第5節 音楽理論と音楽史の学習指導

 

(Ⅰ) 音楽理論と音楽史の学習指導計画

(1) 音楽理論と音楽史の学習指導計画の要点

 音楽理論や音楽史の学習指導を計画し,それを実施するにあたっては,次の諸点に留意しなければならない。

 1 演奏・鑑賞・創作などとの関連

 音楽理論や音楽史の学習指導は,生徒の創造的な音楽表現を助け,好ましい鑑賞や演奏の素地をつちかうために行うものである。したがって,それらの指導が,音楽の実体を離れて,単なる法則や知識の記憶に終ってはならぬ。つねに,音楽そのものに密接に結びつき,演奏・鑑賞・創作などと関連し合いながら取り扱われることがたいせつである。

 2 融通性のある指導

 理論で取り扱われる規則や実習は,静止・固定的なものとなってはならない。なぜかというに,芸術は,つねに新しいものの創造で,ときに慣例を破るところに偉大な芸術が生れることが少なくないからである。

 3 生徒の現実の経験から出発する学習

 音楽史の学習は,生徒の現実の経験に出発の手がかりを求めることが望ましい。
  たとえば,生徒が,現実に経験する音楽を中心として,それらの歴史的背景を研究することによって,音楽のもつ文化的価値をいっそう深く認識し,進んでは,鑑賞や演奏・創作などの基礎的な教養を高めるのである。

(2) 音楽理論と音楽史の学習指導計画上の諸問題

 1 時間割

 各学年最低毎週平均約30分を予定することが望ましい。

 2 高等学校における単位の付与

 音楽理論は創作と合わせて1/4単位,音楽史は1/4または,鑑賞と合わせて1/2単位の割合が適当であろう。

 3 教師の資格

 音楽理論および音楽史の学習指導をする教師は,各種の音楽理論および音楽史に関するじゅうぶんな知識と理解をもつ必要のあることはいうまでもない。しかし,その上に,ピアノ演奏の技能をもち,高い音楽鑑賞能力を備えた人であることが要望される。

 

(Ⅱ) 音楽理論の学習指導

(1) 楽譜・音程・音階の学習指導

Ⅰ 楽譜の指導内容

 楽譜の学習では,次のような知識や理解事項が身につき,それらの書き方や読み方に習熟しなければならない。

Ⅱ 音程と音階の指導内容

 音程と音階については,次のような事がらを理解し,聞き分け・演奏・書取などが正確に行われるようになることがたいせつである。

Ⅲ 楽譜・音程・音階の学習指導

 これらの学習指導は,文字の上からだけの知識や理解に終ってはならない。次のような,いろいろな方法によって学ぶことがたいせつである。

 1 聴覚の面から

 第4項の中には,各種の問題を含めることができる。たとえば,シャープやフラット・ナチュラルなどの記号の意味や使用法に習熟するためには,それらの記号を含む旋律をひいて,それを書き取らせるのである。

 また,音階をさまざまなリズム型でひき,それを書き取るような方法で,リズム型を身につけることができる。

 2 演奏の面から

 3 書く面から
(2) 演奏機関や演奏形態の学習指導

Ⅰ 演奏機関の指導内容

 音楽は,人声や楽器で演奏せられる。それゆえ,人声や楽器について,ひととおりの知識をもつことは,鑑賞を高め,表現技能の向上をはかる上に役だつだろう。それらのおもな知識としては,次のようなものがある。

Ⅱ 演奏形態の指導内容

 人声や楽器は,単独にあるいは,さまざまに組み合わせて演奏される。それらの組合せ方の種類や特徴の理解が,この項の指導内容となる。具体的には,次のようなものがあげられる。

Ⅲ 演奏機関と演奏形態の学習指導

 1 演奏の面から

 2 鑑賞の面から  3 作業の面から  

(3) 和声と対位法の学習指導

Ⅰ 和声の指導内容

 和声は,次のような範囲と学習系列によることができるだろう。

Ⅱ 対位法の指導内容 Ⅲ 和声と対位法の学習指導

 和声や対位法の学習は,五線紙上だけで行うのはよくない。紙上で,和声や対位法の処理ができても,それらの音楽的な美しさが,音として感じられなくては価値がないからである。

 それゆえ,和声や対位法の実習にあたっては,常に,次のような方法を合わせ用いる必要がある。

 次に学習指導の要点をあげてみよう。

 1 聴覚訓練と書取

 和音は,五線上の形だけで理解することなく,音の響き合いの相違が,感覚的にとらえられることがたいせつである。したがって,いろいろな基本位置の和音や転回和音を聞いて,それが,どのような種類の和音であるかを聞き分ける基礎練習が必要である。

 その練習法としては,次のようなものぶある。

 2 楽曲の解剖  3 創作との関連
(4) 音楽形式の学習指導

Ⅰ 音楽形式の指導内容

 音楽形式の指導内容としては,次のようなものがある。

 1 基礎形式

 2 応用形式 Ⅱ 音楽形式の学習指導

 音楽形式の学習指導も,他の音楽理論と同じく,演奏・鑑賞・創作などと,合わせて行われることが望ましい。中でも,唱歌形式・複合三部形式,その他の基礎的な形式の理解は,単に,形式を理解するばがりでなく,その知識が,ただちに創作に応用できるようにすることがたいせつである。応用形式の学習は楽曲の特徴が,楽譜を見ても,また,聞いてもわかるようにならねばならぬ。したがって,それらは,鑑賞や演奏と,特に密接に関係を保ちながら学習を進めていかねばならない。

 おもな学習活動としては,次のようなものがあろう。

 

(Ⅲ) 音楽史の学習指導

Ⅰ 音楽史の指導計画の立て方と指導法

 音楽史の学習は,われわれの,現在の音楽生活から出発することが望ましい。

 いま,かりに,音楽の歴史的発展について学習するとしよう。その際,現在,聞くこともできないようなギリシャ時代の音楽から説くとすると,生徒にとっては,興味もなく,迷惑なことに違いない。これに引き換え,現在の音楽文化生活の中にある音楽を中心として,さまざまな面から,その歴史的背景をさぐることは,音楽の文化的価値をいっそうはっきり認識し,また,いっそう深く音楽を生活する上に役だつだろう。

 このような意味から,音楽史の指導計画は,生徒の現在の音楽経験の上に立てられるのである。

 一例を「交響曲」にとってみよう。

 交響曲は,今日,放送で,あるいは音楽会で,常にプログラムに載る重要な曲種の一つであるから,生徒にとっても,きわめて親しみ深いことはいうまでもない。ところが数多くの交響曲のうちで,どれ一つとして同じものはない。時代により,作曲者によって,曲想から構成などがみな違うのである。そこで,まず,

 これらの疑問を解決することによって,今日の交響曲の形態はハイドンによって確立せられたことがわかり,その発展経路が理解せられるとともに,各時代,各作曲家の交響曲の特色が,いっそうはっきり認識せられ,交響曲の鑑賞が高められるのである。

Ⅱ 音楽史の学習活動

 音楽史の学習活動としては,いろいろな方法が取り上げられるが,中でも,楽曲の演奏やレコードその他で聞くことは,必ず取り上げられなければならない重要な活動である。なぜかというに,ピアノの発達に関連して,チェンバロやクラビコードを,図解や説明によって理解したとしても,その音色や音楽が経験されなくては,学習の価値は半減するからである。

 おもな学習活動には,次のようなものがある。