第3節 鑑賞の学習指導

 

(Ⅰ) 鑑賞の学習指導計画

(1) 鑑賞の学習指導の機会

 鑑賞は,音楽のあらゆる学習活動の重要な裏づけとなる。たとえば,声楽や器楽で,よい演奏をするためには,楽曲の形式・様式・内容などをよく理解して,それに自分の解釈を加え,また,演奏の巧拙を聞き分けながら,より美しく表現しなければならない。これは,鑑賞が,演奏のたいせつな背景を形成する証査とみることができよう。ことに,作曲や作曲に関する理論の学習,ならびに,音楽史等の学習では,鑑賞活動は,いっそう重要性が加わるのである。

 それゆえ,鑑賞の学習指導計画をたてるにあたっては,まず,鑑賞を各種の音楽学習活動の中に織り込み,それらを統合して取り扱うことが考えられる。そのような場合には,歌唱や楽器の演奏などが主体になり,鑑賞は,その裏づけとして,第二義的に取り扱われるだろう。しかし鑑賞の内容を組織立て,それらに対する学習を系統的に発展させる方法も,また,別に取りあげられてよい。そのような学習では,音楽史や理論の学習系列が,重要なよりどころとなるだろう。

(2) 鑑賞の学習指導計画上の諸問題

 1 時間割

 系統的,発展的な学習指導を計画する場合には,鑑賞のための時間を,毎週少なくとも,10分ないし15分ずつ,2回はとることが望ましい。

 しかし,鑑賞を主体として,音楽史を学習する単元をとった場合には,毎週1時間ずつ,数週間引き続いて,鑑賞のためにあてることもよいだろう。

 2 高等学校における単位の付与

 系統的な鑑賞のためには1/4単位,あるいは,音楽史と合わせて1/2単位を与えるのが適当であろう。

 3 教師の資格

 鑑賞の教師は,音楽教師としての一般教養のほかに,次のような事がらについての知識や理解が必要である。

 4 備品その他

 鑑賞のためには,次のような備品や設備を必要とする。

 

(Ⅱ) 鑑賞の学習指導

(1) 演奏・創作活動の中で行われる鑑賞

 1 演奏活動の中で行われる鑑賞

 演奏活動の中では,次のような事がらが,鑑賞の学習指導として,特に強調されなければならない。

 2 創作活動の中で行われる鑑賞

 創作活動の中では,次のような事がらの学習が,主として鑑賞活動に関連して取り扱われるだろう。

 これらの学習は,作品の演奏や話合いなどによって進められる。

 3 理解活動の中で行われる鑑賞

 音楽史や音楽理論(特に和声・対位法・形式など)の学習は,文字や楽譜のみによっては効果が薄い。たとえば,オーケストラの楽器の編成が,どのように変化発達を遂げたかを理解するためには,さまざまな編成の演奏を聞き比べてみて,はじめて,それらの音楽的な表現効果の相違が明らかになるのである。それを,楽器の種類や数の相違について,知的に理解し,記憶するだけでは,知識のための学習に終り,音楽を深く体験するための理論の学習とはならない。このように,理論の学習は,すべて音楽的効果を聞き分ける働き,いいかえると,鑑賞活動と密接に結びつけられて,はじめて,じゅうぶんな学習効果が得られる。

 どのような理論をどのような鑑賞活動によって学ぶかは,次の「鑑賞のための学習指導」を参照されたい。

(2) 鑑賞のための学習指導

 音楽鑑賞は,感覚的,情緒的な反応と,知的な理解や批判力とが総合して発達することによって高められる。感覚的,情緒的な反応と,知的な理解や批判力との総合的な発達をはかるには,次のような立場から教材を選び,演奏(または,レコード・ラジオその他)を通して,鑑賞を助成することが望ましい。

 1 演奏機関

 2 演奏の形態(人声や楽器の組合せ)  3 音楽の種類  4 形式  5 音楽史
(3) 鑑賞の学習活動

 上述の鑑賞は,さまざまな学習活動によって行われる。次にそのおもなものをあげてみよう。

 いずれの場合にも,あらかじめ,曲目を調べ,その作品や作曲家,あるいは演奏者・演奏団体,または,演奏形態などに関する予備知識を得て,その演奏を聞くことが望ましい。それらの予備知識は,生徒をみずから調べたり,教師が話してやったりして得られるだろう。

 音楽を聞いてから,その音楽や演奏について感想を述べ合ったり,記録の整理をするようなことは,鑑賞の向上や鑑賞意欲を高める上に,きわめて有効である。

 上にあげた鑑賞の学習活動の多くは,一般に行われているが,「専門家を招いて演奏を聞く」「音楽映画の利用」などは,あまり実施されていないようである。しかし,これらは,目と耳からよい音楽に親しむことができるばかりでなく,前者では,希望する曲目の模範演奏に接することのできる便宜があり,後者では,映画の文学的内容とあいまって,生徒に与える感激は大きいものがある。それゆえ,これらの利用は,これからの鑑賞の学習指導では,大いに奨励されてよいだろう。

 専門家の招へいは,経費の関係から,実現に困難を伴うが,同地域の数校あるいは,それ以上の学校が連合して実施に当るときは,案外,容易に実現できるだろう。現に,そのような方法で成功しているところも少なくない。

 音楽映画についても,同様の困難に当面するだろう。しかし,これも,上述の方法により,その土地の映画館と連絡したり,あるいは,映写施設のある学校を会場とし,フィルムの入手については,教材映画研究会,教育映画配給所のような機関を利用すれば,実施は可能になるだろう。