第1単元 「都市や村の生活は,どのように変ってきたか」
要 旨
都市や村の生活は,近代産業時代にはいってから,めざましい発展を遂げた。近代産業の発達と,それに伴う商業や交通の発達は,多くの都市を発達させた上に都市の生活そのものを変え,近代農村を生み,都市と村との依存関係をいっそう密接なものとした。しかしながら都市はあまりにも急速な発達を遂げたために,その生活には未解決のままに残されたことが多く,これがために種々な問題を生んでいる。都市への人口集中は住宅問題となり,非衛生地区の出現を促し,犯罪を増し,その他,教育上にも好ましくない多くの社会現象を生んでいる。一方,村の生活へ新しい考え方・知識・技術などが取り入れられるようになった反面には,因習になずむ人々との間に摩擦を起したり,都市生活の単なる模倣に走ったりする人々を出しているし,都市と村との関係にも改善されなければならない新たな問題が増加している。
この単元はこのようなむずかしい問題に対する解決を生徒に要求するものではない。しかし基本的な事実や原則の学習を基にして,さらに将来解決しなければならないこのような問題があることを生徒に認識させることは必要なことである。
目 標
2.近代産業が行われる以前と,行われるようになったあとでは,都市や村の生活にいろいろ著しい変化が起ったことの理解。
3.都市と村の生活は互に密接に結びついて営まれていることの理解。
4.都市の発達を促した種々の社会条件の理解。
5.現在のわが国や外国のおもな都市の分布や,それそれの役割についての知識。
6.現在の都市や村の生活は,昔に比べれば,いろいろな点で進歩しているが,まだ改善を要する点があること,および解決しなければならない新しい問題が生れてきたことの理解。
7.人々と協力して,自分たちの都市や村を住みよくしてゆこうとする態度。
8.自分の都市や村の社会施設を正しく利用する習慣。
9.必要な際に人々と面接する技能,およびその際の礼儀正しい態度。
(2) 明治維新以前の都市あるいは村の大きさ,生産,交通通信の状態,人々の暮しなどは,現在とどのように違っていたか。
(3) その後,これらのことについていつごろからどんな変化が起ってきたか。
(2) 村は都市に対して,どんな点で貢献しているか,また都市はどんな点で村に貢献しているか。
(3) わが国のおもな都市はどのように発達しているか。
(4) わが国の都市は,どのようにして発達してきたか。
(5) 近代都市になる以前の都市生活は,どんな状態であったか,また都市と村との関係は,時代によって,どのように変ってきたか。
(2) 近代産業が行われる以前のヨーロッパの都市や村の生活には,どんな特色があったか。
(3) 現在のヨーロッパやアジアには,おもな都市がどのように発達し,それぞれどんな役割を果しているか。
(4) 新しく開かれた諸大陸では,都市や村は,どのように発達したか。
(2) 村の人々の地位を安定させ,村の生産を高めるために,どんな努力がなされているか。
学習活動の例
2.郷土の地形はどんな状態か,実際の観察や5万分の1地形図を利用して,低地・扇状地・台地・丘陵地・山地などを図に区別してみる。
3.郷土の土地利用状況を図に表わしてみる。そして,どんな特色があるかを討議する。
4.郷土の気温・雨量表などを他地方のそれと比較して,郷土の気候の特色および日常生活との関係を考える。
5.地形図を基にして郷土附近の模型をつくり,これに附近の村や町を記入する。また実地に調べて修正する。
6.郷土で,明治維新ごろのことを詳しく知っている人があれば,尋ねて,当時の郷土の人々の暮しぶりがどんなようすであったかの話を聞く。またできたら,江戸時代の終りごろからの,郷土の面積・人口の増加・産業の発達などを示す資料を手に入れて,これを基にして,その変化が特に目だつようになったのは,いつごろからか,その時期や,理由についても話し合う。
7.郷土で,鉄道のしかれたのは,何時ごろからか,それ以前は,何を利用ていたか調べる。
8.郷土の町なみは,以前に比べて,ずっと大きくなっているかどうか,いつごろから目だって発展し始めたか。どの方面に,新しく建物が建てられてきたかを,両親や老人に聞いて報告する。
9.郷土附近の町と村について,その人口や人々の職業にどんな違いがあるかを統計表によって比べる。また家の作りや集まり方にどんな違いがあるかを地図や実地観察に基いて討議する。
10.わが国の市部と郡部の職業別人口表によって,両者のおもな違いを考え,それが,郷土附近の町と村の間の違いに当てはまるかどうかを討議する。
11.郷土の都市へは,食料がどこから輸送・供給されるかを調べて,図に表わす。資料が得られたら日本の大都市についても同じようなことを調べる。
12.郷土附近の町と村を例にとって,「町と村の相互依存関係」という題で作文を書く。
13.日本の近代都市の代表的なものについて,それが明治以降,今日のような著しい発展をもたらした有利な地理的および歴史的条件を調べて討議する。
14.日本の人口が,大都市に集中するようになったのは,いつごろでどんな理由によるか調べる。
15.日本地図によって,わが国の都市の分布状態を調べ,おもな都市の位置をそれぞれ確かめて,記憶を新たにする。また都市の密度の粗な地域や密な地帯を区別する。
16.わが国の都市で人口10万以上のものを抜き出し,それぞれが,どんな役割をもっているかを,学校で手分けして調べて表にする。
17.先生から,奈良時代や平安時代の都市では,人々がどんな生活を営んでいたか,農村生活はどんなであったかの話を聞き,今日の生活と比べる。
18.郷土の都市で,昔は重要な城下町であったが,今日はあまり発展していないものの例をあげ,その原因について調べる。また昔の城下町には,一般にどのような職業の人が住み,どんな生活を営んでいたか,当時の農村ではどんな生活が営まれていたかについても調べたり,先生の話を聞く。
19.郷土の都市で城下町以外から出発したものの例をできるだけたくさんあげ,その条件について調べ報告する。
20.日本の都市で市場町・宿場町・門前町・港町などから起ったものをできるだけあげ,それを地図上にしるす。
21.近代産業が発達していなかった明治以前の都市生活や都市の役割およびいなかの生活状態について,書いた本を読んだり,先生から話を聞くこと。
22.交通機関が発達していなかっ昔には,郷土のいなかから都市へ出かけるのには,どんな道筋によって,どのくらいの時間がかかったか,それは今日とどのように違うかを調べる。
23.古代ギリシアのポリス(都市国家)とは,どんなもので,そこではどのような生活が営まれていたか,歴史の書物で調べる。
24.ローマ市民の生活を調べ,貴族と平民の関係を明らかにし,当時の社会組織について学級に報告する。
25.ヨーロッパの古代都市の平面図を現代の諸都市の平面図と比べて気のついた点をあげる。
26.中世ヨーロッパの農民の社会的位置の話を聞き,それから考えて,当時の農村の生活について話し合う。
27.ヴェニス・ジェノア・ピサなどの諸都市形態やそこでの活動のようすを歴史の書物で調べる。
28.現在のヨーロッパのおもな都市を地図で調べてその位置を確める。また国別にした都市表を作ってそれぞれの下におもな役割を書き入れる。
29.石田幹之助著「長安の春」を読んで,学級で当時の市民生活について話し合う。
30.現在の中国の分布状態を調べ,さらにおもな都市の位置や役割を知る。また中国の都市生活や農村生活の特色について,よく知っている人の話を聞く。
31.インドの農村生活について話を聞いたり,本で読んだりして,農村生活の発展を妨げている条件,理由を考える。
32.歴史の書物や歴史地図などによって,アメリカの諸都市の発展のようすを年代的に調べる。また南北アメリカのおもな都市を地図で調べ,特に大きな都市についてその役割を調べる。
33.アメリカ合衆国の農村生活について書いてある本を読んで,そのようすを学級に報告し,わが国の農村生活と比べる。
34.世界で人口50万以上の都市の表を大陸別および国別に作り,これを分布図に描く。さらに学級で手分けして,それぞれの都市のおもな役割を調べ,これを簡単な表にして学級でプリントにして配る。これを基にして,種々なクイズを計画する。
35.有名な都市の,市街のようすがよくわかる写真・絵を集めて,教室に陳列し,気のついたことを話し合う。
36.外国で生活したことのある人から,その都市生活や農村生活の特色についていろいろな話を聞く。
37.新しく開かれた大陸の都市の平面図には,どんな特色があるかを討議する。また日本の都市計画について調べる。
38.郷土の生活を向上させることに努力した先覚者の業績について調べる。
39.郷土の都市や村について,保健・衛生・美化・安全などについて,現在どんな問題が起っているかを調べる。
40.大工場制度が確立した結果,人ロが集中するようになったが,そのために起った生活上の問題について調べ,これを郷土の都市や村の場合と比べる。
41.協合組合をたずね,それがどういう目的で,いつごろ組織されたか,組合があることによって,郷土の人々が現在どのような利益を受けているかを調べる。
42.農地改革が日本の農村に及ぼした影響について先生や専門家の話を聞く。
43.アメリカ合衆国のような大規模な農業のやり方を日本で実施した場合の得失について討議して,あとで先生から説明を聞く。
44.総合開発計画とは,どんなことかについて,本を読んだり先生から話を聞く。
45.自分たちの町や村の生活をよくするために,生徒として確かに協力できる点を討議して,その実行計画を立てる。
評価の例
2.次の事項について,知識・理解はどの程度明確になったか,またそれをいっそう有効に利用することができるようになったか。
都市の発生に関するもの(たとえば城下町・宿場町・市場町・港町など),都市の役割に関するもの(商圏・工業都市・商業都市・政治都市・交通都市・後背地・商業地域・工業地域・住宅地域・郊外・都心など),古代都市,近代都市,都市計画,都市問題,農地改革,農業の機械化,粗放的農業,集約的農業,多角経営,農村問題,日本および外国のおもな都市名など。
(2) 原則・事実・特色などの例
② 都市と村とは密接な相互依存関係にあることの事実。
③ 明治維新から今日までの間に日本の都市や村の生活が,昔とは非常に変って来たことの具体的事実。
④ 日本および外国の古代,中世都市生活のおもな特色。
⑤ 日本の都市の市制・町村制の施行の意味および市役所や町村役場がわれわれの日常生活に果す役割。
⑥ 日本のおもな都市の分布,それぞれの役割。
⑦ 外国のおもな都市の分布,それぞれの役割。
⑧ 農地改革の意味と協同組合の役割。
⑨ 日本の都市や村の生活について改善しなければならないおもな点。
(2) 略図を描いたり,模型を作る。
(3) 人口・職業などに関する統計表やグラフを正しく読む。
(4) 目的に応じて専門家の話を聞いたり,公共機関を尋ねる計画をたてる。
(2) 社会施設を正しく利用する。
(3) 都市・農村問題への関心を高め,郷土を住みよくすることに協力する。
(4) 面接に際して,礼儀を正しくする。