要 旨
職業の意味や重要さが,このように変ってきたが,これに伴って,いろいろな社会問題が起ってきている。人間の機械化や労働条件の改善などとともに,社会生活の発展に寄与する働く人々の生活の保障や,生産組織や社会変動の犠牲となった失業者の救済という問題の解決もあげられなければならないのである。
この単元は以上のように「近代産業時代の生活」の様相について前の三つの単元の学習によって得てきた後のしめくくりとなるものであるが,さらに,職業・家庭科とも関連する職業の選択のための条件の学習にも触れている。それは義務教育の最後の一年を残した時期にあって,現代実社会への進出の心構えをうることは,きわめて意義深いことと考えられるからである。それとともにこの単元の指導にあたっては生徒の年齢以上のことを要求しないように注意をすることも必要である。
目 標
2.産業革命以来,職業に関連した新しい社会問題が生れてきたことの理解。
3.人々は職業を通して,はじめて完全な社会生活に参加できることの理解。
4.職業生活は,人々の人格を高め,個性を発展させる上に重要な役割を果すことの理解。
5.職業には,それが社会に貢献する上において,貴賤の差別がないことの理解,および他人の職業を尊敬する態度。
6.職業について調べるには,どんな資料があるかの知識と,これらの資料を見いだす技能。
7.将来,職業を選ぶときに必要となる諸条件についての理解。
8.自分が将来,進むべき方向について,常にまじめに考える態度と習慣。
内 容
2.産業革命以前の職業生活には,どんな特色があったか。
(2) 物の生産の方法やしくみはどのように変化してきたか。
(3) 人々の社会的地位と職業との関係は,どんなであったか。
(4) 現在残っている産業革命以前の生産様式には,どのようなものがあるか。
(2) 生産の方法や,しくみは,どのように変化したか。
(3) 職業は,どのように分化したか。
(4) 労働問題は,どのようにして起ったか。
(5) 人々の職業に対する考え方は,どう変ったか。
(2) 労働条件を改善するために,どんな努力がなされてきたか。
(3) 働く人々の生活を保障するために,どんな努力がなされているか。
(4) 人々が適当な職業につく機会を与えるために,どんな努力がなされているか。
(5) 職業教育については,どのような配慮が払われているか。
(6) 将来,職業を選ぶに際して,今からどのようなことに心がけておかなければならないか。
学習活動の例
2.たとえば一軒の家を建てるのに,地形(じきょう)から落成するまでに関係するおもな職種をあげる。
3.わが国の国勢調査では,職業はどのように分類(大分類・中分類)されているかを調べて表に作り,前に掲げた職業(学習活動1)が,それぞれどの分類に属するかを判定する。
4.原始社会には,今日われわれが考えているような職業が存在する必要があったかどうか,また存在したかどうかを調べてみたり,先生から話を聞く。
5.「生活をたてるために行われる人間の活動」が職業であるといったならば,これははたして,われわれが考えている職業の意味をじゅうぶんに言い表わしたことばかどうかを討議してみる。
6.奈良・平安時代あたりの人々の職業に関する概略の話を先生にしてもらうこと。
7.江戸時代に町人とよばれた階級の人々がついていた職業には,どのようなものがあったかを調べて報告する。
8.江戸時代の町人の地位が低くみられていたのはなぜだったろうか。また重要な生産者であった農民の地位が高くみられなかったのはなぜだろうか。今日の状態と比べて考えてみる。
9.「職人づくし」などから,江戸時代ごろの職業の種類を調べ,同じような仕事に対する現在の職業と比較する。またこの時代にはあったが現在はない職業をあげる。
10.郷土附近で,手工業的に行われているものにはどんな種類のものがあるかを調べ,近代工業時代といわれる今日,そのような生産様式がどういう意味をもつかを考えてから,先生の説明を聞く。
11.わが国の産業別あるいは職業別人口の変化を示す表から,過去数十年の間にどのような変化が起ったかを調べる。また現在の産業別(職業別)人口の割合を示すグラフを描く。
12.イギリス・アメリカ合衆国その他の国々の産業別あるいは職業別人口表とわが国のそれとを比べて,どういう点で類似したり,違っているかを討議する。資料が得られたらそれらの国々の産業別あるいは職業別人口の変化の状態も調べて,わが国のそれと比べる。
13.世界のおもな国々の現在の産業別あるいは職業別人口表を比較して,それぞれの国の産業上の特色を整理する。そしてそれらがはたしてそれぞれの国の自然条件だけで説明できるかどうかを討議する。
14.学級である近代的工場を尋ねる計画を立てる。そして,仕事の能率,働く人々の責任と協力などについて見学すべき項目を前もって討議する。見学が終ってから学級で気がついたことを話し合う。
15.一つの作業を選んで,これを何人かの人がそれぞれ初めから終りまでする場合と,組分けして分業で行う場合とを比べて,その長所,短所を論ずること。できれば実際に何か経験してみること。
16.「何々ができるまで」という題で一つの作業を選び,加工から販売までのこれに協力する人の職種をあげる。
17.分業,あるいは流れ作業の場合の,ひとりひとりの作業上の責任について話し合う。
18.婦人が著しく職業界へ進出したのはいつごろからか,その動機・理由などについて考えてみる。
19.婦人が職業につくことの是否について,学級で二つの立場をとって議論を戦わしてみる。
20.職業の中で,婦人でなければならないもの,男よりも婦人のほうに適するものなどをあげてみる。
21.アメリカ合衆国における婦人の職業の現状の話を聞いたり,調べたりしてわが国の場合と違う事情について話し合う。
22.職人気質とか,商業道徳ということの意義や現在の状態などについて話し合う。
23.労働問題とはどんなことかについて先生から話をしてもらう。そしてその話を基にして労働問題はどうして起きるようになったかを考えてみる。
24.社会的にあまり目だたない職業について,その職業の価値を見いだし,その仕事についている人々に感謝する。
25.職業社会に貢献する職業の中にも,貴賤の別があるように考えている人があったとしたら,それはどういう考え違いからそのようなことが起るかを討議する。
26.日本国憲法のうち,働く者の権利を保障している条文を選び出し,その意味について討議したり先生の説明を聞いたりする。
27.青少年や女子の労働について,国家はどんな法規を定め,どんな手段を講じているかを調べて報告する。
28.労働基準法を研究し,労働保護の実際について,労働基準監督署の職員の話を聞く。
29.国際労働機関(ILO)の任務や仕事について書いてある本を読む。
30.健康保険制度や共済組合制度の実施状況を調べ,これからがどんな状況に実施されるのが望ましいかを討議する。
31.近くの職業安定所を尋ねて,どんな仕事が行われているかを聞いて学級に報告する。
32.イギリスやアメリカ合衆国の社会保障制度の話を先生からしてもらう。
33.職業補導所で行っていることを調べ,それがどのような時に,どんな風に利用されているかの実際の話を聞く。
34.労働組合,農業組合などの規約,綱領などについて調べ,これらの資料から組合の性格,意義などを正しくつかむ。
35.自分の好む職業について,仕事の内容・必要とする性格・学力資格・労働条件などについて調べて学級で話し合う。
36.学校ではどのようにして就職の世話をしているかを調べ,またその計画についての話を聞く。
37.自分の新制中学校の卒業生で就職している者について,一般にどんな点が長所で,どんな点が短所といわれているかを調べて,短所を直すようにするにはどうすればよいかを討議する。
評価の例
2.次の事項についての知識・理解はどの程度明確になったか。
職業,職業分類,産業分類,職業別(産業別)人口,徒弟,徒弟制度,職人,町人,士農工商,労働者,資本家,社会保障,労働基準法,児童福祉法,生活の合理化,労働条件,労働組合,労働問題,適職,適性検査,職業指導など。
(2) 原則・事実・特色などの例
職業の個人生活や社会生活に対する意味,職業分類と産業分類の違い,わが国や世界のおもな国における産業別あるいは職業別人口の変遷と現状,労働運動の変遷,職業のもつ連帯性,職業選択の条件,職業選択の自由,職業安定所や職業補導所の仕事。
(2) 人々の職業を尊敬する。
(3) 勤労を愛好する。
(4) 将来選択すべき職業について,まじめに考える。
(5) 自分の短所を直そうとする。
(6) 職業実習にまじめに参加する。