第2章 体育の立場から見た生徒の発達

 

 1.中学校期(12才〜15才)

 この時期の初めには,すでにいわゆる青年期的変化の時期にはいっており,この時期の後半は,心身の各方面に最も激しい変化が見られる時期にあたる。

 身長は,男子10才,女子9,10才ころから著しい増大を始め,男子13,4才,女子12,3才のころに年間平均6〜8センチに及ぶ最大の増加量が現われる。

 体重の最大発育は,身長の最大発育の時期よりも約1ヵ年遅れて現われ,男子14,5才,女子12,3才ころに年間平均4〜5キロの最大増加を示す。

 この時代には,身長や体重に著しい変化が見られるだけでなく,全体の体形の上にも変化が起る。すなわち,この時期の終りころから,男子では,肩が広くなり,胸が厚くなる。女子では胸や腰の発達が目につくようになり,皮下に脂肪がついてくる。

 このような身体の急速な変化のために,この時代のものは,しばしば姿勢が悪くなったり,不器用になったりすることがあるから注意を要する。

 身体の外形上の発達とともに,内臓諸器官・神経・筋肉などの機能の上にも著しい変化が生ずる。身長・体重の最大発育から12年後に,女子には月経が,男子には変声が現われる。初潮の時期は,いろいろな条件によって影響されるが,わが国の女子では14才と15才の間にある者の数が最も多い。

 肺活量は,男子では14,5才,女子では12,3才のころを中心として最大の発達を示す。握力や背筋力の発達も,ほぼこれと軌を同じくしているようである。しかし,心臓機能の発達はまだじゅうぶんでなく,よくめまいを起す傾向が見られる。

 疾走や跳躍の能力は,男子では,やはり14,5才ころに急激な発達を示す。女子では,12,3才ころに相当の発達を示しはするが,男子ほどではない。それも15才以後になるとほとんど停止状態になる。

 要するにこの時期の終りころには,女子の身体はしだいに女性的となり,活発な運動には適しなくなり,したがって性的差異がしだいにはっきりしてくるということができる。

 持久力の発達は,一般にまだじゅうぶんでない。

 知的・情緒的・社会的には,この時期の初めには,まだ,児童期の特徴が続いている者が多いが,普通14才ころに一転換が起ってくる。すなわち,この時期にはすでに述べたように,身体の急激な発達により平衡が失われるようになってくる。そして性的成熟を告げる兆候が身体の諸部分に現われ,かつて経験したことのない大きな変化を自覚させ,このことが青年に激しい内的不安をいだかせるのである。

 この不安状態は,かれらを著しく感情的にするとともに,一方では反抗的態度に,他方では孤独を求めようとする傾向に向かわしめる。すなわちこの時期においては「すでに成人した」という自覚がありながら,実は不安で,内に自信がないから,いきおい虚勢を張り,その結果反抗的態度をとることになる。

 またこの不安のために,かれらは逃避の場所を求め,家人から離脱して自分だけの世界で生活しようとしたり,あるいは同じ不安をもっている仲間だけの中にいようとする。しかしこの仲間の者もまだ互に理解し合った親友ではないのである。したがって,これにも,まもなく飽き足らなくなり,むしろ孤独になり,静かなひとりだけの時間をもつことを欲するようになる。

 このようにして,今まで外界に奪われていた心が,内界に転じ,自我に目ざめはじめる。合理的思考の発達とあいまって,批判的傾向,価値的・理想的世界へのあこがれが発展しはじめる。

 この時代のもう一つの著しい特徴は,性的関心の高まることにある。すなわちまだ積極的に異性を求めようとはしないが,しだいに性意識が目ざめ,強い性的衝動を感ずるようになる。

 しゅう恥感・競争・自己誇示の欲求が強く現われるのも,一面このことに関係があるであろう。

 2.高等学校期(15才〜18才)

 この時期の初めには,男子の身長は,まだ著しい増大を続けているが,その後増加の割合はしだいに減少し,特に18才以後になるとその増加はわずかな者に過ぎなくなる。

 女子の場合は15,6才がすでに身長の増加率はわずかになり,17,8才で発達はほとんどその頂点に達する。

 体重は,約1カ年遅れて身長とほぼ同じ経路をたどる。

 要するに,この時期の終りまでに,女子の身体はほとんど完成に近づき,男子の身体は,発達の終末期にはいるということができる。

 心臓・肺臓・筋肉の発達は,なお続いており,持久力の発達も見られるが,女子では著しくない。

 肺活量は,男子では16,7才までに相当著しい発達を示しているが,その後たいした変化がない。女子では13,4才ころから,すでに発達が鈍り,16才以後にはあまり変化がない。

 背筋力においても,肺活量とほぼ同じ傾向を見ることができる。

 疾走力は,男子では20才ころまで発達するが,17才以後の変化はさほど著しくない。

 女子の場合は,この時代を通じて,疾走力の発達はほとんど見られないのみならず,この時期の終りころには,かえって能力の低下さえ見られる。跳躍についても,疾走とほとんど同じ経過が観察される。

 要するに,すべての点において,女子は男子よりも早熟し,早く発達が停止するために,男女の差異は,年齢とともにいよいよ著しくなってくる。しかしこのころに運動調整の発達は著しく,高度の技術が完成される。

 知的・情緒的・社会的には,論理的・抽象的思考がますます発達し,生活の理論や行動の原理を求めるようになる。しかしそれは一般に観念的であり,独断的であるのが特徴である。

 前時期から家人や仲間から孤立化する傾向が現われることは,すでに述べたとおりであるが,しかしかれらは,実は自己の理解者,真の友人を欲しているのである。やがてひとりあるいは少数の親友をもつようになるのである。このようにしてかれらは友情生活にひたり,激しいあこがれや,悩みや,寂しさを経験するのである。これは思考の発達とあいまって,しいに精神的なもの,人格的なものの価値の理解に導くのである。

 自我の自覚も,しだいに確立されつつあるが,まだ自己の要求や信念に基づいて静かに判断したり,行動したりすることはできない。常に性急に,情熱的に行動し,自己をその中に没入させようとする。かれらがスポーツや冒険などに感激を覚えるのはそのためである。しかしこの時期の初めころには,激しい情緒のために,極端に走る恐れがあり,また感情に動揺があるために,気まぐれの行動をすることもあるが,後半になると,情緒も安定の方向に向かい,感情も落着いてくるのが普通である。

 前時代からの性的衝動の動乱状態も,この時期の終りになると,ややしずまり,精神的愛へのあこがれが現われてくる。そしてこれは,美に対するあこがれ,真理に対する探求とも連関したものになってくる。

 以上中学校および高等学校期の生徒の発達の特徴をあげたが,これは単に学校別に見た各時代の一般的傾向について述べたのであって,その段階の区分は人為的なものにすぎない。

 したがって各時期の発達特徴は,前後の時期の特徴と重なり合うことが多いことを忘れてはならない。また実際に,個々の生徒を理解するためには,環境的影響や,個人差の問題が重要であることを見のがしてはならない。

 次にそれぞれの時期の特徴についての概観を便にするために,そのおもなものを表示しておこう。

                    中学校期(第7・8・9年)