要 旨
生徒はすでにわれわれの生活圏としてわが国土と世界諸地域の生活様式について学習してきた。それらが生活圏の空間的な拡大であるのに対し,この単元は生活圏発展の時間的裏付けであるといえよう。世界の歴史を大きくながめることによって,現在社会に対する理解が時間的にいっそうはっきりしてくるのであって,こういう理解の上に第8学年の「近代産業時代の生活」の学習もはじめて可能となるのである。
世界の結びつきが大きくまた強くなったことは,単に連絡網ができたり,往来できるようになったというだけではない。人々の相互依存・人類共存の度が深まったということでなければならない。したがって,本単元の学習は必然的に国際理解を深め,世界市民性の自覚を促し,世界平和への念を強める基礎となるはずである。
なお本単元は世界史の各時代について多くのことを詳しく学習するのではない。特に各時代の文化の特色などを理解させようとすることは,この単元のねらいでもないし,生徒の発達からいっても無理である。そこで,交通・通信機関の発展を通して,世界の空間的,社会的発展の流れを大きくつかませることに重点をおいたほうがよい。この単元の学習には,世界歴史地図や地球儀を大いに利用することが望ましい。
目 標
2.昔の人々は,交通や通信に,どんなに苦労したかの理解。
3.商業や貿易の発達が,世界の人々の生活の発展に,どんなに貢献してきたかの理解。
4.地理上の発見をしたおもな人々が,種々な困難に,どんなに耐え忍んだかの理解と,これに対する尊敬の態度。
5.近代的交通・通信機関の発達は,世界を著しく縮小し,世界の人々の相互依存関係をますます深めてきたことの知識と理解。
6.交通・通信機関を愛護し,その改善に協力する態度。
7.日本・東洋・西洋の歴史時代を対比して,その概略を理解すること,および歴史年表や歴史地図を利用する技能。
内 容
(2) その後,諸文明は,地域的に,どのように広がっていったか。
(3) 東洋社会と西洋社会は,いつごろから,どのような交渉が始まったか。
(4) その当時のわが国はどんな社会状態で,外国とどんな程度に結びついていたか。
(2) 東洋の文明地域はどのように広がり,わが国と,どのような交渉をもっていたか。
(3) 当時の貿易は,おもにどんな道筋によって行われたか。
(4) わが国の存在は,どのような機会にヨーロッパ諸国に知られたか。そして当時の東洋は,どんな社会状態であったか。
(2) ヨーロッパとアジアとを直接に結ぶ航路はどのようにして発見されたか。
(3) 新大陸はどのようにして発見されたか。
(4) 新航路や新大陸の発見は,世界の貿易にどんな変化を与えたか。
(5) 新大陸へはどのようにして旧大陸の人々が渡ったか。
(6) アフリカ・シべリア・オーストラリアにはどのようにして西洋文明が移し植えられたか。
(2) 蒸気機関の発明によって,各地の交通や通信はどんなに面目を改め,社会生活に,どんな変化をもたらした。
(3) スエズ運河やパナマ運河の開通によって,世界の交通・貿易は,どのように変ったか。
(4) 今日のわが国や世界の陸上や海上の交通はどんなに便利になり,われわれの生活の向上をどんなに肋けているか。
(5) 通信機関の発達は,人々の考えや,世界のできごとをどんなにすみやかに伝え,わが国や世界の人々の融和や文化の向上に,どんなに役だっているか。
(6) 航空路の発達は,世界をどんなに縮めたか。
(7) 現在でも,交通・通信の不便な地方は,世界のどのへんに残されているか。そこでは交通や通信の困難な事情を克服するために,どんな努力がなされているか。
学習活動の例
2.古代ギリシアに文明が開けるのにつごうのよかった点を,地中海における地理的位置をもとにして考えてみる。また,古代ギリシアの文明を表わす写真や絵を集める。
3.アレクサンダー大王の遠征がギリシア文明を東方へ広げるのに役だったということを歴史の書物で調べ,学級に報告する。
4.古代におけるインドと中国の文明がどのような道筋を通って入り交じったかを調べる。またその道筋は現在どのように利用されているか。当時の人々に知られていた社会の範囲はどんな程度であったかなどについて話し合う。
5.漢の時代の文明社会は,どのくらいの範囲であったか,どんな都市が栄えていたか,ローマとどんな取引をしていたかを調べ,さらに世界地図によってその往来していた道順をたどってみる。漢の都長安からローマまでどのくらいの日数がかかったか,その旅行はどんなに困難であったかを想像してみる。
6.ロ一マ帝国はどのへんの地域まで治めていたか調べ,ローマ軍道と呼ぼれる道路がローマ帝国の統一に役だった有様を説明する。
7.わが国で発見された青銅の剣や鏡などは中国とどのような文化的なつながりのあったことを示しているか,実物や写真などを見ながら先生の話を聞く。
8.唐の都長安が栄えた当時の社会状態を調べ,当時にあっては長安は世界的な性格をもっていた点を明らかにする。
9.唐代に東西交通がどのように行われていたかを陸上交通路や航路の開け方などによって明らかにし,現在の交通状態と比較する。
10.歴史の書物で遣隋使や遣唐使について調べ,その船が通った交通路(北路および南路)を地図に示したり,旅行にかかった時間や労苦について話し合う。
11.簡単な世界歴史地図によってヨーロッパにおける国家の変遷の概略,特に13世紀ごろアジア・ヨーロッパの国家の形勢を知り,これについて先生からごく概略の話を聞く。
12.マルコポールについて知っていることを学級に話し,そのころのアジアとヨーロッパとの交通路について話し合い,その日程や旅行中のできごとなどから当時の旅行の困難であったことを想像する。
13.「東方見聞録」について先生に話を聞き,この中に紹介されている日本のようすについて,どういう点が正しく,どういう点が誤っているかを討議する。
14.コロンブスの伝記を読んでアメリカ大陸発見についてのいろいろな話を学級に報告する。また当時のヨーロッパの社会状態について先生から話を聞く。
15.ヴァスコ=ダ=ガマの航路を地図上にかいて,新航路の発見がヨーロッパの社会に与えた影響を調べる。
16.マゼランはどんな苦心をしながらどこを通ったかを調べて,学級でその話をする。
17.新大陸や新航路が発見されてのち,ポルトガル人とイスパニア人が貿易や植民に活躍したことについて調べる。
18.ヨーロッパ人が北アメリカ大陸へ移住するようになった事情について調べ,その後,北アメリカには国家としてどのようなものが発展したかを歴史地図で調べる。
19.16世紀の中ごろ,当時のヨーロッパ人がわが国に渡来した事情を,世界の状態から考えて説明する。
20.ロシア人がシべリアを通ってアジアの東へ進んで来た状態を地図で表わす。その地図にシべリア鉄道の敷設や都市の発生の状況を記入する。
21.アフリカやオーストラリアなど開発の遅れた地方に対して,ヨーロッパ人が注意を向けるようになった事情を調べ,探検や開拓の歴史および現在の交通状態について報告する。
22.わが国の古い歌や物語に出ている昔の旅のようすを調べ,今日の交通状態と比較する。
23.蒸気機関が交通に利用されて汽車や汽船が作られたのはいつごろか調べ,世界の交通がそれによってどのくらい時間的に早くなったか,いろいろな例をあげる。
24.明治以後日本の鉄道網がどのように発達してきたかを示す図を作ってみる。
25.さらに現在のわが国の主要幹線を図示しておもな都市を記入する。わが国の長いトンネルや鉄橋について,これらを建設するにどんな苦心が払われたかを知る資料があったら,これを基にしてその話を学級でする。
26.自分の村や町で前に手に入れにくかった品物が付近の商店でたやすく入手できるようになったり,郷土の産物で遠くまで売り出されるようになったりしたものがあったら,その例をあげ,鉄道のおかげで遠方の土地との結びつきが行われるようになった点を明らかにする。
27.中国の主要地域の現在の陸上および水上交通状態を調べ,交通上重要な都市を地図で示し,その役割を説明する。
28.世界の鉄道網の分布図によって,その密度が大きい地域を指摘し,その理由について考えてみる。
29.スエズ運河について次のことがらを調べる。
(2) ヨーロッパとアジアの間の航路がどのように短縮されたか。
(3) 日本からスエズ運河を通ってイギリスヘ行くと仮定して,途中でどんな重要な港を通過するかを地図で調べる。そして,それぞれの港の役割を書いた表を作る。
(4) 日本からイギリスまで行く間に地方標準時が,どのように変るか。
(2) メルカトール図法で,直線で表わされる航路は,はたして最短航路を示すものか。
(3) 北アメリカの太平洋岸の門戸としては,どんな港があって,それぞれどんな役割をもっているか。
(4) パナマ運河を通過しないで,船でニューヨークまで行くには,どんな道筋を通らなければならないか。その場合,どんなおもな港に寄って行くか。
32.地図によって,北アメリカの鉄道の発達状態を調べ,鉄道網の密な地域と粗な地域とを区別して,この原因にはどういうことが関係しているかを討議してみる。また北アメリカを東西に横断する鉄道は幾つぐらいあるか,所要時間はどれくらいかを調べる。さらにこの大陸を横断すればどれだけの時刻差が出てくるか,実際の所要時間から計算された汽車の速度は,わが国のそれと,どのくらい違うか,などについても調べてみる。
33.アメリカ合衆国の自動車交通が発達しているありさまを自動車の台数や性能,道路の整備状況などから,他の国々と比較してみる。またアメリカ合衆国の自動車交通の状態を表わす写真を集める。
34.自動車や自転車の利用がわれわれの生活にどんな影響を与えたか,具体的な例をあげて話し合う。またわが国の道路や陸上交通機関を将来どのように改善したいと思うか,各人が現実に即した夢を描いて,これを発表して批評し合う。
35.世界の地図の上におもな航空会社の航空路を示し,適当な資料を材料にして,日本から世界各地に至る所要時間を記入する。この場合,地方標準時や日付の変化に注意すること。
36.陸路・海路・航空路などいろいろなものを利用して世界一周をするコースを調べる。そして,できたらその所要日数も調べる。また汽車・船・自動車・飛行機などの変遷を示す絵や写真を集める。
37.東京を中心として,世界各地への最短距離が,メルカトール図法では,どのように現れるか。地球儀を利用して,その方向や道筋を調べ,これをメルカトール図法の地図に移して比較すること。
38.ヨーロッパからアメリカに行く最も時間の短いコースを調べ,コロンブスがゼノアを出発してからサン・サルバトル島につくまでにかかった日数と比べる。
39.地図をもとにして,今日世界で交通機関の発達している地方と遅れている地方とを見分け,遅れている地方の人々がどんなくふうをしてその困難を切り抜けているか調べる。
40.新聞紙上に見えている通信社をあげ,どんな記事がどこから送られてくるか,また何という通信社の記事が多く見えているかを調べ,通信上の世界的なつながりを明らかにする。
41.新聞社やその支局を訪問してその社の通信網の張りめぐらされ方や,記事を送るに要する時間などを調べる。
42.ラジオや無線電信の発達によって,世界の人々はどういう恩恵を受けるようになったか。われわれはこれを正しく利用するためには,どんな心がけが必要かについて討議する。
43.万国郵便連合(UPU)はわれわれの生活とどのような関係をもっているかを調べる。また世界の国々の郵便切手をできるだけ集めて,それぞれの国国のものの特色について話し合う。
44.学級で手分けをして,今の社会科授業の時間が,世界のいろいろな地方では,何日何時に相当するかを調べ,現在,それらの地方の生徒たちは何をしているかを想像する。
45.交通通信機関を利用する態度について討論会を開き,一般の交通道徳について批判したり,重要なことがらを表わすポスターを作って掲示したりする。
46.もし交通通信機関が急にとまったら,われわれの生活がどのように不便になったり混乱するかについて,想像したり,過去に,これに似たことのあった時の話を聞いて,「交通・通信機関の恩恵」という題で作文を書く。
評価の例
2.次の事項について,知識・理解はどの程度明確になったか,またそれをいっそう有効に利用することができるようになったか。
古代文明,近代文明,経度,経線,緯度,緯線,航路,航船時代,航空路,航空時代,最短距離,大円(圏)航路,等角航路,日付変更線,時間的距離,世界の縮小,新大陸(新世界)・旧大陸(旧世界)・絹街道・ローマ軍道など昔の陸上交通に関係ある用語,東西交通(交渉),わが国および世界における交通上重要な地点や都市など。
(2) 原則・事実・特色などの例
② 一地域の文明が,交通の発達につれて,他の地域の文明と交渉するようになり,その結果,世界の文明の発生を促したこと。
③ 世界の交通がたやすく行えるようになったのは,多くの人々の苦心や努力によるところが多いこと(マルコ=ポーロ,ヴァスコ=ダ=ガマ,コロンブス,マゼランなどのように世界の交通路の開拓に貢献した人々の功績や,スチブンソン・フルトン・ライト・マルコニーなどのように交通・通信機関の発達に貢献した人々の功績)。
④ 歴史上に残る大交通・交通路・交通機関,およびその交通に要した困難。
⑤ 交通・通信機関の発達によって,今日の世界は著しく縮小され,他地域から孤立した生活は営めないこと。
⑥ 今日の世界交通路およびこれらに沿うおもな島,半島,海峡,港,空港などの分布およびそれぞれの地点の役割。
⑦ 世界の文化交渉史に関する概略の知識。
(2) 旅行記や探検記などを読んで,その内容を要約し,その功績を報告すること。
(3) 世界地図や地球儀を正しく利用すること。
(4) 世界的交通の所要時間や,各地の標準時を計算すること。
(2) 交通・通信機関を愛護し,また生徒としてできる範囲で,交通状態や交通・通信機関の改善に協力する。
(3) 日本・東洋・西洋の歴史時代を,いつも対比して考える。
(4) 世界市民の一員としての自覚を深める。