要 旨
終戦後,全国津々浦々に誕生した中学校は,年とともに内容の充実を示し,教育の機会均等に少年たちの希望はふくらみつつある。しかもこの時,現代世界はなお複雑な様相の中にある。少年の,社会に処する態度や考えは,そして大きな希望の窓と進路は,今こそ大きく開かれねばならない。そこにこそまた日本の進路も横たわるのである。この単元設定の趣旨もここにあるのである。
目 標
「理解」
2.終戦後,いろいろな改革が行われたこと。
3.日本は今,世界で重要な地位にあること。
4.国際連合や講和問題の果す役目が大きいこと。
「態度」
2.世界の様子に関心を持ちながら諸問題を解決しようとする態度と能力。
3.平和を守ろうとする態度。
4.社会問題を歴史的にはあくしようとする態度と習慣。
5.世界と友好的に交わろうとする態度。
2.太平洋戦争はなぜ始まったのか。
3.日本は終戦後どのように変ってきたか。
4.わたくしたちは,これから日本や世界のためにどうしたら尽せるだろうか。
5.日本歴史を学習して,わたくしたちは何を学びとることができたか。
学習活動の例
2.二・二六事件の時の号外や新聞論説を,自分で書くつもりで作ってみよう。
3.支那事変が起った理由について,終戦前と後ではどんなにちがって考えられているか,それを比較した表を作ってみよう。
4.自分たちが支那事変の起ったころの外国の国民であったとしたら,日本をどう思うか感想文を書いて提出しよう。
5.ヒットラーやムッソリーニはどんな人か,先生に聞いてみよう。
6.アメリカに戦争をしかけた時に,日本はどんなことを国民に宣伝していたか調べてみよう。
7.カイロ宣言やポツダム宣言についてどんな内容か調べて,戦時中の日本の主張とどこがちがうか比較発表しよう。
8.戦争前にストライキなどが起ったことがあるか調べ,そのころの労働者の様子をクラスに報告しよう。
9.明治憲法と今度の憲法について次のことを各班で手わけして調べよう。
(2) 内容ではどんなところがちがうか。
11.兄や父から昔の中学校はどんなものか話しを聞こう。
12.終戦後のいろいろな改革について,明治維新の改革と比較した表を作って,どんなところがちがうか討論会を開こう。
13.今,国際連合に加盟している国々を調べて,どんな働きをしているか,新聞記事や雑誌などからスクラップブックを作ろう。
14.「独立後のわたくしたちはどうしたらよいか」の題を掲げて討論会を開いてみよう。
15.終戦後の生活で民主的になったと思う点をいろいろと調べ,それをなおよくするためにはどうしたらよいか討議しよう。
16.「歴史を学んで」として作文を書き,先生からその批評会を開いてもらおう。
17.各時代の社会の特徴と組織と文化の比較対照表を作ろう。
18.クラス全員で日本史の大きな年表を作って教室に掲げよう。
19.日本の歴史を通して,外国との関係が,日本の社会にどんな影響を及ぼしたかをレポートにまとめてみよう。
評価の例
2.憲法改正・農地改革・六三制などの新聞記事や雑誌の文章などを集めさせ,その発表会と批評会をさせて,これらの改革の意義が理解できたかどうかを調べる。
3.最近の新聞で,外国のうわさに上る日本に関係した記事を集めたり,切り抜き帳を作らせ,その切り抜き方を調べたり,感想文の書き方などをみて,世界における日本の地位を理解しつつあるかどうか判定する。
4.学者や政治家達の講和問題に対する意見を集めさせ,どのように集めたり分類しているかを調べ,現代社会や世界への理解が深まっているかどうかを判定する。
5.終戦後,日本に対するいろいろな外国からの友好的な交わりについて発表させ,その後で,これに対する生徒の態度について討論させ,世界と友好的に交わろうとする態度ができて来たかどうか判定する。
6.歴史を学ぶ前と後で,自分の国に対する考えかたがどのように変ったか討議させて,社会問題を歴史的にはあくする態度が養われているかどうか判定する。
7.次の重要概念が歴史的に理解できたかどうかをテストする。
9.調査・見学等に際して文化遺産に対する評価・尊重・愛護の態度を観察評価する。
10.一時間の製作活動として,次のものを並べて年表を作らせ,時間的前後の判断力がついたかどうかを判定する。
13.今日起りつつある事件をクラスで討論させ,相互の意見を判定し,人間生活において歴史の重要性を認識し,問題の解決のために多くの資料や情報を集めて,その上で複雑な事情を分析し判断しようとする態度を持つようになったかどうかを観察評価する。
14.たとえば次のような日本史に関係のある文章を年代順に配列させて,歴史の発展が理解できたかどうかを評価する。
(2) 租税が物納から金納になった…………………………………………( )
(3) 全国の土地が国有になった……………………………………………( )
(4) 農民の中から武士が現れた……………………………………………( )
(5) 水田耕作を始めるようになった………………………………………( )
(6) 農民一揆がはじめて現れた……………………………………………( )
16.誤りの史料を提出して,その真偽を判定させ,歴史的記述の真偽をある程度まで判断できるようになったかどうかを判定する。
『毛利家の旗本だった松田君のおじいさんは,明治元年に藩が廃止されると間もなく上京,朝日新聞社に入社し,記者生活を続けているうち,明治9年の西南の役で,不幸機関銃の弾丸にあたってなくなりました。天明10年の地震の時に江戸の品川で生れたといっていましたから,まだ40に満たなかったわけです。生前はずいぶんハイカラな方で,そのころ,流行してきた映画と野球を見るのが何よりの趣味で,早慶戦はかかさず見に行かれたそうです。松田君が時折着ているスフの古めかしい背広の洋服はおじいさんのかたみの品でなお,家には愛読されたという坪内逍遙の「当世書生気質」の初版と田口卯吉の「日本開化小史」が残っているとのことです。』
そこで委員会では,単元を計画するに先だって,各時代の指導目標や参考内容としてどんなものがあげられるかを一応考えることにした。これは委員会の覚え書にすぎないものであって,これを全部含ませることを目ざしたものではない。したがって,もちろん最低限度を示すものではないし,もしもこれだけの目標や内容を盛り込もうとしたら,中学校生徒にはとうていその学習の負担に堪えられないであろう。それにこのような内容にとらわれて単元を構成するときには,教材中心のものができあがり,社会科日本史としての望ましい単元にはならないであろう。
しかしながら,各学校において種々の系列の諸単元を考え,これらを展開するにあたって,日本史として特に重要な目標や内容に落ちがないようにするための手がかりとしては役だつこともあろう。以下にこれを掲げるのはそれだけの意味にすぎないものである。
A.参考目標
『原始社会』
「理解」
2.原始社会は人類の最も古い社会形態であること。
3.現代の社会の生活の中にも原始社会の姿が残っていること。
4.日本の原始社会と世界のそれとの間には共通性のあること。
5.原始社会の生活を調べるには,考古学・人類学などいろいろの科学の総合によらなければならないこと。
6.原始社会は非常に長い時期であったこと。
7.原始社会の生活には,自然環境による制約が非常に強大であったこと。
8.人類と動物との相違を認識すること。
9.共同生活がしだいに進んできて原始社会がくずれたこと。
「態度・能力」など
2.神話伝説を正しく批判すること。
『古代社会』
「理解」
2.古代社会は原始社会の発展により生れでたものであること。
3.現代社会のしくみの中にも古代社会の特質が残っていること。
4.古代社会の風習・行事で,今日の社会生活の中に残るものがあること。
5.社会生活が進んで来て,国家が発生したこと。
6.貴族政治と民主政治との間に相違のあること。
7.社会生活の中で,法律制度などが必要になってくること。
8.日本文化の発達には,外来文化の影響に負うところが多いこと。
9.新しい思想や宗教が社会に大きな影響を与えること。
10.土地経済の問題が社会の発展に大きな影響を及ぼすこと。
「態度・能力」など
2.国家に対する正しい批判と愛情をもつようにすること。
3.古代社会の遺制に対して,正しい評価と取扱をすること。
『封建社会』
「理解」
2.封建社会は古代社会の発展により生じた社会であること。
3.封建社会のしくみの中で,今日の社会生活の中に残存するものがあること。
4.封建社会は日本ばかりに存在したものではないこと。しかもそれぞれ共通点と相違点のあること。
5.封建社会は近代社会の生れる前提であったこと。
「態度・技能」
2.封建性の悪い点を除去しようとする態度・技能を養うこと。
3.封建社会の文化・芸能を理解・鑑賞する態度を養うこと。
『近代社会』
「理解」
2.明治維新によって日本の近代社会が発生したこと。
3.日本の近代社会の形成は特殊な状態のもとに行われたこと。
4.日本の民主政治は複雑な社会的背景のもとで行われたこと。
5.日本の資本主義が特殊なものであり,その特殊性が今日の社会へ大きな影響を与えたこと。
6.基本的人権獲得のために人々が努力したこと。
7.平和維持のために人々が努力したこと。
8.現代日本は歴史的重要地位にあること。
「態度・技能」など
2.国際的視野のもとに諸問題を解決する態度と技能を養うこと。
3.民族的偏見を除去する態度を養うこと。
4.平和を愛護する態度を養うこと。
5.社会問題を歴史的にはあくする態度と能力を養うこと。
6.生活に役だつりっぱな伝統を育てようとする態度を養うこと。
7.社会に役だつりっぱな個人としての態度と技能を養うこと。
8.次代の日本を背負うものであることを自覚すること。
B.参考内容
『原始社会』
(大項目) 1.発生
(中項目) ○原始人類
(小項目) きわめて古いこと,人類と動物との相違。
(中項目) ○原始日本人
(小項目) 日本列島の成立事情。
(大項目) 2.特質
(中項目) ○階級の差のほとんどないこと。
(小項目) 理由,状態。
(中項目) ○狩猟や漁労の生活
(小項目) 遺跡,現代生活との対比,現代におけるその生活の残存。
(中項目) ○自然崇拝
(小項目) 遺物,現代生活における自然崇拝。
(中項目) ○自然環境による制約
(小項目) 実例,理由,現代の残存。
(大項目) 3.崩壊
(中項目) ○大陸との交通
(小項目) 当時の大陸の状態,交通による日本の社会の変化。
(中項目) ○集落の発生
(小項目) 発生の理由,初期の集落の規模。
(中項目) ○繩(じょう)文式文化から弥生(やよい)式文化へ
(小項目) 後者が前者より後であること,両者の相違。
(中項目) ○農業のはじまり
(小項目) 発生の事情。
『古代社会』
(大項目) 1.発生
(中項目) ○部落国家から統一国家へ
(小項目) 統一国家の中心,統一への内的外的事情。
(中項目) ○水田耕作
(小項目) 農業技術発達の事情。
(中項目) ○土地私有
(小項目) 私有地増大の原因。
(中項目) ○氏姓制度
(小項目) 成立の事情,組織。
(中項目) ○大陸文化の渡来
(小項目) 交通の状態,渡来文化の内容,受容事情。現代社会生活に対する意味。
(大項目) 2.特質
(中項目) ○古代国家
(小項目) 実態。
(中項目) ○貴族文化
(小項目) 性格,内容,現代文化との相違,今日の社会生活に対する意義。
(中項目) ○律令制
(小項目) 律令成立の事情,社会生活への影響。
(大項目) 3.崩壊
(中項目) ○荘園制の発生
(小項目) 原因,中央および地方事情。
(中項目) ○貴族の没落
(小項目) 事情,原因,貴族の生活と武士の生活。
『封建社会』
(大項目) 1.発生
(中項目) ○武士のおこり
(小項目) 発生の社会的事情,貴族との抗争。
(中項目) ○武家政治への転回
(小項目) 幕府成立の事情,貴族政治と武家政治との相違,貴族の武士に対する挑(ちょう)戦と敗北,武家政治の整備。
(大項目) 2.特質
(中項目) ○土地と主従関係
(小項目) 主従関係の由来,今日の雇傭関係との相違。
(中項目) ○身分制
(小項目) 意義,身分による生活の相違。
(中項目) ○封建社会の農民
(小項目) 農民の生産,政治との関連。近代日本社会における残存。
(中項目) ○家内工業
(小項目) 意義,存在の社会的事情。
(中項目) ○武家政治
(小項目) 現代政治との相違。
(中項目) ○武家文化と町人文化
(小項目) それらと現代文化との相違,現代文化の中における存在。
(大項目) 3.発展
(中項目) ○荘園制から大名領国制へ
(小項目) 大名領成立の事情。
(中項目) ○外来文化の輸入
(小項目) ヨーロッパ人渡来の世界史的意義,渡来文化の内容,受容事情。
(中項目) ○都市の発達
(小項目) 原因,都市の種類と位置(現代との関連)。
(中項目) ○徳川政権の確立
(小項目) 制覇の事情と理由,幕府政治体制と現代政治体制との相違。
(大項目) 4.崩壊
(中項目) ○貨幣経済の発展
(小項目) 商工業発展の原因。
(中項目) ○町人勢力の成長
(小項目) 成長の原因,町人と武士との関係。
(中項目) ○農村の分解
(小項目) 自給自足経済崩壊の原因,諸侯の対策と農民生活。
(中項目) ○幕府の衰退
(小項目) 幕府政治体制弱体化の原因,諸改革の意義。
『近代社会』
(大項目) 1.発生
(中項目) ○近代社会への動き
(小項目) 近代産業発生の事情,近代思想の芽ばえ。
(中項目) ○国際社会への登場
(小項目) ヨーロッパ勢力東漸の社会的事情,開国の意義,不平等条約。
(中項目) ○近代国家の成立
(小項目) 開国の影響,幕府の崩壊,明治政府の成立。
(大項目) 2.特質
(中項目) ○工場制工業
(小項目) 意義,日本の特殊性。
(中項目) ○契約的人間関係
(小項目) 封建的人間関係との相違,現実社会の状態。
(中項目) ○立憲政治
(小項目) 意義,明治憲法と外国憲法との比較。
(中項目) ○人権自由の尊重
(小項目) 民主主義の精神,現実の矛盾面。
(中項目) ○近代文化
(小項目) 近代文化の特質(貴族,町人文化との相違,民衆性)。
(大項目) 3.発展
(中項目) ○憲法の制定
(小項目) 国民の憲法制定への努力,明治憲法と現行憲法
(中項目) ○条約改正
(小項目) 改正の理由,改正の交渉,新条約の成立。
(中項目) ○産業革命
(小項目) 日本における近代産業の発展,国民生活に及ぼした影響,社会運動の発生。
(中項目) ○政党の発展
(小項目) 政党の発生,第1次世界大戦の世界史的意義,政党政治確立とその特殊性。
(中項目) ○軍閥政治
(小項目) 軍国主義の増大ヨーロッパの全体主義と軍国主義との関連,政党の衰退。
(中項目) ○太平洋戦争
(小項目) 第2次世界大戦と太平洋戦争,民主主義の勝利。
(中項目) ○日本の民主化
(小項目) 憲法の精神,諸改革の精神とその内容,民主化を妨げるものの所在,世界の動きと日本。