第3章 強調すべき目標と教材
1.強調すべき目標
さきに体育の一般的目標と中等学校期の発達上の特性について述べたが,これらは中学校および高等学校の学習内容や指導法を決める際の目安となるものである。
教材は,目標達成に役だつものであり,しかも各発達段階に適当なものでなければならない。
次に教材について述べるにあたり,これらの導かれる発達上の特性と,目標とを見とおした,各学校段階の強調すべき目標ともいうべきものを考えることにした。当然第1章および第2章と重複することになるので,それらとあわせて参考とされたい。
1.身体的発達を助長し,よい姿勢・習慣を確立する。
2.身体活動に対する経験を広げ,基礎的技能を発達させる。
3.情緒の安定を高める。
4.社会的態度を発達させる。
5.余暇活動の基礎を養う。
(2) 高等学校
1.身体的発達の完成をはかる。
2.社会的態度を発達させる。
3.余暇活動に必要な経験を深める。
なお,学習内容や指導法を決める際には,これらの時期の特性にかんがみ,男女の差を考えること,知的理解に基づく態度や技能の発達を考える必要があり,特にまた中学校期においては養護を重んずること,高等学校期では発達が完成に近づいてくるから鍛錬に努めることが考慮されるとともに,個人差をよく考えて身体活動に対する興味と経験を深めることが望ましい。
2.教 材
体育の目標を達成するためには,そのために必要な理解を深め,態度や技能の発達に役だつ学習活動が必要である。これらの活動には,種々なものが考えられる。バレーボールや水泳や巧技などの練習や,試合などにおける身体的活動もあり,またそれらを計画する学習活動もある。
さらにこれらを発達に役だて,生活に取入れるためには,身体の構造や,機能の発達に関する法則や,スポーツの歴史や,練習の方法や,試合の規則などを理解する学習活動も必要である。
これらは大別して,身体的活動と,これに関連した知的な活動とに区別することができよう。
これらの学習活動は,しかしながらわれわれの長い歴史的生活の中で組織だてられたスポーツがその他の運動,あるいはそれに関連したものが大部分である。この組織だてられた経験のまとまりを,体育の立場からわれわれは教材と呼んでいる。
教材は必ずしも既存のものに限らないが,これらを活用して多様な学習活動に展開をくふうすることはきわめて有効な方法であるから,われわれは学習指導の手がかりを教材に求めることは適当であろう。
特に体育では,一定の型をもった教材による活動が大部分であるから,このことがいえる。このような教材は体育では一般に運動的教材と,理論的教材とに区別されている。
教材は学習活動の材料となり,学習内容組織の手がかりとなるものであるが,多種多様なものがあり,限られた時間に効果をあげるためには適当なものを選ばなければならない。
教材は,目標達成に役だつと同時に発達段階に適当なものであることを要する。そこで選定にあたっての手順としては,まず各教材を生徒の発達に応じて配列し,次に各教材の目標達成に役だつ価値の度合を決めることであって,この価値の度合を決める仕事を,教材の評価と呼んでいる。
本書では,考えられる多くの教材を中学校と高等学校に分かち,かつおのおのについて男女別に配当して教材評価を行った。(付録参照)
教材の評価は,教育目標に対するものと,管理上の目標に対するものとの二つがあるが,本書では主として前者についてのみ行い,後者については,各学校の事情が異なることであるから,これを省略した。なお教材選択については第6章を参照されたい。
教育目標に対する評価は,別項付録に示すように,体育の目標を,身体的発達・社会的発達・知的・情緒的発達・安全およびレクリエーションの五つの側面に分かち,各教材別に各側面について10点満点で評価し,その総合的価値と特性を決定した。
評価に用いられた教材の単位は,後の部分にも関係が深いので,特に取上げて略述したい。教材の単位は大きくも小さくもとれるが,本書では指導計画の立案を容易ならしめるために,だいたい同じような時間的単位(およそ3〜6週間)の内容をもち,しかもそれらの期間における学習活動が内容的にまとまりをもつものであることを条件にした。したがってここで意味する教材は,内容的にまとまりをもつものであると同時に,カリキュラム構成における時間的単位をも意味する。
中学校期以上の教材は,特に組織だったもので,相当期間継続した学習活動を必要とするものが大部分であり,しかも今日の体育の学習は単に運動の技術的練習だけでなく,組織だった学習経験となるためには,いろいろな多様の学習活動も必要であるから,このような考え方は適当と考える。
実際の指導にあたっては,これらの教材によって,学習経験をまとめることを考えると同時に,適宜,他の教材の活動をさしいれて学習に変化を与え,かつ目標の効果的達成を考えることが必要であろう。
次表に示すように,教材は中心教材と選択教材に区別した。
中心教材は,教材評価において総合的価値の高いもので,事情の許すかぎり各学校共通に採用されることが望ましい。どちらかといえば,発達上の価値の高いものが大部分である。
選択教材は個人の特殊な要求に応ずるものや,特殊の施設に応ずるもの,あるいはまた教材評価における総合的価値がある程度低くとも,余暇活動としてよいものが大部分である。
いずれも価値あるものであるから,各学校は,その実情に応じて,両系統を指導計画に取入れられたい。
時間配当に対する比率を明確にいうことは困難であるが,だいたい3ヵ年を通じ必修時の体育において中心教材に対する時間4〜6に対して,選択教材1ぐらいの割合が適当ではないかと考える。
次表の各教材に対する望ましい指導週数は,望ましい教材の範囲と総時数との関係および教材の価値や学習の困難度等を与えて立てられた一応の基準であり,先に述べた教材評価でも考えられた時間的単位であるが固定的なものではない。
男 子 |
女 子 |
||||||
中心教材 |
望まし |
選択教材 |
望まし |
中心教材 |
望まし |
選択教材 |
望まし |
バスケットボール サッカー バレーボール スピードボールまたは ハンドボール トライボール ソフトボールまたは 軟式野球 タッチフットボール 陸上競技 徒手体操 巧 技 水 泳 (飛込・救助法を含む) ス キ ー スケート す も う |
6〜9 〃 〃 〃
〃 〃
〃 18 6 16 15 15 12 3〜6 |
テ ニ ス ピンポン バドミントン レスリング ボクシング ハイキング キャンピング 登 山 ホッケー 水 球 ローラースケート フォークダンス 陸上競技 (中心教材以外の種目) 柔 道 |
3〜6 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 3〜6 〃 〃 〃 〃 〃 〃 |
バレーボール 女子バスケットボール 追羽根または バドミントン ハンドボールまたは スピードボール ソフトボール 陸上競技 徒手体操 巧 技 ダ ン ス 水泳 (飛込・救助法を含む) ス キ ー スケート |
6〜9 〃 〃
〃
〃 〃 〃 〃 24 15
15 12 |
ピンポン テ ニ ス ハイキング 登 山 キャンピング ホッケー ローラースケート 陸上競技 (中心教材以外の種目) |
3〜6 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 |
男 子 |
女 子 |
||||||
中心教材 |
望まし |
選択教材 |
望まし |
中心教材 |
望まし |
選択教材 |
望まし |
バスケットボール バレーボール スピードボール ラグビー ソフトボールまたは 軟式野球 ハンドボール タッチフットボール 陸上競技 巧 技 徒手体操 水 泳 (飛込・救助法を含む) ス キ ー スケート す も う |
〃 〃 〃 〃 〃
〃 〃 18 15 6 15
15 12 3〜6 |
テ ニ ス ピンポン バドミントン レスリング ボクシング キャンピング 登 山 ハイキング ローラースケート 水 球 フォークダンス 陸上競技 (中心教材以外の種目) 柔 道 |
3〜6 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃
〃 |
バレーボール 女子バスケットボール 追羽根または バドミントン ハンドボールまたは スピードボール ソフトボール 陸上競技 徒手体操 ダ ン ス 水 泳 (飛込・救助法を含む) ス キ ー スケート |
6〜9 〃
〃 〃
〃 〃 〃 27 15
15 12 |
テ ニ ス ピンポン キャンピング ローラーケート ホッケー 登 山 ハイキング 陸上競技 (中心教材以外の種目) |
3〜6 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 |