第2節 器楽の学習指導

(Ⅰ) 器楽の学習指導計画

(1) 器楽の学習指導の要点

 中学校および高等学校の器楽の学習は,大別して次の二種類になる。

 1 けん盤楽器の学習

 生徒は,歌唱や理論の学習が進むにつれて,けん盤楽器演奏技能の必要を痛感するだろう。たとえば,歌唱の伴奏を自分でしたり,和声の学習にピアノやオルガンを使用することなどが,必ず行われるので,ひとりでにそれらの技能の向上を望むようになる。そのけん盤楽器は,音楽の基礎的な理解や,演奏の基礎的な教養および技能を高める素地を作る上に,きわめて効果がある。それゆえ,中等学校では,全生徒に,けん盤楽器演奏の経験をもつようにすることが望ましい。設備の関係で,いまただちに実施することの困難な学校も少なくないだろうが,そのような学校では,とりあえず,紙けん盤の利用その他のくふうによれば,ある程度の目標は達成されるだろう。

 天分のある生徒は,演奏技能をどこまでも高めるようにすることはいうまでもないが,高等学校では,一般の生徒でも,上達の度合に応じて,簡単な旋律や伴奏は,初見でひく程度の技能をうることが望ましい。また,楽器の簡単な修理は,自分でするようになることもたいせつである。

 2 合奏の学習

 合奏の学習は,次のように大別することができるだろう。

(2) 合奏における組の編成

 1 一組の編成

 小さい学校では,器楽合奏の組は,1組しか作れないだろう。そのような場合には,次のような計画をたてる。

 中学校

 小学校で使った楽器——バイオリン・木琴・ハーモニカ・太鼓など——を中心として,これに小数の管楽器を加える。もちろんこの場合には,小学校で,たて笛を吹いていた生徒がクラリネットを,横笛を吹いていた生徒がフルートやピコロを吹くというような,楽器の持ちかえがくふうせられてよい。

 高等学校

 弦・管・打楽器などを合わせて1組を作る。

 2 2組以上の編成

 大きな学校では,2組以上の器楽合奏の組を編成することができるだろう。そのような場合には,次のような計画がたてられる。

(3) その他の問題

 1 組の大きさ

 2 時間割

 各組の指導は,正規の時間にくり入れるほうがよい。正規の時間にくり入れるにしても,なお,そのほかに,始業前や放課後の練習が奨励されてよい。

 学習の時間は,少なくとも,毎週2回はとりたい。生徒は,毎日,正規の時間を含めて,30分以上は,自発的に各自の楽器を練習するようになることが望ましい。なお,時間割を作る場合には,どの生徒でも,希望があれば参加できるように,学校全体の時間割と考え合わせて,時間をとることがたいせつである。

 3 高等学校における単位の付与

 けん盤楽器のみを学習する生徒には,1/4単位,合奏を兼習する生徒は,歌唱を3/4単位として,器楽に1/2単位を与えることができるだろう。

 4 教師の資格

 器楽を指導する教師は,本章第1節で述べた資格のほかに,次のような知識や技能を必要とするだろう。

 5 備品

 付録に述べてあるような一般的な備品のほかに,次の点に特に注意しなければならない。

 

(Ⅱ) 器楽の学習指導

(1) 生徒の選定

 合奏の生徒は,大ぜいの中から選ばれるのであるが,一見,劣等視される生徒でも,きわめて優秀な技能をもつようになることもあるので,無定見に選んではならない。生徒の選択にあたって,教師が心得ていてよい原則に,次のようなものがある。

 全校生徒の集まる機会,または,掲示板,校内放送などによって器楽合奏の組を作ることを周知させる。そして,次のような生徒を,なるべく大ぜい集めるようにする。  希望者が,大ぜい集まったならば,教師は,生徒の希望する楽器に対する適応性を決めるテストの計画をたてなければならない。ただし,多くの生徒の中には,現在では,有望とは思われないようなものでも,その後の学習によってすばらしく進歩するものもあるので,できるなら,全員の希望に沿うように考えたい。ぜひとも,テストをする必要のある場合には,技術よりも,感覚的,あるいは,身体的な条件を調べるほうがよい。

 楽器の適応性のテストでは,次のような点が基準になるだろう。

  弦楽器

 調子感がよく,指の長い生徒が適している。小指の特に短い生徒は不適当である。チェロやダブルベースは,指の太くて長いのがよい。また,ダブルベースは,からだの大きな生徒に適する。

 木管楽器

 概して調子感がよく,音に敏感な生徒が適しているが,中でも,オーボーを受け持つ生徒は特に,音に対する感覚の発達したものでなくてはならない。その他の条件は,楽器の種類によって,次のような違いがある。

 金管楽器

 高音楽器 コルネット・トランペットのような高音楽器は,吹ロが小さいので,口が小さく,くちびるの薄い歯並みのそろった生徒が適している。

 低音楽器 トロンボーンやチェーバのような低音楽器は,概して吹口が大きいので,口が大きく,くちびるの厚い生徒がよい。なお,これらの楽器は,楽器そのものが大きいので,からだも大きい生徒でなければならない,

打楽器

リズム感や拍子感の発達した生徒が適している。

(2) 弦・管・打楽器の基礎技術の指導

 1 基礎技術の指導目標

 楽器のいかんを問わず,次のような技術をうることがたいせつである。

 2 基礎技術の指導 リードをもつ楽器

(1) 1枚リードの楽器(例,クラリネット)

 (イ) リードを歌口の先端から約1mmくらい下げてつける。

 (ロ) リードを内側にして,歌口を口中へ約10 mmくらい入れてくわえ(ただし,サクソフォーンは,帯金から先を,半分くらいまで口中に入れる。)て構える。

 (ハ) 両くちびるを適度に内側に巻き,歯が直接歌口に触れないようにする。

 (ニ) リードの振動をよくするために,下くちびるを,やや前方に出すようにくわえる(下歯を上歯より前に出して,かみ合わせるようにする。)。

 (ホ) 両くちびるは,横に張るようにする。

 (へ) 舌を口底につけ先端を上方に丸めて,できるだけ大きなうつろを作る。

 (ト) 舌を引くと同時に,tuの要領で,息を楽器内に吹き込む。

 〔注〕 (イ)この種類の楽器は,リードが振動して鳴るのであるが,リードをいかにじょうずに振動させるかは,くちびると舌との技術にかかっている。

 (ロ) リードは,鳴りやすいものを選ぶこと。

 (ハ) リードの取扱に慣れたならば,とくさや安全かみそりのはで凸面部を磨き,よい音が出やすいようにする。薄いリード先は,リードカッターで切るとよい。

(2) 2枚リードの楽器(例,オーボー・バスーン)

 2枚リードの楽器は,すべて,リードの巻糸のところまでくわえる。発音の要領は,クラリネットのような1枚リードの楽器と同じである。

(3) 演 奏 形 態

 合奏の種類はいろいろあるが,次のようなものの中から,生徒にできるものを選び,1週1回くらい,合奏の時間を設けて,各種の合奏活動をすることが望ましい。

 この合奏は,多くの器楽合奏の中でも,きわめてたいせつなもののひとつである。特に,4ないし6くらいの楽器と,ピアノとの合奏は容易であるし,また,生徒たちの音楽経験を豊かにする上にも効果がある。さらに,この合奏は,伴奏用としても利用価値が多い。それゆえ,あらゆる学校で奨励されてよいだろう。また,高等学校では,ピアノトリオ,弦楽四重奏のような活動も盛んにしてよいだろう。

(4) 吹奏楽およびオーケスラの楽器の編成

 吹奏楽およびオーケストラでは,楽器をどのように編成するかが,きわめて重要である。次に,標準となる編成をあげてみよう。

 1 吹奏楽
 
人数
楽器
10
12
15
18
22
24
27
Db  ピ  コ  ロ

 フルート(C調ピコロ)

Eb ク ラ リ ネ ッ ト

Bb ク ラ リ ネ ッ ト

Ebアルト サクソフォーン

Bbテナー サクソフォーン

Bbコ ル ネ ッ ト

Bbト ラ ン ペ ッ ト

Eb  ア   ル   ト

Bb バ  リ  ト ン

 ト ロ ン ボ ー ン

Bb  小  バ  ス

Eb  中  バ  ス

Bb  大  バ  ス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(1)

 

 

 

 

 

 

(1)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小  太     鼓

大   (シンバル付き)

 〔注〕 1) シンバルは,大太鼓の奏者が受け持っても,別にシンバルだけの奏者があってもよい。2) バリトンと小バスの人数を合計して,楽器の分担を適宜にしてもよい。

 

 2 管弦楽

 管弦楽は,2管編成を理想とするが,楽器と演奏者の関係で,小編成のものが必要となってくる。それらの例を示すならば,次のようになる。
 
人数
楽器
12
18
23-30
35-43
第1バイオリン

第2バイオリン

ビ  オ  ラ

チ  ェ  ロ

ダブル ベース

フ ル ー ト

オ ー ボ ー

クラリネット

バ ス ー ン

ト ラ ン ペ ッ ト

ホ  ル  ン

ト ロ ン ボ ー ン

チ ュ ー バ

テ ィ ン パ ニ

(大  太  鼓)

ピ  ア  ノ

 

 

 

 

 

 

 

 

(1)

 

 

 

 

 

(1)

 

4−6

4−5

2−3

2−3

1−2

1−2

 

(1)

6−8

4−6

2−4

2−3

2−3

楽器
編成
小室内管

弦楽編成

1管編成
2管編成

 

 ビオラ・チェロ・ダブルベース・バスーン・ホルンなどは,中学校低学年の生徒には演奏が困難なために除外して,ピアノで代用することもできる。

 ピアノは,和声を充実するためと,時にはハープの効果を表わすために用いる。しかし,チェロはぜひとも必要であるから,教師,または上級生が担当するとよい。

 以上の楽器中,ビオラは主として中音部譜表に記譜されるために,初心者は楽譜が困難であるから,その読譜によくなれることがたいせつである。クラリネット・ホルン・トランペットは,いわゆる移調楽器であるから,編曲の際には,特に注意しなければならない。クラリネットにはイ調・変ロ調その他のものがあるが,簡単な調号のためには,変ロ調だけでまにあう。変ロ調の楽器の楽譜は,実際の音高よりも1全音高く書かなければならない。たとえば,ハ長調の楽曲は,ニ長調で記譜するのである。

 トランペットも変ロ調の楽器を用いるために,実際の音高よりも1全音高く記譜される。

 ホルンはへ調の楽器を用いるため,完全5度高く記譜する。たとえば,ハ音のためには,完全5度上のト音を書く。

 古い管弦楽の総譜には,他の管のための部分譜が用いられているが,初心者のためには書き直したほうがよい。トランペットとホルンの自然音列以外の音が混入した旋律は,初心者には演奏が困難である。

 

(Ⅲ) 教 材 例

 教材用の楽曲は,生徒の知的・情緒的発達に適したものを選ばなければならないことは当然であるが,その上に,生徒の技能にも応じられるものでなければならない。小編成の管弦楽や吹奏楽にあっては,それらの編成にかなった楽曲を選ぶわけであるが,この場合,多くはよく知られた器楽の独奏曲や管弦楽曲,あるいは吹奏楽曲から適当に編曲される。したがって,教師は一方には楽曲を選択するが,他方では,それを編曲しなければならない(編曲については本章第4節を参照のこと)。

 次にあげる楽曲は,編曲を要するものではあるが,だいたいにおいて,中等学校の合奏教材として適当であろう。

 1 小管弦楽曲
 
曲     名
作 曲 者
難易程度
ガボット Gavotte

ドン ファンのメヌエット

 Minuet from Don Giovanni'

歌劇「魔弾の射手」民謡 Folk Song

 fromDer Freischutz'

「サプライズ交響曲」アンダンテ

 Andante from ‘Surprise Sym-

 phony'

楽興の時 Moment Musical

タンブラン Tambourin

ステファン ガボット

 Stephen Gavotte

ダニューブ川のさざ波

 Danube Waves-Waltzs

セレナード Serenade

ブーレー Bourree

歌劇「ホフマン物語」舟歌 Bar-

 carolle from ‘Tales of Hoffman'

おもちゃの交響曲 Toy Symphony

交響曲 ホ短調 メヌエット Minuet

 from ‘Symphony in Eb minor'

ハンガリアン ダンス

 Hungarian Dance

ロザムンデ舞曲 Dance from

‘Rosamunde'

歌劇「バグダッドの大守」序曲

 Overtur from ‘Le Calife de

 Bagdad'

アンネン ポルカ Annen Polka

歌劇「カバレリア ルスチカーナ」

 間奏曲 Intermezzo from ‘Ca-

 valleria Rusticana'

歌劇「アウリスのイフィゲニア序曲

 Overtur from ‘Iphigenie en

 Aulide'

組曲「ール ギュント」第1

 ‘Peer Gynt Suite’No.1

ゴセック

モーツァルト

 

ウェーバー

 

ハイドン

 

 

シューベルト

ラモー

チブルカ

 

イバノビッチ

 

モスコフスキー

バッハ

オッフェンバック

 

ハイドン

モーツァルト

 

ブラームス

 

ーベールト

 

ボイエルデュー

 

 

ストラウス

マスカーニ

 

 

グルック

 

 

グリーグ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2 吹奏楽曲
 
曲  名
作 曲 者
難易程度
カッコー ワルッ Cuckoo Waltz

フォスター 旋律集

 Foster Melody Section

チーム ワーク序曲

 Teamwork 0verture

行進曲「アクティヴィティ」

 March ‘Activity'

メヌエット Celebrated Minuet

序曲ブライトスター」Bright Stars

希望にもえて

ラルゴ Largo

行進曲「カール王」

 March ‘King Karl

スケーター ワルツ Skaters Wartz

行進曲「旧友」March ‘Comrade'

歌劇「タンホイザー」巡礼の合唱

 Pilgrims Chorus from ‘Tannhauser'

メリーウィドウ曲集

 Merry Widow Selection

森の水車

 Water mill in the Forest

トルコ行進曲 Turkish March

歌劇「アイーダ」行進曲

 March from ‘Aida'

アメリカン パトロール

 American Patrol

ハイスクール カデテッツ

 High School Cadets

喜劇の序 Rast Spieal

ラデツキー行進曲

 Radetzky March

ハンガリアンダンス

 Hungarian Dance

序曲「軽騎兵」

 Overture ‘Light Cavalry'

組曲「アルルの女」

 No.Ⅰ.Ⅱ.L'Arlesienne Suite

歌劇「カルメン」組曲第1

 Carmen Suite No.Ⅰ.

ワルツ「美しき青きドナウ」

 Blue Danube

歌劇「ローエングリン」序曲

 Prelude from ‘Lohengrin'

スラブ行進曲 March Slav

ヨナソン

スター

 

ルッセル

 

ベネット

 

ボッケリーニ

ベネット

水島数雄

ヘンデル

アンラス

 

ワルトトイフェル

タイケ

ワーグナー

 

レハール

 

アイレンベルク

 

ベートーベン

ベルディ

 

ミーチャム

 

スーザ

 

ケラーベラ

ストラウス

 

ブラームス

 

スッペ

 

ビゼー

 

 〃

 

ストラウス

 

ワーグナー

 

チャイコフスキー