第Ⅷ章

音楽科と他教科および学校の諸活動との関連

 

 音楽科は,教育目標を達成するために,全体の教育課程の一環として計画され,実施されなければならない。すなわち,教育は,生徒が全人として円満に発達することを期待して行うものであるから,音楽科のみが孤立することは許されない。実際に音楽科のうちには,社会・理科・数学・国語・外国語その他あらゆる教科や科目の諸要素が含まれているのであって,それら諸教科の学習経験は,音楽学習に確実性を与え,諸教科の協力によって音楽学習経験は深さと幅を増すのである。また,その反対に,音楽科の参加によって他の教科の学習経験にも,豊かさと生気が与えられるだろう。このような関係は教科相互の間ばかりでなく,学校におけるあらゆる教育活動と音楽との間にも見いだされる。すなわち,音楽が教室内だけのものとならずに,あらゆる場所,あらゆる機会に有効に用いられるならば,音楽教育本来の使命達成の上にも,また,各種の教育活動の効果的な運営の上にも,益するところがきわめて大きいのである。以下,これらについて述べてみよう。

 

第1節 音楽科と他教科との関連

 音楽科と他教科との関係について考えてみるならば,そのうちには次のような諸問題が含まれているだろう。

 これらの諸条項は,音楽学習を展開するにあたって,教師が各教科にわたる広い知識と理解をもつことが望ましいことを語っている。教師は,以下に述べる諸項目のうちから問題を拾い,をの解決の方法を発見することができるだろう。

 1 社会科との関連

 社会科は,人間関係と自然関係など時間的発展においても,空間的配列においても,複雑多様な人間生活を学習の対象とした教科であるから,音楽も一応この社会科と関連をもっている。

 このような内容をもつ単元は,音楽科の音楽史においても扱われているものである。また,社会科「高等学校の時事問題」の単元においては「文化は,われわれの生活向上にとってどういう意味をもつか。また文化を高めるためにはどんな努力が必要であるか。」がある。この単元で示めされている目標・内容は,前単元を,より深く掘り下げ,現在のわれわれがもっている文化財について積極的に理解するとともに,文化の向上のためのいろいろな問題解決のために必要な技能や態度を養うことを目標とするのである。

 このような目標に対して,音楽科独自の立場から,その内容について考えてみるならば,次のような事がらが加えられよう。

 このようなさまざまな問題によっても理解されるように,音楽科と社会科の関連は密接なものであるから,両科の交流によって,教育目標の達成をはかることがたいせつである。

 2 理科との関連

 理科では,音楽の構成要素となるところの音に関するさまざまな問題が取り上げられる。それらは,直接間接に音楽学習と密接に関連づけられるだろう。

 たとえば,中学校第3学年単元Ⅴ「通信に科学がどのように利用せられているか」では,次のような目標が掲げられている。

 これらの目標を達成するためには,いろいろな事がらが学習せられるが,その学習によって得られた知識・理解・技能などは,音楽の学習に役だつものが少なくない。たとえば,音の性質や音の違いについての知識や理解などは,演奏や鑑賞・創作などにただちに利用できる。

 音楽が,科学的要素を根底に置いているかぎりにおいては,このように,両科は無関係ではあり得ないし,それら要素に対する知識は,音楽理論・演奏・鑑賞・創作などの諸学習の基礎となって,学習活動を展開する上に豊かな資料を提供し,また展開途上におけるさまざまな問題の解決のかぎともなろう。

 3 保健体育科との関連

 音楽の要素であるリズムは,体育にとっても,また基礎的要素である。小学校低学年において音楽・体育ともに,リズムに対する身体的反応を重視している。このように,リズムを基礎として展開される音楽学習と,同様な過程を経る体育とは,当然深いつながりをもっている。

 これら保健上の知識や理解は,音楽教育計画の中にあって,主要な部分を占めることに留意すべきである。

 3 国語科および外国語科との関連

 声楽は必ず歌詞をもっているので,声楽に関係のある音楽学習では,国語科や外国語科と密接に関連する部面が特に多い。次に,それらの点について述べてみよう。

 また,調べた事がらや音楽を聞いて感じたことを発表したり,書いたりすることにも,国語科の目標とする技能がそのまま応用せられる。このように考えると,国語科や外国語科と音楽科とは,関連する面がきわめて多く,互に密接に関連づけて取り扱うことによって,学習効果をいっそう発揮できることがわかる。

 4 図画工作科との関連

 図画工作科における「日常生活を明るく豊かに営む能力・態度・習慣を養い,好ましい個人として,また好ましい社会人として,平和的文化的生活を営む資質を伸ばす」という目標は,音楽科の目標と一致するところであって,その指導目標の,美に対する感覚を鋭敏にし,表現技能を養うことによって自己表現力を高め,創造する力を養い,芸術文化財に対する鑑賞力を高めるなどの事がらは,両科に共通しているところである。このように,両科が,その目標に多くの共通点をもっていることは,両科ともに美を対照としているのであって,その現れ方が,一方では音という素材によって時間的に扱われ,他方では物によって空間的に扱われているだけである。

 

第2節 音楽科と学校の諸活動との関連

 生徒の学校生活におけるさまざまな活動に対して,音楽と関連性をもつものには,次の二種類が考えられよう。

 1 音楽を中心とした活動。

 この中には,日々の学校生活内で計画されるものと,特に設けられた機会に計画されるものとの二つがある。

 2 学校の行事作業に協力する活動

 学校の行事や作業に参加して,音楽効果により,その行事や作業がよい結果をうるようにする。この場合は,主として行事参加者の心の融和と解放によって,行事にふさわしいなごやかなふんい気を作ったり,心の緊張を解いて,仕事が順調に進むことをはかることや,疲労を少なくして作業を能率的にすることなどが考えられる。

 これらの活動について例をあげるならば,次のようなものがあろう。