高等学校 一般社会科
第1学年 主題「われわれの社会生活の基本的諸問題」
第1単元 「われわれは民主的生活の促進に,どのように寄与することができるか」
要 旨
第1の点については中学校においてある程度の知識と体験を得てきているが,新しい高等学校においてはさらに教育課程や生徒の自主的活動などで,どのような配慮がなされているかを理解し,積極的に自己の個性を生かして有効な学校生活を送るとともに,進んでその改善にも協力していく自主的態度が特に望ましい。
第2の点については,民主主義がその真価を発揮するためには,すべての人人がじゅうぶんにその個性を生かしつつ,民主主義そのものの原理を理解し,尊敬し,実践していくことが必要であり,そのためには国民のひとりひとりがよく教育されていなければならない。教育民主化あるいは教育の機会均等などはそれゆえに民主主義を養うものであり,社会教育のじゅうぶんに発達していない現在の日本においては,学校教育の重要性はいっそう大きいといえる。高等学校生徒は学校教育のもっているこのような社会的機能を理解し,目的を意識して,自発的に学校生活を営むことを要求しうる段階に至っており,学校制度や教育活動の現実に対する認識を深めるとともに,よりよい家庭や身近な社会生活に対する建設的な役割を期待しうるであろう。
さらにこの学習において今一つ付け加えておかなければならないのは内面的な自己観察についてである。この年齢の生徒は心理的発達過程よりみてもしだいに自己自身を客観的に考察しうる段階に入りつつある。民主主義が単なる政治機構の問題ではなく,その根本には,人格の尊厳性に目ざめた個人の存在が前提となっていることはいうまでもなく,民主主義の理解がここまで掘り下げられることによって,真に力強い行動の指針ともなりうるわけである。したがって単なる表面的な行動形式にのみとらわれることなく,民主的生活を内面的に強化していく方面のことも要求されてよいであろう。
このように考えるときには,この単元の学習は今後の学校生活全般に深い関係をもつことになるから,いくらでも広く拡大できる。しかしこうするときには,他の単元の学習に支障をきたすから,新しい学校生活を有効に送るための導入ということに重点をおいたほうがよいであろう。
目 標
2.学校の組織や教育課程などは自分達の個性の発達と,民主的社会人としての成長に役だつことを目的としてつくられるものであることの理解。
3.学校生活の改善に進んで協力する態度。
4.家庭・学校・地域社会などの民主的生活を通して民主主義のあり方を学ぼうとする態度。
5.民主的社会生活の基礎は各人の人格の尊重と自己の責任の自覚にあることの理解およびこれを実行する意欲。
内 容
(2) 現在の教育制度において高等学校はどのような意味と目標をもっているか。
(3) 明治以後学校制度は現在までどのように変ってきたか。
2.高等学校の学校生活を有効に営んでいくためには,どんな問題があるか。
(2) 特別教育活動や生徒会はどのように運営されており,それはわれわれの学校生活や個人の発達にどんな意味をもっているか。
(3) 男女共学を有効に行うためにはどんな態度や方法が必要か。
(4) 外国の高等学校での学校生活はどのように営まれているか。
(5) われわれは学校生活を改善するために,どのように協力することができるか。
3.学校は社会生活の民主化とどのような関連をもっているか。
(教育委員会・育英制度,民主的な師弟関係および交友関係など)。
(2) われわれは学校生活を通して家庭や地域社会の民主化にどのように貢献することができるか。
(3) 地域社会とわれわれの学校とは相互にどのように結びついているか。
4.民主主義の原則は社会生活の上にどのように実現されているか,また問題はどのようなところにあるか。
(2) 日本人の心の中に残っている封建的な生活態度は日常生活の上にどんな形で現れているか。
5.われわれは個人として,自己および他人や社会に対して,どのような態度をもたなければならないか。
(2) 人間を個人として尊重する考え方は,歴史的にどのように発展し,また実現されてきたか。
(3) われわれは自分の属している共同社会に対してどんな責任をもっているか。
(4) 道徳や法律はわれわれの行為の基準として,どのような意味をもっており,またなぜ守らなければならないか。
学習活動の例
2.われわれの学校はどのような校内組織で運営されているが,また校内における生徒の自主的活動にはどんなものがあるか,調査して皆に報告すること。
3.現在の日本の教育制度を定めている法令にはどんなものがあるか,それについて次のようなことを調べてみること(憲法第22条・教育基本法・学校教育法・教育委員会法)。
(2) 学校以外にどのような場所・方法で教育が行われているか。
(3) 学校にはどんな種類のものがあるか,全体をまとめて一つの表をつくってみること。
(4) 高等学校は学校制度の中でどのような地位を占めており,他の学校に比べてどんな特色をもっているか。
4.明治以後のわが国の学校制度はどのように変化してきたか,できれば一表にまとめてみること。
5.戦前と戦後の学校制度を比較して特に違っているのはどのような点か,また,このような事が行われるに至った事情について先生から説明を聞くこと(教育使節団第1次および第2次報告書)。
6.資料が得られる範囲で,外国の学校制度について調べ,わが国のそれと比較してみること。
7.科目の選択制度についてその範囲や必要な単位数等を詳しく調べて皆に報告すること。
8.自分の個性や将来の希望を考えて,どんな科目をとるのがいちばんよいか研究してみるとともに,選択方法について先生の意見を聞き,皆で話し合ってみること。
9.特別教育活動や生徒会はどのような組織で運営され,実際の活動状態がどうなっているか,おのおのの生徒の責任者を招いてその説明を聞いてみること。
10.「生徒会は新入生に何を要求しているか,われわれはいかなる態度でその活動に参加したらよいか」という題で討論会を開いてみること。
11.日常の学校生活を送っていく上にわれわれが守ってゆかねばならない規則にはどんなものがあるか,また,規則というほどではないが校風として伝統的に伝えられているものを調査すること。
12.中学校時代の経験を反省して男女共学を有効に行っていくにはどうしたらよいか討議してみること。
13.資料が得られたら外国の高等学校における教科目,生徒の自主的活動,男女共学等について,わが国のそれと比較してその相違を研究してみること。
14.外国で高等学校の生活を送った経験のある人があったら,その人を招いて直接その体験を話してもらうこと。
15.新しくはいった学校についての印象を話し合い,良い校風をつくっていくためには,どのように協力したらよいか討論してみること。
16.近くの学校を訪問して生徒の活動状態や校内の施設等について実地に見学し,参考にすべき点があるかどうか研究してみること。
17.ホームルームあるいは生徒会において各人の意見がじゅうぶん発表され皆の考えがよく反映しているかどうか,じゅうぶんでないとすればどこに改善すべき点があるか,皆で討議してみること。
18.戦後における義務教育の延長および教育目標の変化は,わが国の民主化の発展にどんな関係をもっているかを討議する。
19.高等学校・大学についてその在学者が同年齢の全人口に対してどのくらいの割合を占めているかを調べてグラフにつくる。そしてこれを戦前のものに比べてその相違について考えること。
20.教育の機会均等とはどういうことか,民主的な社会をつくっていくためにはなぜ教育の機会均等が必要であるか,自分の考えをレポートにまとめて発表し合うこと。
21.育英制度とはどのようなものか,それによってどのくらいの人が学資を与えられているか,またどのような人に対して与えられるものか等について調査すること。
22.教育委員会はどのような目的でつくられ,われわれの教育に対してどんな役割を果しているか,できれば教育委員会を訪問してその話を聞き,また会議を傍聴してみること。
23.学校がその地域の文化的な中心として,どのように貢献してきているか,具体的な例をあげて検討してみること,またわれわれの手でできるものにはどんなものがあるか,具体的な実践計画をたてて,先生の意見を聞くこと。
24.地方自治体の予算の中で教育費はどのくらいの割合を占めているか調べてみる,できれば過去と比較してみること。
25.最近の教育委員選挙の投票率を調べ,社会の教育に対する関心の度合について討議してみること。
26.今後の社会科・理科その他の教科の学習にあたって,近くに見学したり情報が得られる機関・施設・場所として,どんなところがあるかを討議して表にする。
27.われわれの学校における態度・行動と家庭・社会における場合のそれらとの間に矛盾しているものはないか皆で討議してみること(男女の差別,会議や相談の仕方,仕事の分担等)。
28.民主的な社会生活の基礎は「個人の尊重」にあるといわれるが,憲法においてそれは,どのように保障されているか調べてみること。
29.民法で家族関係の民主化という点で大きく変ったのはどのような点であるか,書物で調べるとともに先生から説明を聞くこと(夫婦・親子の関係,相続等)。
30.法律や制度の上で改革された点が実際の生活の上で果してじゅうぶん達成されているかどうか,たとえば警察や裁判所等を訪問して話を聞いてみること(人身売買・強制労働等)。
31.父母や目上の人から昔の家庭生活の規範になった訓言などについて話を聞き,民主的でないもの,現在も残しておきたいものを皆で話し合ってみること。
32.われわれの現在の日常生活において「封建的」であると言われる考え方や習慣・行事などにはどのようなものがあるかを列挙して,それがどういう点で封建的なのかを討議する。
33.世論が正しい社会の動向を導いていった場合や反対に世論が災をなした場合,あるいは正しい世論をつくり上げていった先覚者等の実例を歴史や郷土における実際の見聞の中から求めて作文を書いたり劇化してみること(ドレフュース事件,トム小父の小屋など)。
34.「自由と規律」という題目で討論会を開いてみること。
35.人間の身体および精神の発達について調べ,特にわれわれのような青年期になろうとするころがどのような特徴をもっているか,自分の状態と比べて研究してみること。
36.自分の性向を科学的に知るにはどのような方法があるか調べてみること。
37.河合栄治郎著「学生生活」・「学生と先哲」を読み,わからぬ点は先生や先輩に尋ねて,「青年期と自覚」・「人生の最高目標」等についてお互に話し合ってみること。
38.歴史を読んで古代の奴隷や中世の農民が現在のわれわれ一般庶民と比べて,政治的,経済的,社会的にどんな状態にあったか調べて,現代は個人の自由が達成されてきているかどうか学級で討議すること。
39.われわれはいろいろな自己の要求を集団の中で満足させているとともにそれぞれの成員は集団に対して責任を分ち合っているのであるが,それは集団によってどのように違っているか,また集団のよき成員としてはどんな条件が与えられるか討議してみること。
40.シェヴァイツェル・リンカーン・内村鑑三などの伝記や著述を読んで,その人たちが社会に対してどのような貢献をしており,またそのような活動をするに至った動機などについて調べてみること。
41.われわれの各種の行動は多くは自分の属する社会の習慣や伝統に基いてなされているが,あいさつのしかた,食事のしかた等について,われわれがどのようにしてそれを身につけているか,社会生活を行っていく上にどのような意味をもっているか考えてみること。
42.われわれの日常生活や新聞などの記事から,法律的に許された行為でも,道徳的に許されないような場合の具体的な例をあげて,法と道徳の関係について考えてみること。
43.「日本人は公衆道徳を守らない」とよくいわれるが,日常生活を反省してみてどんなことがあるか気がついた点を列挙してみること。またなぜ守られないかを検討して改善のための労法を考えてみること。
44.戦後は青年の道徳感が低下したという人があるが,それははたして正しいかどうか,あたっている場合としてはどのような例があるか,あたっていないどんな例があるかについて討議する。そして「道徳と社会」について先生とみんなで話し合ってみる。
評価の例
2.次の事項についての知識・理解はどの程度明確になったか,またそれをいっそう有効に利用することができるようになったか。
教育制度,教育基本法,学校教育法,義務教育,6・3制,定時制,普通課程高等学校,職業課程高等学校,総合制高等学校,単位制,必修教科,選択教科,ホーム・ルーム,クラブ活動,男女共学,PTA,アメリカ教育使節団,教育民主化,教育委員会,教育の機会均等,育英制度,社会教育,基本的人権,人格,道徳,法律,世論と宣伝,封建的,民主的,親分子分,新しい家,家族制度,地方分権,中央集権など。
(2) 原則・事実・特色などの例
② 個人と社会(集団)との関係。
③ 教育の目標とそれを達成するための学校の役割。
④ 教育課程および学校生活における高等学校の特色。
⑤ 現在の学校制度に至るまでの発達過程の概略,特に戦前と戦後の著しい差異。
⑥ 教育の機会均等の意味と,そのためにとられている諸種の制度や施設。
⑦ 教育委員会の目的・組織・内容。
⑧ 社会生活民主化のための新しい法律や制度の概要。
⑨ 民主的社会生活における自由の意味。
3.次のような能力・技能が養われたか。
(2) 集会や会議を司会したり,自分の意志をはっきりと発表すること。
(3) 法令の文章や図表・統計等の要点を正確につかむこと。
(4) 諸種の原則や理念に基いて現実を正しくつかむこと。
4.次のような態度が養われつつあるか。
(2) 自己の適性,将来の進路について関心をもつ。
(3) 上級生に対しても卑屈な態度をとらない。
(4) クラスや学校の行事に対して積極的に協力する。
(5) 自己の意見を積極的に述べるとともに相手の意見もよく聞く。
(6) 他人の過失等に対して寛容である。
(7) 人間性の探求に関心をもつ。
(8) 学校や地域社会における生活改善に積極的に協力する。
(9) 学校の諸規定を尊重する。
(10) 自主的に行動しようとする意欲をもつ。