第Ⅳ章 中学校理科の単元とその展開例

 

第1学年 主題「自然のすがた」

単元Ⅰ 季節や天気はどのように変化するか。また,これらの変化は人生にどのような影響を及ぼすか

 要 旨

 単元学習では生徒自身に問題を発見させ,これをみずからの努力によって解決させることを重んじる。しかも生徒に解決すべき問題を見つけ出させるためには,学習の環境を整備し,その機会を準備することが必要である。この単元は中学校3か年の理科学習への導入として,広く一般の自然物および自然現象に触れさせ,その間に生徒に問題発見の機会をもたせようとするものである。

 さらにまた最初の理科学習として必要なことは,生徒の側からはこれまで小学校において習得した知識・技能などをいったん整理し確実なものとして,新しい学習に進むことであり,教師の側からは,これまでの学習に対してさぐりを入れることである。このような目的に対しても,この単元が役だつことが考えられる。

 内容とするところは,季節や天気の変化に伴い,地上にはどのような現象が見られるか,また生物はどのようにこれに適応して生活するかを学習し,さらにわれわれがこれらの変化に対して健康を保ち,自然の災害を防ぎ,また収穫をあげる方法を科学的に考察することである。

 したがって,このような内容をもつ単元の指導では,継続的な観測や飼育・栽培などによる観察を行うことが望ましい。したがってその季節に調べられることは一応これを明らかにし,観察や観測などのできないものについてはその後にさらに継続的に行う計画をたて,それに沿って実行していく方法も考えられる。そして,その記録を,次に続く諸単元の学習と関連させて,ときどき整理・考察するように計画をたてることができるであろう。指導の間には,観察・測定・記録などの習熟に特に注意することが望ましい。

 

 目 標

 

 学習の範囲と順序,学習活動

 

単元Ⅱ 地球の表面はどのような形をしているか。また,それは人生にどんな影響を与えるか

 要 旨

 大地はわれわれの生活の舞台である。われわれが生活しているこの大地は,空気や水などのはたらきで絶えずけずられたり,土砂のたい積が行われたりして変化している。また地面には火山・地震などの活動や,土地の昇降などの変動があり,それらの自然現象はわれわれの生活に密接な関係をもっている。

 わが国は面積の狭いわりに山地が多く,また火山や地震の多いことも大きな特色で,それらによる災害の防止や温泉の利用などは特に考えなければならない問題であろう。さらにわが国の自然は非常に変化に富み,狭い細長い陸地の四面は海に囲まれており,いたるところに山あり川あり湖があって,すぐれた自然の美を作りあげている。こうした美しい自然の環境はわれわれの情操にも大きな影響を与えている。

 このように大地の表面はわれわれの生活と深いつながりがある。したがってわれわれの日常生活を合理化し,その向上をはかるためには,その土地をよく理解し,これに適応した生活を営むようにしなければならない。

 この単元では,地球の表面の様子,地球を絶えず変化させている空気や水などのはたらき,火山・温泉・地震その他の地かく変動などに関する基礎的な事実や原理およびそれと人生との関係を理解させるとともに,自然環境に興味をもち,その中の問題をみずから解決する能力や態度などを養うことをめざしている。

 

 目 標

 

 学習の範囲と順序,学習活動

 

単元Ⅲ 水は自然界のどんなところにあるか。また,水は生活にどのようなつながりをもっているか

 水は土や空気などと同様に,われわれの生活にあまりにも密接なものなので,かえってその存在やはたらきに無関心になりがちである。しかし,水が自然界のいたるところに存在し,またそれぞれ重要なはたらきをしていることを,一つ一つ具体的に考察してみると,水のはたらきが,想像以上に重大なものであることが改めて強く認識されてくるであろう。この単元は,生物が,たえず水をとり入れて生命を保っているという,水の存在を最も切実に感ずる問題からはいり,次いで,水をどこから得ているかを調べる。自然に存在する水はいろいろなものを含んでいて,飲料や洗たくに不適当な場合があるので,これをよい水にする原理や方法を学習する。次に,水の物理的・化学的性質を調べ,液体の一般的性質や,原子・分子・化合物の概念も明らかにする。水はただ多量にあるというだけでなく,その状態を変えながら自然界を循環して,気象現象や地形に変化を与え,川・湖や地下水となり,生物の生命をささえ,また動力の源となっている。水が自然界のあらゆるところで大きなはたらきをしているのは,このように水が自然界をめぐるためであるということもできよう。このように水の性質・はたらき・利用に関する問題はきわめて広範であるので,基礎的なものを見のがすことなく指導すべきである。実験もこの単元で多く行われるであろうが,安全に行うことと,基礎的な技術を身につけることを考慮する必要がある。

 

 目 標

 

 学習の範囲と順序,学習活動

 

単元Ⅳ 生物はどこで,どのように生育するか

 要 旨

 中学校第1学年の生徒が,生物の採集・飼育などに関して強い興味をもつことは,各種の興味調査の結果からも明らかである。したがって,この単元のような問題を学習にとり上げることは,生徒の自発的学習意欲は高まり,自然環境から問題を見いだしつつ,これを継続的,関連的に調べようとする態度と能力とを身につけるのに役だつであろう。

 さらに,このような学習の意義を社会生活の面から考察すると,生物の生活が人生と深い関連をもつことに気づくであろう。すなわち,われわれの衣食住の資源の多くは生物界より得られ,また逆に生物によって少なからざる害もこうむっている。したがって,有用生物を育成し,有害生物を除去することは重要な問題であるが,それには生物の種類・形態・習性などに関する理解を必要とする。

 この単元の内容とするところは,家の中・野山・田畑・池や川などに生育する生物について,種類・生活のしかた・人生との関係を調べ,さらに生物を一定の規準によって分類することにある。

 指導にあたっては,まず,この学年の単元Ⅰとの関連に注意しなくてはならない。すなわち,すでに生物の飼育・栽培を継続的に行い,諸種の環境条件の測定を行っているのであるから,それらの記録を適当な時期にまとめながら,この単元の学習に発展させることが望まれる。次に,生物の生活をつとめて環境と関連的に扱うことが必要である。それには,植物と動物との生活の相互依存,生物の生育をはぐくむ無機環境の特性などを,この学年相応につっこんで学習させたい,なお,学習の時期は,夏の休と関連させたり,問題の性質によっては,別の時期にゆずったりすることも,学習の効果をあげる一方法として考えられよう。

 

 目 標

 

 学習の範囲と順序,学習活動

 

単元Ⅴ 地下はどのようになっているか。また,そこからどのような資源が得られるか

 要 旨

 地球の表層部は地かくとよばれる岩石の層からできている。地かくを構成している岩石にはいろいろな種類があり,またこの中には有用な鉱物資源が含まれている。われわれはこの地かくの上に生活し,種々の岩石や鉱物を掘り出して利用している。これらの資源の中には近代文化の骨組をなす金属・石炭・石油など重要なものがきわめて多く,その多少は生活の向上に大きな影響をもっている。さらに地かくの表層には土が広がっており,われわれはここに作物を栽培し,樹林を植え,すまいを造るなど種々の生活のかてを得ている。したがって,岩石・地下資源・土などの成因や性質を理解し,これらをいっそうよく利用することは,われわれの生活を向上させる上にたいせつなことである。ことにわが国は面積が狭い上に平地が少なく,土地の有効な利用は大きな問題になっている。

 また岩石の中には大昔の生物のあとかたを含むものがあり,これらの化石がおもな手がかりになって地球上に起った生物の移り変りや地かくの変動の歴史などが調べられている。このような地球の歴史に関しては生徒は大きな関心をもっており,さらに現在の生物や地表の様子を理解する上に大きな手がかりにもなる。

 この単元では,上に述べたような考えをもとにして,土・岩石や鉱物・地下資源・古生物・地球の内部などに関する基礎的な事項を理解し,あわせて土のでき方・地球の内部・生物の移り変りなどを推論したり,岩石・鉱物・化石などを集めて分類したりする能力を養い,さらに自然に親しみ,自然の偉大さを感得し,自然をいっそう利用して生活を向上しようとする態度を養うことなどをめざしている。

 

 目 標

 

 学習の範囲と順序,学習活動

 

単元Ⅵ 天体はわれわれの生活とどのようなつながりをもっているか

 要 旨

 天体観測の経験や,太陽系や宇宙についての科学的な知識をもつことは,正しい宇宙観をいだき,また生活をうるおいのあるものにするためにたいせつなことである。さらに天体は,時間・暦・潮汐・方位の決定そのほか多くの問題について,われわれの生活に密接な関係をもっており,ことに太陽は地球上のあらゆる生命や変化の源となっている。一方,天体に関する生徒の興味は,神秘なもの,未知なものに対するあこがれというような素朴な形でとどまっていることも多いが一般に非常に強い。天体の観測を行ってこれに親しみ,また科学者が研究していった方法を調べ,知識を豊富にすることによって,天体に対する興味は深められるであろう。

 星の観測には,直接,教師がその場で指導することが困難な場合が多いであろう。星座表を作ったり,北極星やその近くの星座の見方を指導したりして,観測の手引を与えておく必要がある。そして,星座名をたくさん覚えることに終始するようなことなく,次に述べてある目標にそって,観測すべきことをはっきりさせておかなければならない。また,太陽を観測する時には,白紙上に投影するとか,サングラスの完全なものを使うなどの方法をとり,目を痛めないようにじゅうぶんに注意する必要がある。

 

 目 標

 

 学習の範囲と順序,学習活動