要 旨
わが国土は狭い島々から成っているが,その自然は,細かに見れば,地域によってさまざまである。そしてそこに営まれている生活も,全体としては共通な点も認められると同時に,また地域によってもさまざまに違っている。しかもその背景には,わが国土を利用し,その不利を克服しながら生活の向上をはかってきた,われわれの祖先からのたゆみない努力があることを忘れてはならない。したがって本単元の学習は,わが国における郷土の生活を理解する上にも,世界におけるわが国土の地位を理解するためにも,基礎を与えるものである。
なお本単元は,小学校で学習したことを基礎として,これに新しいことを加えながら地誌的に整理し,わが国土の状況を大きくつかんで,将来の細かな学習の基盤とすることを目ざしているものである。しかしどこまでも具体的事実を中心とし,概念的なものにならないようにすることもたいせつである。
目 標
2.わが国土の自然の全体としての特色についての知識と理解。
3.わが国土の自然には,地域によってさまざまな特色があること,およびそれらと諸地域の生活との関係についての知識と理解。
4.自然への働きかけ方は,昔と現代とでは,いろいろ違っていることの理解。
5.自然の不利に屈せず,これらにうちかとうとする態度。
6.比較的大きい縮尺の地図を正しく読んだり,略図を描いたり,その他の地理的資料を正しく取り扱う技能。
7.正しい郷土愛・国土愛の精神を養うこと。
内 容
2.わが国は,おもな外国に比べて,どんな自然の特色をもっているか。
(2) わが国土の地形には,どんな特色があるか。
(3) わが国土の気候には,どんな特色があるか。
(4) 大昔の人々は,わが国土を,どのように切り開いたか。
(5) 現在の人々は,わが国土をどのように利用し,また人口はどのように分布しているか。
(2) 風害や水害を防ぐには,どうすればよいか。
(3) その他の自然的災害を軽減するために,どんな努力がなされているか。
(2) 中国・四国地方
(2) 中部地方
(2) 東北地方
(3) 北海道
学習活動の例
2.その地図を見て,隣接する府県や日本のおもな都市との相対的位置などについて話し合う。
3.小学校での学習や適当な資料を基礎にして,郷土の自然と生活の関係について話し合う。
4.地図によって日本列島の東西南北端を見出し,この南北端に挾まれた範囲が,他の大陸ではどのへんに相当するかを調べる。またわが国の位置をおもな外国と比べてみる。
5.日本の地形図によって,おもな山脈・河川・平野・湾などの分布状態を調べ,それらを簡単にした図に書き直す。また,それらの名まえもよく覚えているかどうかを確かめる。
6.山・火山・河川・湖沼・島嶼を大きいものの順に並べて,図表をつくり,山ならばその属する山脈,河ならばその流れる平野を記入すること。
7.わが国の総面積や,山地と平野の面積の割合,人口や人口密度などをおもな外国と比べて,これらの点で,どのような特色があるかを討議する。
8.わが国の都道府県の位置,名まえなどを地図の上で示せるかどうかを各自で試みる。またアメリカ合衆国やオーストラリアの地図に示されている州の形と,わが国の都道府県の形とは,どのように違うか,なぜそのように違うかを討議する。
9.世界や日本の気温や雨量を示す表や分布図によって,日本の気候にはおもな外国に比べて全体として,どのような特色があるかを討議する。
10.アジアの季節風について書いてある本を読んだり,先生から話を聞く。そして季節風帯の気候の特色がはたして郷土の気候にもよく現れているか。もしそうでなかったら,それはなぜかについて討議し,さらに先生の説明を聞く。
11.日本近海の海流を調べ,それが気候に及ぼす影響について話し合う。
12.日本の土地利用図によって,わが国土の利用状態には,どんな特色があるかを討議し,さらに先生からこれについて話をしてもらう。
13.書物または先生方のお話によって,石器時代の生活を知り,それと現代の生活様式と比較して,進歩の跡をたどる。
14.郷土では,これまでどんな自然災害を受けたか,その時どんな処置がとられたかを老人・両親や先生に聞いて,その話を基にして災害時の心得について学級で討議する。
15.地図によって世界のおもな地震帯を調べ,日本列島がどのような地位にあるかを考え,先生からいろいろな話を聞く。
16.台風の進路図によって,わが国がなぜ台風に襲われやすいか,世界で台風に襲われやすい地方はどこかを調べる。
17.近年わが国を襲つた台風の被害状況を当時の新聞などで調べる。
18.特に雪の害を受ける地方,かんばつの起りやすい地方,冷害を受ける地方を,日本の地図の上に色分けにする。
19.自然的災害の軽減や,人々の救済に対して国や地方はどんなことをしているか,また地域社会の人々はどのように協力しているか調べる。
20.いろいろな自然的災害の軽減や人々の救済に対して,生徒として,どのような協力ができるかを討議する。
21.九州地方の地図によって,山地や丘陵地や平野がどのように分布しているか,を調べること。また土地利用図と比べて,両者の間にどのような関係があるか,および郷土附近と似ている点や違っている点について討議する。
22.九州地方の気温や雨量と北海道および郷土のそれとを比べて両者の間にどのような違いがあるかを調べる。
23.九州地方のおもな鉄道はどのような地形を利用して敷設されているかを調べ,さらに沿線のおもな都市について,どのようなことを知っているかを中心として,学級を幾つかのグループ(チーム)にわかって競技してみること。
24.北九州の工業都市を地図に記入し,この地方に工業の発達を促した条件について討議し,そのあとで先生の話を聞く。
25.長崎(さき)港が歴史的に果した役割について調べる。
26.九州の国立公園の写真を集めて展覧する。そして風景の特色について説明する。さらに他地方や外国の国立公園についても調べたり,写真を集めたりして,国立公園はなぜ必要であるか,われわれの生活にどんな利益をもたらすかを討議する。
27.阿蘇(あそ)山の模型を作る。
28.九州の南方の島々の生活について調べて,その話を学級でする。
29.九州地方の生活(衣食住)の中で特色のあるものを調べ,それが郷土のそれと,どのように違っているか,またどういう点が似ているかを討議する。
30.中国および四国地方について,21,23,に類した学習活動をする。
31.中国および四国地方の南北断面図を作り,これに地域による気候の特色をできるだけ絵で書き入れること。
32.中国および四国地方の特色のある気候地帯の九州方面への延長は,どうなっているか,近畿地方方面への延長はどうなっているか,それぞれの地帯の人間活動に共通な点があるかどうかを調べる。
33.外国では,どのようなところでおもに製塩が行われているか,そのやり方は瀬戸内海沿岸のそれと,どのように違うか,またわが国の塩の需給はどのようになっているかを調べる。
34.瀬戸内海の風景写真を集めて,それぞれのもつ地理的意義を考え,先生からいろいろ教えてもらう。また地中海沿岸やカリフォルニア州の気候と瀬戸内海沿岸の気候とを比べる。
35.中央日本とよぶときには,どんな範囲をさすのが普通であるか,先生から話を聞く。
36.近畿地方の地図によって,山地・丘陵地・平野などがどのように分布しているかを調べ,さらに土地利用図や人口分布図と比べて,それらの間にどんな関係があるかを討議する。
37.近畿地方の北都・中部・南部の地点の気温・雨量表から,それらの間にどのような違いがあるか,また郷土の気候とは,それぞれ,どんな点が似ていたり,違っていたりするかを討議する。
38.京都・大阪(さか)・奈良(なら)などへ修学旅行に行くことが多いが,それはなぜかについて討議する。そして,これらの都市へこれから修学旅行に出かけると仮定して,どういう点を観察したらよいかを表に作る。また外国ではどういう都市が奈良や京都のような意味で観光都市として知られているかを調べる。
39.修学旅行に際して,中学生としてどのような態度や行動が望ましいかを討議して表に作る。また郷土附近の観光地としては,どのようなところがあるか,それはどのような特色をもっているか,そこをさらに健全な観光地として発展させるには,生徒としてどのような協力ができるかを討議する。
40.近畿地方のおもな都市について,それぞれの位置がどのような意味をもっているかを調べる。
41.中部地方の地図によって,山地や平地の分布を調べ,各平地はどのような地形を利用して連絡されているか,各平地にはどんなおもな中心都市があるかを地図の上で指示する。
42.日本海沿岸の積雪の写真を集め,積雪がこの地帯の人々の生活にどんな不便を与えているか,積雪への対策として,どのようなことが行われているか,積雪によって利益を受けることがないかなどについて話し合う。
43.中部地方の太平洋岸の都市の気温・雨量表を日本海沿岸のそれと比べて,両者の間に,どのような違いがあるかを討議する。
44.たとえば,松本の気温表を海岸地帯のそれと比べて,盆地の気温変化の特色を明らかにし,またなぜそのようなことが起るかを考える。
45.一毛作・二毛作の意味を調べて,気候との関係を明らかにし,さらに中部地方の特色のある産業が,はたして自然とどのような関係をもっているかを討議する。
46.登山やスキーで有名な山々の表とその分布図によって,中央高地が,これらのスポーツにとって,どんな意味をもつかを討議する。そして,外国でこれらのスポーツの上から有名な山々の分布や特色を調べて,日本の中央高地のそれと比べる。
47.富士山や日本アルプスの模型を作る。
48.日本の地図によって,関東地方を東北日本へ入れたほうがよいか,中央日本へ入れたほうがよいかを討議する。そして先生からこれについての話を聞く。
49.関東地方の地勢図と土地利用図との関係を討議する。
50.関東地方のおもな都市の分布およびその人口を表わす図を見て,都市の発達が商工業の発達と深い関係のあることを話し合う。
51.関東地方の農業や漁業が,大消費地である京浜地帯を控えて,どのような特色をもっているかを調べる。
52.関東地方のレクリエーション地域の分布図を作り,それぞれの地域の特色を調べる。またレクリエーションがわれわれの日常生活にどのような意味をもっているかを討議する。
53.わが国の鉄道幹線図および汽車の時刻表によって,郷土から東京へ行く道筋・費用・時間・通過するおもな都市などを調べる。
54.地図によって,奥羽地方の平野の分布には,どんな特色があるかを調べ,また,おもな鉄道は,どのような地形を利用して敷設されているか,どのような都市を結んでいるかを研究し,これについて先生の話を聞く。
55.冷害について書いてある本や記事を読んで,これにしばしば襲われる地方の分布,その原因や対策などについて,どういうことがわかっているか,また実行されているかを報告する。
56.りんごとみかんについて,これらが栽培されている地方を調べ,気候との関係や生産高について報告する。
57.岩手県・宮城県の海岸と,ノルウェーの海岸とを地図の上で比較する。そして,両者の間にどのような違いがあるかについて,先生の話を聞く。
58.奥(おう)羽地方から北海道へかけての国立公園を調べて,その目的,面積や風景の特色が,わが国で昔からいわれてきた日本三景とどのような点が違うかを討議する。
59.北海道の土地利用図を見て,他の地方と著しく違う点を二,三あげて,その理由を考えてみる。
60.世界地図によって,北海道と同じくらいの緯度の地方は,どのへんかを調べる。また北海道の代表的地点の気温・雨量表によって,北海道と類似した気候の地方は,他の大陸ではどのへんかを調べる。
61.世界で,生徒が知っている米作地をあげ,それらの土地の緯度と,北海道のそれとがどのくらい違うかを地図の上で判定する。そして,わが国の米作限界が北海道にまで上って行った理由やその苦心について,先生から話を聞く。
62.北海道の開拓は,どういう方針で行われたかの話を先生から聞き,北海道の農業が現在わが国にとってどのような地位を占めるかを考える。
63.クラーク先生が「青年よ大志をいだけ」と学生に説いた当時の話を先生にしてもらう。
64.北海道近海が,水産資源の上で,わが国にとって,どのような地位を占めるかを調べる。
65.北海道のおもな都市の分布状態を調べ,次に札幌その他の都市の5万分の1の地形図によって,北海道の都市が他の地方の都市と違っている点をあげ,その理由を考える。
66.各地方についてのこれまでの学習を,日本全体の立場から,もう一度まとめてみる。
67.以上の学習によって,郷土の自然と生活との関係には,他の地方に比べてどんな特色があることがわかったかについて討議する。また郷土の自然の不利を克服するために現在どんなことが行われたり,計画されたりしているかの話を専門家から聞く。
評価の例
2.次の事項についての知識や理解は,どの程度に明確になったか,またそれをいっそう有効に利用することができるようになったか。
緯度,経度,わが国を取巻く海洋や近海の海流の名まえ,おもな山脈の名まえ,おもな平野とそこを流れる川や,おもな湖の名まえ,盆地・丘陵地・砂浜・岩浜・リアス式海岸などの地形的用語,季節風・台風・ひでり・冷害などの気候的用語,都道府県名,おもな地域(あるいは地帯)名,おもな都市名,おもな鉄道幹線名,干拓・一毛作・二毛作・二期作など土地利用に関する用語など。
(2) 事実・原則・特色などの例
② わが国の地形的特色。
③ わが国の気候的特色。
④ わが国を襲う自然災害の種類やその対策。
⑤ 地形や気候と土地利用との関係。
⑥ 自然の不利を克服して来た人々の努力。
⑦ 各地域の自然と生活との関係の特色。
⑧ 各地の生活が密接に結びついて営まれていることおよび各地域間の交通状態の現状。
⑨ 外国から孤立した生活は営めないこと。
② 比較的大きい縮尺の地図によって,位置や地形の特色を読む(等高線の読み方の初歩を含む)能力。
③ 略図・分布図などを描く能力・技能。
④ 気温・雨量の表を読んでその特色をつかんだり,これからグラフなどを描く能力・技能。
⑤ 生産に関する統計資料を利用する能力・技能。
② 郷土や国土を愛する気持。
③ 郷土や国土の自然の不利な条件を克服しようとする意欲。
④ 郷土の狭い視野に閉じこもらず,他地方との比較によって,物事を広い立場から考えようとする態度。
⑤ 日本の地理に関する書物を読もうとする意欲。