第4章 学習指導法と管理

 

 生徒の活動を,よい学習の機会とさせ,さらにこれを発展させて目標達成に導くためには,指導法や管理が問題になる。

 体育の目標や生徒の発達を考え,また学校の実情に即して,必修時・自由時の活動および特別教育活動の計画をたて,これを実際に展開する場合には,いかなる方針や,いかなる具体的計画のもとに,いかなる方法をもって指導するか,またその場合,いかなる組織でいかなる環境のもとに指導するのがよいかなどが問題になる。

 この章ではこれらの問題を取上げ,体育の学習指導法と管理という標題のもとに取扱う。

 地域・年齢・性・個人差または施設などの程度に応じて指導する場合,考慮しなければならない問題がいろいろあるが,ここではこれらのうち重要と思われるものを取扱うことにした。

 実際の指導にあたって,指導者は熱意をもって,できるかぎり生徒とともに活動し,直接その指導と管理にあたることの必要を強調したい。

 

 1.学習指導法

 体育の学習指導法としては,戸外または体育館などで行う場合の指導法と,教室で行う場合の指導法とがある。このうち,後者の知的活動の指導は,他教科のそれと共通する点が多く,これについては学習指導要領一般編に述べられているので,ここでは前者の運動を主とする学習についての指導法を述べることにする。

 目標をもち,自発活動を重んずる学習指導では,生徒の学習意欲を喚起することがたいせつである。これに関する2,3の項目について略述する。  生徒は,関心をもち,興味をもつ事がらについては,みずから進んで学ぼうとするが,興味のない事がらは,なるべく避けようとするから,学習意欲の喚起には,まず興味を考えなければならない。

 興味には,好ましい興味とそうでない興味とがある。単に現在興味をもつ事がらを学習させようとするだけでなく,好ましい興味を育て,かつ必要な事がらを学習することに興味を持つように指導することがたいせつである。

 このためにまず生徒はどのようなことに興味をもつかということを知り,そのうち生徒の発達上好ましいものを選んで指導することが必要である。

 だれでも必要を感ずることについては熱心に学習しようとするものである。

 生徒はそれぞれ生徒相応の必要感を持って生活している。そこで指導者は,生徒の生活に参与して,よくこれを観察し,生徒の必要感をとらえて指導することがたいせつである。また学習することの必要なものについては,適切な指導によって必要感を起させて学習意欲を喚起することもたいせつである。

 ある活動に成功すると,だれでも満足の喜びを感じ,一度その喜びを感ずるとさらにその喜びをくり返そうとするものである。

 しかしながら,あまりたやすくなしとげられると,その喜びは減少するし,また続けて失敗するとか,あるいは全然見込のない場合には,活動意欲は減退し,ついにはきらうようになるものである。

 それゆえ,学習意欲を喚起するには,生徒の能力・興味・経験等を考慮し,しばしば成功の喜びを感じうる程度に要求水準をおき,適切に指導することがたいせつである。

 生徒を指導する場合には,その時の事情や,教材の性質に応じて,いろいろな指導の形が用いられるが,その代表的なものとしては,いわゆる個別指導・いっせい指導,および班別指導があげられる。  個別指導の精神はいかなる場合でも必要である。しかしながらひとりの教師が多数の生徒を指導する場合に,常に個別指導をしていてははなはだ非能率的になる。したがって体育の場合には,常に個別指導の精神はもちながらも,他の指導法による場合が多い。ただし教材の性質や,生徒の事情によっては,個別指導をぜひとも交ぜ行わねばならない場合もある。  多くの生徒に共通な,基本的教材もしくは技術を指導する場合,あるいはひとりの教師が狭い場所で多数の生徒に徒手体操などを指導して,短時間に効果をあげようとする時には,いっせい指導が便利である。

 しかしながら,教材の性質によっては,とかく個人差を無視して画一的となり,深みのある指導には徹底を欠き,興味を殺して自発性を伸ばしがたい欠点もある。

 生徒には,それぞれ個人差があるけれども,多数の生徒について見ればまた似かよった生徒も多い。そこでこの似かよった生徒を集めて,いくつかの班をつくり,その班に則して指導すれば,個別指導の長所を生かすとともに,能率的ないっせい指導の長所をも取入れることができる。また体育ではチームをつくって活動する学習の機会も多いから,その意味からいっても班別指導は便利である。班別の方法としては,組分けのところで述べるよう,各班に差をつける方法と,均等にする方法とがあるが,教材の性質や,生徒の数に応じて適切な基準を選び,合理的な班別をすることが望ましい。

 班別は,1学級について行うばかりでなく,同一学年の生徒について,合理的な班別を行い,数人の教師が手分けして,指導することもできる。

 また班別の指導者を生徒の中から出し,適宜交代させることも必要である。

 体育の学習では,練習ということが最もたいせつで,練習を重ねることによって種々の体育効果をあげることができる。以下練習について強調すべき点を略述しよう。  練習では反復することがたいせつである。すなわち毎回少しずつ程度や内容は違うであろうが,ともかく同じことをくり返して行うことが必要である。  練習の能率をあげるためには,注意を集中して練習することがたいせつで,そのためには適当な変化や目標を与えることが必要である。  よい練習の結果には喜びが伴う。成功したときはいっそうの喜びが増すものであるから,常に適切な要求水準を設け,しばしば成功するように導き,愉快に練習するように導くことがたいせつである。  練習する場合には,理論的に考えて正しい目標をたて,創意くふうを凝らし合理的・系統的な練習をする場合と,単に他を模倣し,あるいは単なる試行錯誤による場合とがある。中学校以上では,特に目標を明らかにして,理論的・系統的な練習をするように導くのがよい。  学習効果をあげるための適当な練習時間は,学習者の能力・興味・経験・年齢・性格または教材の種類等により異なるものであるから,指導者は教材の性格や,生徒の状況を知り,練習の時間や回数あるいは間隔などを適宜加減することが望ましい。  一連のまとまりある動作を総合的に練習する場合,この練習法を全習法といい,いくつかの要素に分けて,それを重点的に練習する場合を分習法という。

 一般的にいえば,簡易なものおよび低学年では全習法の割合を多くし,複雑困難なものは,分習法の割合を多くするのがよい。この場合,各教材の本質を失わないように,分習法と全習法を適宜按配することがたいせつである。

 各種の練習では,一般にその初期において著しく練習の効果を現わすが,ある時期がくると一時停滞状態に陥り,それを突破すればふたたび進歩を示すものである。生徒にはこのことをよく理解させ停滞状態や沈滞状態(スランプ)の時にも落胆しないで,これを除去すべく努めさせることがたいせつである。

 

 2.必修時の体育

 必修時の体育には,いわゆる正課としての体育と,1年のうち数回必修として行う特別教育活動があるが,ここでは主として前者をさすことにする。

 必修時体育は普通1時限をひとくぎりとして時間割に組み,すべての生徒が必ず履修するように規定されているものであり,しかも指導者がつき添って管理し,指導することを原則とする。

 そしてこの体育は,一定の目標に向かい,系統的・計画的に指導されて,生徒の各種体育活動の中核となり,すべての生徒を正しい体育活動に向けるべきものである。したがって生徒の一時的興味や,関心ばかりでなく,将来の生活をも考慮に入れて価値の高い基礎的な教材を多くし,それを系統的に整備して,実施中の効果をねらうばかりでなく,他の分野の体育や,将来の体育にも役だてることを原則とするものである。

 必修時体育では,健康度や能力のまちまちな生徒を,同時に指導するのが普通であるが,一学級の生徒をそのままで指導すれば,生徒の個性に応ずる指導は困難である。

 そこで先にも述べたように,一学級の生徒をいくつかの組に班別して指導するのが便利である。

 班別にあたっては,まず身体検査・適性検査,各種の調査および観察等を行って,生徒の成熟度・健康度・体格・素質・能力・性格・興味・希望など各自の特質を明らかにすることが必要であり,さらに各教材の種類に応じて,

などを適切に活用する。たとえば健康度による場合は次のようにする。 などをつくり,それぞれ適切な指導を行うのがよい。なお身体的欠陥その他の理由で,運動の履行できない生徒に対しては,それぞれ適切な処置を講ずるのが望ましい。  体育の時間に行う指導の手順は,教材やその目標にしたがって相異があり,決して一様ではないが,その一般的な例をあげるならば次のようである。  その時間に指導すべき教材およびそのおもなる内容は,年間計画やその他の指導計画によって一応は決定されている。

 しかしながらその時間に指導すべき内容は,前後の関係を見とおして,事前に具体的に決定しなければならない。それについては第6章に述べてあるので省略する。

 生徒がどのような準備をし,どのような心構えで臨んでくるかは,学習効果に絶大な影響がある。それゆえに事前に生徒との間に連絡がとれていることがたいせつである。  用具や場所について事前に打合わせをし,教師と生徒とが,それぞれ必要な準備を進めておくことがたいせつである。  一時間の指導の順序は,教材の性質や指導の目標,生徒の状態,季節・天候その他の関係によって,決して一様でないが,運動の指導にあたっては,生理学的・心理学的原則を無視することはできないので,そこには当然合理的・一般的な順序が考えられる。次にその一般的な順序について概説する。  体育の時間がきたら一同集合して,ただちに学習活動にはいりうるように習慣づけると能率的である。集合の隊形としてはいろいろあるが,今その二,三の例をあげれば,(イ) 各班とも班長を先頭に班員が一列(または二列)の縦隊に並ぶもの,(ロ) 各班とも班長を右翼にして一列(または二列)の横隊に並ぶもの,(ハ) 一学級が二列横隊に並ぶもの,(ニ) 一学級があらかじめ徒手体操のできる隊形に並ぶもの,(ホ) 自由隊形に並ぶものとがある。

 時間の始めには教師と生徒とが互にあいさつをかわすのが原則である。

 出席の調査にはいちいち氏名を呼ぶ方法や,番号により人員を調べる方法や,単に生徒の報告による方法等があるが,体育では特に実際に履修するか否かが重要であるから,正確に調査記録することが望ましい。特に学年や学期の始めにはたいせつである。

 前の時間に学習したことを想起し,この時間には何をいかに学習するかを話し合い,学習意欲を喚起して活動にはいる。  強い運動やむずかしい運動をする前にからだを慣らし,心構えを作るために行う運動が準備運動である。われわれは運動を行う場合,初めはやさしいもの,程度の弱いもの,速度のゆるいものから始めて徐々に身体を慣らし,次いで強い速い,むずかしい運動に進むという生理的・心理的な原則に従う必要がある。  その時間の指導の重点となるのが主運動である。たとえばある時期に,バレーボールをとり,これに週間の継続的な指導計画をあてたとすれば,バレーボールが主運動である。主運動はその性質に応じて,班別指導やいっせい指導・個別指導が適宜用いられ,また全習法や分習法による学習が行われるのが普通である。  心身ともに高度に興奮している状態のまま急に運動をやめると,なかなか平常の状態にかえらないので,ゆるやかな運動を行って,心臓の鼓動と呼吸の速さを徐々に下げ,興奮している心身の状態を速く平静にかえして,普通の生活状態に入れることが必要である。  その時間の学習が計画どおりに行われたか,欠けるところはなかったか等を反省し,その原因について話し合い,次の時間に対する方針を定める。これは生徒の反省であるとともに教師の反省でもある。なお保健に関連した事がらもこれに含まれる。  話合いが済んだら,授業の初めと同様にあいさつして解散するようにする。ただし解散しても,当番の生徒に学習の記録を書かせたり,用具の整理をさせたりする配意が必要である。  指導の順序に従い,各項目に配する時間の大要を例示すれば次のようである。
 
1.集合あいさつ・出席調査等

2.話合い

3.準備運動

 

約10分以内

4.主運動 約35分以上
5.整理運動

6.話合い

7.あいさつ・解散

 

約5分以内

 学習の結果や指導の経過の記録は,学習効果の評価や,指導法改善のための反省の資料となり,学習指導要録記載の基礎となる。  出欠席は,学習効果と密接な関係があるから,出欠席を正確に記録して,これを整理保存することがたいせつである。  各組別に指導経過を記入しておくとともに各生徒に対する観察事項や,指導事項を記入しておくことはたいせつなことである。視察事項は,なるべく具体的な事例とともに記入しておくとよい。  学級ごとに,学習記録簿を用意し,当番生徒を定めて,体育の学習事項,出欠,事故の有無,あるいは反省や感想等を日誌式に記入させれば,指導手帳とともによい資料となる。  個人カードを用いたときは,一覧表にまとめたり,代表値を求めたりして,生徒の手で整理し,保存することが望ましい。また体育手帳をもっておれば,随時各人に記録させる。  以上述べたようないろいろの記録や,その他の資料を総合して,生徒指導に役だつように適切に記入する。  必修時の体育は,教務部を通じて,種々各教科との連絡を保ち,校長と意見の流通をはかって各教官が協力し,系統的・計画的にその指導を進めなければならない。また生徒の側からすれば,統制ある組織を作り,親しく教官の指導を受け,なるべく自主的に学習できるようにすることがたいせつである。したがって学校としては,教官側および生徒側の組織を作り,整然と指導および学習のできるようにすることがたいせつである。  ある特定の時期,または時間割に組入れて全校的に,あるいは学年・学級単位に行うものなど種々の程度のものがあり,かつ必修的に行うもの,または生徒の自由意志によるものなどがある。

 いずれにしても,その体育的効果に着眼し,生徒の自主的活動を重んじ,できればP・T・Aその他との連絡を考慮し,適切な企画および運営の組織を作り,周到な準備の上に,生徒に均等な機会を与え,じゅうぶんな成果をあげるようにすることが望ましい。

 

 3.自由時の体育

 自由時の体育活動は,人間が強く求めるレクリエーションを動機として発展したものであり,生徒の自由意志に基づくべきものである。

 先に述べた必修時の体育は,一週およそ3時間程度にすぎないから,体育的効果をあげるためには,自由時の体育を奨励し,生徒が一日の生活の中に,この体育活動を計画的に取入れるように指導することが重要である。

 この計画の中には,校内競技・対外競技,余暇に行われる体育活動,また時には行事などを含めた特別教育活動が含まれ,これらはすべて教育的原則に基づいて行われなければならない。

 さらに運動種目の選択は,生徒の自由意志により,また計画および運営は生徒の自主的な活動によることが望ましく,教師は,それが公正に運営されるように指導管理し,助言を与えることが特にたいせつである。

 校内競技では,すべての生徒に対して試合の機会をじゅうぶんに与え,かつ相手を全学年や学校に拡大し,体力や個性に適するスポーツに参加させ,全生徒に学校生活をいっそう幸福なものにするとともに,健全なスポーツを普及し,よい運動を行う習慣を養い,生徒相互の親和をはかり,スポーツマンシップの向上に資すものである。

 生徒の自主的な活動によって,よく運営される校内競技では,必修の体育で満たし得ない面を有効に補いうるものであるから,学校における体育の全体計画の重要な部面をなしていることを考えて行うことがたいせつである。

 校内競技は生徒の自発的意志に基づく活動であるから,その種目は生徒の好むものでなければならない。ただし教師が生徒の種目選定を導く場合は,体育の目的達成のためにより多く役だちうる運動であることは,いうまでもないが,さらに次の諸点に留意することが必要である。  右の諸点を考慮しながら第3章にあげてある運動より選ぶがよい。  校内競技会を運営する方法としては,生徒よりなる委員が自主的に運営し,教師が常に指導助言を与える組織にすることが最も望ましい。そこで各学校内の役員組織としては,生徒側の役員と教師側の役員とからなり,その種類や人員は,学校の事情によって異なるが,生徒役員としては,すべての企画運営に参与する役員から,各スポーツの世話をする役員まで定めるのがよく,教師側の役員としては,単に体育の教師ばかりでなく,各教科の教師が役員として各種の分野で指導助言する組織にするのが望ましい。  校内競技は,放課後や昼休みなどに行われるのが普通であるが,各種の競技が設備や用具に関して,混乱や紛争を避け円滑に行われるためには,総合的な年間計画を立て,日程を決めて着実に実施して行くことがたいせつである。  試合を行う場合の単位には種々ある。すなわち学級単位でチームを編成する場合,また学級をA・B・C……等に分け,学年全体または学校全体のA・B・C……を集め,A組,B組,C組等をつくり,その中よりいくつかのチームを編成することもできる。そのほかホーム・ルーム,通学区域,あるいは学年別対抗等の形式で試合することもできる。また種目によっては,個人,あるいは校友会の各部対抗の形で試合するのもよい。いずれの場合も,年齢・性別・心身発達の程度などに応じて定めることが必要である。  よい競技会を計画する場合には,参考となる基本的な競技会の形式として,次のようなものがある。  これは陸上競技・水泳競技・体操競技・祝典競技等のように,多くの種目を一両日中に,あるいは,できれば放課後だけで済まそうとするときに用いられる。

 すなわち,いつ,何を,だれが,どこで行うかを予定しておいて,次々と競技を進めてゆく方法である。

 場所と時間に制限のある場合,多数のチームまたは個人が勝ち抜き法によって順位を決めてゆく方法である。  これはすべての者が相互に総あたりの試合を行い,その勝率によって順位を定める方法である。参加者の数が増せば,それだけ試合数がぼう大になる。

 それゆえにこの型式では,だいたい8チーム以下の場合によく用いられる。

 全部のチームをリーグ戦のやりよい数(4〜6)の組に分け,その組内でリーグ戦を行い,それの勝者相互でリーグ戦を行う方法と,勝者相互でトーナメントによって行う方法とがある。  同一個人または単位団体(たとえば学級)が1年間,次々と各種の競技に参加するように計画し,参加したことについては参加点を,競技の成績については成績点を与え,1年間の得点を合計して勝敗を決める方法である。  トーナメント型の一つであり,一回戦においての敗者同志で試合を行い順位を決める。また敗者戦で勝ったチームを勝者同志の中に復活させて行う方法である。

 以上基本的な競技会の形式として,六つの方法を説明したが,このほかテニスのように,ランキングのできるものでは下位のものは上位(1〜3位ぐらいまで)の者と戦えるように定め,勝てばランキングを上げてゆく常設ちょう戦試合を設けることもできる。いずれにしても学校の実情に応ずる方法を採用することに努め,常に実際的な研究を進めることが望ましい。

 校内競技を教育的に効果的に行うためには,種々の規約や約束を地方や学校の実情に応じて成文化し,逐次改善するようにすることが望ましい。次にそのおもな点について述べよう。  よい成績のチームまたは個人を表彰して,いっそう関心を深め,運動愛好の良い習慣を養うことに努める。

 表彰の方法としては,校内放送・黒板掲示・新聞雑誌等への記載などをして名誉をたたえる方法もあり,また賞品を授与する方法もあるが,両者をかねて行うことができればそのほうがよい。

 賞品は喜びの感激に浸っているとき,その時期を失せず与えるのがよい。賞品の種類としては,たとえば賞状,持ちまわりのカップや旗,あるいは名誉を記入したペナントまたは「しおり」,運動具,その他があるが,決してぜいたく品を用いることなく,あくまで功績のシンボルとして残しうるものを考えるのがよい。

 なお賞品はむやみにその数を増すと,その価値を失うから,あらかじめその数には適当な制限を定めておくことが必要であろう。

 対外競技は,その規模や性質にはいろいろあるが,いずれの場合も,先に述べた校内競技の延長と考え,教育の一環として適切な指導のもとに行われるべきものである。  この時期には心身の発達から見て,なお保護を要する時期であるから,すべての生徒に調和的発達を遂げさせるためには,校内競技に重点をおき,これがじゅうぶんに行われて,生徒の実力が向上した後に,程度を進めて対外競技を指導するように努めることが望ましい。

 対外競技を指導する際は,教育的条件の相似たしかも宿泊を要しない近隣の学校とシーズンに応じた競技を行うようにする。また生徒に程度の負担をかけないようにし,選手を決定する場合も慎重を期し,3年生を主体とするように努め,発育状況の似た生徒どうしで競技するようなしくみにするのが望ましい。

 この時期の生徒は,中学校期の生徒よりも心身ともに強さを増し,後期には体格も性格も徐々に固定化の傾向を示し,運動の練習も集中的にできるようになる。すなわち中学校期に比し,高度の刺激による身体練習が可能であり,それが必要でもある。そこで独善的な練習態度や生活態度に陥らぬように戒め,健全な校内競技の基礎の上に対外競技を行い,体育的効果をじゅうぶんにあげるように指導し,管理することが必要である。

 さらに中学校期の場合と同様に,生徒の保護ということを第一条件とし,また試合のために授業を放棄するようなことがあってはならない。そのためには近接の学校間で行うことを原則とし,宿泊を要する全国大会のごときは年一回程度にとどめるのが望ましい。

 女子の対外競技は,女子の特性から見て過度に感情を刺激するような形式の競技会は避けるのが望ましい。

 中学校の場合も,高等学校の場合も,校内競技に重点をおくことを強調したい。また校外で行う場合は,近隣の学校が集まり,校内競技の延長として,また各校の混合チームによって競技会を行ったり(プレーデー),ダンスを行ったり(ダンス祭)などするのが望ましい。これらの運動が男子の場合の対外競技の代用として行われ,何回もくり返して行ううちに,正常な心身の発達をはかり,技術的能力を高め,同時に社会的態度を発達させるように計画するのがよい。

 対外競技に参加して教育的な効果をあげるためには,競技会が教育者の指導のもとに教育的に企画運営されなければならない。すなわち,関係学校または教育関係団体がこれを主催し,その責任において企画運営することが必要である。  学校では,教職員自身がコーチにあたるようにすることが望ましい。もし他に依嘱する必要がある場合には,運動競技を学校教育の重要な一環として考え,その観点に立ってコーチのできる人格・技量ともにすぐれた人を選ぶことがたいせつである。

 競技役員は生徒および職員がこれにあたるを原則とし,やむを得ない場合だけ,他から適格者を依嘱するのがよい。

 なるべく多くの生徒が,対外競技の経験を持つことが望ましく,特定の個人が過重の負担をすることは避けるべきである。そのため選手は固定することなく,そのつど定めるようにするのがよい。

 選手を選ぶ場合には,生徒の保護をまず考え,本人の意志・技術・健康・年齢・操行・学業・経験などを考慮し,候補者を定め,関係教師や保証人の承認を得て,一定の手続のもとに学校長が最後に決定することが望ましい。

 練習や試合に関し,地方や学校の実情に応じてあらかじめ適切な基準を定めておくことが望ましい。次に重要と思われることがらを述べよう。  競技会は,常に教育的な立場に立っていっさいを処理することが望ましい。その場合特に注意すべき点を次に掲げる。  対外競技を行う場合は,競技会そのものの運営に要する経費のほか,チームとしての経費,あるいは練習中の経費など各方面において相当額の支出を必要とする。これらの費用は,メンバーとなる生徒各自の積立金(部費),校友会(生徒会)費からの割前,P・T・A,教育関係団体からの補助金,あるいは先輩その他寄付金など学校に応じそれぞれ各種のものがあろう。

 寄付金に要する経費については,個人負担と団体負担の分を明らかにし,さらに予算・決算等を明確にすることがたいせつである。

 一部少数の者が不当に過大な経費を使用し,これを多数の犠牲において支払ったり,あるいは経済力の少ない生徒が参加できないようなものにしたりしてはならない。常に教育的な立場で処理するように心がけることがたいせつである。

 校内で生徒の持つ余暇は,学校によりまた生徒によって異なる。しかしおおよそ始業前・業間・昼休み・放課後等の余暇がそのおもなものである。

 これらの余暇活用については,それぞれ適切な指導組織のもとに用具や施設をじゅうぶんに活用指導することが望ましい。

 平素の休日または長期の休暇などに学校外でハイキング・登山・水泳・スキーその他のレクリエーション活動を営むことは,適切に行われればまことに望ましいことである。

 このような活動は,個人で行うもの,同好の者が集まって行うもの,校友会活動の一部として行われるものなどいろいろある。

 いずれの場合も生徒の自由意志によって参加するものであるが,各方面との連絡をじゅうぶんに行い,できるだけ計画的で楽しく行うとともに,教育目的に添うように,指導することがたいせつである。

 

 4.共学指導

 男女の生徒が,同じ時に同じ場所でいっしょに共同して行う体育的な活動を指導するのが共学指導である。

 男女が相互に理解し合い,社会生活を健全に楽しく過ごす上からも,共学活動は重要な問題であり,男女ともにいっしょに楽しく行いうる運動を理解し,その経験を得させることが必要である。

 共学指導に適当な種目には次のようなものがある。

 フォークダンス・バドミントン・テニス・ピンポン・各種リレー・ハイキング・なわとび・バレーボール・スキー・スケート。

 

 5.虚弱者・異常者の指導

 適切な体育を虚弱者・異常者に課すためには,まず第一にかれらを見いださなければならない。虚弱者・異常者の発見は医師の診察・診断にまたねばならない。しかし単に医師のみに任しておいてはならない。教師・保護者・養護教諭等は校医の意見を求めつつ,絶えず密接な連絡をとりながら,生徒の日常の生活行動を観察し,合わせて生徒の訴えを促し,診断資料の集録に努めることが望ましい。それによって始めて虚弱者・異常者の理想的な早期発見ができるであろう。定期身体検査・臨時身体検査・入学身体検査・集団検診・体育素質検査・知能検査等は,虚弱者・異常者発見によい機会を与えるであろう。  虚弱者・異常者は学校教育法第75条により次のごとく分類されている。  しかし学校においては,取扱上の便宜より虚弱者・異常者の分類ならびに組分けを次のとおり行うほうが望ましい。  

 6.体育科の設備と用具

 整った環境において教育の効果は最もよくあがる。環境的要素の重要な一つに設備や用具がある。運動場という活動の場は,家庭や教室と同等の価値を持つものであるから学校はできるだけその充実に努めなければならない。

 生徒は設備や用具が整っているだけでよい活動を営むものであるから,運動場や体育館を常に整備し,用具をいつでも生徒のために活用できるようにしておくことが必要である。また設備・用具を安全にいつまでも活用できるように組織化することが体育科の立場からだけでなく,生徒の正しい発達のため,きわめて必要なことである。

 わが国の現状では学校の体育施設の充実を早急に望むことは困難であるが,今後新しくつくられる学校のために,また拡充をはかる際の参考のために標準と思われる体育の設備や用具の概要を掲げる。

実 施 運 動 名
最低数
備    考
陸上競技

野   球

ソフトボール

サッカー

スピードボール

タッチフットボール

ラグビー(トライボール)

ハンドボール

ホッケー

す も う

巧   技

 

 

1.専用または兼用とする。

2.陸上競技場は一周200メートル以上のトラック,100メートル
  直線コース,砂場1ヵ所を最低とする。

3.各種球技のゴールポスト・バックネットを設備する。

4.すもう場は最低1とする。

5.鉄棒は低・高合わせ最低十とする。

実 施 運 動 名
最低数
備    考
バスケットボール

バレーボール

テ ニ ス

バドミントン

フリーテニス

 

8面

1.専用又は兼用とする。

2.男女別に各専用コートを設けるのが望ましい。

3.季節的扱により活用するためには移動設備が望ましい。

設    備
最低数
備    考
バスケットボール場

バレーボール場

ピンポン場

巧技用設備(鉄棒・つり棒・つり輪)

照明燈

足洗い場

シャワー室

更 衣 室

用 具 室

ステージ

便   所

 

 

 

1.専用または兼用とする。

2.運動のため使用できる面積は500平方メートルを最低とする。

3.床は板張りとする。

4.高さは7メートルを最低とする。

5.できれば体育室または教官室を付設する。

            (25メートル×15メートルの短水路プール)
 
設    備
最低数
備    考
飛込み台

更 衣 室

シャワー

便   所

照明設備

機 械 室

 

1.深・浅2プールを設けることが望ましい。

2.更衣室・シャワー室・便所は男女別にする。

3.できれば教官室を付設する。

「備 考」

 各球技についての最低必要面積表
 
運 動 競 技 名
最 低 面 積
1.バレーボール

2.バスケットボール (男)

3.バスケットボール (女)

4.テニス

5.サッカー

6.ソフトボール

7.ハンドボール

8.ラグビー

9.ベースボール

10.バドミントン

22メートル×11メートル

25メートル×13メートル

22メートル×12メートル

23メートル×10メートル

90メートル×60メートル

35メートル×35メートル

90メートル×60メートル

90メートル×60メートル

80メートル×80メートル

7メートル×15メートル

 

(2) 用   具
 
1.ドッジボール

2.ソフトボール

3.ワンアウトボール

4.野球ボール(軟)

5.  〃  (硬)

6.バスケットボール

7.ハンドボール

8.バレーボール

9.ラグビーボール

10.タッチフットボール

11.サッカーボール

12.テニスボール(軟)

13.  〃   (硬)

14.スピードボール

15.フリーテニスボール

16.卓球ボール

17.ネット(しゅう球・送球・ホッケー用)

18.野球用バックネット

19.バレーネット

20.テニスネット

21.テニス用ラケット

22.野球用バット

23.  〃グローブ

24.  〃ミット

25.  〃マスク

26.  〃胸あて

27.  〃すねあて

28.  〃ベース

29.卓 球 台

30.卓球用ラケット

31.ネ ッ ト

32.バドミントンネット

33.  〃   ポール

34.  〃   ラケット

35.  〃   シャトルコック

36.ホースシューズ

37.ゴールハイ支柱

38.フリーテニスラケット

39.  〃   ネット

40.  〃   ポール

41.ホッケー用つえ

42.  〃  パック

43.棒高跳び用支在

44.  〃  棒

45.走高跳び用支柱

46.  〃  バー

47.砲   丸

48.砲丸用足留材

49.円盤男子用

50. 〃女子用

51.やり男子用

52. 〃女子用

53.ハンマー

54.投てき用サークル

55.バ ト ン

56.ハードル

57.決 勝 柱

58.地ならし具

59.審判台(陸上・テニス・バレー)

60.スコアーボールド

61.スターティングブロック

62.スタートシャベル

63.跳 び 箱

64.マット(シュロ・ズック)

65.平均台(高・低) 

66.移動式平行棒

67.移動式鉄捧

68.腰   掛

69.綱引用綱

70.なわとび用なわ

71.旗

72.た す き

73.巻尺20〜30,50.100

74.ストップウォチ1/10秒,1/5秒

75.笛

76.出発合図用器具(ピストル)

77.空気入れ

78.し め 具

79.ピ ア ノ

80.オルガン

81.夕ンバリン

82.ド   ラ

83.太   鼓

84.カスタネット

85.電気蓄音器

86.蓄 音 器

87.拡声装置

88.ダンスレコード

89.登山用ロープ

90. 〃 テント

91.アイゼン

92.自転車

93.ローラー

94.搬水具

95.リヤカー

96.ローラースケート

97.レスリング用マット

98.ボクシング用グローブ

99.  〃   サラウン

   ディングローブ

100.フェンシング用剣

101   防具

102.アメリカンフットボール

103.  〃   防具

104.輪 投 げ

105.ライン引き

106.体 重 計

107.身 長 計

108.胸囲形巻尺

109.座 高 形

110.握 力 計

111.背筋力計

112.肺活量計

113.棒   尺

114.血 圧 計

115.そ の 他