要 旨
しかし現実には二つの世界が対立し,第三次世界大戦勃発の危険性もはらんでいる。このような現実のもとにおける平和への教育はどうあるべきであろうか。これについてはわれわれは,教育の重大な使命を認識しなければならない。それはあくまでも国内および世界の平和を念願し,これを守ってゆくことができる人間形成を目ざすことである。
まず現在の世界の現実を客観的に,わかりやすく生徒に知らせることは必要である。冷厳な現実に目をおおうことは望ましくない。しかしこの場合も,教師はたとえ一市民としては,それぞれの政治的意見をもっていても,その方向に生徒をひきずることは許されない。教育においては,どこまでも政治的には中正な態度を守って,現在世界の人々がその解決の道を発見しようと努力していることを理解させ,生徒も将来,宣伝や扇動に動かされずに,各自の判断を基として,この問題の平和的解決および,よりよい日本および世界の建設に向かって努力すべき責任があることを深く自覚させなければならない。
それにつけても,基本となることは,たとえわれわれと主義・主張・利害を異にする人々に対しても,これを敵視しないで,人間としての親しみを深める教育を行うことである。そしてその出発点は,学校や近隣の人々に対する正しい態度の養成であり,さらに国内および外国人に対しても,この態度を発展させることが重要である。すなわち,「戦争は人の心の中で生れるものであるから,人の心の中に平和のとりでを築かなければならない」のユネスコ憲章の冒頭の句を,はっきり生徒の心および態度に植え育てることである。
目 標
2.われわれの積極的努力によってのみ,平和が得られ,戦争を避けることができる理解。
3.個人・種々な集団・国家の間で相互の尊厳・自由・権利が尊重される時に,平和が確保されることの理解。
4.この次に戦争が起ったら,人類の文明はほとんど破滅するであろうことの理解。
5.平和への努力を行った個人や団体の功績の認識。
6.世界の国々の政治的,経済的,社会的の現状を客観的に知り,国際問題を科学的に研究する態度と技能。
7.科学を尊重し,その成果を平和な生活の促進に役だたせる態度。
8.人種・国籍・文化・生活様式などの違いに基く偏見を除き,国際的理解を深める態度と技能。
9.身近な生活を平和に築くことや,その他生徒としてできることがらを通して,世界平和へ寄与しようとする態度と技能。
内 容
(2) 科学の進歩や戦争の規模の変化と,戦争による被害の度との間にはどんな関係があるか。
(3) 将来,もし,また大きな戦争が起ったならば,人類にどんな不幸をもたらすことが予想されるであろうか。
(2) 国内でのいろいろな争いは,おもにどんな原因によって起るか。
(3) 国家間の争いを起しやすい政治的,経済的原因としては,どんなことがあるか。
(4) 人類諸集団間の体質や言語の違いも,狭い民族愛や愛国心と結びついて,偏見や誤解の原因となることもある。
(5) 宗教や社会的習慣の違いも,時として偏見や誤解の原因となる。
(6) その他,人類諸集団に不和を起す原因としては,どんなことがあるか。
(2) 戦争による不幸を少なくしたり,世界平和を確立するために,諸国家や国際的機関はどのような努力をしてきたか。
(3) 国際連合は平和のためどんな努力をしているか。
(4) ユネスコはどんな有意義な運動を行っているか。
(5) その他の国際的機関や諸国家は,現在世界の平和と福祉のために,どんな努力をしているか。
(2) われわれは平和的精神を憲法にどのように表わしているか。
(3) わが国民の民主化は,国内および世界の平和に,どのように貢献するか。
(4) われわれは生徒として,身近な社会,国内および世界の平和にどのように貢献することができるか。
学習活動の例
2.統計その他の資料によって,第一次世界大戦と第二次大戦の損害について調べて比較してみる。
3.航空機の発達を一つの例にとっても,これによって戦争の規模や被害の度がどのようにひどくなったかを話し合う。それだからといって,「航空機などは発達させないほうがよい」という論が成り立つかどうか考えてみる。
4.広島や長崎における原子爆弾投下の際の惨状を,写真・記録・記録小説などによって知る。
5.原子兵器の使用される将来の戦争が起ったとすれば,それがどんなに恐しいものであるか想像して,その感想を話し合う。
6.戦争や平和に関係した映画・幻燈などを見たり,物語・小説などを読んで感想文を書く。
7.戦争は国や個人の経済生活を破壊するばかりでなく,文化や道徳にも大きな影響を与えるが,太平洋戦争を経験したわが国の場合,このことはどのような事実となって現れたか話し合う。
8.学校の友人どうしや家庭内部で,時には争いを起すことがあるかもしれない。もし,あったらその時のことを思い出して,その原因を考える。
9.学校内の不和,たとえば男女の対立や社会における集団的対立,部落の争いなどはどういう原因で起りやすいか。それを解決していくにはどうしたらよいか。実際の例があったら,それに基いて話し合う。
10.「人間は争ったり,戦争するような本性に生れついている。だから争いや戦争をなくそうと考えてもむだである。」という説があったとして,これについて賛否を討議してみる。そして最後に先生から,この問題に対して今日の学界ではどういう定説になっているか話を聞く。
11.歴史上のおもな戦争をあげて,その原因と思われるものを調べ,政治的原因・経済的原因などに分類してみる。
12.歴史の書物によって,第一次・第二次世界大戦の原因を調べ,そのおもな点を列記する。そして比較的古い時代の戦争と近代戦を,原因の上から比較してみる。
13.自分たちの身近かな生活で,ことばや宗教や習慣が違う人たちに対して,不当な偏見をもったり,軽べつしたりしていることがないかどうか反省してみる。
14.徳川時代の鎖国当時,人々は西洋人に対してどのような考えをもっていたかを調べ,また幕末・維新当時の人々が海外諸国を見聞した時の記録などを読んで,感想文を書く。
15.今日の世界において,まだ原始的生活を営んでいるといわれている集団の日常生活状態を調べて,教室でその話をする。そしてかれらがそんな生活を営んでいるのは生れつき劣等民族であるかどうかを討議して,最後に先生から考えの誤っている点を正してもらう。
16.太平洋戦争中,誤った愛国心がどのように戦争のために利用されたか,先生に話しを聞き,正しい愛国心と世界平和について討議してみる。
17.人間の平和へのあこがれの心がだんだんまとまって,平和運動が起るようになったのはいつごろか,またそれがその後どのように展開したか調べて報告する。
18.世界平和のために貢献した人々の名まえをあげ,それらの人々の思想や業績を脚本に書いてみる。
19.ノーべル賞およびノーべル平和賞の設けられた事情や,これまでに授賞された人や団体の一,二をあげ,その功績を調べで報告する。
20.国際連合はどんな目的でつくられたか,国際連合憲章について先生から話を聞き,国連が誕生するまでの経過や現在の加盟国を調べる。
21.国際連合の組織や機構を図解し,それぞれどんな働きをしているかを調べ,特に,安全保障理事会の働きや,最近討議された問題について,新聞の縮刷版などで調べ,国際連合と国際連盟についていろいろな点から比較する。
22.ユネスコの目的とその活動状況を調べ,これに協力する方法をみんなで討議する。また,ユニセフとは何か,日本のこどもたちにどんなことをしてくれたかを調べてみる。そして,これらに関する写真やポスターがあったら集めて展示する。
23.万国赤十字,その他世界平和に寄与すると考えられる国際的な機関を調べ,その趣旨や事業などについて表にまとめてみる。
24.わが国は現在,国際連合関係のどんな機関に加盟が許されているかを調べる。
25.永世中立国をあげ,それぞれの国の特殊な事情について研究する。
26.新聞や雑誌の記事から,国際連合の会議がどういう点で行き悩んでいるかを調べる。
27.上の学習活動に関連して,現在の二つの世界の状態について先生からわかりやすく話をしてもらう。(教師は客観的に,冷静に話をすることがたいせつである。)
28.独立した日本は現在,世界的にどういう地位にあるかについて先生の話を聞く。(この場合も教師は,客観的に,冷静に話をすることがたいせつである。)
29.新聞・雑誌・ラジオなどで,日本が将来進むべき道に関して,どういうことが論ぜられているかの事実を知る。
30.日本や世界の平和を促進するために,生徒として,どのようなことができるか討議する。(生徒の発達を考え,特定の政党を支持したり,非難したりする結論を出させてはならない。)
31.「戦争は人間の心の中で始まる。」というユネスコ憲章の前文を読んで,その意味をみんなで考える。
32.憲法を読み,平和について規定してある条項を選び出し,その意味について先生から話を聞き,この精神を自分たちの日常生活に生かすには,どうしたらよいかを討議する。
33.新聞・ラジオ・映画などは世界の平和にとってどのような意味があるかを話し合い,できれば,外国の少年たちと文通して相互の理解を深める。
34.外国の人々の珍しい風俗や習慣を絵に描いたり,劇に上演して,世界の人人が相互の理解を深めることが平和にとっていかにたいせつかを話し合う。
35.外国で生活したことのある人から,その国の生徒の生活の話を聞き,自分たちと似た点や違っている点を話し合う。
36.オリンピックその他国際的な運動競技や,ボーイスカウト,ガールスカウト等の青少年運動が世界の人々の心のつながりをどんなに強めるか話し合う。
37.「戦争は社会の進歩に役だつ。」という考えを,いろいろな立場から批判して学級で討議する。
38.戦争と平和についての自分の感想を短い文にまとめて,先生に批評してもらう。
評価の例
2.次の事項についての知識・理解はどの程度明確になったか。
(1) 術語・用語の例
2.将来の戦争は人類の文明をほとんど破壊するであろうこと。
3.戦争の原因は複雑であること,および幾つかの戦争における具体例,特に第一次および第二次世界大戦の原因。
4.正しい愛国心のあり方。
5.文化および物資の円滑な交流および国民の生活水準の向上が世界平和に寄与すること。
6.平和の精神は民主主義精神の基盤の上に発展するものであること。
7.科学の発達は世界平和の促進に役だたなければならないこと。
8.平和のための国際機構の発達。
9.日本国憲法および教育基本法に盛られている平和精神。
10.講和条約および日米安全保障条約の意義。
11.日本の将来については決して楽観は許されないこと。
12.日本が外国から信用されるようになるためには,国民ひとりひとりが,あらゆる努力をしなければならないこと。
13.平和の問題は,結局人間の心の問題に帰すること。
2.友人間,家族間などの争いを平和的に解決する。
3.平和のために努力した人々や団体の業績を尊敬する。
4.民族的・人種的偏見を除こうとする。
5.新聞やラジオの報道する国際問題に関心をもち,これらをできるだけ批判的に受け取ろうとする。
6.日本の将来についてまじめに考える。
7.国際親善の仕事に,生徒として実行可能な範囲で協力する。