したがって世界や日本の地形,気候などの特色,これらの自然的事項に関する基本的な知識や原則と,これらの事項と人間生活との関係を概括的に理解されることを中心として,この単元の学習内容が構成されている。また自然は,人間とどんな関係におかれているだろうかということから,さらに進んで地理的環境ということについても今後の学習の基本になるような思考を起させるように指導することがたいせつである。なお地図に関しては,比較的小縮尺の地図について,その投影法やその要素に関する基本的な理解を従来のものよりもさらに深めて,読図や描図などの技能を養うことに意が用いられなければならない。
この単元の学習は人文地理を学習するにあたって,入門的な性格を持っている。したがって,この学習で養われた知識・理解・態度・能力・技能は,そののちの単元の学習過程において,活用されたり,さらに深められていかなければならない。
2.自然に関する基本的な地理的術語・用語についての知識・理解。
3.自然環境が人類の活動に,どのような制限を与えているかの理解。
4.自然環境への働きかけ方は,各地の住民によって,さまざまであることの理解。
5.自然と人間との関係は常に変化していることの理解。
6.自然の不利を克服したり,自然を有効に利用しようとする積極的態度。
7.種々な地図投影法の長所・短所の理解,および読図や地図の使用に関する技能。
(2) 地図の使用目的によって,投影法の選択に,どんな注意を払わなければならないか。
(3) 地表の種々な事物を地図に表わすために,どんなくふうがなされているか。
(4) 航空機の発達や,世界の時間的縮小は,地図の作製に,どんな影響を与えつつあるか。
(2) 地形は現在でも,どんな関係をもっているか。
(3) 人々は地形的障害を克服するために,たとえばどんな努力をしてきたか。
(2) 気候の直接の制約によって,地表の植物のありさまはどのように違っているか。
(3) 世界については,これまでにどんな気候帯(気候区)が考えられてきたか,それらの気候帯は,われわれの生活環境として,それぞれどんな特色を持っているか。
(4) 世界の気候と,土じょうの肥よく度との間には,どんな関係があるか。
(5) 世界の諸地域では,気候的に不利な条件を克服するために,人々はたとえばどんな努力をしてきたか。
(2) 北極地方や南極地方の自然については,どのようなことがわかってきたか。
1.真の方位,磁方位ということをこれまでに聞いたことがあるが。基本方位である東・西・南・北はどのようにして決められるか。東京の東西の方向は地球上では,どのような地点になっているか。ある地点から北へ北へ(あるいは南へ南へ)と進んだときは,どこに行きつくか。また,東へ東へ(あるいは西へ西へ)と進んだときは,どのような経路をとるか,さらにまた北東へ北東へと進んだときはどうなるか。これらのことについて地球儀を使って考えてみること。地球上におけるある地点の位置はどのようにして表わすことができるか。経線・緯線・経度・緯度について,従来の知識を整理してみること。
2.日本とアメリカ合衆国との航路をメルカトル図法と地球儀によって比較し大圏航路と等角航路がどうなっているかを調べてみよ。
3.メルカトル投影法の世界地図,正積投影法の世界地図および地球儀によって,グリーンランド島と南アメリカ大陸の面積を比較せよ。
4.各種の投影法による世界地図を集めて,各大陸の面積・形・方位と距離などを比較して,それぞれの投影法の長短について,皆と話し合い,その結果を一覧表にまとめよ。
5.N・W・AやP・A・Aの時間表により,東京−シアトル,東京−サンフランシスコ間の実際の所要時間(滞空時間に休憩時間を含む)と暦の上の経過時間とを計算せよ。日付変更線はどのような理由で設けられたものかについて考えてみること。さらに地球の運動と世界各地の標準との関係について調べてみること。
6.等高線法・ケバ怯・レリーフ法は,それぞれどのような原則に基いて地表の起伏をあらわす方法か,起伏の表現としてはどんな長短を特っているかを研究して比較せよ。
7.100万分の1,200万分の1の縮尺で,日本全国はどのくらいの大きさになるか。その他の縮尺についても計算せよ。教室にかけてある世界地図はどのくらいの縮尺か,経度や緯度によって距離を測定することができるか。
8.地理調査所や水路部はどのような仕事をし,どんな地図や海図を発行しているか。
9.航空機の発達によって,どのような投影法の地図が使われるようになったか,また地図の作製技術は,どのように進歩したか。
10.現在の地表において,詳しい測量がまだ行われていない地域は,どのように残されているか,また地図の国際的統一についてどのような努力がなされているか。
11.地球儀によって地表面における水陸分布の状態はどのようになっているかを観察せよ,陸地はどのような部分に多いか,海洋が広い面積を占めているのは,どのような部分か,さらに陸半球・水半球の区別は,どのようにして定められるかを研究せよ。
12.地表面の陸地と海洋との割合はどのくらいかを各自で判定せよ。陸半球と水半球についてもそれぞれ同様な試みをせよ。その結果を表にして書物で調べた正しい数字と比べて,それぞれどのくらい違うかを確かめよ。
13.世界地図におもな山脈・高原・火山帯の河川・平野などを記入し,それらの名称,位置などについてのそれまでの記憶を確実にせよ。その分布にはどのような特色があるか。平野の分布と,人口密度の高い地域の分布とが一致するかどうかについて話し合え。
14.海洋はどんな特色を持っているか。海底地形・海流などについて調べてみること。特に海底の起伏は陸地のそれと,おもにどのような点が違うかを討議せよ。
15.シベリアの河川,ヤンツー川,アマゾン川,ライン川,ミシシッピ川,ナイル川などについて,それぞれの特色やこれらの河川が流域における人間の生活にどのような関係をもっているかについて調べて,それぞれの流域の特色を明らかにせよ。
16.わが国の河川は世界的河川に比べてどんな特色があるか。それはわれわれの生活とどんな関係があるかについて,中学校時代に学習したことや書物で調べたことを基にして話し合え。
17.現在行われている地形の変化,たとえば海洋線の移動,山くずれ,火山活動,砂丘の移動,地盤の沈下,大水などの例のうち,資料があるものについて次のことを調べよ。それらがその地域の人々に,どんな幸,不幸をもたらしたか,またそれらの変化について,どのような対策が講ぜられているか。
18.地形の障害を克服するために人間が努力してきたことについて,たとえば次のような事例について調べて,学級で発表せよ。
(1) オランダの干拓事業 (2) ホワン川の治水事業
(3) 丹那トンネルの開さく (4) パナマ運河の開さく
(5) その他
19.たとえば理科年表の資料をもとにして,わが国各地の年平均気温や気圧を海面更正して,等温線図や等圧線図を作ったり降水量から雨量分布図を作る原則について先生から話を聞け。
20.次のような世界の気候図を見て,それらの分布の特色とその理由について考えてみること。
(1) 気温(年平均,1月,7月) (2) 気圧と風向き (3) 降水量
21.理科年表を利用し,学級の共同作業として,世界各地のクリモグラフを作リ,大きな白地図にはりつけ,大陸の東側と西側,内陸と海岸,低緯度と中緯度と高緯度の気候の著しい差異を発見し,その理由についで討議せよ。
22.わが国の植物分布図を基として,気温の垂直的変化と水平的変化との関係について考えよ。
23.世界の植物景観を表わす写真を集めて展覧せよ,また幻燈などを利用してその特色について話し合え。
24.世界の気候帯にはどんな分類法があり,それらはどんな要素によって分けられ,またどんな長短があるかについて先生から話を聞け。
25.世界の気候区について諸種の資料を集め,次のような一覧表にまとめよ。
気候区 | クリモグラフ | 気候の特色 | 生物 | おもな農産物 |
26.わが国の気候区について特に表日本・裏日本・瀬戸内海地方の気候の特色とその気候と密接に結びついている人間生活の関係について調べよ。
27.次の土じょう帯は気候やその他の自然的条件とどんな関係があるか,また住民の生活とどのように結びついているかについて,教科書やその他の書物によって調べて,簡単な表を作れ。
ウクライナの黒土,華北の黄土,アメリカ合衆国南部の赤色土,熱帯のラテライト,シベリアのポドソル
28.ハンチントンの「気候と文明」を読み,気候と活動能率の関係について,かれの見解を要約して学級で発表し,それについてお互に意見を交換してみること。
29.中央アメリカや南アメリカの都市が,高原や山地にあるのはどのような理由によるものか,またその地方の高度と作物との関係を調べよ。
30.気候的に不利な条件を克服するために,人間がどのように努力してきたか,次のような例について調べてみよ。
シベリア,北満の住居。アメリカ合衆国の西部地方の開拓。北海道の米作。熱帯国土病の克服。
31.世界の人口分布図を見て無居住地域や人口の稀薄な地域はどのように分布しているかを見いだしてその理由について考えてみること。
32.文献により北極や南極地方の探検について,それぞれの探検家はどのような点で,世界の地理的知識の拡大に貢献したかを調べ,かつ探検史の年表を作れ。
33.シャックルトン・スコット・アムンゼン・バードなどによる南極探検に関する文献により,南極の自然についてどのようなことがわかったかを調べよ。またこれらの探検家が耐え忍んだ困難についての話を学級で行うこと。
34.現在,北極地方や南極地方が新しい世界の注視の的になっているのはなぜかについて討議せよ。
35.郷士の産業や生活様式のなかで,地形,気候などの自然的条件と特に関係の深いものがあれば列挙してみること。
36.「一地方の生活様式は,「その地方の自然環境によって決定される。①」
「その地方の自然環境に影響される。 ②」
「その地方の自然環境と深く関係している。③」
評価の例
1.学習指導要領第Ⅰ巻第26〜28ページの「各単元に共通した評価法」を参照すること。
2.次の事項についての知識・理解はどの程度明確になったか。またそれをいっそう有効に利用することができるようになったか。
(1) 術語・用語の例
季節風(モンスーン)・貿易風・偏西風・極風・不連続線・中緯度高気圧・赤道無風帯・気温の年較差・気温の垂直逓減率・クリモグラフ・気候帯〔種々な気候帯)・気候区(種々な気候区)・大陸性気候・海洋性気候・気候要素・気候因子・土じょう(種々な土じょう型)・黒土・黄土(レス)・ラテライト・ポドソル・プレーリー・パンパ・リヤノ・ツンドラ・タイガ・サヴァナ・ステップ・海流・日照時間・無霜期間・海面更正・雨季・乾季・フェーン(おろし)・台風・風土病。
居住地域(エクメネ)・地理的環境・自然環境・社会環境・景観・漸移地帯。
〔注〕上の術語や用語については第2単元において,評価することが適当なものがかなりある。
② 地図表現の発達。
③ 地球上の水陸分布の特色。
④ 世界および日本の地形の特色および,おもな山脈・河川・平野などの名称,位置。
⑤ 大気の循環に関する原則。
⑥ 世界の各気候区の特色と気候因子との関係。
⑦ 世界の土じょう分布と植物分布の特色。
⑧ 未開地を開拓した先人の努力。
⑨ 世界における人間の活動圏の拡大。
⑩ 極地の自然。
⑪ 自然環境の人間生活に対して持つ意味。
② 目的に応じて適当な投影図を使用すること。
③ 小縮尺の地図を読んで実際の状態を判断すること。
④ 世界や日本の略図を描くこと。
⑤ 気温や雨量などの表を見てその気候型を推察すること。
⑥ 旅行記や探検記を読んで,地理的な内容を要約すること。
⑦ 世界各地の写真から,その地方の自然環境を説明すること。
② 野外観察を進んで実行する。
③ 種々の資料を集める。
④ 自然の障害克服に努力した先人の業績に対して尊敬し感謝する。
⑤ 自然を有効に利用して郷土の発展のために積極的に参加する。
⑥ 地図をたいせつに取り扱う。