活には,どんな地理的特色があるか。
(1) 郷土付近には,村はどのように発達しているか。
(2) わが国の村はどのように発逹してきたか。
(3) 村の家屋の構造や集合状態には,地方や国々によってどんな違いがあるか。これは人々の日常生活と,どのように結びついているか。
(4) 村の位置には,地理的に見て,どんな特色があるか。
(5) 前記の3および4の事項,その他の自然的,社会的事情に関連して,村の生活には地方や国々によってどんな特色があるか。
(6) 村はわが国の国民生活にどのような役割を果たしているか。
(7) 村の生活は,どういう点で都市に依存しているか。
(8) 現代のわが国の村の生活には,保健・衛生・生産・土地制度・文化・レクリェーションなどについて解決しなけれはならないどんな問題があるか。
3.都市は,どのように発達しているか。
(1) 郷土付近には,都市はどのように発達しているか。
(2) わが国の都市の分布には,どんな特色があるか。
(3) わが国の都市は,どのようにして発達してきたか,また現代の都市の役割は,過去のそれとどのように違っているか。
(4) 都市は,どういう位置に発達しやすいか。
(5) 都市の発達状態には国々によってどんな特色があるか。
(6) 都市の生活は,どういう点で村に依存しているか。
(7) 現代のわが国の都市の生活には,どんな問題があるか。またわが国の都市を住みよくするために,どんな努力がなされなければならないか。
学習活動の例
1.日本およびアメリカ合衆国の人口調査の方法を調べよ。そして常住人口調査法・現在人口調査法・面接調査法・記録調査法・全体調査法・標本抽出調査法などの人口調査に関する諸方法の長短を理解した上で,諸種の人口統計の資料を利用する場合に,どのようなことが注意されなければならないかについて,討議してみること。
2.世界において,科学的な人口調査が行われている地域と,まだ行われていない地域とが,どのように分布しているかを調べよ。
3.たとえばドット・段階式・等密度線などによるいろいろの表現法の人口分布図を集めて,その表現法の長所,短所を調べ,それがどんな場合において効果的に用いられるか研究してみよ。
4.世界ならびに日本の人口密度図により,その密集地域・稀薄地域についてその理由を考えてみよ。そして次の事項について特に注意せよ。
(a)ベルギーとジャワの1平方キロあたり人口密度,1平方キロ耕地面積あたり人口密度を調べ,両地域とも人口密度の高い理由と,わが国とのそれとを比較してみよ。
(b)農業・牧畜・工業などの諸地域における人口との関係について考えてみること。
(c)「人口支持力」となる各要素となるものには,どんなものがあるかについて討議せよ。
5.世界のおもな国々について,その人口,人口密度,人口の産業別構成や年令別構成について,できるだけ資料を集めて比較表を作れ。
6.マルサスの「人口論」について,その大要を先生から講義を受けること。
7.ヨーロッパの移民はどこへ行ったかについて,歴史の書物によって調べて,図に書き表わしてみよ。
8.統計により19世紀以来の各大陸の人口増加を調べ,これに表われた各大陸の特色について討議せよ。
9.産業革命以後のイギリス・ドイツ・日本などの人口増加を見て,それ以前の傾向と比較し,増加した理由について考えてみよ。
10.江戸時代以後の日本の人口数を調べ,グラフをかき,特に明治以後,村と都市あるいは郡部と市部とに分けて,どこで増加したか。また産業別人口構成はどのように変化してきたかについて考えてみよ。
11.今日の世界には,無居住地域がどのように分布しているか。それらの地域では何が人類の居住を妨げているかについて討議せよ。
12.「日本の適度人口」という題で論文を書いてみよ。
13.5万分の1地形図について次のようなことを調べたり,作業してみること。
(a)学校の位置を経度・緯度によって表わせ。
(b)一図幅の形が正しい矩形になっていないのはなぜか。
(c)どんな投影法によっているのであろうか。
(d)図上の1センチメートルは実際の何メートルに相当するか。起伏のある場合,まがりくねった道路についてはどうか。
(e)断面図を作れ。
(f)土地利用別に着色せよ。着色の規準を,たとえば次表のように定めて,学級で協力して自分たちの都道府県の土地利用図を完成せよ。
集落……赤, 田……緑, 普通畑……白, 桑畑……だいだい, 茶畑……紫, 河川・湖(こ)沼・海……水色
(g)(f)の作業の結果,地形と土地利用または集落分布との間に,どんな関係が見られるかを討議せよ。
(h)郷土付近において,実際の事物が地図の上にどのように表現されているかを調べてみよ。
14.郷土付近の集落について,その集合状態(散村・集村・街村など)・位置・交通路・用水路などを観察し,それが5万分の1や2万5千分の1の地形図には,どのように表現されているかを調べてみよ。
15.郷土寸近の代表的な農家について,家屋の構造・形態・材料・間取り・屋根・屋敷林などを調べ,それと生活様式との関係について考えてみよ。そしてそれが日本全体から見て,どんな共通性や特異性があるかについて討議せよ。
16.郷土付近の漁村の家について,(15)と同じようなことを研究し,農家との差異を考えてみよ。
17.エスキモー人・蒙古人・熱帯地方の原住民などの家の構造を調べ,それと生活との関係を考えてみよ。
18.わが国の集落の中で,次の事項についての特色が地図によく表われているものの例を先生から示してもらって,その特色を研究し,さらにその特色が生れた理由や,それぞれの土地の自然と生活との関係を書物で調べたり,先生の講義を聞け。
(a)低湿地の集落,(b)扇状地や台地上の集落,(c)散村地域,
(d)特色のある地名。
19.わが国の古代や中世にできた集落については,どんなことがわかっているかについて先生の講義を聞け。
20.文献によって北海道の開拓村についてべ,学級に報告せよ。
21.裏日本の農村生活について,その特徴を調べてみよ。
22.「北越雪譜」を読んで,その中から地理的特色をまとめて学級に報告せよ。
23.山村・純農村・漁村・半農半漁村・郊村などについて,おのおのの生産様式の特色を調べて表を作れ。
24.アメリカ合衆国・ソ連・中国などの農村生活について調べ,その特徴を学級に報告せよ。
25.経済安定本部の地方計画について,先生からその大要を聞くこと。
26.都市との関係から郊村や遠郊農村の性格について考えてみよ。
27.わが国の農村は農地改革によってどのように変化し,現在どのような問題に直面しているか。また,農村における生産様式の合理化,生活の民主化などの点から,たとえば小農経営,経営の協同化などについて討議せよ。
28.現在わが国の漁村は漁業改革によって,どのような変化を受けたか。
29.学級を幾つかのグループに分ち,各グループは日本や各大陸,あるいは世界の主要地域のおもな都市について,その位置・名称・おもな機能などからクイズの問題を作成する。そしてこれらを中心として,学校でクイズ遊びをすること。これは小・中・高等学校を通じてこれまでに習得した諸都市に関する知識や理解を整理したり,記憶を確かにするためである。
30.文献や老人の話しによって,郷土付近の都市の起源・発達を調べて学級に報告せよ。
31.郷土付近の都市をグループに分れて実地調査し,町の位置・形態・機能・周囲の村との関係について研究してみよ。
32.わが国の都市の分布図を見て,その分布の特色について考えてみよ。そして郷土付近の都市は全国の都市に比べてどのような地位にあるかについてさらに考えてみよ。
33.江戸時代において,交通・産業・商業の発達はどのような性質の都市の発達を促進させてきたか,さらに当時における江戸と大阪の二大都市の機能について比較研究してみること。
34.付近の宿場町について,その位置・構造・機能を調べ,発達当時と現代との変遷を考えてみよ。
35.郷土付近の城下町について,その集落の配置,軍事上の考慮など城下町の特徴を研究し,それが現在いかに残っているかを検討し,現在の町との関係を研究せよ。
36.日本の都市のうち,城下町に起源を持つものをあげ,現在の都市の中に占める割合を調べよ。またそのうち近代的大都市として発達したものは,いかなる条件を備えているものかを討議せよ。
37.わが国における港町の盛衰について調べ,貿易港とその後背地との関係についても考えてみよ。
38.世界のおもな貿易港について,それぞれの交通的位置や後背地との関係を考えてみよ。
39.ギリシアやローマ時代の都市と東洋の長安・洛陽(らくよう)などの都市とについて,その形態や大きさなどを比較してみよ。
40. 二,三の都市を例にあげ,日本の明治以後の産業発達と工業都市の発達との関係を考えてみよ。また,近代産業時代になって都市の機能は過去とどのように違ってきたかについて調べてみよ。
41.世界および日本のおもな都市について,その機能の上から分類し,その例をあげて,表にせよ。
42.明治の中ごろから現代に至るまで,日本の都市人口はどのように変化してきたかをグラフにかき,またそれに伴って,どんな社会問題が発生してきたかについて考えてみよ。
43.歴史の書物によって,中世におけるヨーロツパの都市の発達とその特徴を調べよ。
44.世界あるいは各大陸別の都市分布図によって,各国あるいは各地域における都市分布の特徴を討議せよ。さらになぜ分布にそのような違いがあるかについても討議せよ。
45.大都市の野菜や鮮魚の供給圏を地域別・季節別に調べて,都市の農漁村に対する依存状態を研究せよ。
46.シカゴや東京を例にとって,近代都市の構造を同心円的の地帯に分けて,それぞれの地帯の特徴を調べよ。
47.アメリカ合衆国やイギリスの都市人口と農村人口との比率を調べ,それとわが国の場合とを比較せよ。
48.都市計画の目的について調べ,今日の都市はどのように改善されなければならないかについて考えよ。
49.いろいろの世論調査の結果を資料として,都会の人と農村の人の考え方の違いを調べ,その原因を討議せよ。
50.都市と農村の家族構成・職業構成・生活様式・精神傾向などを比較して,その特徴を表にまとめよ。
51.現在のわが国の「都市問題」としてはどのようなことが取り上げられているか。学級で討議した上で,「理想都市」という題で論文を書いてみよ。
評価の例
1.学習指導要領第Ⅰ巻第26〜28ページの「各単元に共通した評価法」を参照すること。
2.次の事項についての知識・理解はどの程度明確になったか。またそれをいっそう有効に利用することができるようになったか。
(1)術語・用語の例
穴居・切妻・寄棟(よせむね)・入母屋(いりもや)・曲屋(まがりや)・平屋・平入・妻入・街村・集村・散村・新田・条里集落・輪中・水郷・出作り・出かせぎ・高地集落・谷口集落・郊村・遠郊・近郊・農村・山村・漁村・離村・国土計画・地方計画・総合開発計画・都市計画・田園都市・衛星都市・門前町・城下町・市場町・港町・宿場町・城廓都市・宗教都市・政治都市・観光都市・工業都市・滝線(たきせん)都市・商業都市・鉱山都市・商圏・都心・華喬・後背地・人口増加(自然増加・社会増加)および増加率・出生率・死亡率・人口密度・推定人口・可容人口・適度人口・人口過剰・人口支持力・人口論・人口問題・センサス・現住人口・常住人口・国勢調査・人口調査。
(2) 原則・事実・特色などの例。
① 人口調査の方法。
② 人口分布の表現法。
③ 日本および世界人口分布の現状および,これと自然的,社会的条件との関係。
④ 人口支持力の要因。
⑤ 日本の人口問題の特質。
⑥ わが国の村落の位置・成立・集合状態・機能・発達・衰微。
⑦ 世界のおもな国の村落生活の特色。
⑧ わが国のおもな都市の分布・名称・発達・特色。
⑨ 世界のおもな国の都市の分布・名称・発達・特色。
⑩ 産業革命が都市および農村に及ぼした影響。
⑪ 村落の社会構造と近代都市の社会構造との相異。
⑫ 村落と都市との相互依存関係。
⑬ わが国の農村・漁村問題と都市問題。
3.次のような技能・能力が養われたか。
(1) 5万分の1や2万5千分の1などの大縮尺の地図を読んだり,利用したりすること。
(2) 人口統計を解釈したり,人口分布図・統計図表を作成すること。
(3) 集落を調査観察したり,スケッチすること。
(4) 農村問題や都市問題を地理的に考察すること。
4.次のような態度が養われたか。
(1) わが国の人口問題・農村問題・都市問題・食料問題について深い関心を持つ。
(2) 実地調査に対する興味を深め,調査に際しての科学的ならびに道徳的態度を持つ。
(3) 村落や都市の生活改善・民主化などについて積極的な協力をする。
(4) 共同で調査したり作業したりするときに積極的に協力する。