要 旨
憲法で個人の尊重が特に強調されているように,社会生活においては,自分の権利が尊重されると同時に,他人の権利も同様に尊重しなければならない。そしてこのような社会生活を発展させて行くについても,政治のあり方が重大な関係をもつ。政治はわれわれの日常生活の中にもあり,地方の政治,国の政治もまた,われわれの生活と直接連なっている。新しい憲法によっても主権の在民が明らかにされているように,国の政治であっても,国民のものであり,国民のために国民みずから行わなければならないものである。わが国の政治が民主的に行われるかどうかは,国民全体の民主政治に関する理解と熱意によって決められるものである。したがって,この単元の学習は,独立したわが国の政治の発展に重大な意味をもつものであることは改めて述べるまでもないであろう。
目 標
2.政治のしかたの歴史的発展を通して憲法の趣旨の理解。
3.国民の民主的政治の原則を現在の実際の政治の上にどのように実現しようと努力しているかの理解。
4.地方やわが国の政治の民主化に,生徒としてどのように協力できるかの理解および協力する意欲。
5.正しい資料や情報に基いた自分の政治的考えを民主的な方法によって実行していこうとする態度・習慣・技能。
内 容
2.政治はわれわれの社会生活に対して,どんな働きをしているか。
(2) 政治は教育や文北の向上にどのような働きをしているか。
(3) 政治はわれわれの経済生活に対してどんな働きをしているか。
(4) 国際関係に対して政治はどのような役目を果しているか。
(2) 主権在民の原則はどのように発展してきたか。
(3) 代表制民主主義はどのように発展してきたか。
(4) 三権分立はどのように発展してきたか。
(5) 地方自治の政治はどのように発展してきたか。
(2) 裁判所はどのような組織をもって活動しているか。
(3) 国や地方の行政はどのような組織によって行われているか。
(2) 税はどのような手続で納められるか。
(3) 国や地方の予算はどのようにして編成され,われわれの生活にどんな関係をもっているか。
学習活動の例
2.いろいろの運動の規則を例にとって,多数の人が同じ目的で集まった時には必ず規則が必要であることについて話し合う。
3.生徒会の役員を選挙する時などには,下級生も上級生も同じ権利で投票するが,そのように,仕事や役目はちがっても,みんなが同じ権利を持ち,同じように発言できる例をあげ,全体の中で個人個人が生かされていくことについて話し合う。
4.学校生活を営むためにも,生徒会やクラスの仕事を進めるためにも,一定の組織が立てられていることを参考にして,団体生活には組織が必要であることについて話し合う。
5.郷土の町や村では,水害を防いだり,火事を防いだり,また犯罪から人々を守ったりするために,どんな施設や機関または計画をもっているか一覧表をつくる。
6.たとえば保健所など,公衆衛生のために設けられた諸機関をあげ,それぞれの社会生活に対する任務を説明する。
7.植林の計画・道路や堤防の修築・河川の改修など,それらの仕事をまとめるのはどこで,またその費用などはどこで出すか調べて報告する。
8.近所に児童福祉司や民生委員などの役目についている人々があったら,その人々を尋ねて,それらの仕事はどんな役目をもっているかを聞き,社会生活におけるそれぞれの働きについて報告書をつくる。
9.附近に図書館・博物館など種々の文化設備があったら,それらの施設や運営に必要な経費はどこで出しているかを調べて報告する。
10.公民館で行われる催し物や集会の種類また公民館として立てている計画などから,公民館が町や村の人々のためにどんなに役だっているか報告する。また,公民館の利用のしかたについて討議する。
11.自分の学校は何立中学校というか,また附近の学校は何立か調べ,都道府県立にはどんな学校があるか,国立にはどんな学校があるか,学校の種類別に表をつくる。
12.郷里の村や町では,米の供出についてどのような筋道で割り当てられ,またどんな組織で集荷されるか表をつくる。
13.綿花や羊毛について,それらを輸入するのは何という官庁が中心になって行うか,綿製品や羊毛製品の国内価格を決めるのはどこかを調べる。
14.新聞の経済面の記事などを材料にして,物価の変動に対し,政府はどのような方法をとっているか先生に説明してもらう。
15.外交のために設けられている機関を調べ,それぞれの役目を説明する。
16.毎日の新聞に外国の記事が大きく取りあげられたり,それについてわが国の政府が声明や談話を発表している例をあげ,外国のできごとがわが国で問題とされるわけを,世界情勢の変化につれてわが国の政治も変っていくわけなどについて話し合い,わが国の政治も,世界の情勢と深く結びついていることを明らかにする。
17.明治憲法(大日本帝国憲法)と日本国憲法とについて,憲法をつくったのはだれか,主権を持っているのはだれか,などを調べる。
18.憲法の前文を読んだり,参考書を読んだりして,われわれの憲法はどんな考えに基いてつくられているか話し合う。
19.農地改革・財閥解体・婦人参政権・学校制度の改革・民法の改正・警察制度の改正など,終戦後の民主的な改革だと思われることがらをあげ,それらが,憲法の精神や原則とどのように結びついているかを調べて報告する。
20.天皇の地位について日本国憲法が規定している条文を調べ,その条文の精神について,昔とちがう点を話し合う。
21.「人民の,人民による,人民のための政治」というリンカーンのことばが,日本国憲法にはどのように生かされているか,前文について調べる。
22.基本的人権を擁護するためにおかれている人権擁護委員などの役目を調べる。また司法制度の上にも人権を尊重するためにどんな配慮が払われているか,具体的な例をあげて説明する。
23.国民の参政権は,制限選挙のころから普通選挙へ,また婦人の政治への参加と,どのような歴史をたどって拡大してきたか調べて表をつくる。特に,婦人参政権については,外国の例を調べたり,わが国の婦人参政運動に尽した人々の苦心を調べたりする。
24.モンテスキューが「法の精神」の中で述べた三権分立の精神について先生から簡単に説明してもらい,三権分立による政治が独裁政治とどのようにちがうか,また三権分立が民主主義にふさわしい政治のやり方であるとされるのはなぜか話し合う。
25.天皇が主権をもち,それに基いて三権分立が行われる場合と,主権をもつ国民の信託による政治で三権分立が行われる場合では,同じように三権分立といっても,考え方がどのようにちがうかを調べる。
26.イギリスやフランスの歴史によって,国家が近代化するにつれて三権分立が行われている国々の三権分立の有様を図や表にかく。
27.大日本帝国憲法における立法・司法・行政の三権は互にどんな関係にあったかを先生から聞き,日本国憲法における規定とどのようにちがうかを調べる。
28.江戸幕府の農村に対する治め方を調べ,庄屋の役目や五人組制度の果した役割などを説明する。
29.郷里の町や村の自治制がどのように発展して来たかを町史や村史によって調べる。
30.明治維新後,府や県などの地方自治はどのように発達してきたかを歴史の書物などを参考にして調べる。そして地方自治法に基く現在のやり方は,それ以前の政治に比べて,知事の選び方や知事と都道府県民との関係などはどのようにちがうかを比べる。
31.自由民権運動が起ってから今日に至るまでのわが国政党政治の発達の歴史を調べ,功績のあった人々の事績を報告する。
32.わが国のおもな政党をあげ,同一の問題に対してそれぞれの政党はどのような政策を掲げたり,意見を表明したりしているか,新聞の記事などを材料にして調べる。
33.政党の結成はどのような基本的人権に基いているか考えてみる。その結果をもとにして,民主主義には政党が必要なわけを説明する。
34.日本国憲法によれば,国会は国権の最高機関であると規定されているが,それはなぜか,その理由を主権在民の立場から説明する。
35.衆議院と参議院について定員・任期・被選挙資格・選挙区などについて比較し,表をつくる。
36.衆議院の権限が参議院の権限よりまさっている点を憲法の条文で調べ,二院制度の特質について話し合う。
37.法律案の提出から法律となって公布されるまでの順序を箇条書にする。
38.国会の召集・開会・閉会あるいは衆議院の解散などはどういう手続きで行われるか調べる。また,衆議院が解散されてから新しく召集されるまで,どんなことが,どのような手続きで行われるか説明する。
39.郷里の町や村の議会を見学し,その参観記を書く。
40.選挙管理委員会を訪問し,公職選挙について話を聞く。そして公職選挙について生徒として協力するにはどうしたらよいか学級で協議する。また公職選挙のやり方を,学級や学校の委員選挙に応用してみる。
41.東京都に関する首都建設法のように,自分の属する地方公共団体だけに関する法律が国会でつくられたことはないかを調べ,「一般投票権」が認められているわけと,それを行使する場合とを説明する。また直接請求権とどうちがうかも調べて報告する。
42.直接請求権というのはどんな内容をもっているものかを調べる。特に国民が公務員をやめさせる権利について考えてみる。
43.警察の民主化というのはどういうことがらを指しているのか具体的な例をあげて説明する。
44.裁判所と検察庁の種類をあげ,それぞれの任務を簡単に説明する。
45.裁判所を見学し,その参観記を書いたり,裁判の行われる手続きを表にしたりする。
46.内閣の組織を図や表に表わし,内閣総理大臣や国務大臣はどのようにして選ばれるか説明する。
47.現在のわが国の行政機構の簡単な表を作る。
48.郷里の町や村の役場を見学し,町(村)長の下にどんな係があって,それぞれどんな仕事を分担しているか簡単な図や表をつくる。
49.国会・裁判所・内閣のそれぞれの権限を表わす図や表をつくる。
50.クラスで模擬国会を開く。
51.父や母から徴税令書を見せてもらい,それは何という税で,どこへ納めるものかを調べる。調べたことを持ち寄り,税にはどんな種類があるか,わかったものを一覧表にする。
52.自分の家では税に関する申告をどのように行ったかを父母に聞き,申告制がとられているわけを話し合う。
53.郷里の町や村の予算を調べ,どんな方面にどのくらいの費用が使われるか簡単な図や表にする。
54.国の予算に関する憲法の規定を調べる。また今年度の歳入と歳出の項目や金額を調べて図や表をつくり,われわれの生活に特に深い関係をもっているものをあげる。
55.「税のゆくえ」という題で,紙芝居をつくり,われわれの納めた税がどのように使われるか説明する。
56.公務員は国民一般に対する奉仕者であるという考えは,封建社会における役人や日本国憲法施行以前の官吏の性格とどのようにちがうかを比べる。
57.憲法の精神を社会の人々に知らせる作文やポスターなどをつくって一般に公表する。
58.民主的な政治の基礎になっている考えを列挙し,それらが自分の郷里や国の政治の上にどのように現われているか実際の例をあげて話し合う。
59.前の単元で,身近な生活の民主化について討議をしたり種々な実行計画を立てたが,さらにこの単元の学習によって,それに付加すべきことがないかどうかを討議する。
評価の例
2.次の事項についての知識・理解はどの程度に明確になったか,またそれを有効に利用することができるようになったか。
地方公共団体,地方自治,主権在民,選挙権,被選挙権,参政権,直接請求権,一般投票権,議事機関,執行機関,二院制度,総選挙,解散,総辞職,政党政治,三権分立,立法,行政,司法,三審制度,公務員,財政,租税など。
(2) 原則・事実・特色などの例
(b)民主政治の根本原則。
(c)民主政治の発展に貢献してきた人々の功績。
(d)代表制民主政治のあり方。
(e)憲法制度の根本原則,および旧憲法と新憲法制度の態度の重要な違い。
(f)天皇の地位と行為。
(g)二院制の長所。
(h)国会の意義,その仕事の要点および国会の召集・閉会・休会・解散の意義。
(i)内閣の組織・責任・仕事についての要点。
(j)裁判の民主化の具体面。
(k)税の意義および税のおもな種類や使途。
(l)おもな官庁の名まえとその仕事の要点。
(b)国民の権利と義務について,生徒の立場においてこれを具体的に考える。
(c)生徒として,身近な社会の民主化にどのように協力できるかを熱心に考える。
(d)身近な社会のできごとについても宣伝や扇動に動かされないで自分自身で判断しようと努力する。
(e)新聞や雑誌の政治記事に関心をもつ。
(f)生徒会・ホームルームなどの役員の選出を民主的に行う。
(g)会議を民主的に進める。