要 旨
教師はこの根本原則をよく生徒に理解させ,生産・交換・消費の三者が合理的に結合され運営されて,はじめて国家経済の向上がみられるものであることの認識を深めさせなければならない。
元来文化生活の向上も,経済生活の安定なくしては単なる空題目にしかすぎない。しかも経済活動の根本は,生産および消費であり,ことに消費の面においてわれわれは生産に直接参加しなくとも,間接的に,これに寄与できるはずであり,その方法は日常身近な自己の経済生活の中にある。
生徒は現在おもに消費生活を営んでいるし,国民の多数は消費者の立場にある。しかし消費を考えない生産はありようはずがない。それゆえに消費者の生活合理化こそ国内の生産,商品の交換を健全に発展・運営させる最大の要因となるであろう。生産と消費は,交換を介して表裏一体の相関関係にあるものである。そこで生徒をしてまず生産の方法および機構,生産品の交換・流通,中間機関および交換手段としての貨幣の機能,生産品の価格と効用の関係,物価変動,企業およびその合理化などに対する理解を深くするとともに,最後にわれわれの日常消費生活の改善合理化の方法を研究して,それによってりっぱに生産に寄与し,国家経済の発展に貢献しうるものであるという自覚と態度をもたせなければならない。
さらに一方,国際経済の立場から常に国家経済を見て,「全体」に対する「部分」として世界平和に貢献しようとする態度を養わせるように指導することもたいせつである。
目 標
2.生産・流通・消費についての基礎的知識とこれらの相互関係の理解。
3.経済生活の歴史的発展を通して,現在の経済生活の理解。
4.現代の経済生活における自分の地位の理解。
5.民主主義の原則は経済生活にもあてはまることの理解。
6.個人的,社会的,経済的問題に対する関心。
7.物資を愛護し,むだな消費を慎む態度・習慣。
8.よりよい経済生活を営もうとする意欲と能力。
9.経済統計・図表などを解釈したり,これを利用する技能。
内 容
(現在の社会ではある種の品物の生産者は他のたくさんの種類の品物の消費者である。)
(2) われわれは日常,品物を手に入れる時に,どういう店を利用するか,また生産された品物がわれわれの手もとにはいるまでには,どのような経路をとるか。
(3) 通貨はわれわれの経済生活をどんなに便利にしているか。また通貨はどのように発達してきたか。
(4) 小切手や手形などはどのように使われているか。
(2) 生産技術の変化は物の価格にどのような影響を与えてきたか。
(3) 需要や供給の増減によって,価格はどのように変化するか。
(4) 公定価格はどういう場合に決められるか。
(5) 安くて,よい品物を買うにはどうしたらよいか。
(2) 生産は直接に消費するだけのために行われるものか。
(3) 生産には,どんな基本的要素が必要か。またそれぞれどんな役割を果しているか。
(4) われわれは生徒として生産にどのように参加できるか。
(2) 消費量の大小と消費量との間には,どんな関係があるか。
(3) 商業は生産と消費の増大によってどのように発達してきたか。
(4) 現代の社会では商業はわれわれの経済生活に対してどのような役割を果しているか。
(5) われわれの経済生活の改善に対して,現在の政府や各政党はどのような政策をたてているか。
学習活動の例
2.品物が生産されてから消費者の手もとに渡るまで,どんな業者や組織を経てくるか,具体的事例に基いて図解してみる。
3.小売店・消費組合・百貨店等の間にはどんな差異があるか,たとえば仕入れ関係や規模の大小について調べる。
4.問屋・卸商が商品の流通にどんな役割を演じているかを調べて,その長所・短所を討議してみる。またできればこれらの発達について調べてみる。
5.消費組合のおこり,発達,そのはたらきなどについて先生に話をしてもらい,近くに消費組合があったら,尋ねて,現在特に困っている問題について話を聞く。
6.書物などによって,わが国の貨幣の歴史について調べ,なぜ貨幣が必要とされるようになったのか討議してみる。
7.現在わが国で流通している通貨には,どんな種類があるか,またこれまでにどんな通貨が発行されてきたかを調べてみること。またおもな外国の通貨の種類や円に対するレートを調べ,できれば標本を集める。
8.現在わが国では,通貨のほかに小切手・約束手形・為替手形などが使用されているが,これらはどんな役目をもち,どんな方法で使用されているか書物で調べてみる。(近くの銀行・商店などを見学して説明を聞くのもよい。)
9.われわれが商品を買う場合の価格には,生産費以外にどんな費用が加えられているかを調べてみる。
10.野菜・くだもの・魚などの食料品について,はしり・出廻り・終りの時期で値段がどのように違うかを調べてみる。なぜそのように違うかを討議する。
11.品物の生産にあたり,大きな工場で進んだ機械を使用し,大量生産を行うようになったため,価格が安くなったといわれるが,その理由について書物を読んだり工場見学をして調べてみる。
12.時間や天候や地域などによって同じ商品でも価格が異なってくるものの実例をあげ,それはなぜかについて研究してみる。
13.現在わが国には,価格が政府によって決められているものがあるが,その理由や品物の種類をあげてみる。
14.煙草や塩のような専売品について,その価格はどういう立場から決定されるか,その価格は,他の一般の商品の価格とどんな違った意味をもっているか研究してみる。
15.じょうずな買物とはどういうことだろうか,たとえば品質のよい品物を安く買うにはどうしたらよいか,自分の経験や考えなどを学級に報告して話し合う。
16.価格についての各種の資料や統計の読み方について研究し,それらの利用法について話し合う。
17.近代工場の発展(生産規模の拡大,分業の発達)などによってどんな新しい企業のかたちが生じてきたか,またそれはなぜか,前の時代と比較して調べてみる。
18.郷土の産業で比較的早くから組織的な企業になったものと,それが遅れているものをあげ,その原因を調べてみる。
19.現在のいろいろな企業,たとえば,株式会社・合資会社・合名会社などについて調べができれば,それらの企業がわが国ではいつごろから始まり,どんな変化をしてきたかをまとめてみる。
20.大企業は中小企業に比較して,どんな点が有利と考えられているか。なるべく具体的な例をあげながら研究してみる。
21.郷土で生産されるものが,どんな方法でどこへ送られ,どのように使われるか。幾つかのものについて調べ,図解してみる。
22.附近の工場についてどんな組織のもとにどんな生産が行われているか調べ,系統図を作って生産にはどんな要素が必要か考えてみる。
23.近くの工場などを見学して,生産を増加するためにどんな方法をとっているか話を聞く。また,現在,政府はどんな対策をたてているかを新聞などの資料によって調べる。
24.家庭の収入の大小と消費量の大小との間にはどんな関係があるか。収入が少なくなっても,その消費をあまり減ずることができない品物にどんなものがあるかを考えてみる。
25.家計費において,食糧費の総収入に対する比率は,どんな意味をもっているか先生の話を聞く。
26.適当な書物によって,商業の発達やその機能について調べ,図解して報告する。
27.物資が生産されてから消費されるまでの間に,交通・通信機関や倉庫はどんな働きをしているか,具体的な例に基いて報告する。
28.物資が生産されてから消費されるまでの間に保険はどんな役割を果しているか。各種の保険についてできれば保険会社・代理店等を訪問して研究してみる。
29.われわれの家庭生活において貯蓄はなぜ必要か,また,それにはどんな方法があるか,各種の方法の特徴について話し合う。
30.個人の貯蓄はどのようなかたちで社会の生産に結び付いているか。また,人々の購買力と生産との関係について,銀行や企業家を訪問して調べてみる。
31.消費の合理化とは具体的にはどのようなことか,自分の経験や考えを発表し合う。また消費の合理化は,国の経済にとってどのような意味をもっているか研究する。
32.われわれの経済生活について,たとえば衣食住の分野で現在政府はどのような対策を行っているか,新聞などについて研究してみる。
33.われわれの経済生活の改善について,最近の国会または地方議会でどんなことが討議されたか,どんな法律ができたか,研究してみる。
34.最近の選挙に際して,各政党は,国民の経済生活について,どんな政策を掲げていたか,新聞や雑誌などの資料について研究してみる。
35.われわれの経済生活は,ヨーロッパやアメリカ合衆国などと比較して,どんな点で改善を要するか,これまでの学習をまとめて討議する。
評価の例
2.次の事項についての知識・理解はどの程度明確になったか,またそれをいっそう有効に利用することができるようになったか。
交換経済,貨幣経済,国民所得,生活水準,消費生活,問屋制度,卸商,仲買,消費組合,協同組合,購買組合,手工業,資本主義,計画経済,市場,取引所,本位貨幣,補助貨幣,金本位,政府紙幣,銀行券,小切手,手形,約束手形,為替手形,割引手形,有価証券,銀行,信託会社,保険業,生産費,インフレーション,ディフレーション,パニック,会社,株式会社,合資会社,合名会社,有限会社,株主,企業,独占企業,専売業,カルテル,トラスト,コンツェルン,物価指数,自由価格,独占価格,公定価格,協定価格,自由貿易,保護貿易,エンゲルの法則など。
(2) 原則・事実・特色の例
② 消費組合・購買組合・協同組合の歴史,および役割。
③ 通貨の経済生活における役割。
④ 生産者価格と消費者価格との違い。
⑤ 小売商の役割とその存在の意識。
⑥ 自由価格の決定と公定価格設定の理由。
⑦ インフレーション,ディフレーションの経済生活に与える影響。
⑧ 大企業の有利な理由および独占企業化は望ましくないこと。
⑨ 企業合理化の意義。
⑩ 貯蓄とけちんぼうの違い。
⑪ 生産者と消費者との中間に存在する諸機関の役割。
⑫ 社会保障制度の現状および外国のそれとの比較。
(2) 物価指数を有効に利用する。
(3) エンゲルの法則を基礎として自分の生活を科学的に分析する。
(4) 新聞などの経済欄への関心。
(2) 生産者価格と消費者価格の差異を理解し,自己の経済生活の合理化の一面として,消費組合・協同組合・購買組合の育成に協力する態度。
(3) 需要供給の法則を理解して,不急の商品の購入を避けて物価の安定に協力しようとする態度。
(4) 公定価格の存在理由を理解し,国家の方針に協力しようとする態度。
(5) 外国貿易の重要性を認識し,輸出入の振興に協力しようとする態度。
(6) 物価指数その他の経済指数を理解し,常に経済生活の実態を科学的に分析しようとする態度。
(7) 貯蓄の重要性を理解し,これによる生産振興に協力しようとする態度。
(8) われわれの経済生活改善に努力している政府,または政党の政策を理解し,これに協力しようとする態度。