第4単元 「われわれは,文化遺産を,どのように受けついでいるか」
要 旨
文化遺産といえば,ずいぶん広範囲に解釈することもできるが,ここでは狭義にとって特に科学・芸術・宗教に重点をおくこととした。これらの文化遺産は,それぞれ国土の特色や国民生活の様式などによって特色づけられるとともに,相互に交流することによって影響し合いながら発展してきたことは,古今東西の歴史に照しても明らかである。しかも「文化には国境なし」といわれているように,その本質は社会的であり,国際的である。そしてその恩恵は世界をおおい,情操的に,思想的にまた物質生活の応用面において,われわれの生活を豊かにしている。
そこで生徒は本単元の学習にあたっては,文化遺産が現代生活にとってどのような重要性をもっているかを知るとともに,文化の創造育成に力を尽したわが国および諸外国の人々に対する尊敬と,それらの先人が伝えてくれた貴い遺産を保護し活用し,わが国の文化をいっそう発展させる心構えを身につけなければならない。またユネスコ憲章にも示されているように,文化は世界の人々の心を結び,国際親善と平和を保つかぎでもあることを理解し,進んで世界平和をまもる情熱を養わなければならない。
目 標
2.文化は時代とともに歴史的に変化するものであること,およびわが国の文化に影響を与えたおもな外国の文化についての理解。
3.現代の文化は世界的な関連をもっていることの理解。
4.日本文化が他国の文化と相違する点よりも共通する点が多いことの理解。
5.すぐれた国民文化の伝統を国民生活の向上のために生かす態度。
6.科学的知識を個人生活の向上と国民福祉のために用いる態度。
7.人類文化の発達に貢献した人々についての知識とこれを尊敬する態度。
8.公共の文化財を鑑賞し,これをたいせつにする態度と習慣。
9.文化を通しての国際的協力の態度と習慣。
10.他人の思想や信教に対する寛容な態度とその自由を尊敬する態度。
11.新しい文化的創造のたいせつなことの理解と,文化創造に対する協力・参加の態度。
内 容
2.科学の発達は,社会生活とどんな関係をもっているか。
(2) わが国の過去のいろいろな時代の社会は,科学の発達にどんな条件を与えてきたか。
(3) 世界の科学の発達はわが国にどんな影響を及ぼしてきたか。
(4) わが国や世界の科学の発達に貢献したおもな人々はどういう社会のもとに,どんな仕事をしてきたか。
(5) 現代の科学はどんな部門にわかれ,それぞれどんな仕事がなされているか。
(6) 科学を発達させ,われわれの生活を向上させるためにはどんな努力が必要か。
3.いろいろな芸術の発達は,人々の生活をどんなに豊かにしたか。
(2) われわれの生活を豊かにする芸術にはどんな種類があるか。
(3) わが国の芸術はどういう社会のもとに,どのように発達し,人々の生活の中に,どのように生き続けてきたか。
(4) わが国の芸術は外国からどんな影響を受けてきたか。
(5) わが国や世界の芸術の発達に貢献したおもな人々はどんな仕事をしてきたか。
(6) われわれの社会生活を美しくするためには,日常どんなことを心がけたらよいか。
4.宗教は古くから人間生活に深い関係をもっている。
(2) わが国や世界には,どんな種類の宗教があるか。
(3) 宗教は各地の生活にどのように結びついているか。
(4) 信教の自由と民主主義とはどんな関係があるか。
5.文化遺産を正しく受けつぎ,社会生活をいっそう豊かにするためには,どうすればよいか。
(2) すべての人々が文化を享受し,また文化の向上に参加する。
(3) 文化の交流を通しての国際的協力など。
学習活動の例
2.われわれが日常使っている品物を一つ例にとって,それには人々のどんなくふうが払われて現在のものに発達したかを先生に話をしてもらう。
3.交通・通信機関などを例にとって,科学の進歩がわれわれの生活を豊かにしてくれたことについて話し合う。またそのはたらきが止ったり,混乱して困った経験があったらそれを発表し,科学がわれわれに与える恩恵について具体的に説明する。
4.ペニシリンが発明されて多くの病人が助かったことなど,医学や薬学の進歩がわれわれに与えた恩恵について調べ,また病気についての迷信が科学の力でうち破られた例があったら報告する。
5.たとえばニュートンやキュリー夫妻の努力によって,明らかにされた自然科学上の法則や事実が,それ自身としてどんなに重要な意味をもつかの話を先生にしてもらって,科学の応用方面だけが人類の幸福に貢献するものではないことを認識すること。
6.古代社会や封建社会では,どういう身分の人々が学問を修め,どんなかたちで次の時代の人々に伝えたか(一子相伝・秘伝・奥儀など)歴史の書物を調べたり,先生の話を聞く。
7.わが国や世界の歴史において,学問が発達しなかった時代を調べ,それぞれどういう社会状態が学問の発達を妨げたかについて討議すること。
8.徳川吉宗が蘭学の研究を許した理由,また幕末に多くの蘭学者たちが罰せられた理由などを調べ,封建時代には,学問の自由な研究や新しい学説の発表が許されなかったことと,当時の社会の組織や政治のしかたとの間の関係について考えてみる。
9.明治政府になってから,政府の相談相手になったり,大学の教師となって来朝した外国の学者をあげ,それらの人々が国に残した業績を調べて,学級に報告する。
10.明治よりも前と,明治以後の社会とでは,日本の学問の発達の上からどんな不利・有利の条件の違いがあったかを話し合い,先生からその結論について批評してもらう。
11.「科学文化史年表」その他の発明発見年表などを利用して,おもな学者の業績・国籍・年代等を調べ,それらの人々の研究の成果はいつごろどのような経緯でわが国に取り入れられ,現在のわれわれの生活にどんな影響を与えているかを話し合う。
12.二,三の大学について,それらの学部や学科がどのように分れているかを調べて表にする。
13.明治以後のわが国の著名な科学者について次のような学習をし,
イ,それらの人々の伝記を読む。
ロ,それらの人々の業績をシナリオにまとめてみる。
ハ,紙芝居や劇を実演する。
科学の発達に協力するには,どんな心構えや態度がたいせつか話し合う。
14.自分の好きな歌をあげ,どんな時にその歌を口ずさむか思い出す。
15.日常生活において美しいものに感動し,これを何かの形で表わしたいと思った経験を互に話し合う。いろいろな芸術作品を鑑賞したり,その活動に従事している時の気分や感想を文章にまとめてみる。
16.外国の生徒たちの図画を見て,自分たちと共通な美的欲求をもっていることについて話し合う。
17.音楽・舞踊・絵画・文学など人間の芸術的活動の種類をあげ,それらが現在のわれわれの生活にどんなかたちで溶け込んでいるか,いろいろな場合を調べてみる。
18.自分たちの町や村には,どんな郷土芸術があるか,それらはいつごろからどのように発達してきたかを調べてみる。
19.わが国の代表的芸術作品,たとえば万葉集,奈良時代の美術工芸作品などについての話を先生にしてもらったり,写真を見せてもらって,日本文化の特徴やその発達について学級で論文をまとめてみる。
20.法隆寺の建築や絵画などには,どのような外国の影響があるといわれているかを調べ,法隆寺に関する写真を集めて展示する,できれば,その他の芸術品について,大陸文化から著しい影響を受けたものについても調べてみる。
21.明治以後,ヨーロッパやアメリカの芸術がどんなかたちでわが国に取り入れられ,どんな影響を与えたかを分担して研究する。
22.わが国や西洋の場合について,それぞれの芸術の分野において,代表的な芸術家をあげ,それらの人々の代表的な作品を調べ,表にまとめてみる。
23.また,以上のような人々の伝記を読み,もっとも感心した点を脚本にして上演してみる。一般に芸術家といわれる人々には,どんな心や才能がたいせつであるか話し合ってみる。
24.ルネサンスが科学や芸術の発達に及ぼした影響について本を読んだり先生から話をしてもらう。
〔注意〕芸術の発達に関する学習活動については,図画工作科の内容や学習活動と重複しないように,図画工作科の教師と連絡をとること。
25.芸術は常に新しくなってゆかなければならないし,古い芸術品を楽しむのは老人趣味だから,古い芸術品などは保護する必要はないという意見があったとして,これに反対の理由をあげてみる。
26.現在,国や地方の政府は,芸術を盛んにし,すぐれた文化遺産を保護するために,どんな仕事を行っているかを調べてみる。
27.学校・家庭・地域社会の生活で,自分たちのくふうと努力で,生活が美しく楽しくなると思われることにどんなことがあるかを話し合い,それを実行するための計画をたててみる。
28.教科書や参考書を読んで,芸術や科学の発達が宗教と深い関係があった例を幾つかあげてみる。
29.原始時代や古代社会の人々は,自然やこの世界をどのように考えていたか。またその当時の人々の生活は,その宗教とどのように結びついていたか,歴史の書物を調べたり先生から話を聞く。
30.宗教改革の社会的意味について先生から説明を聞く。
31.仏教・キリスト教・回教は世界の三大宗教といわれるが,その起源・教えの大要・その後の発達・現在の分布などについて分担してまとめ,さらに時代によって社会生活にどんな影響を与えたか,著しい事例をあげてみる。(たとえば,ヨーロッパの中世におけるキリスト教,日本の平安時代・奈良時代における仏教などについて)
32.キリスト教は,わが国でどのように取り入れられ,人々の考えや文化にどんな影響を与えたかを歴史的にまとめてみる。
33.現在の自分たちの生活におけるいろいろな行事・習慣などで,神道・仏教・キリスト教などに関係したものをあげて,その意味について考えてみる。
34.キリスト教徒や回教徒の日常生活に,それぞれの宗教がどんなに深く結びついているかを調べ,日本における仏教徒と仏教との関係に比較してみる。
35.現在,いろいろな宗教団体が,どんな社会的活動や事業を行っているかを調べてみる。また歴史上,宗教家が社会のため,貧しい人々のため一生をささげて働いた実例を紙芝居や幻燈にしてみる。
36.次のことばの内容をよく示す歴史上の事例をあげ,信仰の自由と民主主義との関係について話し合う。また日本国憲法には信仰の自由についてどのように定めているかを調べてみる。
宗教裁判・破門・踏絵・殉教など。
37.国や地方の財政で,国民の文北や教育を向上するために,どんな方面にどれだけ費用をつかっているかを調べ,現在の不備な点について,その方面の専門家の意見を聞いて学級に報告する。
38.図書館・公民館・博物館・映画館などの文化的施設を尋ね,その利用状況その他を調べ,現在の施設で人々がじゅうぶん文化の恩恵に浴しうるかどうかを討議する。
39.働く人々の中から新しい文化を創造していくために,農村や工場ではどんな文化活動が行われているかを調べてみる。
40.日本の文化について外国の人たちがどのように考えているか,適当な資料があったら要約して紹介する(たとえば小泉八雲・ブルノー=タウトなど)。また外国の小説を読んだり,映画を見て,外国に対する理解が深まった経験を話し合う。
41.ユネスコでは世界の芸術・科学・文化の発達のためにどんな趣旨のもとにどんな活動をしているかを調べ,できれば写真その他の資料を持ち寄って展示会を開く。
評価の例
2.次の事項について知識・理解はどの程度に明確になったか,またそれをどの程度に有効に利用することができるようになったか。
(2) たとえば次のような人の国籍・時代・業績の大要。
キリスト,釈迦,マホメット・ルッター,カルヴィン,聖徳太子,内村鑑三,福沢諭吉,ホーマー,ミケランジェロ,ダンテ,ペトラルカ,ボッカチオ,ゲーテ,べートーヴェン,シューベルト,ロダン,ユーゴー,トルストイ,ベーコン,カント,関孝和,アダムスミス,マルクス,グーテンべルグ,ジェームスワット,エジソン,野口英世,ノーべルなど。
(3) 事実・特色などの例(
a) 動物の生活と人間生活との違い (b) 日本文化と大陸文化との関係 (c) 明治以前の日本の科学の特色 (d) 明治以後の日本の科学の発達 (e) わが古代芸術と大陸との関係 (f) 芸術の世界的交流 (g) 科学・芸術・宗教に対するルネサンスの意義 (h) 世界のおもな宗教,日本のおもな宗教 (i) 世界人権宣言と日本国憲法に示された信教の自由の原則 (j)ユネスコの任務など。3.次のような態度・能力などが養われつつあるか。