第7章 教材の解説と指導上の留意点

 

 さきに掲げた数材が決して地方または学校の計画を拘束するものではないと同じく,本章において解説するところのものも教師が学習指導を進める上の一つの参考にすぎないものであるから,他の解説書や指導書をあわせて利用し,その研究を進められたい。

 なお,本章では一般的に共通な状況,すなわち全国的な実情に即し,できるだけ現実から遊離しないことを念頭におきながら,おもな数材につき,その指導内容の項目について解説し,それに指導上の留意点をあわせ述べることにしたが,その場合各教材の内容につき段階的に逐一述べることは本書としてとうていできないことであるとともに,それは指導要領の主旨からみて妥当ではないと思われるので,学校別・性別に限定して解説するにとどめ,他は教師の研究に任せることにした。特にボール系統の材については,その数が多いので,性格の異なった4類型から各1数材ずつを選び,しかも指導内容中のある項目を取出して述べることにしたので,その点あらかじめ付記しておく。

 

 1.バスケットボール(高等学校男子の場合)

 バスケットボールは1892年(明治25年)アメリカ合衆国マサチュセッツ州スプリングフィールドの国際キリスト教青年会教員養成所(International Y.M.C.A.Training School)の指導者ネイスミス博士(Dr.James A.Naismith)が考案したものである。フットボールとベースボールの中間のシーズンに行う屋内競技として始められた。人数も9人ないし15人ぐらいで行われ,桃のかごとフットボールが使用された。

 その後種々改良され1894年に5人で行うようになり,規則も改良されて今日に及んでいる。

 わが国には1908年(明治41年)に一度紹介されたが実を結ばず,1914年(大正3年)にブラウン氏が渡来してからY・M・C・Aを通じて行われるようになり,その後大学において盛んに行われた。そしてしだいに学校体育において大きな役割を果たし,また,極東大会やオリンピック大会などにも選手を送り,世界的な地位を占めるまでに至った。

 一つのボールを用い,チームワークで競技する球技の代表的な一つであって,走跳びなどの基礎的運動能力とともに高度の特殊技術が養われる。体育上有効な教材であり,好ましい運動であるとされているが,一般的な特徴をあげてみると次のとおりである。

     1.知的なチームゲームである。

     2.狭い場所ででき,屋内でもできる。

     3.興味に富んだレクリエーショナルな運動としても適する。

     4.高価な費用を必要としない。

     5.能力の程度によって簡単にも,複雑にもできる。
    (3) 準   備

     1.用具 バスケットボール・バスケットボール台・笛

     2.コート

       

    (4) 方   法

     1.ゲーム

 1組5名ずつの2組が一定のコート内で,一定の場所におかれたゴールに,定められた規則を守りつつボールをシュートすることを互に競う。
     2.規則と用語
 バスケットボールの規則は長い間の経過をたどって幾多変遷してきたものであるが,その骨子となるところは,
     イ,身体的接触をかたく禁ずる

     ロ,ボールは手で扱う

     ハ,ドリブルするのは良い

     ニ,ボールを持って歩いてはならない

    などであり,そのおおよその規則とおもな用語を示せば次のとおりである。

     (1) 競技時間 高校ではクォーターで行う。

8分—2分—8分=10分=8分—2分—8分
     (2) 競技人員
 5人(フォワードふたり,センターひとり,ガードふたり)からなる2チーム。
     (3) ファウル
 ファウルとは罰として相手側に一つまたはそれ以上のフリースローが与えられる反則である。

 ファウルにはパーソナルファウルとテクニカルファウルとがある。

 パーソナルファウルとはプレーヤーがプレー用に不当な身体の触れ合いを起した場合のファウルである。これ以外のファウルをテクニカルファウルという。パーソナルファウルを5回やるとそのゲームから除外される。

     (4) ヴァイオレーション
 ファウル以外の規則違反のことである。この反則をすると普通には相手側にボールが与えられる。ただしフリースローの場合は次の罰則が適用される。
      (イ) スローアーにボールが渡されてからボールがリングにあたるまでの間にフリースローをしているチームのプレーヤーが,フリースローレーンを踏んだり,またはその中にはいったりしたときはゴールしても得点にならない。サイドラインから相手チームのアウトオブバウンズとする。

      (ロ) 右の場合,相手側が反則したときは成功すれば得点とし,成功しなければもう一度フリースローを許される。

      (ハ) 両チームのプレーヤーが反則したら,ゴールになっても得点にならず,ボールはセンターでトスアップされる。

     (5) ランニングウイズザボール
 プレーヤーがボールを持ったまま制限以上に進むことであり,この反則をすれば,ボールは相手側に与えられる。
     (6) ブロッキング
 これはパーソナルファウルの一種で,ボールを持っていない相手の進行を妨害する身体の触れ合いをいう。この反則をするとボールは相手側に与えられる。
     (7) ピヴォット
 プレーヤーがボールを持って,片方の足(ピヴォット・フット)を床の同じ点に触れたまま他の足のみを任意の方向に何度でも踏み出すことをいう。
     (8) フロント・コートとバック・コート
 1チームのフロント・コートは,そのチームのバスケットの後方のエンドラインからディヴィジョンラインの近いほうのふちまでのコートの部分をいう。ディヴィジョンラインを含んだコートの他の部分をそのチームのバックコートという。
     3.審 判 法
 審判は主審ひとり,副審ひとりがこれにあたり,さらに記録員ひとり,計時員を助手としてゲームを行う。

 審判は常にゲームが公正に進められるように行動することがたいせつであり,プレーヤーがゲームしやすいように考慮することも必要である。特に規則に精通し,真に見きわめたことを指摘してそれに判断を下すことがたいせつである。ゲームの開始から終了するまで全責任を持つのが審判の任務である。主審と副審の審判中の動きについては,左図に示すとおり,コートを斜めに2分し,それぞれ半分を分担し,できるだけボールに遅れないように動きまわって判定することがたいせつである。

   

    (5) 指導上の留意点

—展開を中心とし,その指導の進め方について—

 バスケットボールについては,基礎的技術の指導をはじめ,いろいろな事項について指導上の留意点を述べる必要があるが,ここではそのうち特に指導計画のおおまかな一例を示し,それを進める上に留意すべき要点を述べることにする。

 (指導計画例)
 

学 年

指  導  内  容

歴史

基礎練習の反復

簡易ゲーム

規則と用語の解説

パスの練習

個人防禦法(フットワークを含めて)

ゲーム

基礎練習
 
  

シュート

 

中距離ショット
ジャンプショット
(フォローを含めて)

 ピヴォット

 ゲーム

基礎練習

攻防法(フェントを用いて)

ゲーム

ティームプレイの基本的動き

スクリーンプレイとその防禦法

ゲーム

セットオフェンス(マンツウマンに対する)

遅攻法

ゲーム

ゾーンディフェンスとその攻撃法

速攻法

ゲーム

ティームプレイ(例話)

作戦

ゲーム

審判法

ゲーム

試合の運営法

評価

   第1週

 ここでは中学校において行った基礎的技術を反復練習する。指導としては最初にバスケットボールの歴史を理解させ,次にゲームを中心として行いながらその間に種々の基礎技術をおりまぜて,基礎技術の重要性を知らせるようにする。

 基礎技術においては,パス・ドリブル・ショットなどについて基礎的なことに注意を払いながら練習させる。

   第2週

 規則の解説—規則については中学校において一応の解説はしてあるはずであるから,ここではファウル・ヴァイオレーション・タイマー・スコーラーの任務等について解説する。

 パスの練習—パスはひととおりの練習をしているが,フックパス,片手のパス等について特に練習し指導する。パスは特にバスケットボールにおいてはチームワークをとり,りっぱな攻撃をするに欠くことのできないものであることを知らせ,常によいパスを行うよう注意しながら指導する。

 個人防禦の練習ではフットワークが特にたいせつなものになる。早い足さばき,相手の動きを予想しながら防ぐこと等に注意する。

 最初は自分の相手を専心守り,目を離さないようにし,徐々に全体特にボールに眼を注ぎながら守ることを注意する。

 ゲームではグッドパスと個人防禦に特に注意しながら進める。

   第3週

 基礎的技術—シュートに注意する。ゴール下のフォーローを合わせてジャンプショットの練習および中距離ショットの練習を主とする。この場合ショットだけの練習で,班別に競争を行うのもよい。ボールを多く用意することがたいせつになる。

 ピヴォットは,ゲームを変化の多い,しかもおもしろいものにするたいせつな技術であるからじゅうぶん指導する。

   第4週

 攻防法について練習する。主としてマンツウマンの練習になる。攻める者はフェントを用い,相手防禦者の虚をつくように動くことを指導する。

   第5週

 スクリーンプレーは,マンツウマンを攻める場合のティームプレーの基礎的な動きである。その代表的な動きを指導する。

     (1) ボールをパスし,その後トレールする。{図参照}

     (2) ボールをパスしてスクリーンになる。

   

 この防禦法では,できるだけ相手のスクリーンに引っかからないようにし,もし相手にしかけられたときはシフトプレー(交代法)で防ぐようにすることがたいせつである。

   第6週

 マンツウマンに対するセットオフェンスの練習を主とする。ここでは①相手を個人で抜いて攻める(フェント利用),②スクリーンプレーを利用する,③ガードのカットイン,④ポストプレー等を利用するように心がける。

   第7週

 ゾーンディフェンスとその攻撃法—このゾーンディフェンスには2—3,3—2,2—1—2等いろいろある。しかし協力して動きまわり,最も危険な場所を5人で守るようにしてパスをカットするのである。

 攻撃法としては,速攻法を用いること,3人ぐらいで先にボールをとったらすぐ攻める。すなわち相手が帰陣する前に攻めること,パスを早くし相手の防禦陣をゆさぶるなど試みて,その間にショットのチャンスをつかむこと等の指導をする。

   第8週

 ティームプレイについて全般的に指導する。攻撃の場合と防禦の場合について今までのところをまとめ,全体的な指導をする。

 なお,ゲームを進めるについての作戦,選手交代,タイムアウトの請求,実際ゲームについての作戦等についても指導する。

   第9週

 審判法—ゲームを行いながら審判を行わせ,それについて指導する。

 試合の運営法—校内競技会などの運営について指導する。すなわちトーナメント式による方法,リーグ式による方法,その他いろいろの方法を指導する。またゲームの運営についても指導する。

 2.バレーボール(高等学校女子の場合)

    (1) 歴   史

 バレーボールは北米合衆国の東海岸にあるマサチュセッツ州ホーリーヨーク市のY.M.C.Aにおける体育部指導者であったウィリアム・ジー・モルガン氏にによって1895年に考案された。モルガン氏は運動があまり強くなく,簡単に室内で多くの者が行える運動の必要を感じた。そこでテニス用のネットを高く張り,バスケットボールのチューブを使ったがあまり軽く,遅すぎた。次にバスケットボールを用いてみたが重く,大きすぎた。ついに意を決してバレー専門のボールを造らせ,1896年にスプリングフィールドの体育館で公開ゲームを行った。結果は大成功に終り,大ぜいでだれでもできるという特徴からこの球技はたちまち全米の各Y.M.C.Aへ広まった。

 わが国のバレーボールは1913年(大正2年)アメリカのY.M.C.AのF・H・ブラウン氏が東京の中華Y.M.C.Aに伝えたことに始まる。

 爾来大正6年から参加した極東選手権大会,大正13年秋に開催された明治神宮体育大会,あるいは大正15年改正となった文部省の学校体操教授要目中に採用される等,技術面にも普及面にも躍進を遂げて今日に至った。

    (2) 特   徴

 バレーボールは特に女子の代表的球技として体育教材の大きな役割を果たしているもので,比較的簡単に手軽にでき,多くの人々にレクリエーションとして大いに楽しまれている点は特筆されてよいが,一般的には次のような特徴がある。

     1 用具および施設が簡単である。—ボール1個とネット(なければなわでもよい)を張れば大ぜいの者がゲームを楽しむことができる。またふだん着のままでも行える。

     2 狭い場所で大ぜいができる。—他のスポーツと比較して場所に対する競技人数の割合はバレーボールが最も密で,その上各コートは広さを要しない。したがって多くの試合を運営し,多くの競技人員を短時間で消化する上からも便利である。

     3 規則が簡単である。—ネットを越してボールを打ち合い,地上に落さないようにすればよい。

     4 運動量が適当である。—老若男女を問わず実施でき,しかもその分に応じた運動量をとることが容易である。

     5 常に上空を仰ぎ胸郭を広げながらプレイできる。

     6 パス自体にも興味が持てる。—ボールを落さぬよう互にパスし合うことがおもしろい。(この点野球のキャッチボールと共通するものがあり,大衆性を持っている。)

    (3) 準   備
     1.用具 バレーボール・笛・ネット

     2.コート

        
    (4) 方   法

     1.ゲーム

1組9人よりなる2組が下図のような配置で互にネットを隔てて対向し,一つのボールを手で打ち合うことを競う。

        

     2.規   則

     (1) キャプテンは開始前に自己のチームのサーヴィングオーダーをラインズメン(線審)に報告しなければならない。

     (2) サーブはエンドラインの後方両サイドラインの延長線内より,ネットを越して相手方コートの中へ片手でボールを打ち込むものとする。この際エンドラインを踏んではならない。

     (3) サーブは2回とする。2回失敗すれば,反対側にサーブの権利が移り,反対側の得点となる。なお一度あげて打てなかったらそのサーブは無効となる。

     (4) 次の場合サーブはノーカウントとなる。

      ① 1度ボールを空中にあげたが,これを打たずに受け止めるか,または地上に落した場合

      ② サーブのボールがネットの上縁に触れて相手方コート内にはいったとき

     (5) 一つの組は3回以内の打球でネットの上を越して相手方に送球しなくてはならない。それ以上(オーバータイム)はいけない。

     (6) 打ったボールがネットにかかった場合には,身体がネットに触れないようにして,いま1回打つことができる。

     (7) ボールには2度続けて触れること(ドリブル)は許されない。胸にあたったボールを手で送ってもいけない。

     3.審   判
審判員は主審1,副審1,線審4,記録1,得点掲示者1ないし2が正式であるが,最少主審1,線審2が必要である。その配置は次図のとおりである

          

 審判員はそれぞれ次の任務をもつ。

     (1) 主審—競技の開始よりその終了に至るまでの間,反則に関するいっさいの問題に判定を下す。

     (2) 副審—ネットの一端において主審の反対側に位置し,交代を許可し,その他主審の要求する方法により,これを補佐する。

     (3) 線審—エンドラインおよびサイドラインをめいりょうに観察しうるようコートの四すみに位置し,ボールがライン近くに落ちたときは,その落下点に最も近い線審は「グッド」あるいは「アウト」を宣する。その数が2名のときはそれぞれ各サイドラインの一端,主審および副審の右側に位置する。

    (5) 指導上の留意点

 バレーボールはそのチームゲームとしての性格から種々の留意事項があるが,本書ではそのうちいくつかの事項を取上げ,主として指導方法上の留意点を述べることにする。

     1.円陣パスの指導

     女子のバレーボールの指導過程において円陣パスはきわめて高い利用価値をもつが,それは次のような特色をもつからである。

      ①女子に好まれる。

      ②皆が向かい合ってなごやかに気軽にできるので失敗しても気にならず,また個人的な優劣もあまり目だたない。

      ③簡易にどこでもできる。(人数に幅があり,狭い場所でもできる)

      ④競技的な性格をもっている。

      ⑤種々の技術指導ができるとともに,一方がコートで練習するとき,他は円陣パスをするというように班別指導ができる等指導上便宜である。

      円陣パスによる技術指導で,まず必要なことは次のような指導段階を考えることである。

       

      ①パス(要領)

       
       基本(個人的)

      ②パス(競技的に)

      ③パス(相手とのコンビを考えた)

      ④タッチとレシーブ(鋭いボール)

      ⑤キルとレシーブ(強いボール)
       

      ⑥タッチキルとレシーブ(種々な球質)

       

      ⑦アタックとカバー

      シートパス式でもよい

      ⑧複雑な打撃とレシーブ(フェント等の加味)

       

 そしてこの段階はこれを各種技術の基礎的練習に応じ,たとえばキルの基礎練習を行う場合は同時に上の⑤の円陣パスの指導をするというように進めることが必要である。この方法は形式的な基礎練習では望み薄い生徒の自由意志による内面的なコンビを補うことができるので,時間の少ない必修時にはきわめて効果的である。いま次に一例として,打つ動作をまじえた円陣パス(指導段階⑤)を取上げ,生徒たちの陥りやすい欠点とその指導法を表示してみよう。
 

〔生徒の陥りやすい欠点〕

〔指 導 法〕

(A) 打つ動作について

 (イ) 不適当な球を打つ—すなわち自分よ

 り低くスピードのあるボールとか,短いも

 の,長いものまたは横に寄りすぎたような

 場合でもかまわず打つ。

 (ロ) 打つ目標を考えない—すなわち円の

 中央辺へ打ち落したり捕球者が届かない

 ような高直球を出したりする。

 (ハ) 打った後動作が次へ続かない—すな

 わち打った後安心していたり,くずれた体

 を立直させないでいる。

(B) 受ける動作について

 (イ) 打球を恐れる—すなわち恐れてその

 場にくぎづけになったり,とび退いたり,

 またはふらふらとボールのほうへ吸いつ

 こうとする。

 (ロ) 無理なパスをする—すなわち高すぎ

 たり,または低すぎた強いボールを理想的

 なパスで返そうとあせって失敗する。

 (ハ) ボールのスピードを考えずに受ける

 —すなわち強いボールをゆっくり受けよ

 うとして後方へのがしたり,ぎゃくにゆる

 いボールを早い動作で取り,指先でハンブ

 ルする。

(A) 打つ動作について

 (イ) 高目に上がり自分の近くへゆるく落

 ちて来るボールを選びじゅうぶんジャン

 プして打つくせをつける。

 

 (ロ) 手首で調節して相手の体(ひざから

 上)へ打ちつけるようにさせる。

 

 (ハ) 打ち終ると同時にひざの力を抜き,

 受ける構えに切り替えさせたり,また出過

 ぎていたら早くもとの位置に帰らせる。

(B) 受ける動作について

 (イ) 打者の姿勢につられてかたくならず

 ボールが打たれる点を見つめて進ませ,ボ

 ールが体に打ちあたろとうする瞬間手首

 と腹をしめて手をあげさせる。

 (ロ) 無理をせず自分の付近へ高目にあげ

 させる。また強いボールはあまり方向を変

 えようとせず,打たれた付近へ返させる。

 (ハ) 強い低目のボールは腕を小さく動か

 して受け,高目にやわらかく返し,一方高

 く上がってゆるく落ちるボールは腕を大

 きく動かし,しだいに加速度をつけて低目

 に送球させる。

     2.早タッチの指導
 送球者とトスする者とタッチする者との三者一体のタイミングを必要とする典型的なプレーである。ちょっと取りつきにくいようであるが,動作を分解して進めればさほど困難ではない。特に女子はリズム感覚が発達しているからスタートやジャンプの時機,腕の振りなどにヒントを与えると興味を持って行い,あんがい早く上達する。おそ目の早タッチとは,横へ高目に上げられたトスを少しゆっくりタッチする方法で,これに対し早目とは,低く上がったトスを早く寄って敏速にタッチする方法であって,その指導にあたっては次の諸点を考慮するがよい。
 
要点

おそ目の早タッチ

早目の早タッチ

(1) スタートの時機

 ボールがトス前衛の手にはいろうとしたときスタートする。

 パスの速度に合わせてトス方向へ寄る。

(2) ジャンプの時機

 ひざをじゅうぶん曲げて待ち,ボールが頂点へ達する瞬間踏み切る。

 ボールがトッサーの手を離れると同時にジャンプする。

(3) 腕の動作

腕はおそ目に振り上げて,振り下しは早くし,ボールの黒部へ手をあてる。

      

空間でとまり,手首をじゅうぶん外側に折ってボールを迎え入れ,ボールの黒部へ手をあてる。

      

(4) 体重の加え方

 ボールを押さえて体を引き上げるようにする。

 ボールを手首で巻き上げながら重心をネットのほうへ移行し巻き落す。

備       考

 トスは高目にあげる(1メートル2,30センチぐらい)。

 トスは低目にあげる(約4,50センチぐらい)。

     3.サーブの指導
 ゲームをやらせて最も目だつことはサーブがはいらないことと,サーブのレシーブミスが多いことであるが,その指導は次のように進めるがよい。

(1) 指導の糸口—ゲームを行って,その結果を話し合わせたり,またはサーブを記録させて「なぜはいらぬか」「どうすればよいか」と進める。(2) 指導の順序—(オーバーハンド・サーブ)①どの点を目標(打点)として打つ腕を振らせ②その打点へ至る打ち腕のコース(重心の移行法も)はどうなるか③トスの上げ方とする。(3) 方法—肩(右手打ちとして)をネットヘ向け,足を左右に開いて立たせ(ボールは持たず)①まず左腕(トス手)を伸ばして左眼の前上にあげて手首を折らせ,その左手の位置が打点であることを教える。〔1図の(ハ)点〕②次にあげてある左手を目標に右手(打ち腕)を2図のように(イ)—(ロ)と振り,(ハ)で右手を左手にあてさせる。

     

 右腕の力を抜き(ハ)で〔1図と2図の(ハ)は同じ点である〕最もスピードが乗るように何回もさせる。次に右腕を曲げ,重心を左足にかけさせておく,重心を左足に移しながら同様に振り,(ハ)点で意識的に腰をひねって(左腕は後へ振り下す)上体をネットのほうへ向かせる(3図)。③トスは2図の姿勢から始め1図の(ハ)点までボールを保持して,軽く1メートルぐらい直上へ上げさせる—ボールをあげると同時に右腕を後に引き,とめずに正しく振り出せば,右手は落下してくるボールに(ハ)点であたるわけである。④から振りができたらボールを持って実施させる。

     4.ストップの指導
 生徒は始めストップすることをおそれているが,教師の指導いかんによって深い興味を持つものであるから,その方法を研究することが必要である。そのための参考として次に1例を掲げよう。以下述べる方法は一応個人のストップができ,ふたり以上の前衛が寄って行うストップ指導を目的としたもので,笛を用いてリズム的にやらせる方法である。

 まず次図のように配置し,次に笛の合図で,
 
      

 (イ) ①②③はその場で踏み切りストップ,おりるとすぐに(笛の合図で)①は②のかたわらに寄り,ふたりがそろうと(また笛で……以下笛は省路)

 (ロ) ①②はそろってストップ—以下同じ要領で—③が②により③②がストップ(①は③が②に寄ると同時に元へもどる)

    (ハ) ②が①に寄り②①がストップ(③は元へもどる)。

    (ニ) 続いて②は③に寄り②③がストップ。

    (ホ) ②は中央へもどり①②③はその場でストップ。

    (へ) ①と③が同時に②に寄り①②③がそろってストップ。

    (ト) ふたたび(イ)へもどる。

     〔備考〕反対側コートへも3人入れ,同時に行わせたり,次に行う者を実施者の後へ置いていっしょに動作させると効果的である。

     5.攻撃法の指導
 これまで練習してきた基本的な技術を組合わせ,最大の攻撃力を造るのが攻撃法の重点である。攻撃法にはワンマン・システム(ひとりの攻撃者に徹底的に攻めさせる方法)すなわちいかなる地点ヘボールが行っても何とかして定めたひとりの攻め手に攻撃させる方法),ツウマン・システム(ふたりの攻撃者にだいたい平等に攻めさせるように協力して球をまわす方法),スリーマン・システム等特定の者を攻撃の中心とする方法と,オールラウンド・システム〔チームのだれもが,(普通には後衛を除く)〕攻撃して行く方法があるが,その指導は一般に次の要領で行うがよい。①全部を配置し,ボールを前衛に持たせ,前衛から軽く中衛や後衛に投げたボールをパスして所定の攻撃に移させる。②次に反対側コートの中ほどから軽く投げたボールを攻撃させ,慣れるに従ってしだいに距離を遠くとり,また球質もいろいろに変えて投げたものを同様に攻撃させる。③各チームごとの練習が一応できたら2チームをコートに入れ,①の方法により,Aチームが攻撃したボールを反対コートのBチームが受けて所定の攻撃に移す。
     6.守備法の指導
 Aチームが攻撃すれば,反対側のBチームはそれを受けてから自チーム所定の攻めに移らねばならないから,守備法はそのまま攻撃法でもある。したがっていかなる守備もそれは攻撃を前提としてなされるように指導する必要がある。その指導上留意すべきおもなる点は,①Bの前衡はまずAの攻撃地点ヘストップに寄ること,特に主力攻撃者に対してはふたりまたは3人でストップすること,②中・後衛は攻撃球のくる方向に正対することと,その際,中・後衛が重ならないこと,③後衛が前に出て取ることの必要なときでもそのひとりは必ず残っていること,④後衛にボールがいったら中衛は後衛のほうを向いて援助の態勢をとること等である。
     7.ゲームの指導
 ゲームの指導にあたって教師は次の諸点を留意しなければならない。①きわめて簡単な方法で行わせて興味を喚起し,概念を与える。②基礎的な技術の必要を痛感させ,その練習に没入させるための誘導材を考慮するとともにゲーム自体の指導の中に基礎的技能を高める。③既習した諸技術を反省させるように導く。

 

 3.スピードボール(中学校男子の場合)
 

    (1) 歴   史

 スピードボールは1921年(大正10年)に米国カリフォルニア州のミシガン大学ミッチェル教授によって考案されたものであり,秋季校内試合の種目として行われたゲームが最初である。それ以来新制スポーツとして,米国各州の種種の学校で行われるようになり,青少年男女の間に普及した。終戦後新しい球技として,わが国にも取入れられ,中等学校の球技として普及しつつある。

    (2) 特   徴

 この球技の特徴は,高度の専門化された技術を必要としないところにある。すなわちバスケットボール・サッカー等の要素が取入れられ,特別の練習を必要とせず,簡単な服装で楽しくできるところにある。

    (3) 準   備

     1.用具 サッカー用ボール,たすきまたは帽子・笛等

     2.競技場 縦60ヤードないし100ヤード

           横40ヤードないし60ヤードの矩形(図参照)

        

 

 

 

ただしサッカーの競技場ゴールを使用してさしつかえない。

    (4) 方   法

     1.ゲ ー ム

 競技場の中央において一方の組からけり始められたボールを,サッカーのようにけり,ドリブルし,またはヘッディングして進み,けられたボールが空中に上がった場合(フライボール)は,それをバスケットボールやハンドボールのように手で捕えてパスする等の方法で相手方エンドゾーンヘ進め,ゴールにけり込む方法,タッチダウンの方法,ドロップキックの方法等で得点を競う。なお一度地面に落ちたボール(グラウンドボール)はふたたびサッカーの方法で行う。ゴールキーパーは特別の権益を持たず,またオフサイドもない。
     2.規則と用語

    (1) 競技者および時間

     1チーム11名(5・3・2・1)ただし広さに応じて適宜変える。狭いときは7名ぐらいがよい。時間は20分—5分—20分,あるいは8分クォーターで行ってもよい。

    (2) ボールの扱い

     ボールが地面に静止し,ころがり,バウンドしている場合,これをグラウンドボールといい足で扱う。

     空中にあるボールはフライボールと称し,バスケットボール・ハンドボールの場合のように手で扱う。

    (3) キャリングボール

     ボールを持って三歩以上歩きまたは走ることはできない。また三秒以上持ってはならない。

    (4) ボールが競技場外に出たとき

      (イ) サイドライン外

       ボールを出した反対側の者が,その地点から投げ入れる。

      (ロ)エンドライン外

       ボールを出した反対側がその地点からキック(バンドまたはドロップ)またはパスをする。

    (5) 得   点
      ① フィールドゴール   3点

      ② タッチダウン     2点

      ③ ドロップキック    1点

      ④ ペナルティキック   1点

    (6) 反   則

     反則にはファウル(パーソナルファウルとテクニカルファウル)とヴァイオレーションとがある。

     エンドゾーン内でのファウルには1ないし2回のペナルティキックを与える。エンドゾーン外のファウルには1回のフリーキックを与える。

    (7) 補欠の交代 タイムアウトはバスケットボールと同じである。

    (8) パント 手に持ったボールを離しつつ地面に落ちないうちにけること。

    (9) ドロップキック ボールが地面に落ちた瞬間にけること。

    (10) プレイスキック ボールを地面においてけること。

     3.審 判 法

 審判はひとりの主審と,ふたりの線審がこれにあたり,記録員・計時員を助手としてゲームを行う。

 審判はゲームの開始より終了まで全責任をもち,規則に従ってゲームを公正に進めることに専心する。

    (5) 指導上の留意点

1.グラウンドボールのキックおよびドリブルの指導

    (1) キック キックには,けるときの足の使い方によって区別されたインサイドキック・インステップキック・トウキック等,あるいは,けるときのボールの扱い方によって区別されたパント・ドロップキック・プレイスキック等,種々の方法があるが,その指導においては次のことを注意すべきである。
      ①それぞれのキックの基本的な姿勢をじゅうぶんに指導すること。

      ②キックの用法を理解させ,その目的にそうように指導すること。

      ③最初は静止しているボールをけらせ,順次ころがり動いているボールをけらせる。

      ④ボールをよく見てけることを指導すること。

    (2) ドリブル ドリブルはプレイヤーが継続してボールを保持し,また相手を抜いて有利な位置にボールを進めるときに用いられるが,その指導においては次のことを注意すべきである。
      ①ドリブルする際の足の運び方,姿勢等を正しく指導すること。

      ②始めはゆっくりしたドリブルを指導し,しだいに走りながら確実にドリブルするように導くこと。

      ③じゅうぶんボールを見,さらに四囲に注意しながらコントロールしつつドリブルするよう指導すること。

      ④ドリブルは個人技に属するから,チームワークを破らないように指導すること。

2.グラウンドボールのキックアップの指導

 これには自分でボールをすくい上げる方法と,味方の者にパスする方法とがある。自分でボールをすくい上げる方法には,両足ですくい上げるのと,片足ですくい上げる方法とがある。いずれの場合でもボールをよく見てタックルされる危険のないときに行うように指導する。

 なお味方の者にボールを上げるときは,

    (1) ボールの下に足を位置させ,よくボールを見ながら行うこと。

    (2) ボールをキックしてはならないこと。

    (3) 遠くの者でなく,近くの者に渡すこと。

    (4) 最初は静止しているプレーヤーにすくい上げて行わせ,しだいに走りながら行わせること等に留意させる。

3.フライボールのパスの指導
 このパスはバスケットボールやハンドボールとほとんど同じで,近くのパス(チェストパス),遠くのパス(ショルダーパス)等を指導する。

最初は静止し,しだいに走りながら行う。この場合ボールをよく見て行い,

 目標を決めて行うよう指導する。

 またタッチダウンの方法も合わせて練習するようにする。

4.簡易な攻撃法と防禦法の指導
 攻撃法としては,グラウンドボールの場合はサッカーと同様に,フライボールの場合はバスケットボールやハンドボールと同様な方法で行う。

 11名のうちフォワードは5人で攻撃を主とし,ハーフバック3人,フルバック2人はサッカーの場合よりも攻撃に多く参加する。

 攻撃の方法としては「V」字形のフォーメーションが用いられる。

 グラウンドボールおよびフライボールの扱い方により,スピーディーなしかも変化に富んだ攻撃が展開できる。

 防禦法としては,だいたいサッカーの方法で行うが,フライボールの場合や,ゴール近くにおいてはマンツウマンで自己の相手をはっきり守るようにしなければならない。その場合,ハーフバックおよびフルバックは,相手のフォワードを完全に守るようにする。

 次に攻防の一般的注意を述べよう。

    ○攻   撃

    (1) 常にゴールに向かってボールを進める。

    (2) フォワードはもちろんのことハーフバックも攻撃の重要な部分を果たすべきである。

    (3) フィールドゴールやドロップキックをしばしば試みることが必要である。

    (4) グラウンドプレーと空中のプレーを適宜使用するのが効果的である。

    (5) チーム・ワークを完全にして攻撃することが得点の第一要件である。

    (6) 攻撃から防禦に移ることを忘れてはいけない。

    ○防   禦

    (1) 相手をプレーすることなく,ボールをプレーしなければならない。

    (2) ボールを得点可能な地域外に出すことに努める。

    (3) チーム・ワークをとって完全に守ることがたいせつである。

    (4) 相手プレーヤーの動きを予測するように努め,機先を制するように防ぐことがたいせつである。

    (5) 常に攻撃することを忘れてはいけない。

 4.ソフト・ボール(中学校女子の場合)

    (1) 歴   史

 ソフト・ボールの生みの親はベースボールである。ベースボールは英国の国技クリケットにヒントを得て1米人が考案したものといわれる。すなわちアメリカの若い土木技師アブナー・ダブルディー氏によって1839年ニューヨーク州のクーバースタウンで始められた新興スポーツである。これがわが国に渡来したのは明治6年(1873年)で,東京大学の前身開成学校の教師であったホレエス・ウィルソン氏によって紹介されたと伝えられている。ソフト・ボールはこのベース・ボールから考えついたボール・ゲームであり,やはりアメリカ人の手になったわけである。

 わが国では大正14年ころから行われ始め,翌年の学校体操教授要目の改正時に新要目中に加えられたのを契機として広まった。その後時代の流れとともに盛衰は見られたが,どんな時勢にあっても良い大衆的なスポーツとしての価値を認められてきたものである。ことに戦後ベース・ボールとともに盛んに行われていることは周知のとおりである。

    (2) 特   徴

 この球技の特徴としては,

Ⅰ.比較的狭い場所でできる。Ⅱ.用具が簡単である。Ⅲ.人数に幅がある。(1組7,8名から15,16名ぐらいまで伸縮できる。)Ⅳ.だれでもおもしろく容易にできる。(イ) ボールがよく打てる。(ロ) ボール拾いに苦労しないで済む等をあげることができる。

    (3) 準   備

1.用具 ソフトボール・ベース(30センチ四方),バット

2.競技場(図参照)
 

    (4) 方   法

 1.ゲーム

 2組が,攻撃組と防禦組に分かれ,攻撃側は所定の場所で投手よりのボールを打ち,次々に三つの塁を踏んでアウトされることなく本塁に走りもどる。守備側は,打者および走者をアウトにすることに努め,3人アウトになれば攻守を交替する。適当な回数を行い本塁を踏んだものの数によって勝負を決める。
 
     

 

 

各塁間 10.5メートル〜15メートル

     2.規   則

    (1) 競技者および回数1組9名(ただし状況により適宜増員する。)回数は5〜9回とする。

    (2) 投   手

      Ⅰ 投手は投球に際して,打者に面して立ち,両足はピッチャーズプレートの上に置かねばならない。そして球を胸の前に持ち,その後一歩前方に踏み出して投げる。この場合一歩以上踏み出して投げることは許されない。

      Ⅱ ボールは腕を体と並行に振って下方から投げる。腕を振りまわしても,またカーヴをかけることもよい。

      Ⅲ 次の場合は投手の違法投球でボークとなり打者は無条件で1塁を得る。

       (イ) 投手がプレート以外の場所から打者に向かって投球したとき

       (ロ) 球を見せずに投げたとき

       (ハ) 投球の際一歩以上踏み出したとき

       (ニ) 側方や上方からの投げ方をしたとき

       (ホ) 投球の動作をして投球しなかったとき

       (ヘ) 故意にゲームを遅らせるためにボールを長時間持っていたとき

      Ⅳ 投手の投げたボールが打者のひざから上,肩の高さとの間で本塁の上をとおったときはグッドボールである。(ストライク)

      Ⅴ 投球が打者の体に触れた場合は,デッドボールであるが,ベース・ボールと違って,打者には塁を与えない。もし投手が誤った場合はボールとし,打者が故意にボールに触れたときはストライクとする。

    (3) 打   者
      Ⅰ フェアボール

       打ったボールが,ファウルラインの上および内側に落ちればこれをフェアボールとする。野球と異なって最初地面または物体その他防禦者に触れた位置によって決定する。

      Ⅱ ファウルボール

       ファウルライン外に打ったボールが落ちたときはすべてファウルボールである。これも最初落ちた点によって決定する。

      Ⅲ ストライク

       (イ) グッドボールのとき

       (ロ) 打者が打撃の動作をしてあたらなかったとき

       (ハ) ファウルチップ(打ったボールが打者の頭よりも低く後に飛んだ場合)が捕手によって捕えられたとき

      Ⅳ 打者がアウトとなる場合

       (イ) 3ストライクが宣せられたとき

       (ロ) 打者が故意に捕手を妨害したとき

       (ハ) 打者の打ったボールが落ちないうちに捕えられたとき

      Ⅴ 打者が走者となる場合

       (イ) 打者がフェアヒットをしたとき

       (ロ) 3ボールが宜せられたとき(または4ボールとしてもよい)

       (ハ) 審判員が違法投球を宜したとき

    (4) 走   者
      Ⅰ 次の場合,走者は塁を離れられない。

       (イ) 投手がボールを持ってピッチャーズプレートにある間

       (ロ) 投手が投球用意をしている間

       (ハ) 投手の投げたボールが打たれない場合には,そのボールが捕手に達するかまたは捕手を通過するまで走者は塁を離れられない。(それよりも,早く出発したときは呼びもどされる)

      Ⅱ 走者が塁を得る場合

       (イ) 審判員が3ボールを宜し,または違法投球を宣したときに,走者が自分の塁を次にくる者にゆずらなければならないとき

       (ロ) 投手の投球を捕手が逸し,または受けとめ得なかったとき

       (ハ) ボールをもたない塁手に進むことを妨げられたとき

       (ニ) 投手が塁に帰るに必要な時間を与えないとき

       (ホ) フェアヒットのボールが審判員に触れたとき

       (へ) フェアまたはファウルフライが地面に触れる前に受けとめられたとき,もし球が受けられるまで塁を離れなかった走者は球が受けられてから塁から進むことはできる。

      Ⅲ 走者がもとの塁にかえされる場合

       (イ) ファウルボールが受けとられずに地に落ちたとき

       (ロ) 審判員が違法投球を宣したとき

       (ハ) デッドボールを宣したとき

       (ニ) 早く塁を出すぎて審判員に呼びかえされたとき

      Ⅳ 走者がアウトになる場合

       (イ) 打者がフェアヒットを打ち,そのボールが地に落ちる前に防禦者に捕えられたとき

       (ロ) フェアヒットの後,走者が第1塁に達する前に故意にそのボールをけりまたは捕球を妨げたとき

       (ハ) フェアヒットの後走者が第1塁に達する前に防禦者のもったボールに触れたとき

       (ニ) フェアヒットの後走者が1塁に達する前に,1塁に触れている防禦者がボールを持ったとき

       (ホ) 走者が塁を進むとき,防禦者のもつ球を避けるためにベースラインから1メートル以上離れたとき

       (へ) 走者が打たれたボールを捕えんとする防禦者を回避し得なかったり,投げられたボールを妨害したとき

       (ト) 走者が塁から離れているとき防禦者のボールで触れられたとき

       (チ) フェアボール・ファウルボールが正しく捕えられて走者が前の塁にもどる前に防禦者のボールで触れられ,またはその塁に触れられたとき

       (リ) フェアヒットボールが直接走者にあたったとき,ただし走者が塁にいる間はアウトにならない。

     3.審 判 員
 ひとりの球審,ひとりないしふたりの塁審,ひとり以上の記録員
    (5) 指導上の留意点

     1.投・捕球の指導

    (1) 投   球

 ピッチャースローはアンダーであるが,最初はやはり全般に普通の投球法をじゅうぶん練習させる。投球動作については,左のように分解し,女子の陥りやすい欠点と対比して指導するのがよい。
 

(正しいフォーム)

(女子の陥りやすい点)

重心の移行

 ①左足をあげ,右足で全身をささえ体を後

  に引き

 ②右足を前に1歩踏み出し,腰をひねるこ

  とにより重心を左足へ移してくる

 

投げる腕の振り

 柔らかに後方でとめずに振り出しボール

を放す瞬間に最も速くなる

 

ボールを放す時機

 手首と指でじゅうぶんボールを押さえて相当前方で放す

 

 ①投げる方向へ体を正対させ体重を両足

  の上に乗せ

 ②腰をひねらずジャンプ気味に腕だけで

  投げる

 

 

 腕を後方に引いたときに最も力を入れ,ひ

じを曲げたまま振り出してボールを放すと

きに力を抜いてしまう

 

 ボールを押さえることができず腕が顔を過ぎるとすぐに放してしまう

    (2) 捕   球
 捕球では出足がにぶい,ボールをこわがる,全身をこわばらせる,立ったまま半分浮き腰で手首を伸ばし指先をボールのくるほうへつき出して受ける等の欠点があるので,その点を考慮し,練習により,次のような正しいフォームを身につけさせる。

(正しいフォーム)

    ①首・肩の力を抜き,手首を柔らかにし

    ②ボールに正対して腰を少し起し

    ③両手をボールに合わせて引きつつ捕える。

     なおゴロボールの取方については,動きの動作がおそく,しかも前進に積極性がなく,また腰の落し方もふじゅうぶんであるから,基本練習で次のような正しいフォームを修得させる。

    ①前進して腰をよく落し

    ②上体を前にかけ,よく開いた両手の指先を地面につけて捕える。

     なんといっても投・捕球はソフト・ボールの重要な基礎の一つであり,その要領を得させるためには,ゲームの間にその経験を深めるとともに,特にその基礎練習が必要であるが,次にその実地指導の1例を掲げ参考としよう。
    ○指 導 例

    ◇用具 ソフト・ボール(柔らかめのもの)6名に1個ずつ

    ◇班別 各班とも6名

      A キャッチ・ボール—1班の人員を2分—4,5メートルの距離を取って相向かわせ,軽く自由に投・捕球の練習,慣れるに従ってしだいに距離を遠くしていく。

      B 距離投—図のごとく一つの班を2組に分け

             

        ①○組の者が投げたボールは△組の者が拾って投げる。(その際落下の距離を互にいい合わさせる)

        ②適当なときに投げの要領を指導する。

        ③図のように20メートル以上は3点,以下2点1点と換算して個人点を比べたり,また合計して各班の競争をやらせる。

        ④機を見て長距離のキャッチボールヘ結合する。

        ⑤投げさせるときの注意としては—ラインに直角に立たせ,右(左)肩を後に引き一度天を仰いでから肩を投げる方向へかぶせるような気持で実施させる。

      C 正確投と捕球—図示のとおり直径10メートルぐらいの円陣を作り,数字に従い星形に投・捕させて行く。①投者は捕者に正しく左肩を向けて立ち,捕者は両手を胸前にあげて投げる目標を示すようにさせる。②投げるときはボールを前方まで押さえて,捕者の手へ押しあてるような気持で行わす。③ゴロの練習も同じ形でやらせる。特にバウンドの落ちるところを取らせる。④しだいに早いモーションを練習させる。⑤雨のときは体育館の壁等に,まとを設けて練習させる。
              
     2.規則の概説の指導
 野球の規則と対比させながら,次のようなおもな事項についてその相異点を理解させるよう指導するがよい。
    ①ボール

    ②投手の投げ方

    ③離塁

    ④ファウル

     3.バッティングの指導
 バッティングはピッチングと兼ねて指導するが,それには5,6名を1班とし,次図のような形で練習させ,その間に正しいバットの持ち方(指のつけ根を中心として軽くバットを握る—バットのはしは7〜10センチあけて),姿勢(右足をやや本塁に近づけ,左足をわずかに斜めに開く),バットの振り方(最初はボールにあてることを第一目標とし短く振り,しだいに熟練したらボールがあたる瞬間手首を締めてバットを鋭く振る)等を学習させるがよい。

     

     4.ベースランニングの指導
 ただ無意味に塁上を走るのでなく,一瞬を争うボールと走力の緊迫した関係を念頭におかせることがたいせつである。方法は①前の走者が塁を踏むと次を出発させる。②塁前で体を内側に傾け,塁の角を左足で踏み,左腰を軸としてまわらせる。③また時には塁上で急停止もさせる。④補助運動として陸上競技のスタートダッシュ・リレー等を加える等を総合的に取扱うがよい。
     5.内野・外野における守備の指導
 守備の要点はあらゆる地点に打たれる球質の違ったボールを取り,意図する点へ早く正確に投げることである。これは捕球練習を発展し体をくずさずに取り,早く目標に向き,少し前進して投げさせること。特に高いフライは1,2歩後でとまり前進して取ること。また内野手に必要なタッチの方法(なるべく塁上で捕球し体を斜め左に開いて低く構え,両手でしっかりつけさせる)外野手に必要なライナー性のワン・バウンドの投法等へと進めることが望ましいが,投力の弱い女子には転送球による守備を重視するがよい。
     6.ゲームの指導

    (1) 始めのころ ①始めのころはベース・ラインを8〜9メートル,投・捕手の距離を7〜8メートルとする。②守備力の劣るときはフォア・ボールを廃したり,ベース・ラインを少し長くしたり,あるいは離塁のときを制限したり,ツウダウンでチェンジにしたりする。そしてまた攻撃の劣るときにはその逆で行く。③時には投手・捕手を1回ごとに交代させていくゲーム法も用いる。④注意すべきは打者が投げ出すバットである。ことに捕手のほうへ投げ放す者がいるからじゅうぶんに警戒させる。

    (2) 進んだころ自主的・研究的に行わせる。①必要に応じゲームを一時中止させ,実情に即して指導すると効果が上がる。②〔攻〕どこへ打つのが最も効果的か。バントはどんなときに用いたらよいか。〔防〕自ティームの守備はどこが悪いか。ダブルプレーはどんなときに起りやすく,どういう点に注意してやるか等問題を投げかけながら指導を進めていく。
    7.そ の 他

 この球技の指導については以上に述ベた諸点のほか,一般的に次の留意が必要である。
    (1) 女子は勘の力が劣り,急激な動作も苦手であるから,その指導は計画的・段階的であること

    (2) バットの扱いに関連して,特に危険防止に努めること

    (3) 秩序正しい行動をとること。特にゲームの際の交代を迅速にすること

    (4) 能力の状況に応ずるゲーム回数を決定すること

    (5) 上品なゲームであること

 

 5.陸上競技(中学校女子の場合)
 
    (1) 歴   史

 陸上競技はすでに紀元前700年代に行われた古代オリンピック競技にその種目として採り上げられ,またスポーツの中で最もその歴史が古く,現在においても世界のすべての国に広く行われており,オリンピックにおける中心種目である。わが国で最初に陸上競技会が開かれたのは明治18年(1885)であるが,現在わが国においても最も普及しているスポーツの一つである。

 なお,わが国が近代オリンピック大会に初めて選手を送ったのは1912年ストックホルムに開かれた第5回大会で,その際は陸上競技のみに2名の選手を送っただけであったが,その後しだいに多くの選手を送り,第9回大会から陸上競技・3段跳びにおいて毎回優勝の栄冠を得,常に世界的地位を占めている。

 現在陸上競技世界記録の中には田島直人選手の出した3段跳び(16メートル)が名を連ねている。

    (2) 特   徴

 スポーツの中でも最も古い歴史と普及度をもつことはそのまま陸上競技の特徴を裏書きするものであるが,具体的には次のようにあげることができよう。

    1.人間生活に必要な基本的運動能力を高めるのに役だつ。

    2.個人的に成績が計測できるので,自己の運動能力を知ることができるとともに,過去の成績と比較して,その進歩がわかり,また他人との比較も容易である。

    3.用具が比較的にいらず,方法が単純素ぼくであり,個人でどんな場所でも適当に実施することができる。

    4.個人の努力によって自己の力をじゅうぶんに発揮することができ,また体育的効果をじゅうぶんにあげることができる。

    5.他のスポーツの基本能力の養成に役だつ。

    6.身体の支配力,軽捷な動作を練り,果敢持久の精神を養う。

    (3) 準   備
    1.用具 陸上競技用具(スターテングブロック,または穴掘り・バトン・巻尺・高跳びバー・ストップウォッチ・出発合図器・砂ならし具・ライン引き等)

    2.競技場 幅跳び・走高跳び場を備えた一周200メートル以上のトラック

    (4) 方   法
     1.短距離走
    (1) フォーム
      ①足の運び方 全力疾走において後足先で力強く地表をけって踏み切り,腰から足までほど良く伸び,次にその足の力を抜いて後に軽く流してからももをひざから曲げて前上方に引き上げ(次図),次いで足先をまっすぐ前に向けて地表をたたくつもりで足先を踏みつける。両足の運びは早いほど良いが,そのために歩幅が狭くならないようその調和を保つ。

      ②腕の振り方 ひじをほぼ直角に曲げ,手が腰の線をとおるように前後に振るのであるが,手を前に出したときはひじが胸よりもあまり前に出ない程度にし,すばやく後に引く。なおその場合腕の力を抜き,腕のとおる線がだいたい平行または平行より少し前においてせばまるようにしたほうがよい。

           

      ③体の前傾 腰を中心として重心を正しく前に移動させるためには少しく前傾し,頭から腰までまっすぐに常に腹部に力が集中するようにしなければならない。腰は常に高く保っておく。

    (2) ペ ー ス
 スタートとラストで呼吸をとめ,中間走で自然に呼吸し,無理のない自然なフォームで走る。
    (3) スタート
 短距離走のスタートでは通常クラウチングスタート法(蹲踞法(そんきょほう))が用いられる。スタートはスターティングブロックを用いて行うか,それの無いところでは穴を掘って行う。(次図)

     

 「位置について」で①前穴に足を入れ②手を出発線の手前に肩幅に腕と指をじゅうぶん伸ばしてつき③後足を穴に入れる(Ⅰ図)。「用意」で①体を少し前に傾けながら②後足のひざを伸ばさないようにして腰を頭の高さにあげ③目は苦しくならない程度に前方を見④後足の力を抜き⑤なるべく早く固定した態勢をとり,その後は微動だもしないようにする(Ⅱ図)。「用意」の合図の後約2秒で「出発」の合図(信号器・拍手・拍子木・笛等)をする。出発の場合には①両腕を曲げ前後に力強く振り,②前足でふんばり,上体とともに③後足のひざを斜め前上方に引き上げ④上体を前に伸ばすようにして腰を力強く移動させる(Ⅲ図)。スタートしてから数歩は速力を生むため,身体の各部分を協力させてばく進させるのであるが,その努力は5歩〜10歩ぐらいでじゅうぶんであり,後はしだいに上体を起し,軽快なフォームで加速度的に全力疾走に移る。

    (4) フィニッシュ
 ゴール前約20メートル〜30メートルよりラストスパートにはいるのであるが,この際一段と気を引きしめ,上体をわずかに前に傾け,腕を力強く後に振って,ももを高く前に引きあげ,ゴールに向かって突進する。決勝線の切り方はいろいろあるが瞬間的に上体を前傾するのがよい。
    (5) 規   則
      ①スタートの際の手の位置が出発線より前に出てはいけない。(出発線は白線の走者側の端線である)

      ②不正出発を2回すればオミットされる。

      ③自己のコース以外を走ると反則である。

    ○指導上の注意

    1.興味の持続を深く考慮し,基礎の練習ばかりせず,また競走ばかりに終始しないことがたいせつで,適宜に距離を伸縮したり,ハンディキャップで競走したりする等くふうする。

    2.時おり走力テストを行う。

    3.能力の班別を原則とする。

    4.リレーと関連して指導するなど,おそい者に対しても興味をもたせる方法を考える。

     2.長距離走
    (1) フオーム
      ①足の運び方 長距離走において用いられる走法として従来大また走法(ロングストライド)が強調されたが,現在は短距離走と少しも変わらない走法がよいとされている。要は各個人が気持よく走れる方法がいいので,そのためには自然的な足の動きが身につけられなければならない。ただ長距離走で短距離走と異なる点は足裏全体を地につけて走ることである。

      ②腕の振り方 両腕は足の運動と調和して前後に自然に振り,両肩は腰部のひねりに応じてほどよくかわす。

      ③体の前傾 長距離走においては特に体の前傾に注意し,一歩一歩けった力が頭の先まで正しく乗ってくるようにすることがたいせつである。

    (2) 呼 吸 法
 呼吸はごく自然に身体の動きに応じて無意識にするのがよく,無理に従来のように初めからしいる必要はないが,生徒によっては効果的であるから一応指導しておくがよい。その方法に1呼2歩1吸2歩,または1吸1歩,1呼2歩等がある。なお鼻だけ呼吸することは苦しいから口で軽く呼吸するのが普通である。
    (3) 持 久 走
 最初は比較的長い距離をできるだけゆっくり走る(ときどき歩く)ことから徐々に距離を短くし,しだいに早く(通常のかけ足程度)走りとおす練習をし,それを5分ないし7分継続できるまでにする。
    ○指導上の注意

    1.もっぱら持久走(かけ足)に終始するがよい。

    2.持久走の実施にあたっては必ず事前に健康調査をする。

    3.自己のペースを認識させるようにするとともに,班別に細心の注意を払う。

     3.障 害 走
    (1) ハードリング
 なるべく姿勢を乱さずに上体を前傾し,前足をひざから引き上げてまたぎ,後足を横に開き,ひざから曲げてまわし,すばやく前に出す。この場合の腕は前足と反対側の腕を前方に伸ばしてバランスをとる。
    (2) ハードル間の走法
 ハードル間は次のハードルをまたぎ越すのに適当な位置に踏み切りのできるように走る。
    (3) 競   走
 ハードル間を3歩また5歩で走れる程度の距離にハードルを置き,60メートルないし80メートルを競走させる。
    ○指導上の注意

    1.低障害を最高とし,最初は1個のハードルについてよく練習させる。1個が良く跳べるようになったらだんだん増していく。

    2.特に,また関節の可動性,足の筋肉の伸長性を増す補助運動をじゅうぶんやってから実施する。

    3.ハードル間の距離に無理のないようにし,危険防止に留意する。

    4.油断をすると転倒するから,常に注意を集中させて実施する。

    5.腰掛・平均台・ゴムひもを代用する。

    6.他の者のまたぎ越しの要領を見させ,自分の越し方の参考にさせる。

    7.熟練してから競走させ,しかも班別で行うようにする。

     4.リ レ ー
    (1) バトンタッチ

     ①基本 Ⅰ.2名1組でバトンを後の者の左手から前の者の右手に渡す。

      Ⅱ.縦隊でⅠのように受渡し,受取った者はそれを左手に持ちかえてさらに次の者の右手に渡す。

      Ⅲ.Ⅱの場合を競走する(片道または往復)。

     ②セパレートコースの場合のバンドタッチ
      Ⅰ.歩測 受取る走者は大またでリレーゾーンの手前約5歩のところに目標線を引き,前走者を待つ。

      Ⅱ.出発 渡す走者の足が目標線に達した瞬間,受取る走者は前方を見,スタンデングスタートの要領で,全力でかけ出す(かけ出してから力をゆるめたり,後を見たりしない)。

      Ⅲ.受渡し 受取る者は渡す者がリレーゾーン(20メートル)の中央線(10メートル)に達しようとする瞬間,右手(またはきき手)を直後に(手を後または下に向け,おや指と他のそろえた四指との間を開き)伸ばして上げる。渡す者はその手を見ながら呼吸を合わせて渡す。なお渡した者はそのまま自己のコース内にとどまる。受取る者がひじを外に曲げ手を上に向けて指先を腰につける方法(体の側で輪をつくる)もある。(図参照)現在では後の方法が最も新しいとされている。なお受渡しはゾーン内12,3メートルで行われるのが理想的である。

           

     ③オープンコースの場合のバトンタッチ

     要領はセパレートコースの場合とほぼ同様であるが,コーナートップの順に受取る者が内側から並ぶのが慣例なので,そのため歩測が完全に行われがたく,この点がセパレートコースの場合より技術的に困難な原因である。そしてこの場合は目測で判断する力にたよるより方法はない。

    (2) 作   戦
 相手チームの順序を予想して走者を配置するのが作戦である。だいたい一般にはスタートの最も速い者を第一走者に,最も強い者を最後走者に配置するが,状況によっては速い走者から順次に配置する逃げ込み作戦,または反対の追い込み作戦が用いられる。
    (3) 競   走

     ①バトンタッチ競走(100メートル—ひとり25メートルずつ4人)

     ②200メートルリレー競走(ひとり50メートルずつ4人)

     ③400メートルリレー競走(ひとり100メートルずつ4人またはひとり50メートルずつ8人)

     ④800メートルリレー競走(ひとり100メートルずつ8人)

     ⑤その他のリレー競走(各組多人数で行うもの—ひとり50メートルないし100メートルずつ)

    (4) 規   則

     ①バトンゾーンを出て受取ると反則で除外される。②セパレートコースの場合,自己のコース以外に足を踏み入れると反則である(バトンを渡し終った者でも全部のチームが通り過ぎるまではコース内にとどまらなければならない)。③ころんでバトンがわれた場合はその一片をもって走ってもよい(慣例)。④バトンは必ず手渡しされなければならない(投げ渡したり,渡す者が転倒して手離したものを受取る者が拾ったりしてはならない)。

    ○指導上の注意

    1.バトンタッチの巧拙が結果に重要な役割をもつことをよく認識させ,じゅうぶんに練習させる。特に確実な歩測と,そのかけ出しの判断と決断,さらに受取る者のスピードがじゅうぶん出たときに渡すことを重視して指導する。

    2.陸上競技において唯一のチームレースであるから,競走において特にチームワークを中心に指導する。

    3.組合わせにいろいろくふうを擬らし,機械的な組合わせのために走力の弱い者の興味をそぐことのないようにする。

    4.コーナーにバトンゾーンを設けた場合は突きあたらないようじゅうぶん注意して指導する。

    5.規則をじゅうぶん理解させる。

     5.幅 跳 び
    (1) 立幅跳び
 踏み切り板上に(踏み切り線の手前)立ったまま,腕と体の前後屈とを利用して前方に跳ぶ。空間ではじゅうぶん体を伸ばし,着陸のときにはひざを上体に引きつけるようにして両足をふり出す。
    (2) 走幅跳び

     ① 助走と踏み切り

     次の図のように歩測した後,走り出し,徐々に速力を増して,踏み切りの直前2,3歩前で最高速度になる(速力の早く出る者は助走距離を短くする)。

     助走ではきき足で第1第2の目標を踏むようにし,踏み切りで足が合わなければ出た分は足らない分だけ目標を下げまたは出す。踏み切りでは足先のほうに力を入れながら足裏全体で強く踏み切り板をたたきつける踏み切りと同時に反対の足をひざから折り曲げ,強く上前方に振り出し,踏み切り足の伸びを助けるとともに上昇の力を生むようにする。このとき両腕は前後に強く振る。

     ② フォームと着地

     フォームとしては大別してはさみ跳びとそり跳びがあるが,そり跳びはむずかしいので,中学校女子でははさみ跳びが適当であろう。はさみ跳びは空間を走るように足を前後に振る方法で,最もたいせつなことは空間で体(腰)が伸びることである。このために体が上がり始めたとき,腕を上に振り上げて体が伸びることに協力させる。着地のときにはひざを上体に引きつけるようにして両足を前に振り出す。

     ③ 競   技

     個人またはチーム(跳躍距離の合計で)でより遠く跳ぶことを競争する。

     ④ 規   則

      Ⅰ.踏み切り線より前で踏み切ると反則で無効である。

      Ⅱ.踏み切り線から着地点の踏み切り線に最も近いはしまでを踏み切り線に垂直に計測する(センチを単位とし以下のは数は切り捨てる)。

      Ⅲ.着地後でも後方に手または足あるいは体の一部をつけたときはその点を着地点とする。

      Ⅳ.砂場以外に着地しても有効で,その場合はその地点から踏み切り線の延長線までを垂直に計測する。

    ○指導上の注意

    1.立幅跳びから始める。

    2.実施前の諸検査および随時に能力テストを行うがよい。

    3.踏み切り板と着地点の中間にゴムひも等を張り,体を上昇するための踏み切りの練習をするなど効果的にくふうする。

    4.フォームの向上に関心を持たせる。

    5.砂場をじゅうぶん整備し,危険のないようにする。

     6.走高跳び
    (1) 助走と踏み切り

     助走は腰を高くし,脚力に応じ無理のない速度すなわち最後の3,4歩で踏み切りの準備をして腰を下げ,最後の1歩でいくぶん広く踏んで上体を起すことができる程度に速く走る。助走距離はだいたい10メートルから15メートルぐらいで,初めに歩測をもって調節し,自己の距離を定めておくと良い。踏み切り足を走ってきた方向に向けたまま足裏全部を強く地面にたたきつけ,反対のひざを自然に曲げて胸に引きつけるように振り上げる。両腕は踏み切りに合わせ身体の浮揚を助けるために肩を引き上げるように上に振る。

    (2) フォームと着地

     フォームとしては大別して,正面跳び・ロールオーバー・ベリーロールの三つの型があるが,中学校女子では正面跳びが適当であろう。正面跳びは横木に対し正面から助走して跳ぶもので,振り上げ足が八,九分どおり振り上げられたときに,踏み切り足は地表から離れ,次に振り上げ足が横木を越したならば,ただちにこれを後下方に振りおろし,これと同時に踏み切り足を胸の近くまで引き上げる。横木を越えると踏み切り足を引き下げこの足から着地する。

    (3) 競   技

     個人またはチームでより高く跳ぶことを競争する(同じ高さで各自最大限3回)。

    (4)規   則

     ①高さは横木の中央の上辺から地面までを垂直に計測する。

     ②同記録の場合は1位を決めるために次の規則を用いる。

      Ⅰ.同記録の者の長後に跳んだ高さでだれが回数少なく成功したかによって決める。

      Ⅱ.Ⅰで決定しないときはその者が跳んだ全部の回数の中の無効試技数の少ない者から順次に等位をつける。

      Ⅲ.Ⅱで決定しないときは,その者が跳躍を試みた全部の回数の少ない者から順次に等位をつける。

      Ⅳ.Ⅲでもなお決定しないときは最後に失敗した高さでもう一度跳んで決める。(以下日本陸上競技連盟規則参照)

    ○指導上の注意

    1.興味深い遊戯的方法(たとえば高跳び競争)から始める。

    2.実施に先だち,素質検査を行い,練習結果との比較をさせる。

    3.班別その他で,時間を有効に利用するようにする。

    4.フォームに関心を持つように指導する。

    5.時おりテストを行う。

    6.砂場・横木その他の施設用具を整備し,けがをさせないよう留意する。

    (5) 指導上の留意点

1.歴史の指導

 各種目についての各方面の歴史,すなわちオリンピック大会に関するもの,著名選手(チーム)の記録・逸話等に関するもの,各種記録(世界・日本・学校)とその変遷の歴史に関するものを実技の指導と関連づけて指導する。

2.ジョッキングの指導

 ジョッキングは走る基礎でもあるから全身の力を抜いてまっすぐに体を伸ばしたまま少しく前傾し,ひざから軽く曲げてリズミカルに助走する要領およびその目的・効果等について理解させ,身につけさせることに力を注ぐとともに,それによって学習意欲を喚起するよう指導する。

3.準備・整理・補助運動の指導

 準備・整理・補助としての徒手体操特に柔軟運動の重要性について認識させる。

4.審判法および競技会の運営の指導

 特に上学年についてはこの指導に力を入れ,実地に競技会形式をとり,種々の審判法を体験させ,将来の生活において必要な問題の処理についての能力を得させるようにする。

5.練習法の指導

 次のような練習法の原則的段階を理解させる。

    (1) 準備体操(2) ジョッキング(3) 軽く5,60メートル2回(フォームに注意して)(4) スタート数回(5) 中心として練習しようと考えていた種目の練習(6) ジョッキング(7) 整理体操
6.そ の 他

 (1) 単元的に陸上競技を展開する場合は,まず種々の調査(テスト)を基礎とし,ある種目に偏せず走・跳・投の組合わせを適切にし,かつ漸進的・系統的発展に留意する。なお陸上競技は個人的種目が多く,かつ基本能力の練習が主体となるため,特にこれを女子に学習させる場合,その指導法いかんによっては興味を欠くのみならず一部の能力有る者が中心となりがちであるから,集団的取扱をくふうしたり,適宜遊戯や他の教材などを補助的に加えたりして,その効果をあげるよう考慮することが必要である。

 (2) 対象が女子であるからあくまでもフォームの練習を中心とし,いたずらに末しょう的指導に走らないよう留意するとともに,特に女性にふさわしい態度を養うために万全を期する。

 6.巧  技(高等学校男子の場合)

    (1) 歴   史

 巧技の名称は本書が初めて使用したもので,わが国独自の新しい考え方に基づいた教材名である。その内容とするところは技巧的運動全般であって,その運動を練習することにより器用さが得習されると見なされる種類の運動を総括したものであるから,厳密な意味では走高跳びや棒高跳び,水泳の飛び込み,球技等,技巧を必要とする運動はすべて巧技と呼ばれてさしつかえないのであるが,本書では教材全体の均衡を保つため,従来はっきり,ある名称で包括されている運動はこれから一応除くことにした。

 したがって従来の器械体操・ピラミッドビルディング・転回運動(タンブリング)に,スタンツ(簡単に見えてちょっとできない自試的運動)を加えたものが巧技の内容である。

 その意味で器械体操を初め,それらの各運動それぞれの歴史は,これをそのまま巧技の歴史と考えてよいであろう。

 功技の中核をなす主要運動は,あるいは遊戯として,あるいは体育運動として相当長い歴史を持っている。巧みに身体を活動させるということは,日常生活上非常に重要なことであり,特に古代における戦場では絶対に必要な能力であったので,巧技中の主要運動すなわち懸垂型の運動や跳躍型の運動中には,軍事能力の養成ということに関連して発達してきたものが相当多く,古代ギリシア時代には相当の技術程度まで発達していたといわれている。転回型の巧技の中のあるものなどはすでにその時代の絵画の中に残されている。転回型の運動は近代オリンピックにおいても体操競技中の種目として重視され,あるいは単独競技種目として,または徒手体操に含められて競技されている。懸垂型や跳躍型の巧技に属するものの多くは,いわゆる器械体操として第1回のオリンピック種目に採用され,それ以来今日ではさらに種々の種目を増し,盛んに行われている。

 わが国においても明治初年以来,体操の一部として行われ始め,大正以後はスウェーデン系の技術も加わり,懸垂・跳躍・転回運動は体操のはなとしてきわめて盛んに練習されたものである。

 巧技に関するわが国の歴史として見のがすことのできないことにオリンピック参加がある。日本の体操チームは1932年ロスアンゼルスで行われた第10回オリンピックに参加し,6名の選手を送ったが,なにぶん初参加のことなので,5ヵ国中の5位という成績であったが,ベルリンで行われた第11回大会には8名の選手を送り,欧米の強豪13ヵ国と堂々の競技をしてよく第9位の成績を得,日本人の技術的運動に対する適応性を示した。

    (2) 特   徴

 巧技の第一の特徴はそれを実施することによって豊富な器用さを身につけるということである。一口に器用さといっても,手先の器用さもあれば足だけの器用さもあり,また全身の器用さもある。特定の運動だけに上達することによってその運動の器用さを得たが,他のことについてはまったく応用がきかないという場合が相当多いものである。ところが巧技は元来が身体の器用さを円満に発達させるためにくふうされ選択された教材であり,しかもその中には性格を異にした器用さを訓練できる運動がきわめて多数あるので,それらの運動を総合的に学習することによって,真に身体がきくようにさせることができるのである。身体がよくきくということは,人生にとって非常に有利なことである。それは身体の自由すなわち柔らかさと力とが基礎となって,意志の命令に従って自由自在にかつ能率的に活動することを意味するから,万一の場合に生命の安全をはかることができ,また作業の能力も高められ,その訓練の過程において自己の身体的能力を知り,かついわゆる頭を練ることにおいても想像以上の効果が得られる。

 実に巧技はその学習指導過程では常に他との比較(個人またはチーム)において活動するので,知的発達および社会的態度の発達に大きな貢献をするが,中でも特にそれまでできなかったいろいろの技が一歩一歩できるようになっていくことが生徒各自に明確に自覚され,それがかれらの自信を深め,積極性の向上を促す点は,他に比し顕著な特徴であるということができよう。

    (3) 方   法

 

    (1) 前後開脚立(座)

直立姿勢からできるだけ足を前後に開く。

できるものは開いたまますわる。

    (2) 左右開脚立(座)

①直立姿勢からできるたけ足を横に開く。

②足を伸ばしてすわった姿勢から足を横に開く。

    (3) 横ひざつけ

ひざを曲げ,両足裏をつけてすわり,手でひざを押して床につける。

    (4) 頭(胸)つけ

①直立姿勢から体を前に曲げ,前頭部(または胸部)をひざにつける。

②足を開いてすわった姿勢から体を前(または斜前方)に曲げて頭(または胸)を床(またはひざ)につける。

    (5) うしろそり

①足を開いて立った姿勢またはひざを姿勢から体を後方にそらし,手または頭を床につける。できればその姿勢から元へもどす。

②伏臥姿勢から頭と足をできるだけ上げて体をそらす。手で足首を握ってもよい。

    (6) そりくぐり

体を後にそらした姿勢のまま前方に歩いて,一定の高さに置かれたひもや棒の下をくぐり抜ける。

    (7) そり橋

仰臥姿勢から手と足でささえて体をそらす。

    (8) 足かつぎ

足を前に出してすわった姿勢から片足を上げて肩にかつぐ。

○指導上の注意

① 徒手体操と結びつけて指導する。

② 準備運動なしに突然最高度までの柔軟性を発揮するように要求することは,けいれんを起したり,肉離れをしたり,あるいはいわゆる筋違いというような危険があるから,前もって全身のじゅうぶんな準備運動を行っておくとともに,ひととおりの準備運動が行われていても,なお個々の運動に際しては徐々に強度を増していくよう指導する。

③ できればまたの関節の柔軟度や,体の各方屈の柔軟度等は,尺度を使って表わすことを考慮する。

2.歩 行 型

    (1) 屈 膝 歩

①両ひざを曲げたまま歩く。

②手をついて犬のように歩いたり走ったりする。

    (2) 伸 膝 歩

①体を前に曲げて足首を握り,ひざを伸ばしたまま歩く。

②手を床について同様に歩く。

    (3) 横 歩 き

足先とくびすを交互に軸としながら,足を横に移動して進む。

    (4) 交 叉 歩

片足を交互に他の足の後方から回して前に出して歩く。

    (5) ひざ歩き

床にひざをつけ,足を後に上げ,足首を握った姿勢で歩く。

    (6) 体屈伸歩

①腕立て伏臥の姿勢から体を曲げて足を引き寄せ,次に手を前に進めて体を伸ばす。

②ひざを曲げずに①の方法で行う。(尺取虫)

    (7) ひざ立て歩き

2人組となり足を浮かした腕立て姿勢で歩く。

①手押車

②象歩き

    (8) 倒立歩

倒立して歩く。

○指導上の注意

① この類型に属するものは比較的幼稚な運動が多く,高等学校男子に対しては気分転換に利用することを主として指導する。

② 単にできるかできないかというだけでなく,競争化して指導する。

3.平 均 型

    (1) 片足立ち

片足をあげて他の足のひざにつけ,目を閉じて片足で立つ。

    (2) 水平立ち

片足を後(前・横)方にあげ,体を水平に保って片足で立つ。

    (3) 足の屈伸

①片足を前にあげて立ち,ささえている足を屈伸する。

②足を交叉して立った姿勢から,足を動かさずにすわり,または立ちあがる。

    (4) 片腕立ち

腕立て伏臥の姿勢から片手を離し,またさらに体を横向きにする。

    (5) 腕立て浮腰

足を組んですわった姿勢から,腰の横に手をつき,腰を浮かす。

    (6) 平均くずし

地床または台上で2人向き合い,手をたたき合ったり,手を握り合って押し引きし,相手の位置を動かす競争をする。

    (7) 倒  立

①足を支持して倒立する。

②マット上に頭をつけて倒立する。

③マット上にひじをつけ倒立する。

④肩を支持して倒立する。(人・平行棒)

⑤腕を曲げて倒立する。(平行棒)

⑥倒立をする。(床・跳び箱・倒立棒・平行棒・鉄棒)

    (8) 腕立て水平

ひじの上に腰部をのせ,体を水平に浮かせる。(床・腰掛・平行棒・鉄棒)

○指導上の注意

① 立って平均をとる種類の運動は比較的簡単であるから,習熟するに従って基底面を狭くしたり,高くしたりして程度を高め,かつ回転運動などとも結びつけて平均保持を一段と困難な状態において学習させる。

② 倒立系の運動は筋力も必要であるし,平均保持も困難で,いわゆる程度の高い運動であるが,できだすと急にこの運動に対する興味を持ち,自信を増すものであるから,なるべく早く要領を会得するようくふうして指導する。

4.力 技 型

    (1) 腕 屈 伸

腕立て姿勢(床・腰掛)または懸垂姿勢(横木・平行棒・鉄棒)から腕を屈伸する。

    (2) 足 あ げ

①足を前に伸ばしてすわった姿勢から,足を前に高くあげて保つ。

②懸垂姿勢(ろく木・横木・平行棒・鉄棒・つり輪)から足を水平にあげて保つ。

    (3) 伸び伏臥

腕立て伏臥の姿勢から腕をできるだけ前方に出す。

    (4) 十字伏臥

腕立て伏臥姿勢から腕を横にできるだけ開く。

    (5) 正面水平

懸垂姿勢で体を上向きにして水平に保つ。(鉄棒・平行棒・つり輪)

    (6) 背面水平

懸垂姿勢で体を下向きにして水平に保つ。(鉄棒・平行棒・つり輪)

    (7) 側面水平

懸垂姿勢で体を横向きにして水平に保つ。(ろく木)

    (8) 腕ずもう

2人向き合い,片手を握り合って相手の手を押さえつける。

    (9) 背ずもう

2人背中合わせに足を開いてすわり,腕を横で組合い,相手を横または前に倒す。

    (10) 足ずもう

①2人向き合ってすわり,片足をあげ,相手の足を押して体を倒す。

②片足で跳びながら相手の体を押し,あげた足を地につかせたり,一定円内から押し出す。

    (11) しゃがみずもう

しゃがんだ姿勢で自分の足首を握り,相手を押し出したり,倒したりする。

○指導上の注意

① 他の巧技に対する調整的巧技としての価値を重視するとともに,関係教材(たとえばすもう等)と関連して指導する。

②力技的巧技につきものの積極的努力は生活上に必要なことであるが,度を過すと心臓を痛めることがあるので,次の事がらを注意して指導する。

    1.全力でがんばらせる場合でも,声を出しうる範囲内にとどめる。

    2.長時間で1回努力させるよりも,短時間ずつ数回行うことを原則とする。

    3.一定期間にまとめて激しくやらせるよりも,長期にわたり短時間ずつ何回も行わせる。

    4.運動の実施に先立ち,じゅうぶんに全身的な準備運動を行っておく。

5.懸 垂 型
    (1) 足かけ上がり

懸垂姿勢から片足または両足を手の外側または内側にかけて上がる。(鉄棒・平行棒・つり輪)

    (2) 逆上がり

懸垂姿勢から腕を曲げまたは伸ばしたまま足先のほうから逆に体を引き上げて上がる。(鉄棒・平行棒・つり輪)

    (3) け上がり

両足をそろえ,足首を鉄棒に近づけ,けった反動で上がる。

    (鉄棒・平行棒・つり輪)
    (4) 振り上がり

懸垂姿勢から大きく振って棒上に腕立て懸垂姿勢となる。

    (鉄棒・平行棒・つり輪)
    (5) 膝かけおり
 

両膝を棒にかけて手を離し,振って足を離しておりる。(鉄棒・平行棒)

   
    (6) 跳び越しおり

両足をそろえまたは開き,棒上を跳び越えておりる。(鉄棒・平行棒)

    (7) 振り跳び
 

腕立て懸垂から振って前方に跳びおりる。(鉄棒・平行棒)

    (8) 足かけ回転
 

片足または両足をかけたまま後方または前方に回転する。(鉄俸)

    (9) 腕立て回転
 

腕立て懸垂の姿勢から後方または前方に回転する。(鉄棒)

    (10) 腕かけ回転
 

背面で腕(ひじ)を鉄棒にかけ,後方または前方に回転する。(鉄棒)

    (11) 棒 登 り
 

足を使い,または使わないで棒に登る。

    (12) 綱 登 り
 

足を使いまたは使わないで綱に登る。

○指導上の注意

① 懸垂運動が正しく行われると,胸廓の発達を促し,肩帯諸筋を強め,腕力をつける上に効果がある。また近代人は一般に腕を使用する作業に従うことが少ないために,上体の発達がわるく,腕力も非常に落ちているため,腕を使う作業能率も上がらないことなど,その重要性を理解させる。

② ある種目を固定せず,いろいろな性質の懸垂運動を段階的・総合的に指導する。

③ 競技的取扱を重視するとともに,その指導に当たっては危険防止に特に留意する。

6.跳 躍 型
 
    (1) 回転跳び

高く跳び上がり,空中で180度または360度回転して着地する。

    (2) 足打ち跳び

①その場で高く跳び上がり,空中で足を2回打ち合わせる。

②足を前または横にあげて手と打ち合わせる。

    (3) 足抜き跳び

①ひも・棒などを手に持ち,跳び上がってその上から足を抜き,前に出す。

②片手と片足を組んで輪をつくり,片足で跳んでそれを抜く。

    (4) 連手跳び

3人で連手し,その中のひとりが他のふたりの連手の上を跳び越して往復する。

    (5) けり跳び

その場で跳んで各方向をける。

    (6) 単なわ跳び

①自分でなわを前後側にまわして跳ぶ。

②まわしている1本のなわの中にはいり,そのまま,またはなわをまわしながらはいって跳ぶ。

    (7) 複なわ跳び

交叉したなわまたは平行して内方にまわるなわの中に,ひとりまたは数人ではいって跳び,またはなわをまわして跳ぶ。

    (8) 跳び上がりおり
 

低い台(跳び箱・スプリングボールド等)を,片足で踏みきって前方に高く遠く跳ぶ。(伸身・屈膝・開脚等)

    (9) 腕立て跳び越し
 

障害物(人・腰かけ・跳び箱)を腕を使って跳び越す。

①簡易な跳び越し(正面・斜面—開脚・閉脚)

②斜め跳び(正面—開脚・閉脚)

③水平跳び(同      上)

④二節跳び(同      上)

⑤垂直跳び(同      上)

⑥仰向跳び(正面・斜面—閉脚)

○指導上の注意

① 徒手で行うものは自試的運動として適しているが,相当に激しい運動であるから,器械による跳躍の場合と同様,常に全身的準備運動および特に足首の準備運動をじゅうぶんするようしておかないと,ねんざを起すおそれがあるから注意する。

② 器具・器械を使っての跳躍は,単に器用さを増すだけでなく,これによって跳躍力を養い,ひいては全身の発達に寄与することが重要なねらいであることを留意して指導する。

③ 跳び越し技術においては,生徒の競技的心理をはあくしつつ,高く,遠く,正しく,美しくをモットーとして練習させる。

④ 器械の整備がふじゅうぶんな場合は,特に生徒達交互が台となって跳ぶなどくふうする。

⑤ 砂場・跳び箱・マット等を使用する場合には,使用の態度や使用後の自覚的整理・整とんをじゅうぶん指導する。

7.転 回 型

    (1) 屈膝前転
 

腰とひざを曲げ,背または肩をつけて前転する。(マット)

    (2) 伸膝前転
 

腰を曲げ,ひざを伸ばして前転する。(マット)

    (3) 開脚前転
 

②の方法を開脚姿勢で行う。(マット)

    (4) 単輪前転

①2人組となり,手足を握り合って前転する。(マット)

②4人以上偶数名で一つの輪をつくって前転する。(マット)

    (5) 複輪前転
 

(4)を他の組と横に連結して行う。(マット)

    (6) 屈膝後転
 

(1)の要領で後転する。

    (7) 伸膝後転
 

(1)の要領で後転する。

    (8) 開脚後転
 

(3)の要領で後転する。

    (9) 単輪後転
 

(4)の要領で後転する。

    (10) 複輪後転
 

(5)の要領で後転する。

    (11) ひざ立て側転

①開脚直立姿勢から,手を横について倒立の経過をたどりつつ側転する。

②助走し,跳び箱上に横に手をついて側転する。

    (12) 巴 横 転
 

3人1組となり互に相手の上を跳び越し合い,巴形に入り乱れて横転を続ける。(マット)

    (13) 腕立て前方転回

直立,または仰臥姿勢から,手をついて前方へ転回して立つ。(マット・跳び箱)

    (14) 腕立て後方転回

直立,助走から手をついて後方へ転回して立つ。(マット)

    (15) 走り前宙返り

助走して跳び上がり,前方に宙返りして立つ。(マット・砂場)

    (16) 立ち後宙返り

直立姿勢から空中に跳び上がり,後方に宙返りして立つ。(マット)

○指導上の注意

① 転回運動は平衡感覚の修練やめまいの防止に役だつ上に,全身的運動であり,かつその習熟が自己の身体を安全に支配して危害を避ける能力を養うことを理解させる。

② 転回運動の基礎となるのは身体の柔軟性であるから,特に徒手体操や柔軟性巧技と関連して指導する。

③ 転回中に腰を強打したり,首をつっこんだりするような危険な場面が相当あるが,これはすべて基礎的修練が不足なのに功を急ぐためであり,また順序を踏まないで無理に進んだ運動をさせると,恐怖心から悪いくせがついて,いつまでもそれが抜けなくなることが多いから,無理のない練習段階を踏ませるよう特に注意する。

④ 運動力が大きくなってくるに従って,手首や足首あるいはひざのねんざを起す危険があるので,じゅうぶんな準備運動と,砂場またはマットを常に平らにして置くことを注意する。

8.組 立 型

    (1) 肩  車

2人組となり,1人が他の肩に腰をかけて立つ。

    (2) ひざ上立

ひとりが他のひざの上に立つ。

    (3) 肩 上 立 

ひとりが他の肩の上に登り,ひざまたは足で立つ。

    (4) 肩上水平

①3人組となり,ひとりが他の者の肩に腕を立て,残りのひとりがその者のひざを支持し水平になる。

②2人組となり,ひとりが軽く助走し,またはその場から跳び上がり,立つ者の肩に腕を立て,そのひざをささえられて水平になる。

    (5) ひざ上倒立(肩倒立)

2人組となり,ひとりはひざを曲げ,両腕を前に上げて仰臥姿勢となり,他はそのひざと手を利用して肩倒立をする。

    (6) やぐら

2人または3人が向き合って肩を組み,他の者がその上に登って立つ。

    (7) やぐら倒立

立っているふたりの手の上に腕を立て,肩倒立する。

    (8) 扇

3人または5,6人が手または肩を組合わせて横に1列に並び,足を中央に寄せて扇型をつくる。

    (9) 積み俵

①手とひざをついたふたりの上に同じ姿勢で乗る。

②①の方法を多人数でする。

    (10) 大ピラミッド
〔例〕   種々のピラミッドを総合的に組合わせる。

○指導上の注意

① 協力,積極性等の態度の育成や,美的関心の喚起等の精神的効果を重視して指導する。

② 個人的の体力と技術が根底となり,互に相手の力を信頼し,各自の責任を果たし合うことが必要であることをよく悟らせるとともに,危険防止に注意する。

③ 一般に組上げる時よりも,組立を解く時に気がゆるみ,そのため危険を生じやすいものであるから,終始一糸乱れず敏速に整然と,かつ安全に行動するよう訓練する。

    (4) 指導上の留意点 —特に季節と選択について—

1.実施季節について

 巧技の学習に適する季節は一般に春秋である。しかし巧技の中には比較的冬に向くものもあれば,夏に向くものもある。その上巧技は練習の過程において適当の間隔を置き,長期にわたって練習するほうが効果的なものが相当多い。

 一方,1年中の最適の時期を巧技だけで独占することも,体育全体の立場から考えると許されないことになるから,いきおい各季節への分散指導が必要となってくるであろう。そこで原則的には,巧技をある季節にまとめて継続的に学習させるとともに,巧技以外の他の教材の補助的内容として,年間を通じて練習できるように計画することが適当であろう。

2.運動種目の選択について

 巧技の種目は非常に多く,本書に掲げたものはその代表的なものにすぎないから,他の参考書によってさらに適当な種目の研究をするとともに,その選択に当たっては次のような点を考慮することが必要である。

    (1) 各類型の運動にわたって学習させるように選択する。

    (2) 生徒の興味を中心として選択する。

    (3) 生徒の体力に相応のものを選択する。

    (4) 興味の有無にかかわらず,必要で有効と思われるものを選択する。

    (5) 実施季節を考慮して選択する。

3.そ の 他
    (1) 正しい練習段階を踏み,危険を防止する。

    (2) 力に応じ技術を高める。

    (3) ときおりテストや競争をさせ,進歩の状況を自覚させる。

    (4) 用具の取扱・清浄につき正しい心がけを身につけさせる。

 

 7.徒手体操(高等学校女子の場合)

    (1) 歴   史

 自分の身体をある要領に従って動かし,健康を増進させようとする考えは,文化の高い国々では,非常に早くからあったものである。すなわち古代中国においてはすでに今日でいう医療体操が発達していたということであるし,古代ギリシア時代には,明らかに今日の徒手体操と見るべき運動が行われていたということが,絵画や彫刻によって判断されている。

 今日わが国で行われている体操は,文芸復興期以後に欧州に発達したものが,欧米との交通の開けて以来漸次渡来したもので,概略的に見れば明治時代には主としてドイツ流の体操がはいっており,大正時代にスウェーデン体操,昭和になっていわゆるデンマーク体操と称するニールスブックによって改良されたスウェーデン流の体操が紹介され,今日のところでは一流に偏せずこれら各国の体操の長所を採り入れて行っているということができる。

 欧米では,徒手体操は一般社会人の保健運動として,体操のクラブや家庭においてなかなか熱心に行われているが,わが国では終戦までに行われていたいわゆるラジオ体操を除けば,見るべきものはほとんどなく,わずかに学校における体育教材として重きをなしていたにすぎず,これとても終戦後は火の消えた状態となっているが,体育の本質から見ると,この種の運動を復活し,従前以上に正しく活用されることは,国民保健の上からきわめてたいせつである。

    (2) 特   徴

 

    1.器具・器械を使用することなく,屋の内外を問わずきわめて狭い場所でいっせいに多数の者を運動させることができ,しかも短時間に相当の運動量をあげることができる。

    2.全身の運動を網羅して身体各部を極限まで動かし,しかもその強度を自由に調節しやすいので,各種のスポーツの準備・整理・補助として最も利用価値が高く,また発育の調整にも有効なので,正しい姿勢をつくることに役だつとともに,スポーツによって生ずる固癖の予防きょう正と,身体硬化に伴なう作業能率低下の予防に貢献する。

    3.運動領域が大きく,リズミカルに,しかも生理学的原則に基づいた配列によって実施するので,筋肉の柔軟性,関節の可動性を増し,したがって非体育的生活によって失われた身体の柔軟性を本来のものに引きもどすことに役だつとともに,内臓諸器官の機能を高め,健康を確保する。

    (3)方   法

1.柔軟さを養う運動
 

指 導 内 容

要    領 (例)

 

 

1.指の屈伸

2.手首の屈伸

   〃 回旋

   〃 振動

3.腕の屈伸

   〃 回旋

腕を上にあげて,指を曲げたり伸ばしたりする。

腕を下げたままで,手首を曲げたり伸ばしたりする。

ひじを曲げて,手首を回旋する。

腕を前にあげて,手首を上下,左右に振動する。

腕を曲げ,前・横・上・斜め上に伸す。

腕を前後・側・内外に回旋する。

 

 

1.足首の屈伸

   〃 回旋

   〃 振動

2.ひざの屈伸

3.足の各方振

   〃 側開

   〃前後開

足を前に少しあげ,足首を曲げたり,伸ばしたりする。

     〃   回旋する。

     〃   振動する。

腕を前と上に振り,ひざを曲げ伸ばす。

片足を前・横に降る。

両足を交互に,横に出して足を横に開く。

片足をだんだん前に出して,足を前後に開く。

 

 

 

1.首の前後屈

   〃 側屈

   〃 側転

   〃 回旋

2.体の側屈

3.体の前屈

4.体の後屈

5.体の側転

   〃回旋

首を前後に曲げる。(手後組)

 〃左右 〃   (手腰)

 〃左右にまわす。(腕組)

 〃回旋する。(手胸)

片腕を横から上にあげ,上体を横に曲げる。(足側開)

腕を下垂し,上体を前に深く曲げ,足首を握る。

手を腰に当て,上体を後に深く曲げる。(足側開)

交互に手足を前に出しつつ,腕を振り,体を横に曲げる。

腕を振り,上体を交互に回旋する。(足側開)

2.力をつける運動
 

指 導 内 容

要    領 (例)

 

1.伸び伏臥

2.十字伏臥

巧技解説参照

同   上

 

 

 

 

 

1.地蔵倒し

 

 

 

 

 

2.伏臥体の後屈体の前倒

 

 

 

 

 

 

3.仰臥脚の上挙,体の後倒

 

 

 

 

4.臥体の回旋

 

 

 

 

 

5.仰臥脚の側倒・回旋

直立のまま倒れる者を,他のひとりが後方からささえて仰臥させ,次に仰臥する者の首をささえて起す。

 

 

伏臥した姿勢から腕を立てて上体を後に曲げ,次に腰を上げて上体を前に倒す。

 

 

仰臥した姿勢から同時に足をあげ,上体を起して,V字型の姿勢になる。

 

 

仰臥した姿勢から上体を起しながら回旋する。(足首支持)

 

仰臥した姿勢から足をあげて側に倒し,回旋する。

 

 

3.予防矯正する運動
 

指 導 内 容

要    領 (例)

 

 

1.腕の上振

  〃 回旋

2.体の前倒,腕の上挙,肩の伸展

腕を上に大きく振る。

腕を前後・側・内外に回旋する。

上体を前に倒し,腕を上にあげ,肩を伸展する。

 

 

 

 

 

1.頭の後屈

2.腕の上振

3.ひざ当胸の伸展

 

 

 

 

 

4.肩当胸の伸展

あごを引き頭を後に曲げる。

ひじを伸ばしたまま腕を上に振る。

足を前に伸ばして腕を斜め上にあげた者の背に他の者が膝を当て,その腕をおさえ後方に引いて胸を伸展させる。

 

背面で立ち,体側で腕を組合ったふたりのうちひとりが腹を下げて肩と他の者の背に当て,その胸を伸展させる。




体 の 側 屈

片腕を横から上にあげ,片腕をわき下に曲げて上体を横に曲げる。(足側開)

腰    屈

手を後から腰に当ててそる。

腕を上にあげて体を後に深く曲げる。

 

    (4) 指導上の留意点
     1.実施態度について
    (1) 徒手体操はまじめに学習するのでなければ所期の効果をあげがたいものであるが,合理的な反面興味が伴ないにくい欠点があるので,必要に応じ競争的・連続的な取扱を考慮して指導する。

    (2) 徒手体操の目的中第一に掲げるべき身体の柔軟性を確保するためには,筋や関節の許す範囲の最大限の伸展が必要なのであるから,徹底的に伸ばし,曲げ,倒し回すといったような,いわゆる極限まで伸展が必要であることを理解させ,自発的・積極的に実施させるようくふうする。

    (3) ひとりスポーツをするときばかりでなく,激しい作業を行うときなどにも,用心のためと作業効果を高めるために,準備運動として徒手体操を利用する習慣ができるくらいまでに指導する。

    (4) 徒手体操の実施に当たっては,指導者によって一糸乱れずいっせいに行う集団体操も時に必要であるが,一々指導者の号令と指示がなければ体操ができないという状態は好ましくないので,自主的に自己に必要な種目を合理的に選び,各個に積極的に実施していく能力と態度が身につくまで指導する。

    (5) 運動や作業が終了した後には,徒手体操中から適当な種目と方法を選んで,呼吸や精神の鎮静,作業による身体活動と,姿勢の調整を目的とする整理体操をする習慣を身につけるよう指導する。

     2.運動の選択と実施順序について
 徒手体操の実施に際しては,便宜上全身をいくつかの部位に分けて,それぞれの部分を発達させる運動を選択して行わせるのが普通であるが,その順序はこれでなければならぬという一定した順位が定まっているわけではない。しかし一般的には次のようなものが原則的なものとして考えられているので,指導に当たっては一応これを参考とし,そのねらいと対象によって適当な変化を試みたらよいであろう。
    (1) 心臓から比較的遠い部分から始める。

    (2) 気軽に行われて,しかも大筋群が含まれている部分から始める。

    (3) 弱い運動から漸次強い運動に移る。

    (4) 簡単な運動から漸次複雑な運動に移る。

    (5) 部分的な運動から潮次総合的な運動に移る。

    (6) ひととおり身体各部の運動が終ってから,より強い運動を選んで,部分的にまたは総合的に鍛錬的効果を高める。

    (7) 激しい運動の次には軽い運動をはさんで,強度の調節をはかる。

    (8) 姿勢矯正に有効な運動を終りに加える。

 右のような考え方に基づいて,全身をひととおり運動させる場合を予想し,きわめて一般的な部位と順序を参考までにあげてみると,次のようになる。
    Ⅰ 足の運動

    Ⅱ 首の運動

    Ⅲ 手の運動

    Ⅳ 胴の運動

      イ 胸の運動

      ロ 体側の運動

      ハ 背の運動 背腰の運動

      ニ 腹の運動

      ホ 胴体の運動

 なお以上をひととおり終った後,さらに一段と高い程度の体操をしたいときには,一段と強い種目または要領で,初めからくり返えすなり,あるいはまた胴の運動だけを一段強い他の運動といれかえて反復修練するがよい。

 また運動中途における強度の調節には,前述のように軽い運動,たとえば足踏みとか,腕の前後振または前側振等の運動を適宜加えてやってもよいし,またはそのような特別運動を加えずに,一つの運動を漸次弱く実施して調節的効果をあげ,それから次の運動に指導するのも有効であろう。

     3.実施形式について
(1) 徒手体操を実施する場合,中学校以上では生徒が自覚に基づきみずから考えて体操するような学習形式をとらせることが望ましいが,それには各個にやらせるかあるいはまた小集団で交互に指導者格になり合って体操するようにしむけることが有効であろう。しかし生徒は一般的に体操に対する正しい認識を欠き,誤った要領のものを正しいと思い込んでいたり,また種目がかたよっていたりすることに気づかないことが多いので,常に各個にやらせることばかりでは効果が上がらずに終ってしまうから,時には教師のいっせい指導で,正確に実施する機会を与えることが必要である。そろう体操は個人の特殊性を犠牲にする欠点がある反面,そろうことによって生ずる快感とともに,それによって興味と運動意欲を喚起されるという長所もあり,また与えられた時間的空間的の制約に調子を合わせつつ,かつなお自己に必要な最高活動を遂行するという意味の効果もあるものである。しかしいっせい指導の場合においても,常に教師の個別指導はその前提条件でなければならないので,要は徒手体操を実施させる場合のねらいに応じ,最も有効な指導形式をとることが望ましい。

(2) 各種の体育運動を限られた時間に数多く行わせねばならぬ正課時に,徒手体操にのみ時間をさくことは許されないから,できるだけ学年または学期の初めに徒手体操の指導を計画し,その正しい基礎的指導を徹底し,それを他の教材の展開に当たって活用させることが賢明である。

(3) 柔軟性を増すための徒手体操は,どちらかといえば比較的らくに行われるが,筋力を強める体操となると協力が必要となり,疲労も著しくなってくるので,実際の指導ではこの種の努力的運動のみをひとまとめにして,1時間全部をこれに当てることは絶対にさけ,柔軟性を養う体操の間に,筋力を強める体操をはさんで実施するよう考慮することが必要である。

(4) 徒手体操を真剣に実施させる手段としては,体操競技の形式を採用することも時には有効であると考えられるので,巧技に属する運動をも2.3加え,身体の柔軟性と強力性と器用さを表現するような運動を適宜に選定させて,これをじょうずに実施するように競争させる機会を与えることが望ましい。その場合,同一種目を規定として実施させる方法と,自由種目で競技させる方法,また個人でやらせる方法と小集団でやらせる方法等種々であるが,その学年と能力に応じ,かつ,性にふさわしい内容を選んで行わせるよう留意する。

 

 

 8.水    泳(中学校男子の場合)

    (1) 歴   史

 人類が食物を求め,外敵からのがれたり,涼味を得るために,水と密接な関係を持ち,そこから泳ぎが発生してきたことは容易に想像できる。わが国では古事記に宗教的なみそぎの行事として水浴が行われたことがしるされており,この中で明らかに泳ぎをした記録がある。西洋においても紀元前1千年あるいはその以前にアッシリア・バビロニヤの石像等に泳ぎの図が示されている。

 泳ぎが水浴・温浴・漁業(潜水夫)・戦闘の手段等実用的な目的のために,発達してきたことは,わが国においても西洋においても同様である。ギリシア・ローマ時代には動物の毛皮等で作った浮袋が用いられ,泳ぎの型としては犬かき・横泳ぎ・平泳ぎ式のものが用いられたらしい。わが国で最も古い泳派は能島流である。これは室町時代に瀬戸内海を根拠地とした海賊に始まるといわれる。ヨーロッパにおいても,18世紀に北欧を荒したヴァインキンガーという海賊が泳ぎに長じていて,戦闘に用いたという。わが国ではその後水軍の発達や戦闘目的のために水術がしだいに発達して,神伝流・河井流・向井流・水府流・岩倉流・小池流・山内流・小堀流・観音流等の各種の流派が生じたが,それぞれ自己の流技を秘伝として伝え,一般に公開をしなかった。明治維新とともに武術としての水泳は無用となり,各流派は街頭に進出して各地に水流場を開設し,一般庶民の水泳指導を行うようになった。西洋においてもローマ時代から発達してきた浴場がしだいに堕落して風紀を乱したようなことから,青年たちに屋外での水泳も禁止されたりしたのが,18世紀の自然復帰運動と同時に,水泳の肉体的効果とともに,溺(でき)死の危険を防ぐため水泳が奨励されるようになった。わが国では明治30年ごろから各学校でも水泳場を設けるようになり,各地に水泳大会が開かれ,海水浴が盛んになって,しだいに水泳が普及し,明治31年には水府流・太田流と横浜外人との間に,わが国最初の国際試合が行われた。大正8年には茨木中学にはじめてプールができ,クロールが始められた。このようにして競泳としての泳ぎがしだいに発達し,極東大会およびオリンピック参加によって急速な進歩をとげ,ついに世界一の水泳国となるに至った。

    (2) 特   徴

 水泳は空気より密度の大きい水を相手とするため,陸上の場合と違って,浮力や抵抗等の物理的作用を著しく受け,また油断をすれば生命の危険にさらされる点に著しい特色を有する。なおこのほかに次の点を特色としてあげることができる。

1.幼男女あらゆる人が楽しむことができる。

2.身体各部を平等に動かし,皮膚および内臓諸機能を増大するため,身体を調和的に発達させる。

3.自然に親しみ,自然に順応する態度を養い,自己および他人の水における危険を予防する。

4.高価な種々の用具を用いず,簡易に実施できる。

    (3) 方   法
     1.基本動作
(1) 水かけ

 向い合って顔や体に水をかけ合う。

(2) 沈み方

    ①物につかまって全身を水に没する。

    ②他人と手をつないで長く沈む競争をする。

    ③ひとりで自由に沈む。

(3) 浮き方
    ①じゅうぶん息を吸い,顔をつけ,体の力を抜いてひざを抱き自然に浮く。

    ②水面に伏し,両手を水底につくか,物につかまって全身を伸ばして浮く。

    ③水面に伏し,両手を頭上に伸ばし,足も伸ばして浮く。

    ④仰向きになって浮く。

(4) 立ち方

 下向きに浮いた姿勢からひざを曲げて腹に引きつけ,両手で水を下に押し,頭を上げて静かに立つ。

(5) 呼吸の仕方

    ①水中で鼻から息をはき,次に顔をあげて口と鼻から息を吸うことをくり返す。

    ②物につかまって体を水面に伏し,足を伸ばした姿勢で行う。

(6) ばた足
    ①物につかまるか,水底に手をついて,肩と腕の力を抜き,体を伸ばして水面に伏す。足首の力を抜き,ひざを曲げすぎないようにし,交互に上下して足の甲で水を打つ。

    ②板やボールにつかまるか,両手を頭上に伸ばして浮きながら進む。

(7) 体位の変換

 物につかまったり,水底に立ったりしないで,浮いたり沈んだりして各種の体位を自分でとる。

(8) 各種遊戯

 浅い所で種々の遊戯を実施する。

     2.初歩の泳ぎ
(1) 初歩クロール

 下向きに浮いてばた足をやり,手先を体の前方に交互につっこんでかき,かき終った腕を水中から抜いて前方にかえす。

(2) 犬かき

 水面に顔を出して下向きに浮き,ばた足をやりながら両手を水中で交互に前に突き出した後,水を下に押さえつつかいて進む。

(3) 仰向き泳ぎ

 上向きに浮いてばた足か,かえる足を用い,両腕を体側において浮きをとるか,肩の後に入れて体側を同時または交互にかいて進む。

     3.自己保全の動作
(1) 水中の歩き方
    ①深い所を手をつないで歩く。

    ②単独で深い所を歩いて進む。

(2) 浮き上がり方

 深い所に飛び込んで沈むか,他人に沈めてもらったのち,手足を動かして浮び上がる。

(3) 泳ぎ方の変更

 初歩の泳ぎを物につかまったり,水底に立ったりしないで自由に変える。

(4) 方向の変更

 前後左右各種の方向に泳ぐ。

(5) 自己保全テスト

 深い所へ落ちこんだとき,みずからの力で浮き上がり,近くの安全な場所へ自力で行くとか,または他人の救助を待ち,その指示に従える能力等についてテストする。

     4.クロール
(1) 姿   勢

 全身を楽に伸ばして水面に伏臥し,毛髪のはえぎわが水面に接するくらいにする。

(2) 足の動作

 各関節の力を抜いて,両おや指がふれ合う程度にして,左右交互に竹のむちか,うちわの運動と同じように,柔軟できびきびした動作で水を打つ。

(3) 腕の動作

 手先を肩の前方で水に入れ,水を下に押さえながら,体の中心線に平行に一気にももの近くまでかきかき,終ったら腕の力を抜いて引き上げ,肩を中心にして水面にふれない程度で前方にかえす。これを左右交互に行う。

(4) 手足の関係

 腕を交互に1回動かす間に,足を交互に6回打つ。

(5) 呼 吸 法

 いずれか一方の手がかき終ると同時に首を最小限度に横にまわして,口を大きく開いて吸気した後,元の姿勢にただちに復し,水中で鼻,口からはく。

(6) スタートとターン

    ①スタートではあいずに応じすみやかにモーションを起して飛び込み,できるだけ遠くへ有効かつ自然に浮び上がって泳ぎ出す。

    ②ターンでは,いずれか一方の手が壁にふれると同時に,ひざを曲げて体をじゅうぶん壁に引きつけ,他方の腕で体の回転を助けつつ,体を壁と直角にして体を沈めた後,両腕を前方に伸ばし,水中にけり出して推進しつつ自然に浮び上がって泳ぐ。

○指導上の注意
    ①ゆっくりよく考えて泳がせる。

    ②足首の力を抜き,ひざを曲げすぎないようにする。

    ③体のローリングを少なくする。

     5.平泳ぎ
(1) 姿   勢

 体を楽に伸ばして水面に伏臥し,あごを水面につけた程度にする。

(2) 足の動作(かえる足)

 足の各関節の力を抜いて,左右に開きながら両足を曲げる。曲げ終ったときの足の裏は後方に向け,足首はほぼ直角にしつつ,足の裏で水を斜後方に強くけった後,両内またで水をはさむ。

(3) 腕の動作

 両手の指を軽く接してそろえ,胸のあたりから体の前方水面下に伸ばした後,左右に浮きをとりながら開いて水をかき,体と直角になるまでのところから胸の前にもどす。

(4) 手足の関係

 腕と足は同時に伸ばすが,腕が先に伸びきる。しばらく腕を伸ばしたままで進んた後,両腕をかき始め,腕を半ばかいたら足を曲げ始める。

(5) 呼 吸 法

 腕を前方に伸ばすとき吸気し,胸の前に伸ばすとき息をはく。

(6) スタートとターン

    ①スタートの要領はクロールと同じであるが,飛び込んだ推進力が弱り始めたら,足と腕を使って推進を助けつつ浮き上がる。この場合腕は外ももまでかく。

    ②ターンは両手を同時に壁につき,腕を曲げて体をじゅうぶん引きつけて,体を壁と直角に回転させ,次に体を沈めてけり出す。水中で12回手足の動作を行った後浮び上がる。

○指導上の注意
    ①足の基本動作をじゅうぶん指導する。特に腰を上下させないように注意する。

    ②できるだけ長い距離を泳がせて,手足の関係をよく体得させる。

     6.横 泳 ぎ
(1) 姿   勢

 体をまっすぐに伸ばして水をまくらにするような気持で水面に横臥し,頭をまわしてあごをややしめる。

(2) 足の動作(扇(あおり)足)

 両足の力を抜いて伸ばしてそろえた姿勢から,両足を曲げ,次に上方の足を前側に,下方の足を後側に大きく開きつつ両足で半円を描くようにしながら,水をはさみ合わせる。

(3) 腕の動作

 両手を乳の下にそろえる。下方の手は耳の下から手のひらを下に向けつつ,前方に伸ばし,同時に上方の手は手のひらを体と直角に保ちながら,体に添って後方にかき,内ももにおさめる。次に両手は水の抵抗のないようにして,同時に胸の位置にもどす。

(4) 各種横体泳法(略)

(5) 呼 吸 法

 腕の動作と調子を合わせ,足をあおるとき息をはき,ただちに吸い始める。

○指導上の注意

    ①足の動作をじゅうぶん指導し,あおり終ったとき体と足が一直線になるようにする。

    ②左右いずれを下にしても実施できるようにする。

     7.背 泳 ぎ
(1) 姿   勢

 体をじゅうぶんに伸ばして水面に仰臥し,あごを引いて足のほうを見る。

(2) 足の動作

 ばた足の使い方は,クロールと反対に,足の甲で水を後上方にけり上げる気持で行う。

(3) 腕の動作

 腕は肩の前方でやや外側に指先から水に入れ,半円を描く気持で体のま横を,手のひらを水面とかく方向に直角にしながらかく。かき終った腕はただちに力を抜いて,ひじが水にふれない程度に空中を通して元にかえす。これを左右交互に行う。

(4) 呼 吸 法

 腕の動作に合わせて調子よく行う。

○指導上の注意

    ①体をらくに伸ばし,腰が落ちないよう指導する。

    ②上達に伴いスタートとターンについても指導する。

     8.立ち泳ぎ
(1) 姿   勢

 上体を正しく直立にしももを左右に開き,いすに浅く腰かけたような姿勢を保つ。

(2) 足の動作(踏み足)

 両またを直角ぐらいに開いて足踏みの動作を行い,足の裏で交互に水を後外下方にける。

(3) 移 動 法

 その進行方向に上体をわずかに傾け,進行方向の反対の足を強く踏んで進む。

○指導上の注意

    ①足を引きあげるときは足首の力を完全に抜く。

    ②上達に伴って相当の重量を持ったり,運んだりさせる。

     9.潜   行
(1) 呼吸の止め方

 潜入に先だち,数回深く呼吸し,八分目程度の吸気の状態で潜入する。

(2) 潜 入 法

 直立のまま1度体を水上に出し,その反動で潜入し,両腕で水を押し上げながら水底に向かって潜入するか,体を浮びあがらした後,その反動を利用して腰をかがめつつ,頭部を下にし倒立の型となった姿勢で潜入する。

(3) 潜 行 法

 平泳ぎの要領で潜行する。目を開き,頭部を脚部より低くし,特に腕は体が浮かないように水をかき上げて進む。

○指導上の注意

    ①水中ではなるべく目を開かせる。

    ②最初は浅い所に向かってくぐらせ,長く潜行させない。

    ③監視をじゅうぶんにする。

     10.飛び込み
(1) 立ち飛び込み
    ①浅い所へ飛び込む方法

     片足の指先を台の端にかけ,片足を後方に引き,両手を後側に開いた姿勢から,前足をもって踏みきり,後足を前に出して両ひざを曲げ,上体を前に傾け,両手を前に出し,前方を見つつ飛び込む。

    ②深い所へ飛び込む方法

 直立の姿勢で飛び込み,体が水にはいるや両手を左右に開き,水を下におさえる。

(2) 逆飛び込み

 強く踏みきって体を伸ばし,両足をそろえ,両手を伸ばして左右から頭をはさみ,指先から水にはいる。

(3) 高飛び込み

 固定された高い台からの飛び込みで,正式の競技では5メートル・10メートルからの前踏み切り前飛び込み,後踏み切り後飛び込み,前踏み切り後飛び込み,後踏み切り前飛び込み等があり,規定4種目,選択4種目について競技し,採点法により順位をきめる。

(4) 飛び板飛び込み

 弾力をもった飛び板を使っての飛び込みで,1メートル・3メートルの高さを普通とする。高飛び込みの4種の型式のほか,ひねり飛び込みを加え,規定5種目,選択5種目について競技する。

○指導上の注意

    ①踏み切りと抵抗の少ない入水とフォームとが総合されることが必要であることを自覚して,練習するよう指導する。

    ②恐怖心を起さないように最初は最も低いところから始め,自信に満ちた飛び込みであるよう指導しながら,漸次高さを進める。

    ③飛び込む前に水深,水底の状態,泳者の有無を確かめてから飛び込ませる。必要があれば監督者をおき,その指示によって飛び込ませ,練習区域に他の泳者を立ち入らせない。

    ④高飛び込み,飛び板飛び込みについては,簡易で基礎的なものにとどめる。

     11.リ レ ー
 既習種目を総合的・団体的に学習させるために,学習指導過程において適宜間にはさんで行うもので,ひとりの泳距離と泳法等は,生徒の能力に応じて決める。引継ぎは前泳者がタッチしてから次泳者が飛び込む方法を原則とする。

○指導上の注意

 種目の組合わせやチームの構成は各級生の能力に応じ,興味を中心として決める。

     12.救 助 法

(1) 自己および他人のおぼれたときの動作

(2) 接近法

(3) 離脱法

(4) 運搬法

(5) 人工呼吸法

 

 

(略)

○指導上の注意

    ①飛び込んで救助する前に,舟・さお・綱・浮袋等の利用や,他人の援助を求める方法等を考えることが必要であることを理解させる。

    ②あわてず,機を失せず処置を講ずる力を養うようにする。

    ③自分の力を過信して不用意に飛び込んだり,おぼれた者に不用意に近づいたりしないことを指導する。

    ④他の泳ぎの練習と関連して学習させる。

     13.水泳心得
(1) 練習上の諸規定(場所・時間等)
    ①指導者の指示に従うこと。

    ②軽い体操等を行い,準備をしてから泳ぐこと。

    ③ひとりで泳がないこと。

    ④海や川では岸に近い浅い所で,岸と並行か浅い方に向かって泳ぐこと。

    ⑤まじめに練習し,いたずらしたり,おぼれるまねをしたりしないこと。

(2) 衛生上の心得
    ①皮膚の日やけを防ぐため,休憩中手ぬぐい等を肩にかけ,日光の直射を避けること。

    ②水にはいる場合は,まず顔・首・胸等を水で湿し,徐々に水にはいること。

    飛び込んだり,急に強く泳ぎ出さないこと。

    ③鼻を同時に強くかまないこと。一方ずつ静かにかむこと。

    ④耳に水のはいった場合には,頭を傾けてその耳を下に向け,片足で跳ぶか,頭を手でたたいて出すこと。

    ⑤寒気を覚え,またはなはだしく疲労したときは水から上がること。

    ⑥激しい運動後,はなはだしい発汗の後,空腹・満腹時等には水にはいらないこと。

    ⑦頭痛を起さないよう,時々水で頭をぬらすこと。

    ⑧けいれんを起したらすぐ上がること。

    ⑨泳ぎ終ったら全身を清水でよく洗うこと。

    (4) 指導上の留意点
     1.初心者の指導
 初心者の指導は,いわば水中の新しい環境に生徒を適応させる過程である。そこではまず水の特殊な刺激になれさせることが必要で,それには①遊戯等によって興味のうちに活動し,知らず知らずに水に慣れること,②刺激に耐えて反復練習することを考慮して指導を進めなければならない。また泳ぐためには,水底や他の固定した支持物から離れなければならないが,それには最初から深い所で手や足を支持物から離すのではなく,浅い所からしだいに深い所へ,また支持の程度をしだいに減らしていく等,段階的指導を考慮しなければならない。すなわち,たとえば次のような指導段階をとって,学習を進めることが望ましい。

(1) 浅い所で,各種の遊戯をする。

(2) 浅い所で水底・プールの壁・丸太材等につかまるか,交互に相手の手につかまる等の方法により,沈み合い・ばた足,水面に顔をつける,浮き方・立ち方の学習指導をする。

(3) 水に顔をつけたり出したりして呼吸の方法を学ばせ,支持物なしで,ばた足・浮き方・立ち方等の指導をする。

(4) 簡単な腕の動作を指導して,犬かきや初歩クロールへと進める。

(5) 陸上の練習を盛んに行うとともに,しだいにかえる足・あおり足等の基礎動作へと進める。

(6) 自己保全のために必要な動作(沈んでから浮き上る,浮いて他人に引っぱられる,浮き方の姿勢をかえる,深い所を歩く等)を指導する。なおその指導に当たっては次の諸点に注意する。

    イ 赤帽子をかぶせて他と区別する。

    ロ 練習の場所を浅い所に限定する。

    ハ 全身の力を抜いてのびのびと柔らかく体を動かさせる。

    ニ 初めは浮かすことよりも,むしろ沈めて水にれさせるようにする。

    ホ 水中で目を開くこと,口から水を出したり入れたりしないこと,顔に水がかかってもいちいち手でぬぐわぬ等必要な習をつけさせる。

     2.審判法および競技会の運営等の指導
 上学年においては競技会の諸準備・運営法等について理解を持たせ,実際的に指導して,校内競技会の役員をやれるくらいにする。そのために水泳競技規則や審判法を理解させることに努める。
     3.そ の 他
(1) 計画に当たっては種々の性格の異なる種目,すなわち,泳ぎ・飛び込み・水中遊戯・救急法等が適切に組合わされて,系統的・漸進的発展がなされるよう考えるとともに,技能のすぐれた者の指導が中心となるようなことがないように注意する。

(2) 水泳場の選定を選定条件に照らして適切に行うとともに,設備用具の整備につき常に教育的考慮を払う。

(3) 実施直後の人員点検と,実施中の監督を確実にし,事故を未然に防ぐことに努める。

(4) 実施以前に病弱者および病歴者について医師の診断を受けさせる。

(5) 練習上の規定を生徒に徹底させるとともに,特に衛生上の注意をじゅうぶん理解させる。

 

9.ダ ン ス(高等学校女子の場合)

    (1) 歴   史

 わが国においておどりの文字が記録されているのは,出雲(いずも)風土記の須佐之男命(すさのおのみこと)の神話であるが,ダンスの発生は,その本質から考えて,人間の生活が始まると同時に,すなわちことばのない時代にあったと考えることができよう。おそらく原始時代においては,生活の大きな部分が,ダンスによって営まれ,しかもその多くは欲望の踊りで,人間が何を必要とし,何を得ようとしているかを表現した,模倣的なものであったことと想像される。

 古代に及んでエヂプトのダンスは,宗教儀式の中心として存在していたが,ギリシアにおいては国技として採用し,ダンスの教育的価値を認めて体育と情操の教育にあて,文化的な発達を見るにいたった。ローマにおいては官能化の犠性となり,宗教的意義さえ失うにいたったが,しかし特筆すべき一つはパントマイム(無言戯)が発達したことである。

 中世におけるダンスは,キリスト教の影響により,暗黒時代を現出するにいたったが,一般民衆の間には踊って楽しむフォークダンスが発展した。

 近世に及んで,文芸復興は大いにダンスの振興に影響を与えた。代表的なものの一つは社交的なダンスで,これは中世において民衆の中に起ったフォークダンスが,しだいに上流階級に侵入して専門的な娯楽芸術となったもので,これを育てたのはフランスである。

 他の一つは舞台のダンスで,これはバレーによって代表される。

 バレーは1485年イタリアの町トルトナでミラノの公爵ジャン・ガレアッツオ・スフォルツアとアラゴンのイサベラ姫との婚姻祝宴のとき,ギリシアの神話に取材して出演したのがその最初であるといわれ,後,宮廷の供宴に使われ,まもなく全イタリアを支配した後,フランスに渡り,17世紀のフランス宮廷においても発展した。18世紀の中ごろ,ジャン・ジョルジュ・ノヴェルの出現によって戯曲的なバレーが創始されたため空前の発達を見るにいたったが,19世紀の後半にはロシアにおいてのみ盛んとなり,諸国では衰微してしまったのである。ところが,20世紀にはいり,アメリカにイサドラ・ダンカンという女性が現われ,技巧にのみながれて行きづまったバレーに革命的な衝撃を与え,ダンスを自然に返すことを叫んで自由奔放に踊った。これが近代ダンスの起源である。一方行きづまっていたロシアの古典バレーもこの影響を受け,舞踊家にバヴロヴァ,振付けにフォーキン・ニジンスキー,作曲にチャイコフスキーらが現われて,バレーの黄金時代を現出したが,1929年ごろからしだいに衰微するにいたった。

 このころ,スイスのジェネヴァにおいてエミール・ジャック・ダルクローズが音楽の世界から身体運動を研究して,新しい音楽教育法リトミックを創始し,ダンスに一大革新をもたらしたのであるが,けっきょくは音楽のリズムと運動のリズムを一致させようとしたところに無理が生じ,やがてダンスの面から忘れさられるにいたった。

 その後ダンカンの思想を受けて,各国に新しい舞踊をめざす人々が多く現われた。その代表的な人がハンガリーのルドルフ・フォン・ラバンである。かれはモダンダンスを提唱し,現代ダンスの基礎をつくったが,それはメリー・ウィグマンの出現によって完成した。モダンダンスは身体を素材として,文学の助けも,音楽の介在もなく,合理的なリズミカルな運動により,自由に自己を表現するダンスであって,ここにおいてダンスが他の芸術とともにその位置を同じくするにいたったのである。これが現代のダンスである。

 わが国にダンスがはいったのは,文久2年のことであるが,これが学校教育の中に採り入れられたのは明治になってからである。

 明治10年ごろにはじめて外国からはいったダンスの中から,適当なものが選択され,学校にとりあげられたようである。

 ところが明治20年ごろになると,外国からはいったダンスが一般社会に歓迎されて,はなやかな鹿鳴(ろくめい)館時代を現出した。この朝野をあげてのダンス熱は,常軌を逸して一般風紀上にも害悪を流し,学校ダンスをもゆがめるようになったが,その後約10年間,学校ダンスは危険視されながらも,ようやくその余命を保っていた。ところが明治35年に至り,欧州視察から帰った坪井玄道氏によって,ダンスの教育的価値が高唱され,さらに明治36年井上あぐり女史が米国から帰朝してギムナスティクダンスを採り入れ,当時の学校ダンスがややもすると軟弱視されていたのに対して,堅実で体育的であるという見地から大いに時代の要求にそうところがあった。しかし当時の学校ダンス界には一方に社交ダンス系統のもの,他方に体育的傾向をもったものがあり,それに加えて,表情遊戯・表情体操という別派なるものがあったので,再び学校ダンスの混乱をもたらした。次いで大正2年学校体操教授要目の公布をみるにいたり,その中でダンスは発表的遊戯・行進遊戯として採り入れられた。大正7年ごろから,芸術教育の思潮が盛んになり,その影響を受けて律動遊戯が宣伝され,童謡遊戯の隆盛をみるにいたった。

 そこで大正15年の改正要目は,これを唱歌遊戯・行進遊戯の名称に変えたが,昭利11年公布の要目には唱歌遊戯・行進遊戯を独立した教材として認めるに至った。

 その後昭和19年にいたり,国民学校においては音楽遊戯,中学校においては音楽運動と改名されたが,その主流をなすものは依然として既成作品の模倣であった。ところが終戦後,昭和22年5月に学校体育指導要綱が出るに及んで,はじめて児童生徒の表現創作を主とするモダンダンスを中心とする学校ダンスの確立を見るにいたったのである。

    (2) 特   徴

 ダンスは他の諸運動と比較して,次のような点をその特徴としてあげることができる。

    1.リズミカルな身体の動きで,自分の思想や感情を美意識に基づいて自由に創作的に表現するものであるから,情操を豊かにし,表現力・創作力・鑑賞力を養うのに効果的である。

    2.運動量はじゅうぶんにあり,健康を増し,軽快敏捷で優美な動作,美しい姿勢を保たせるのに効果的で,特に女子の特性を伸ばすのに最適である。

    3.フォークダンスは,男女共学によい教材であり,特にレクリエーションとしても効果的である。

    4.用具が簡単で,しかも狭い場所で大ぜいの者が同時に楽しめる。

    (3) 用   具

 ピアノ・タンバリン・太鼓・蓄音機・レコード等

    (4) 方   法

1.身体の移動を主とする基礎運動

 ダンスの基礎運動は,自分の思想や,感情を自由に美しく,リズミカルに表現できる身体をつくるために行う運動で,そのねらいは身体の移動を合理的に行わせることと,柔軟な身体をつくることにある。

 前者においては歩くことを基礎とし,これに時間的・空間的な種々の変化を加えて,いろいろな方法を経験させることがたいせつである。次にいくつかの例を解説する。

 (1) ツウステップによる前進・後進・側進・斜め前後進・回転

 右足を前に踏み出し,左足を右かかとの後に引き寄せる動作を1間で行い,さらに右足を前に踏み出す。以上の動作を2間で行い,交互に連続して,直線上または曲線上を,前や,後や,側や,斜め前後に進む。またみずから回転しながら進む。  (2) ワルツステップによる前進・後進・側進・斜め前後進・回転  右足・左足を踏み出し,次に右足を左足に引きつける動作を3間で行い,交互に連続して,直線上または曲線上を前や,後や,側や,斜め前後に進む。またみずから回転しながら進む。  (3) ポルカステップによる前進・後進・側進・斜め前後進・回転  右足を前に踏み出し,左足を右足のかかとに引きつける動作を1間で行い,さらに右足を前に踏み出すと同時に,ホップして左ひざを曲げて前に上げる。以上の動作を2間で行い,交互に連続して,直線上,または曲線上を,前や,後や,側や,斜め前後に行いながら進む。またみずから回転しながら進む。  (4) バランスステップによる前進・後進・側進・斜め前後進・回転  右足を前に踏み出し,左足を右足の前または後に引きよせ,体重をこれに移す動作を1間または2間で行い,再び右足に体重を移す。以上の動作を2間または3間で行い,交互に連続して直線上または曲線上を,前や,後や,側や,斜め前後に行いながら進む。またはみずから回転しながら進む。  (5) マズルカステップによる側進  右足を側にすべり出し,次に左足で右足を打ち出し,さらに左足でホップすると同時に,右ひざを曲げてあげる動作を3間で行い,連続して,直線上または曲線上を側に進む。  (6) フォローステップによる前進・後進・側進・斜め前後進・回転  右足を側に出し,左足を右足の前または後に交叉するように出す動作を1間に行い,これを連続して,前や後や,側や,斜め前後に行いながら進む。またはみずから回転しながら進む。  (7) ピボットターン  右(左)足を軸とし,左(右)足は足尖のみを床につけ,体重を交互にかけながら回転する。  (8) クロスオーバーターン  右(左)足を左(右)足の前に交叉して両足尖で一回転する。 ○指導上の注意

 柔軟度を養う基礎運動や,生活経験から取材しての表現と,結合または複合して行わせる。

2.身体の柔軟度を養う基礎運動

 この基礎運動は,柔軟な,そして自由自在に動きうる身体をつくるために行う。

 そのためには徒手体操の柔軟度を養う運動と関連しながら,手・足・胴体の緊張・解緊・振動・回旋等の運動を,合理的・有機的な運動になるように導くことが必要である。次にいくつかの例を示す。

 (1) 足首・ひざの屈伸に腕の回旋を加えながら前進・後進

 右足を左足の前に交叉するように踏み出し,足首,ひざの関節を柔らかに2回屈伸させる間に,両腕を前から回旋させる動作を2間で行い,次に左足を右足に交叉し,両腕を後から回旋させる動作を,同様に行う。それを交互に連続して行いつつ直線上または曲線上を前や後に進む。  (2) 腕の巻波をしながら前進・後進  右足を前に踏み出し,右(両)腕を柔らかく側(前・上・斜め前)に伸ばし,手前に巻きこむように引きよせる動作を2回4間で行い,次に左足を踏み出し,左(両)腕で同様に行いつつ,交互に連続して直線上または曲線上を前や後に進む。  (3) 足打跳び前進  右足を前に踏み出し,左足を斜め前に振り出し,跳んで右足を左足に打ちつける動作を2間で行いつつ,直線上または曲線上を前に進む。  (4) 片足を前にあげ,上体をねん転して前屈しながら前進。  右足・左足と前に踏み出し,さらに右足を前に踏み出すと同時に,左足を前に振りあげ,次に上体を右にねん転して上体を前に解緊する動作を4間で行い,次に左足から同様に行い,連続して直線上または曲線上を前に進む。  (5) 上体の側屈をしながら斜前進  右足を斜め右前に踏み出すと同時に,左手・左足を側に上げ,その姿勢で1間保ち,次に左手・左足・上体の緊張をといて右に側屈しながら,1間に左足・右足と斜め右前に進み,更に左足を出してとまる(1間)。以上の動作を4間で行い,次に左足を左斜め前に踏み出し,右手・右足を上げて同様に行い,左斜め前に進む動作を交互に連続して行いつつ前に進む。  (6) 体を側に回転させながら側進  上体を解緊して前に曲げたままの姿勢から,右手・右足を右から上にあげ右からまわして,右足を左足のよこにつけ,仰向けの姿勢となり,次に左手・左足をあげて同じく上体を右にまわし,左足を右足のよこにつけ,1回転して最初の姿勢となる。以上の動作を2間または4間で行いつつ側に進む。左回転も行わせる。  (7) 片足跳び・前進・後進・側進・回転  右足を前に踏み出し,次にその足でホップすると同時に,左ひざを曲げて軽く前に上げ,上体の解緊をする動作を2間で行い,交互に連続して,直線上または曲線上を,前や後や側に進み,または回転する。  (8) 上・側・後突きの前進  右足を踏み出して右手を上に突きあげ次に左足・左手で同様に行い,次に右足を左足に交叉するように左側に踏み出し,右手を左側に突き出す。次に左手・左足で右側に行い,さらに右足を後に踏み出し,右手を右後に突き出し,次に左足・左手を左後に行う。以上の動作を12間で行いながら前に進む。 ○指導上の注意
    (1) 徒手体操の柔軟度を養う運動と関連して行わせる。

    (2) 個定した要領だけで行わず,部分から全身へ,単独から総合へと進め,さらにテンポ・強弱・アクセント等のリズム的変化を加えて豊富に経験させる。

3.生活経験から取材しての表現

 表現とは内面的な心的活動を,外部的・客観的・具体的なものに表わす働きであるが,ダンスにおける表現は,単に表わすという事にとどまることなく,いかに美的に表わすかという点に進まなければならない。表現内容は,生活経験から個性的に,はあくしたものであればどんなものでもよい。次にいくつかの例を示すが,教師はこれを一つの参考とし,生徒の能力と土地の実情に即する教材の選択と指導に努められたい。

 (1) 倒 れ る

 物体が地球の引力により,急激にまたは徐々に,あるいはくずれるように倒れる様子を,個人またはグループで自由に表現する。  (2) 起 き る  物体が地球の引力に反抗して,急激にまたは徐々に起きあがる様子を,個人またはグループで自由に表現する。  (3) おにごっこ  追いつ追われつ,おにごっこに遊びたわむれている楽しい様子を,個人またはグルーブで自由に表現する。  (4) 機   械  直線的にまたは曲線的に,規則正しいテンポで動く種々な機械の様子を,個人またはグループで自由に表現する。  (5) 再   会  長く別れていた親しい人,なつかしい人,または尊敬する人と再会した時の喜びを,個人またはグループで自由に表現する。  (6) 泣   く  しのび泣き・むせび泣き等,悲しみに堪えきれないで泣く様子を,個人またはグループで自由に表現する。  (7) 希   望  希望に輝く少女の喜びを,個人またはグループで自由に表現する。  (8) 別   れ  親しい人,なつかしい人,尊敬する人と別れるときの寂しさを,個人またはグループで自由に表現する。  (9) 静 け さ  環境の静けさ,精神的な心の静けさなどを,個人またはグループで自由に表現する。 ○指導上の注意
    (1) 表現は単なる直接的な摸倣表現でなく,間接的な,感覚的な,創作的な表現に導き,表現技術を高める。

    (2) なるべく生徒の生活経験から広範囲に取材して,個人またはグループによって表現させ,相互に鑑賞し批判し合わせる。

4.既成作品による表現

 創作力・表現力・鑑賞力をより高めるための手段として,優秀な既成の作品を選択して踊らせる。次にいくつかの例を示す。(○印は踊り方を解説したもの)

○(1) つ ど い

 日本古来の琴の曲,六段に振りつけたもので,8人のグループで踊る優雅な作品。  (2) 森のあした  夜のやみにとざされていた神秘的な森が,静かにめざめ,せわしげな活動にはいる様子を表現した作品。  (3) ブラームスのワルツ  ブラームスのワルツに振りつけた作品。  (4) フラワーソング  フラワーソングに振りつけた作品。  (5) 朝 な ぎ  静かな朝の海のなぎの様子を表現した作品。  (6) 鏡  鏡に向う人の心を時に静かに,時に激しく,そのまま正直に写す鏡の心を表現した作品。 ○指導上の注意
    (1) あくまでも生徒の創作力・表現力・鑑賞力を養うためのものとして与えるものであることを忘れず,その与える量にじゅうぶん留意する。

    (2) 生徒の能力に応じた作品を最も効果的に与えるよう考慮する。

    (5)作品の創作

 作品の創作はダンスの最も重要な面ではあるが,自分の心の動きをそのまま身体の運動に移して,それが完成された作品になるような境地にはなかなか到達しない。

 今日におけるダンスの創作法としては,一つのテーマをもとにして,各人・各自にぴったりした動きを生み出し,それを整理・構成して創造的に律動的に表現する方法以外にないが,その方法としてまず簡単な運動をもとにした作品的なものを作ることから,しだいに主題を与えたり,歌曲・リズム等によって手がかりを与え,能力に応じた部分創作等の段階を経て,最後にみずから主題を選び,作品を構成するように進めることが適当であろう。次にいくつかの主題例を示す。

 (1) 菊

 秋空のもとに,清く美しく咲きほこる菊の花のけだかさを,個人またはグループによって表現し,作品を構成する。  (2) 暁  暗黒の世界から,次第に白く,明るく輝き出す暁の太陽,眠りからさめて活動を始めようとする万物の,静から動へと転換する様子を,個人またはグループによって表現し,作品を構成する。  (3) トロイメライ  シュウマンの作品トロイメライに振りつける。  (4) 思 い 出  楽しい思い出,悲しい思い出,苦しかった思い出等,忘れられない思い出を美しく表現して作品を構成する。  (5) 四季の海  静かなのんびりした春の海,にぎやかなきらきらと輝く夏の海,豊かな秋の海,大波さかまく冬の海の様子を表現して,作品を構成する。  (6) アルプスの夕映  アルプスの夕映に振りつける。  (7) 苦   闘  少女の上にふりかかる物質的な,精神的な苦しみとたたかう様子を表現して,作品を構成する。  (8) 荒城の月  荒城の月に振りつける。  (9) せ き 別  なつかしの学生生活,思い出の学生生活,親しい友,なつかしい恩師と別れて,ひとり世の中に旅立ち行く気持を表現して,作品を構成する。 ○指導上の注意
    (1) 生徒の能力に即して適切な方法で作品を創作させ,決して無理な要求をしてはならない。

    (2) 能力のある生徒には,でき上がった作品に対して,ピアノまたは打楽器による伴奏の研究を行わせる。

    (3) でき上がった作品に対しては,常に相互に鑑賞批判し合わせる。

    (6)フォークダンス

 フォークダンスは,ある国ある地方において,その独特の環境と,民族性の中から生まれ,長い間そこで踊られてきた民族的ダンスで,これを行わせることは,国際教育上また社会教育上あるいはレクリエーションとしての効果等から考えて,きわめてたいせつなことであり,そこに取材の意義がある。

 次に示す教材例の中から,いくつかを解説して参考とする。(○印は踊り方を解説したもの)

○(1) ダッチカップルダンス

   オランダのフォークダンス

 (2) コーターワルツ

   アメリカのフォークダンス

 (3) カレドニアン

   ドイツの社交ダンス

○(4) ポートランドファンシン

   アメリカのフォークダンス

 (5) スコッチキャップ

   スコットランドのフォークダンス

 (6) ギャザリングピースコーツ

   イギリスのフォークダンス

 (7) スクェアーダンス

   アメリカのフォークダンス

 (8) 木 曾 節

   長野県のフォークダンス

○(9) 佐渡おけさ

   新潟県佐渡のフォークダンス

 (10) 郡上おどり

   岐阜県のフォークダンス

○指導上の注意

    (1) 国情・音楽・ステップ等の特徴を知らせて導入する。

    (2) 分解的な指導よりも,全体をはあくさせ,楽しいふんい気をつくることがたいせつである。

    (3) 男女共学のよい教材であるが,実施に当たってはじゅうぶん礼儀を重んじて行わせるがよい。

    (4) 特に高学年においては,余暇活動におけるフォークダンスの価値を認識させる。

    (7) 指導上の留意点
    (1) 教材は生徒の能力と土地の実情に応じて最も適切なるものを選択し,なるべく広範囲に経験させる。

    (2) 指導は最初は単純なものからしだいに複雑なものへと段階的に指導して,完成されたものよりその過程を尊ぶ。

    (3) いかなる運動も合理的・有機的な自然運動に導くがよい。

    (4) 動きに適した伴奏を与えて,リズミカルな動きの楽しさを味わわせる。

    (5) 創作については,生徒を自由に放り出すことなく,創作しうるところまでかれらを導いて行くことを忘れてはならない。

    (6) できるだけ専門家の作品を鑑賞する機会をつくって,鑑賞力を養うことがたいせつである。

    (7) 評価はできるだけ普遍性をもつように行う。

○つどい(既成作品の例)

隊   形

 8人l組ふたりずつ,図のように正方形の辺上に中心を向いて立ち,音楽を背にしているふたりを1組と呼び,右隣のふたりを2組,向かい合っているふたりを3組,左隣のふたりを4組ときめ,各組右にいる者を右生,左にいる者を左生と呼ぶ。

           

動   作

1段

1小節——6小節(12間)

 各組連手して円形をつくったまま静かに音楽をきく。 7小節——12小節(12間)  連手したまま円周上を左に12歩く。 13小節——14小節(4間)  手を離して各自左に4歩で一まわりする。 15小節——22小節(16間)  円周上を右のほうへ7小節から14小節までの動作をくり返す。 23小節——24小節(4間)  連手した手をしだいに高くあげながら,円心に3歩進み,4歩目の右足先を左足かかとに軽くポイントする。 25小節——26小節(4間)  連手した手をしだいにおろしながら3歩後退し,4歩目の左足をそろえる。 27小節——30小節(8間)  23小節から26小節までの動作をくり返して行う。 31小節——34小節(8間)  各組の右生が円心に向かって前進し,連手して小円をつくる。 35小節——38小節(8間)  各組の左生が前進し,右生同志のつくった小円の連手の下をくぐり,両手を前から上に上げて横におろし,右生の肩に手を置く。(図参照)      

39小節——40小節(4間)

 肩を組んだまま左足を左横に出し,さらに右足を左足にそろえ,再び左足を左横に出し,右足先を左足かかとにつける。 41小節——42小節(4間)  39小節から40小節までの動作を右方に行う。 43小節——46小節(8間)  39小節から42小節までの動作をもう1度くり返す。 47小節——50小節(8間)  しだいに肩から手を離し,連手して4歩後退し,左足を左横に1歩出し,右足を左足後にクロスし,次に右足を右に出し,左足を右足後にクロスする。 51小節——54小節(8間)  各組右生・左生向き合い,右肩をすれ合わせて3歩前進し,後向きとなって顔を合わせ,4歩目右先を左足かかとに軽くつけ,次に左肩をすり合わせてもとの位置に4歩進み,円心を向いてとまる。 2段

1小節——4小節(8間)

 各組,正方型の辺上に立ったまま静かにきく。 5小節——6小節(4間)  各組2人ずつ連手して,左斜め前に4歩前進して,1組は4組の,2組は1組の,3組は2組の,4組は3組の位置に進んで,図のように各組で十字型をつくる。       

7小節——8小節(4間)

 右生は右手を左生の左手と組み,左生の前を顔を合わせるように通り,左生の位置に進む。左生は横に進んで右生の位置に進み,位置を交換する。 9小節——12小節(8間)  十字のままさらに次の組の位置まで進みそこで再び左生・右生位置を交換する。 13小節——16小節(8間)  同様に次の組の位置まで進み,そこで右生・左生位置を交換する。 17小節——20小節(8間)  4回目に各組自分の位置にもどり,右生・左生位置を交換し,もとの正方形にかえって中心を向く。 21小節——24小節(8間)  1組と3組は4歩前進し,向かい合っている相手の手を取り,左方に半回転して手を離し,4歩後退する。これで1組・3組が位置を交換したことになる。 25小節——28小節(8間)  2組・4組が同様にして位置を交換する。 29小節——32小節(8間)  再び1組・3組位置を交換して,もとの位置にかえる。 33小節——36小節(8間)  2組・4組が位置を交換して,もとの位置にかえる。 37小節——40小節(8間)  各組の右生は斜め左前に進み,右手を出して4人で軽く握り,さらに進んで,向かい側の組の左生と左手を軽く握って左方にまわる。各組左生は,自分のまわりを4歩で1回まわり,次に相手の右生と左手を軽く握ったまま,左方に更に1回まわる。 41小節——44小節(8間)  再び右生は左斜め前に進んで,中央で4人軽く手を握り,さらに進んで,自分の相手の左生と左手を軽く握って左方にまわる。各組左生は,自分のまわりを左方から2回まわし,2回目は自分の右生と左手を組んでまわる。 45小節——48小節(8間)  各組内側の手を取り,頭上にあげ,右生は左生のまわりを前から一まわりする。左生は立ったまま右生をまわしてやる。 49小節——50小節(8間)  左生が右生のまわりを前から一まわりする。3段・4段・5段・6段は略す。  
 

つ ど い

一段

つ ど い

二 段

ダッチ カップル ダンス

 

 

○ダッチカップルダンス(フォークダンスの例)

隊形

 1列の円型,最初に1番生・2番生をきめておく。

動作

1小節——4小節(12間)

 円心に向いて互に手をつなぎ,左足を1歩左に出し,次に右足のかかとで左足の側の床をけり,さらに右足のひざを曲げて前にあげると同時に,左足でホップする。以上の動作をさらに右左右と3回くり返す。 5小節——8小節(12間)  1番生は円の内側へ,2番生は円の外側へ,それぞれ外側の足から1間に2歩のランニングステップを6間行って,互に離れる。次に互に向き合って6間に1回礼をする(礼は外側の足を側に出し,内側の足を後に引いて,これに体重をかけ上体をわずかに前に傾ける)。 9小節——12小節(12間)  左足から始めて1小節から——4小節までの動作をくり返す。 13小節——16小節(12間)  互に1間2歩のランニングステップを6間行って,もとの位置にかえり,次の6間で礼をする。 17小節——20小節(12間)  1番生・2番生は両手を取り,1番生は左足から前進,2番生は右足から後進,3間に1回のホップ4回で円の外に進む。 21小節——24小節(12間)  前と同じ要領で2番生は前進し,1番生は後退する。 25小節——26小節(6間)  2人は接近して両手を側に肩の高さにあげてとり,1番生は右足,2番生は左足を側にあげ体を側に倒し,反対側の足でホップを3回行う。足を変えてこの動作をくり返す。 27小節——28小節(6間)  25小節——26小節までの動作をくり返す。 29小節——31小節(9間)  25小節——26小節までの動作を3回くり返して右に一まわりする。 32小節  足踏みをしながらもとの円周にかえる。  以上の動作をくり返して行う。

指導上の注意

    (1) 曲をよく理解させて行わせる。

    (2) ふたり組んでのホップは早くならないよう注意する。

○佐渡おけさ(フォークダンスの例)

隊形

 1列の円型,右に向いて円周上に立つ動作

 左足を右足に交叉するように,右斜め前に1歩出し,これに体重を移し,からだの前で一つ拍手し,再び右足に体重を移し,次に出した左足をもとにもどして右足にそろえると同時に,拍手した両手を左右に開く。  同じ要領で右足を左斜め前に出して拍手をし,踏みかえ,右足をもどして両手を左右に開く。  再び左足を右斜め前に出して拍手をし,踏みかえる。  左足を左斜め後に出し,両手を左斜め後に流す。  右足を左足にそろえ,両手もからだの前でそろえる。  右足を右斜め後に出し,両手を右斜め下に流す。  左足を右足にそろえ,両手もからだの前でそろえる。  左足を左斜め後に出し,両手を左斜め後に流す。  一度右足をひき,次に再び右斜め前に出し,両手を右斜め下に流す。 10  左足を右足にそろえて斜め右のほうを向き,両手をからだの前でそろえる。 11  右足を右のほうに出し,両手を右斜め下に流す。 12  左足を右足にそろえて,両手もそろえる。 13  左足を左斜め後に出し,両手を左斜め下に流す。 14  右足を左足にそろえて,両手もそろえる。 15  右足を斜め右後に出して,両手を左右に開く。 16  左足をひき,右足にそろえて,両手をそろえる。 指導上の注意

1.手足の動作をリズミカルに行わせる。

2.16まで踊ったら「それ」で右足を1歩前に出し,そろえてある両手を下におろして進み,再び最初からくり返す。

3.じょうずになったら踏み換えを柔らかに行わせるとよい。

 

 10.体育理論

 体育理論は体育の真の価値をよく理解させ,これを家庭生活や社会生活に役だたせるとともに体育思想を深め,教養を高めるためのものである。また体育理論を,ただ理論として理解させるだけでなく,これを実際運動に生かして,いっそう合理的・科学的に体育の効果を収め,なお将来における健康生活設計の基礎に役だたせようとするためのものである。

 わが国における学校体育の施設ははなはだ貧弱であり,その上戦災や経済上のつごうで,体育館をもつ学校はまことに少ない。また地域によって多少の差はあるが,季節や天候等のため,運動場が使用不能となるため,必修時の体育を教室で指導する機会が相当に多い。この貴重な時間を,体育理論や健康教育の指導にあてることは最も有効適切な一つの方法である。しかしそれだけにとどまることなく,別に適当な時間を,計画的に用意することの必要もいうまでもない。体育理論の内容は,その性格上きわめて範囲が広く,その中には運動教材と直接関連して指導するほうが適当なものも多いし,そうでないものも少なくないからである。次に掲げるものは,その計画を進める場合に参考となろう。

    (1) 指導項目
    1.体 育 史
 体育史については,欧米体育史と東洋および日本体育史について概説し,体育史を通じて,体育思想の変遷と体育の進むべき方向や体育の本質を理解させる。たとえば次のような内容が考えられる。
    (1) 体育はどうして起ったか。

    (2) 古代東洋諸国の体育はどのように行われたか。

      ①中国・インドの体育

      ②エジプト・ペルシアの体育

    (3) 古代欧州の体育はどのように行われたか。
      ①ギリシアの体育

      ②ローマの体育

      ③ゲルマン人の体育

    (4) 中世欧州の体育はどのように行われたか。
      ①宗教改革と体育

      ②農民・市民・騎士の体育

    (5) 近世欧米の体育はどのように行われた
      ①ドイツの体育

      ②アメリカの体育

      ③イギリスの体育

      ④フランスの体育

      ⑤スウェーデンの体育

      ⑥デンマークの体育

      ⑦オランダの体育

      ⑧スイスの体育

      ⑨チェッコスロヴァキアの体育

      ⑩ハンガリーの体育

      ⑪オーストリアの体育

      ⑫イタリアの体育

      ⑬フィンランドの体育

      ⑭ソヴィエットの体育

    (6) 日本の体育はどのように行われたか。
      ①古代の体育

      ②中世の体育

      ③近世の体育

   ——明治・大正・昭和の体育——
     2.体育の目標
 体育の目標については,本書に掲げられたものを中心として理解させ,その具体的目標については,身体的・社会的・情緒的立場と,レクリエーションや安全教育の立場から理解させる。たとえば次のような内容が考えられよう。これを実際運動に,また社会生活に生かされ,実践されるように指導する。指導内容としては次のようなものが考えられよう。
    (1) スポーツマンシップの意義
      ①スポーツとスポーツマンシップ

      ②スポーツマンシップとフェアプレー

      ③スポーツマンシップの発揚された多くの例話

       Ⅰ イギリス人のスポーツマンシップ

       Ⅱ アメリカ人のスポーツマンシップ

       Ⅲ 日本人のスポーツマンシップ

    (2) スポーツマンシップをどのようにして養うか

    (3) アマチュアとプロフェッショナルについて

    (4) 真のスポーツマンについて

    (5) スポーツマンシップと民主社会生活について

     3.レクリエーション
 レクリエーションについて,その意義と重要性を認識させ,またその方法などについて,理解させる。

 たとえばその内容としては次のようなものが考えられる。

    (1) レクリエーションの意義

    (2) 文化生活とレクリエーション

    (3) 余暇の意義とその善用

    (4) 欧米の余暇利用法とその施設

    (5) わが国の余暇利用の現状

    (6) 欧米の社会体育

      ① アメリカの社会体育

      ②イタリアの社会体育

      ③イギリスの社会体育

      ④スウェーデンの社会体育

      ⑤ドイツの社会体育

    (7) わが国の社会体育の現伏と発展策

    (8) レクリエーションとスポーツ

    (9) 学生のスポーツとレクリエーション

     4.家庭体育
 家庭体育についてはその意義や重要性と,その内容と方法について理解させる。

 わが国の家庭体育は,経済上の貧困と国民の体育思想の欠如からまことに不振である。文化の興隆も社会の発展も家庭の幸福も,各個人の健康によることを思えば,家庭における衛生と運動の両面にわたって,積極的な体育計画を立案し実行しなければならない。

 この家庭体育の重要性を理解させ,その具体的方法を知らせ,生徒が常に体育に関心をもち,家庭体育のリーダーとして,みずから実践するように指導する。

指導内容としては,たとえば次のようなものがあげられよう。

    (1) 家庭体育の意義とその内容

    (2) わが国の家庭体育の現状と欧米の家庭体育

    (3) 家庭体育の方法

      ①主婦と体育

      ②家庭の衛生

       栄養と睡眠,通風と採光

      ③家庭的な体育運動

       望ましい各種家庭スポーツ,家庭体操,休日・休暇のレクリエーション,1坪農園の耕作,散歩・ハイキング等

     5.運動衛生
 運動衛生については,その意義と目的を明らかにし,体育運動やスポーツの適用を誤らないようにするとともに,その効果をいっそうじゅうぶんに収めるように指導する。

 運動は性・年齢・体質等を考慮して決定しなければならならない。青少年学徒は,血気にまかせて運動やスポーツに熱中し,健康を害するものが少なくない。よく運動衛生の科学的な原則を各個人に適用して,じゅうぶん体育運動やスポーツの効果を収めるように指導しなければならない。その指導に当たっては,たとえば次のような内容があげられよう。

    (1) 運動衛生の意義と目的

    (2) 体育運動と年齢・性・体質の関係

    (3) 体育運動と疾病

      ①体育運動と結核

      ②体育運動と心臓病その他

    (4) 体育運動と外傷

    (5) 体育運動と日光・空気・栄養

    (6) 疲労と休養

    (7) スポーツマンと運動衛生

    (8) 各種運動実施と衛生的考察

     6.国際競技
 国際競技については,各種国際競技の意義・内容・歴史等についてじゅうぶん理解させ,国際競技が世界平和にどのように貢献するかを理解させなければならない。

 なおこれらの各種国際競技会とわが国の関係について,じゅうぶんに認識させるよう努力すべきである。指導内容としては次のようなものが考えられよう。

    (1) 近代オリンピック競技
      ①近代オリンピック競技の復活したわけ

      ②近代オリンピック大会はどのように発展してきたか

      ③近代オリンピック大会はどのような機構で運営されているか

      ④近代オリンピック大会とわが国の関係

    (2) 冬季オリンピック競技

    (3) 極東選手権大会

      ①極東選手権大会はどうして起ったか

      ②極東選手権大会はどのようにして行われたか

      ③極東選手権大会とわが国の関係

    (4) デヴィスカップ選手権大会(デ杯戦)
      ①デ杯戦はどうして起ったか

      ②デ杯戦はどのように発展してきたか

      ③デ杯戦の方法と今までの成績

      ④デ杯戦とわが国の関係

    (5) ウインブルドン庭球大会
      ①この大会の起りとその意義

      ②この大会はどのように発展したか

      ③ウインブルドン大会とわが国の関係

    (6) アジア競技大会
      ①アジア競技大会はどうして起ったか

      ②アジア競技大会はどのようにして行われたか

      ③アジア競技大会とわが国の関係

      (2) 指導上の留意点

    1.体育理論の指導も計画的でなければならないことは当然であり,他の運動教材と同時に体育の全体計画の中に含まれるべきである。

     特にその計画に当たっては,運動教材や,他教科との連関をじゅうぶん,考究・検討して指導内容を学年配当し,系統的に漸進的に程度を高めていくようにするがよい。

    2.各種のスポーツや運動の歴史・競技方法・用語・策戦等についての理論はそれぞれ各運動教材の指導計画に含まれるほうが望ましい。

    3.理論の指導は教室において,また運動場において適宜・適時に説明したり,校外の行事や特別教育活動と連けいして指導したり,あるいは課題法や討議法等によって指導するがよい。また問題を選ばせて研究・調査を指導し,レポートや論文をつくらせることも価値ある方法である。

    4.指導に当たってはできるだけ豊富に参考資料を収集して,いかなる事情にも即応できるように計画を立て,常に準備しておくことが肝要である。そのため各種の文献や統計・グラフ・掛図・写真・絵はがき・新聞・雑誌等,活用されるものは多い。

    5.予備調査や結果の評価を必要に応じて行い,知識・理解について,生徒の実態をはあくすることが大事である。