要 旨
この問題はそれだけ複雑であり,具体面に関しては専門家の中にも種々な意見の違いも見られることであるから,これを教室内で解決することは望めないであろう。しかし戦前の日本の資本主義には,どんなに不合理な面が含まれていたか,戦後における企業・生産・金融・財政などはどのような機構のもとに動いているか,さらに,これらには,経済民主化の立場から今後改善されなければならないという問題があるかなどを理解することは,国民として必要なことである。
一方まだ実社会の経験も浅く,知的にも成熟していない生徒に対して,このような大きな問題のあらゆる面を理解させようとすることは困難であり,また短い時間内でこのようなことを意図するときには単なる記憶・断片的知識・観念的理解を与えるにすぎない結果を招きがちであろう。本単元の内容は多方面にわたるために,ややもするとこのような危険性のあることを認識して,基本的事項の理解に重点をおくように指導されることを希望する。
目 標
2.わが国における資本主義はどのような特色をもって発達してきたかの理解。
3.現在の生産は商品生産であることの理解。
4.企業経営はどのような組織で行われているかの理解。
5.金融は経済機構の中でどのような役割を果しているかの理解。
6.国や地方の財政はどのように営まれているかの理解。
7.わが国経済の民主化と社会化と自立化に関する認識を深め,わが国経済の発展に積極的に参加協力しようとする態度。
8.経済に関する統計・グラフ・図表などの見方および作成の技能。
内 容
(2) 現在世界の国々で行われている経済機構にはどんなものがあるか。
(3) 日本の資本主義はどのように発達してきたか。
(2) アジアにおける日本工業の地位はどうか。
(3) 日本は世界経済とどのように結びついているか。
(2) 現在のわが国の企業経営にはどのような新しい傾向が現れてきたか。
(3) 中・小企業は日本経済の中でどのような位置を占めているか,またそこにはどんな問題があるか。
(2) 企業の資本はどのようにして調達されるか。
(3) 金融機関にはどんな種類があり,またそれらはどんな仕事をしているか。
(4) 日本銀行はどんな仕事をしているか,また政府とどんな関係があるか。
(5) インフレーションやデフレーションはどのようにして起るか,またそれは経済生活にどのような影響を与えるものか。
(2) 地方財政はどのように営まれているか。
(3) 国家財政はどのように営まれているか。
(4) 財政は家計や企業にどのような影響を与えるか。
(2) 日本経済の民主化はどのように行われてきたか。
(3) 現在日本経済の社会化はどのような部面に現れているか。
(4) 日本経済の自立化のためには,どのような問題が考えられるか。
学習活動の例
2.上の学習によって明らかになった事実をもとにして,それぞれの社会における経済生活の特徴をまとめ,経済生活発展の要因について考えてみる。
3.いつごろから,またどのようにして資本主義の社会が生れてきたか先生の話を聞く,そして前の時代の経済生活との違いをクラスでまとめてみる。
4.「産業革命と資本主義の発達」という題で論文を書き,先生に指導してもらう。
5.資本主義制度の中からなぜ社会主義の制度ができたか,書物や専門家の話によって調べてみる。
6.わが国における資本主義の発達について書物などによって調べ,その特殊性について考えてみる。またできれば,日本の資本主義の発達をよく示すと思われる経済統計を作成してみよう。(たとえば,明治27年以降の繊維工業の発達,第一次大戦中の生産の発展などについて)
7.イギリス・アメリカなどの産業別人口と日本の場合を調べて,その相違をもたらした事情について討議する。
8.2,3の商品を例にとって,その普及度・商品の質などを比較し,日本とイギリス・アメリカなどの工業水準について考えてみる。
9.アジア諸国の近代的工業はどこでどのように営まれているか。工業地域の分布を地図て示し,さらに工業の種類や規模を比較して,それぞれの特徴をまとめてみる。
10.日本の輸出入総額のうち,アジア諸国に占める割合を統計表によって調べ,アジア諸国に対する日本の貿易関係が戦前と戦後とで,どのように変ったかその原因について考える。
11.日本の対アジア貿易においてどんな商品がおもに輸出入されているか調べ,対アメリカ・イギリス貿易と比較して,その特徴について討議する。
12.日本貿易の相手国を列挙し,どのように分布しているか,地図上に表わして,日本を中心とした世界の商品交流について考える。
13.日本経済の対外依存度が大きいということを次のような観点から調べ,それがわれわれの経済生活にどのような意味をもっているか討議してみる。
ロ 輸出依存度—国内生産量の何パーセントが輸出されるか。
15.企業の独占組織としてのカルテル・トラスト・コンツェルンなどは何を目的として組織され,どのような形態をもっているか具体的な例に基いて研究してみる。
16.自分たちの市町村で営まれている各種の企業の実状を市町村区役所・商工会議所などの係の人に聞いて,クラスでまとめてみる。
17.付近の工場を尋ね,次のことを調べて報告する。
ロ 下請工場の場合は,原料の補給・製品の納入関係等について。
ハ 独立企業の場合は,下請工場の数・関係状況等について。
19.日本において大規模工業に比較して中小企業の占める割合を統計表で調べ,さらに中小企業に属する工業にはどんなものが多いか研究してみる。
20.労働者の低賃銀は中・小企業とどんな関係をもっているか,日本の場合について先生に話を聞いたり,書物で調べる。
21.現在流通している貨幣にはどのようなものがあるかを調べ,これを銀行券・鋳貨・政府紙幣に分類してみること。
22.貨幣は歴史的にどのように発達してきたか書物によって調べること。
23.先生や両親などに,以前にはどのような通貨があったかを尋ね,その通貨の性質について現在のものとどう異なるか研究してみること。
24.現在の通貨はどのような方法で発行されているか,書物で調べて報告すること。
25.貨幣は社会をどのような経路で循環するか,家計支出を出発とした図式をつくってみる。
26.手形や小切手はどの方面で,どのような方法で発行され,それはどのような役割を果しているか調べて報告する。
27.株式と社債について,その発行目的・発行方法・取引方法・性質などについて調べ,異同について表にまとめる。
28.金融機関について,次の事がらを調べて報告する。
ロ 各種金融機関は主としてどの方面に,どのような方法で貸付を行っているか。
ハ 各金融機関は貸付資金をどのような方法で調達しているか。
30.日本銀行はどんな営業を行うか,また,それは一般金融機関とどこが異なっているか調べて報告する。
31.終戦後の銀行券の発行高指数・小売物価指数・生計費指数・給与・賃金指数などの相互関係を示すグラフを作成してみる。
32.戦後日本はどんな理由からインフレーションが起ったか,書物によって調べ,報告する。
33.インフレーションは大衆課税だといわれているが,このことについての学習でつくったいろいろな統計表を利用して討議してみる。
34.われわれの家庭ではどのような税金を収めているか,学級で報告し合い,これらの税金を分類してみること。
35.わが国の租税にはどのようなものがあるか,それは個人が負租しているか法人が負担しているか,またどのような種類の人々が負担しているか,書物によって調べて報告する。
36.租税は国民所得のうち,何パーセントぐらいを占めているか,年鑑その他によって調べて報告する。また,できれば外国のも調べる。
37.われわれの住んでいる市区町村の財政はどのように運営されているか,市区町村役場を訪問し,係の人に収入と支出の面から尋ね,そこにどのような問題があるかを考えてみること。
38.わが国の財政収入にはどのようなものがあり,おのおのどれくらいの割合を占めているか,年鑑などによって調べ図表をつくってみること。
39.租税はどのような経路で国庫に入り,どのような経路で民間に渡るか,図表をつくってみること。
40.国家財政支出のうち,重要なものについて,その支出の割合を年鑑などによって調べ報告する。
41.それぞれの財政支出は,国民の経済生活にとってどのような意味をもっているか考え,また文教費や社会保障費支出が財政支出のうち,どのくらいの割合を占めているか,できれば,外国のそれと比較して報告する。
42.青色申告について,なぜこの申告が行われるか,またできればその申告についてどんな書式や帳簿が必要かということなどについて調べてみること。
43.収入に比較して租税負担の率が高いか低いかによって,企業や家計はどのような影響を受けるか討議してみる。
44.現在重点がおかれている産業にはどのようなものがあるか,またなぜそれが重視されるかについて新聞雑誌などで,調べて報告する。
45.終戦後行われた財閥解体・労働組合の育成・農地改革などは,どんな目的でどのように行われたかを年鑑等によって調べる。
46.戦前の日本経済活動は盛んであったが,国民の経済生活はかなり低かったのはなぜか,書物その他によって調べ討議をする(できれば経済学者の話を聞く)。
47.国民の経済生活を向上させたり,生産を増大させるために,現在新聞・雑誌などでどんなことが主張されているか調べ,その内容について討議する。
48.日本経済建設の構想,プランについて各政党の意見を調べて報告し合う。
2.次の事項についての知識・理解はどの程度明確になったか,またそれをいっそう有効に利用することができるようになったか。
採取経済,土地私有制度,荘園制度,手工業,ギルド,家内工業,マニファクチュア,資本主義,企業,労働,資本,会社,中小企業,カルテル,トラスト,コンツェルン,公企業,経済の再生産,金融,貨幣,通貨発行高,小切手,手形,株式,社債,日本(中央)銀行,預金,インフレーション,デフレーション,国際収支,国家財政,地方財政,予算,経費(支出)収入,租税制度,地方税,家計,賃銀,国民所得,産業構成,自由貿易,保護貿易,関税,海外依存度,国内(国際)市場,為替レート,国際通貨基金,財閥解体,資本蓄積,物価指数,自由経済,統制経済,計画経済など。
(2) 原則・事実・特色などの例
② 現代の商品生産に至るまでの発展段階の理解。
③ 産業革命の近代経済に与えた影響。
④ わが国企業形態の特色。
⑤ 金融機関が国民経済に及ぼしている機能の重要性。
⑥ 経済民主化の具体的方法および対策。
⑦ 国家や地方自治体の財政運営の機構および方法。
⑧ わが国の経済再建および自立化にとって重要な課題。
(2) 日常経済生活の科学的分析。
(3) 物価指数初め各種経済指数の理解およびその計算技術。
(4) 目的に応じて資料を系統的に整理する能力。
(5) 個々の経済現象から相互の有機的関係・因果関係,あるいは結果に対する原因の分析・究明。
(2) 消費者としての日常経済生活を合理化しようとする態度。
(3) 日本経済が世界経済の一環としてはじめて存在価値のあることの自覚およびそれに処する態度。