要 旨
近代産業の発達は各地において天然資源の積極的開発を促したことは当然である。そして過去においてはあまりその重要性が認められなかった天然資源にも新しい価値が発見され,さらに目前の利益のみを追って,それがむやみと開発されるようになるに及んで,天然資源の利用に関して種々な問題が発生した。たとえば無計画な開拓による土じょう侵食の促進はアメリカ合衆国を始め,諸国の国家的問題となっているし,重要な資源で枯渇の危験にさらされているものも出てきた。さらに石油のように常に国際的問題を起しやすいものもある。天然資源は現在のわれわれの財産であるのみならず,われわれの子孫の生活の源泉である。したがってその利用については,将来のこともよく考えてくいを後日に残さないようにしなければならない。
ひるがえって,わが国の現状をみるに,戦前の54%の面積で8千万以上の人口をささえてゆかなければならない。これには工業の発達にたよらなければならない面が非常に多い。しかも鉄・石油・鉛・アルミニュームを始め,近代産業の発展に重要な資源に著しく不足している。これらを外国から輸入するためには,工業を合理化して貿易の振興をはからなければならない。ところが,水力の開発の例を一つとってみても,これには,複雑な経済的,社会的問題を含んでいる。そしてこれらの打開に苦悩しているのが実情である。
もちろんこのような複雑な問題を,年齢の若い生徒に理解させるには困難な部面が多いし,ましてその解決を生徒に求めることなどは無理である。しかし天然資源愛護の重要性に関する認識を深め,生徒として望ましい心構えや行動を発達させることは可能であり,必要なことである。
目 標
2.天然資源の利用法は,社会の進展に従って進歩してきたことの理解。
3.近代産業の発達以来,天然資源の急速な開発が行われてきたことの理解。
4.わが国および世界のおもな天然資源の分布,および開発状態に関する知識と理解。
5.天然資源は,現代のすべての人々,およびわれわれの子孫の幸福のために利用されなければならないことの理解。
6.現代の社会,ことに戦後のわが国では,天然資源の愛護がどんなに重要になっているかの理解。
7.資源を愛護するためには,単にむだな使用を慎むだけでなく,進んで資源の新しい価値を発見しようとする態度が重要であることの理解。
8.政府やいろいろな団体が,天然資源の愛護に努力していることの理解,およびこれに協力する態度。
9.日常生活において,あらゆる資源を愛護する態度・習慣。
10.統計その他の資料を正しく取り扱ったり,分布図やグラフを描く技能。
内 容
2.大昔の人々は,天然資源をどのように利用したか。
(2) 外国の大昔の人々の天然資源の利用については,どんなことが知られているか。
(3) 現代でも天然資源の幼稚な利用にとどまっている社会は,世界のどういうところに残されているか。なぜそれらの社会では,天然資源の利用があまり進歩しないのか。
(2) おもな鉱産資源の開発は,どのように行われているか。
(3) 林産資源はどのように開発されているか。
(4) 土じょうや水も,たいせつな天然資源である。
(5) 水力資源は,どういう国々や地方で,おもに利用されているか。
(6) 水産資源は,どのように開発されているか。
(7) 風景美も現代の社会生活にとって,たいせつな天然資源である。
(8) わが国や諸外国では,天然資源の利用を誤ったためにどんな社会問題が起っているか。
(2) 天然資源を民主的に利用するには,どんな原則に注意しなければならないか。
(3) 天然資源の愛護については,わが国の政府は,どんな努力をしているか。
(4) おもな外国では,天然資源の愛護にどんな努力を払っているか。そして生徒は,これにどのように協力しているか。
(5) われわれは生徒として,わが国の天然資源の愛護に,どのように協力できるか。
(6) 天然資源ばかりではなく,すべての資源を有効に使うには,日常どんなことに心がけたらよいか。
学習活動の例
2.近代工業に用いられている種々の原料や動力の中にはどんな天然資源があるか,思いつくものについて(全部にわたろうとする必要はない)上にならって表をつくる。
3.石炭などを例にとって,一つの資源が近代生活を営む上にどのように多方面に利用されているか話し合う。
4.原始社会で用いられた衣食住の材料や道具などを知っているだけあげ,われわれの生活に比べて,当時の人々の用いた資源の範囲が広かったか狭かったか,また複雑な加工を加えたかどうかなどを,実物や写真などを見ながら話し合う。
5.人類の歴史を旧石器時代・新石器時代・青銅器時代・鉄器時代などにする分け方があるが,これによって,人類の資源の利用がどのように変ってきたか話し合う。
6.石油や石炭がわが国ではじめて知られたのはいつごろか調べ,その利用の方法について,今の使い方とどのように違うか比べる。
7.紙が発明されない前は,中国・エジプト・バビロニアなどではどんなものに字を書いたか歴史の書物で調べる。
8.エジプトやギリシアなどでは建築の材料におもに何を用いたか,またわが国の昔の建築の材料とどうちがうかを調べ,その違うわけを説明する。
9.エスキモーの日常生活には,どんな天然資源が利用されているかを調べ,なぜそのような状態にとどまっているかについて討議し,あとで,先生の説明を聞く。
10.蒙古の遊牧民族などは何から生活の資材を得ているか,われわれの生活と加工のしかたや資材の使い方などの点でどう違うか比べる。
11.焼畑耕作が広く行われている地方の土地利用の方法とわが国の土地利用の方法について比べ,その違いの生じたわけを考える。そして先生から正しい説明を聞く。
12.アルミニュームのように昔はほとんど用いられなかったのに現在では重要な資源とされているものや,昔より今のほうが著しく利用方法の広くなった資源の例をあげること。
13.産業革命前後におけるイギリスの鉄・石炭の産額についての資料を先生からいただき,それをグラフに示したりして,天然資源の開発の急速な変化について話し合う。
14.江戸幕府のころの種々の鉱山の分布図をつくり,現在の分布図と比べて気づいたことを箇条書にあげる。
15.世界のおもな石油の産地をあげ,その資源をめぐって,現在どのような世界的問題が起っているか新聞やラジオや雑誌などから材料を得て報告書をつくる。
16.世界の石炭や鉄鉱のおもな産地を調べ,重要な炭田や鉱山の位置や名まえを確かめる。そして,石炭や鉄鉱を通して世界全体はどのように結び付いているか,おもな国々の輸出入の状況を図や表につくる。
17.わが国の石炭や鉄鉱産地や産額,消費額を調べてこれらの点でどのように外国に依存しているかを確かめる。
18.おもな鉱産物について世界の産額とわが国の産額とを比べ,わが国の鉱産資源についてどんな問題があるかについて先生の話を聞く。そしてその問題の解決に,生徒として寄与できる点について討議する。
19.鉱産資源は堀り尽したらなくなってしまって,人力では再生できない。そこで,天然資源には,人力で再生できるものには,どんなものがあるか,できないものはどんな種類のものかを討議して,資源の愛護の学習に際してはこの考え方を取り入れること。
20.世界の森林帯を冷帯針葉樹林,温帯かつ葉および混合樹林,熱帯かつ葉樹林の三帯に分け,それぞれの森林帯の利用状況にはどんな特色があるかを説明する。
21.森林の濫伐によって不利益がもたらされた実例を調べてみる。
22.森林の愛護について,諸外国では,どんな方法がとられているか,これに生徒はどのように協力しているかを調べる。
23.わが国の緑化運動はどのように行われているか,これはどんな意味をもっているかを調べたり考えたりする。そして生徒としてこれにどのように参加できるかを討議する。
24.山火事を防ぐために有効な方法を調べる。これに関連し,登山やハイキングに際して注意すべきことを討議する。
25.世界で,特に肥えた土じょう地帯(黄土地帯・黒土地帯・プレーリー土地帯など)の分布を調べ,その利用が,世界の人々の食料供給にどのような意味をもっているかの話を先生から聞く。
26.アメリカ合衆国,中国その他の国々で,土じょう資源の愛護(保全)が大きな問題となっている理由について書物によって調べてみる。
27.わが国の耕地一万キロ当りの人口密度を外国と比べてみる。そして,土じょう資源の問題がどんなに重大であるかを認識する。
28.わが国の作物の収獲を増加させる上に,土じょうに関してどんな問題があるかの説明を聞く。
29.土地改良の実際について説明を聞き,また,実地を見学する。
30.世界で水が容易に得られない地方の人々の生活の話を聞き,水のたいせつなことを認識する。
31.「水がわれわれの社会生活に与える不利益」を考え,黒板に箇条書にする。
32.世界で水力が多く利用されている国の分布を調べ,それが自然環境とどんな関係があるかを考える。またわが国の水力発電所の分布図を見て,それがどんな地域に多いか,それはなぜかを話し合う。
33.日本の水力利用を今後ますます発展させることに対して,どういうむずかしい問題があるかについて,専門家から,わかりやすく説明してもらう。
34.わが国・郷土・自分の家庭の電気使用量を調べて,各自の心がけでできる節電方法を考える。
35.昔の中国では,水を治める者は国を治めるといわれたが,黄河(ホワンホー)の水電や治水について歴史的に調べて,そのことばがどんな意味をもっているかを話し合う。
36.TVAの事業のあらましを調べて,人々の努力によりて不利な自然の土地が,どんなに有用な土地に化し,人々の生活が向上したかを話し合う。
37.世界で,不毛の土地が灌漑によって有用地に化した実例を調べ,自然環境に対して,われわれはどんな態度で臨んだらよいかを考える。
38.わが国のおもな漁港の分布を調べて,その位置や名まえを確かめる。
39.水産業がわが国民の健康や経済にどんな意味をもつかについて調べる。
40.世界のおもな漁場について,それがどういう位置に多いか,それぞれでとれる魚の種類には,どんな違いがあるかを調べる。
41.魚をとりすぎて悪い結果をもたらした例を調べて学級で報告する。また日本近海で魚をとりすぎれば外国の漁穫高にどういう影響を及ぼすことになるかを,世界地図をながめながら魚の種類・廻游状態などを考えて話し合う。
42.捕鯨その他の魚の捕穫において,どういうことが禁止事項になっているかを調べ,それはなぜかを考える。
43.近代工業が発達し,人々が多くなるにつれて,自然の風景がしだいに破壊されてゆく傾向がある。これをそのまま放置しておいてよいかどうかを学級で討議する。
44.わが国の国立公園の写真を集め,それぞれの風景の特色について話し合う。そして国立公園は,われわれの生活にどういう意味をもつものかを調べる。
45.アメリカ合衆国の国立公園やスイスの風景美について調べる。できれば,それらの写真などを集める。特にスイスでは観光事業が国家の経済にどのような意味をもっているかを調べる。
46.観光に関するパンフレットを読んだり,あるいは観光機関に関係のある人から,わが国の観光事業を発展させるためには,どういう施設をもっと整えなければならないか,国民としてどういう心がけが必要かなどについての話を聞いて,それを学級で話すこと。
47.毎日の通学の途中や登山,ハイキングに際して風景美の愛護の立場から,どのような心がけがたいせつかについて話し合い,その実行計画をたてる。
48.新聞や雑誌から,日本の天然資源の愛護に関する記事を集めて,学級で読む。そして,これを後日のために保存する。
49.わが国では,天然資源の愛護に関して,どのような法律があるかを調べる。
50.先生から総合開発計画の話を聞き,それがわが国にとってどんなに重要な意味をもつか,さらに天然資源の民主的利用という点から,これらの計画は,どういう長所をもつかを考える。
51.次の問題について,短い作文を書く。
「われわれは,郷土の資源から,どのような利益をうけているか」
「郷土の天然資源の愛護について,われわれはどのようなことができるか」
52.次のことばの正否を討議する。
「科学の発達によって,新しい天然資源の利用法が次から次へと発見されるから,現在の天然資源をたいせつにする必要はない」
53.学級で,天然資源愛護に関するいろいろなポスターを作る。そのポスターは,学校での愛護,家庭での愛護,郷土での愛護というように,組にして作る。
評価の例
2.次の事項についての知識・理解はどの程度明確になったか,またそれをいっそう有効に利用することができるようになったか。
天然資源,鉱産(地下)資源,森林資源,土じょう資源,水産資源,開発,濫用,資源の愛護(保全),旧石器時代,新石器時代,青銅器時代,鉄器時代,焼畑耕作,世界の森林帯,冷帯針葉樹林,温帯つ葉および混合樹林,熱帯かつ葉樹林,保安林,植林,黒土地帯,黄土地帯,プレーリー土地帯,治水,灌漑,滝線,土地改良,沿岸漁業,沖合漁業,遠洋漁業,観光,天然記念物,史蹟,名勝,国土の総合開発など。
(2) 原則・事実・特色などの例
② 近代産業の発達以来,天然資源の急速な開発が行われてきたこと。
③ 日本のおもな天然資源の分布(おもな鉱山・油田・美林・漁場や漁港国立公園・発電地域などの位置や名まえ)および開発状態。
④ 世界のおもな天然資源の分布および開発状態。
⑤ 人類は場合によっては自然の威力に屈服していること,および自然の不利の克服に向かって積極的努力をしていることなどの実例。
⑥ わが国で不足している資源。
⑦ 戦後のわが国では,資源の愛護が特に重要であること。
⑧ 天然資源の国際的依存性。
⑨ 天然資源は,すべての人々およびわれわれの子孫の幸福のために利用されなければならないこと。
⑩ 政府や種々な団体が,天然資源の愛護に協力していること。
(2) 分布図・グラフなどを正しく,わかりやすいように描くこと。
(3) 統計資源を正しく取り扱って,これを基として適切な判断をする。
(4) 人の話を正しく理解して,要点をつかむこと。
(5) 鋭く,正しく観察する能力。
(2) 日常の生活で,物の新しい有効な使い方を考える。
(3) 日本の資源問題に対して,まじめに考える。
(4) 生徒としてできる範囲で,資源愛護運動に協力する。