第Ⅲ章 中学校・高等学校理科の評価
理科の指導を生徒の能力や経験にあったものにするために,また指導計画を改善するために,理科の学習のいろいろな場面で評価が行われる。評価はその目標を明確にすること,評価の方法と場面とを立案すること,評価を行うこと,評価の結果を整理すること,また,それを解釈することなどの過程で行われるが,次に掲げる表は,上の過程のうちの目標と方法と場面について,一つの簡単な例を示したものである。これらについては,さらに一般的な,しかも具体的な記述が必要であり,評価の実施,結果の処理についても述べなければならないが,重複を避けるために,これらは‘理科の指導法’にゆずることにした。
知識と理解の評価
評価の目標(例) |
評価の方法(例) |
Ⅰ 知 識
(2) 科学上の記号・術語の知識 (3) 科学上の数値・公式・概念に関する知識 (4) 実験や研究上の科学的方法や手順に関する知識 (5) 実験室その他で用いられる科学上の技術や器具に関する知識 (6) 物質・鉱物・生物・化学薬品・人体の部分などの名称の知識 |
Ⅰ 客観テスト
(2) 完成法 (3) 訂正法 (4) 多岐選択法 (5) 真偽法 (6) 組合せ法 (7) 排列法 (8) 概括法 (9) 判別法 (10) 方程式法,その他 |
Ⅱ 理 解
(2) 自然現象の因果関係の理解 (3) 科学上の諸概念の理解 (4) 問題を解決したり,また結論を批判したりする科学的方法の理解 (5) 実験的方法のもつ意義の理解 (6) 科学全般の概要の理解 |
Ⅱ 論文テスト
(2) 比較再生 (3) 比 較 (4) 定 義 (5) 因果関係 (6) 説明(理由) (7) 要 約 (8) 分 析 (9) 関 係 (10) 概 括 (11) 図解・例示,その他 |
Ⅲ 教師は次のような機会に生徒の行動を観察し,記録する
(2) 教師と生徒との間で質問応答や,またはクイズなどをクラスで行うとき (3) 教室で口頭報告や演示が行なわれるとき (4) 実験室や野外で行われる学習活動の間に (5) 教師は生徒の報告やノートを調べ,進歩や弱点について記録する (6) 生徒の作った画・模式図・スライド・紙しばいなどを調ベ,その結果を記録する |
知識と理解の評価の例
評価すべき目標 |
評価する場面 |
評価の方法 |
水は水素と酸素から成り立っているという科学的事実の知識 |
水の組成のついての学習が終ったとき |
客観テストを行う 教師が問題を準備して質問する |
緑色植物の営む光合成の原理の理解 |
生徒が緑色植物の光合成の実験を行っているとき |
教師は生徒の行動を観察して記録する 発問して生徒の応答を検討する 生徒の実験報告を調べる |
人体の消化過程の概略の理解 |
生徒がこの問題について学習しているとき |
論文テスト 客観テスト 生徒のかいた模式図・表・掛図などを調べる 生徒の口頭報告や討議の様子を観察し記録する |
問題を解決すべき科学的方法の理解 |
生徒が課題の研究をはじめようとする直前に |
生徒の研究計画を調べてみる 討議の際の生徒の言動を観察し,記録する 論文テストを行う 客観テストを行う |
能力と技能の評価
評価の目標(例) |
評価の方法(例) |
Ⅰ 自然界の事物,現象を観察する能力
(2) 観察を正確に注意深く行う能力 (3) 長期間にわたって継続観察する能力 (4) 関係的に観察する能力 |
Ⅰ 個々の生徒の行動を観察し記録する
(2) 野外学習において (3) 教師と生徒,あるいは生徒相互の質疑応答について (4) 生徒の発言や,話合いから (5) 実習のしかたから (6) 生徒が選択した学習題目について |
Ⅱ 科学的な問題を解決する能力
(2) 資料を利用する能力 (3) 実験を計画し実行する能力 (4) 事実に基いて論理的に考察する能力 (5) 自然現象を構成要素または因子に分析する能力 (6) いろいろな自然現象観察をし,それらに通じる原理または特性を抽出する能力 (7) 帰納した結果を実証する能力 (8) 科学に関する記述・統計・図表などを理解する能力 (9) 物ごとを,科学的な規準に基いて分類する能力 |
Ⅱ テスト
(2) 論文テスト (3) 応用問題 (4) 作業テスト |
Ⅲ 科学的な問題を解決するのに必要な技能
(2) 機械・道具・装置・薬品などを扱う技能 (3) 標本を作製する技能 (4) 統計・図表などを作製する技能 (5) 簡易な機械や道具を作製する技能 (6) 正確に記録する技能 |
Ⅲ 記述や口頭による発表
(2) 生徒の口頭による発表 |
Ⅳ 科学上の事実や原理を日常生活に応用する能力
(2) 日常生活を合理的,能率的にする能力 (3) 天然資源を活用する能力 |
Ⅳ 生徒の作品
(2) 報告書 (3) 生徒の行った展示 |
能力と技能の評価の例
評価すべき目標 |
評価する場面 |
評価の方法 |
継続観察の能力 |
学級全体で,生物を飼育し,観察するとき 学級全体で気象観測を行うとき |
実際の場面において生徒を観察し,生徒が目的を達成するまで観察を継続的に行うかどうか,また彼らの観察しているところは,その研究のために必要なものであるかどうかを調べて記録する 観察している材料について,簡単な客観テストを何回も行う 生徒が同様な観察を続けたがっているかどうかを,察知して記録する 生徒のノートや記録を調べる |
資料を集める能力 |
学級で野外学習や見学を行う場合 |
生徒が問題解決のために必要と考えられる資料を,もらさず集めているかどうかを観察して記録する 生徒が集めた資料について記載した報告を,個々に調べる 実際の場面において生徒を観察し,彼らが集めた資料の取扱方,整理のしかたなどを記録する 生徒のノートや記録を調べる |
薬品を使う技能 |
学級で薬品を使って実験を行うとき |
実際の場面において生徒を観察し,次のことがらについて記録する
(ⅱ) 試薬びんやガラス器具などの取扱方が正しいか (ⅲ) 薬品の使い方が悪くて,衣服・机などをよごさなかったか (ⅳ) 薬品を浪費していないか 生徒が学級またはグループで話すことを聞き記録する 客観テスト |
態度の評価
評価の目標(例) |
評価の方法(例) |
Ⅰ 自然に親しみ,問題を見い出そうとする態度
(2) 自然の事象に興味をもつ態度 (3) 疑問を起す態度 (4) 余暇を有効に利用する態度 (5) 自然の調和や恵みを感得する態度 (6) 環境をよくしようとする態度 |
Ⅰ 個々の生徒の行動を観察し記録する
(2) 生徒の間の問答のとき (3) 生徒の説明や報告のとき (4) 野外学習のとき (5) 実験室における学習のとき (6) 生徒が全員の前で実験してみせるとき |
Ⅱ 問題を科学的に処理しようとする態度
(2) 道理に従う態度 (3) 正しく推論しようとする態度 (4) 迷信や偏見にとらわれない態度 (5) 批判的に判断する態度 (6) 計画的に行動する態度 (7) 専門家の意見を尊重する態度 (8) 科学を尊重する態度 |
Ⅱ 生徒の書いたものや作ったものを調べる
(2) 自由研究の報告書 (3) 学習したことの反省や感想の記録 (4) ノート (5) 発表などのため生徒が作った図表・絵・写真など (6) 生徒がくふうした装置や道具 (7) 生徒が作った標本類 |
Ⅲ 積極的に行動しようとする態度
(2) 根気よくものごとをやりとげる態度 (3) 他人と協力する態度 (4) 新しい考えをとり入れようとする態度 |
Ⅲ 生徒の読んだ図書や選んだ題目を調べる Ⅳ テスト
(2) 客観テスト |
態度の評価の例
評価すべき目標 |
評価する場面 |
評価の方法 |
自然の事象に興味をもつ態度 |
グループに分れ,水の沸騰するようすを実験しているとき |
各生徒が積極的に実験をしているかどうかを観察し,記録する 実験中生徒の起した疑問や感想を調べる 生徒がこの実験に関係する新しい問題を見い出し,新しい研究をしようとする考えを持つかどうかを調べる 論文テストを行う 生徒の実験記録を調べる |
野外で観察を行っているとき,またその結果についてクラスで話し合っているとき |
生徒が選んだ研究題目を調べる 野外における生徒の行動を観察し記録する 野外観察の報告書を調べる 遠足の感想文を調べる 客観テストを行う |
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批判的に判断する態度 |
教師のつくった科学的な小論文をクラス全員にきかせるとき |
生徒の感想文を調べる 批判討議を行い各生徒の発言の内容を調べる この小論文について客観テストを行う 教師がこの論文からのいくつかの結論を示し,これについてその妥当性を判断させる |
習慣の評価
評価の目標(例) |
評価の方法(例) |
Ⅰ 健康的な習慣
(2) 危険から身を守る習慣 (3) 公衆衛生に留意する習慣 (4) 生活を健康的で便利なようにくふうする習慣 Ⅱ 機械器具などを正しく取り扱う習慣
(2) 実験器具や記録を整理整頓する習慣 (3) 正確に記録をする習慣 Ⅲ 科学的に物事を考え処理する習慣
(2) 実証的に物ごとを考える習慣 (3) 生物を愛育する習慣 (4) 他の人と協力して問題を解決していく習慣 (5) 日常生活を科学的・能率的にしていく習慣 |
Ⅰ 個々の生徒の行動を,長期にわたって観察し記録する
(2) 野外における観察や見学のとき (3) 学習計画などについて会話・討議などを行っているとき (4) 課外時間に学習しているとき Ⅱ 生徒の父兄や生徒及び友人に面接して資料を得る
(2) P.T.Aの会合 (3) 生徒との面接 (4) 座談会などのとき Ⅲ 生徒の書いたものを調べる
(2) 感想文など Ⅳ テスト |
科学的習慣の評価の例
評価すべき目標 |
評価する場面 |
評価の方法 |
器械や道具を順序正しくていねいに取例扱う習慣 |
顕微鏡を用いて観察をしている時 |
顕微鏡やてんびんをはこぶ時のようすを観察する 顕微鏡を調節する順序をチェックリストにより調べる 顕微鏡の操作の順序をしらべる 客観テストを行う 観察結果の報告書やノートなどを調べる |
正確に記録する習慣 |
実験室で生物の生態や鉱物の構造などを観察している時 |
実験や観察の際の行動を見て記録する 生徒の報告書・ノート,観察図などを調べる 教師の発問に対する生徒の答から判断する テストを行う |
身辺を清潔に保つ習慣 |
教室やその他の場所で |
衣服が清潔であるかどうかをみる 生徒の健康状態をみる 寒い時や雨天の際,衣服を適当に注意して着ているかどうかをみる 机の中や教室・廊下その他を清潔にしようとしているかどうかを調べる 家庭において身辺を清潔にしているかどうかを,父兄から聞く |
自然や自然科学に対する感得,よりよい生活への理想についての評価
評価の目標(例) |
評価の方法(例) |
Ⅰ 科学や科学的方法の感得
(2) 科学的技術の感得 (3) 科学者の業績および科学の人類福祉への貢献に対する感得 (4) 科学の整然たる理論的体系に対する感得 Ⅱ 自然に対する感得
(2) 自然界の秩序・法則性の感得 (3) 自然は非常に奥深く,研究されなければならない問題が無限に残っていることの感得 Ⅲ よりよい生活への理想
(2) 健康生活についての理想 (3) 天然資源やエネルギーの利用についての理想 (4) 産業や科学的な社会施設についての理想 (5) 科学の発達についての理想 (6) 科学を生活や産業に応用することについての理想 |
Ⅰ テスト
(2) 客観テスト Ⅱ 生徒の行動を観察し記録する
(2) 生徒の生活に起る問題を解決する時に,科学的な方法をとっているかどうかを調べる (3) 研究問題のどのようなところに興味をもっているかを観察する Ⅲ 教師の発問に対する答や話合いなどを調べる Ⅳ 生徒の書いたもの・製作物などを調べる
(2) 自分から選んだ問題についての製作物 (3) 科学者の業績,科学の恩恵などについての話合いを行い,各生徒の発言を調べる (4) 理想的な衣・食・住・社会の産業などについて生徒に計画をたてさせ,それを調べる Ⅴ 生徒の読書傾向を調べる |
「感得」と「理想」の評価の例
評価すべき目標 |
評価する場面 |
評価の方法 |
自然界の秩序・法則性の感得 |
‘万有引力の法則’の学習が終ったとき |
生徒が,その学習においてどこに興味をもったかを問答して調べる いろいろな方面に法則を適用したあとで感想文を書かせる 法則がうまく使われている材料を集めさせ,その種類・内容・数などをしらべる |
自然界の偉大さ,美しさ,神秘性の感得 |
望遠鏡で星を観測したときとか,雪の結晶や植物の組織を観察したときなど |
生徒に星や雪の結晶の美しさについての感想文を書かせる 観察している態度を調べる 星や雪の結晶の写真などについて話合いをさせる |
健康生活についての理想 |
伝染病と免疫についての学習が終ったとき |
健康生活の立場からみて日常生活をどのように改善したらよいかについての具体案を作らせる。また,どのような成果をあげたかについて発表させる。 生徒の健康手帳を調べる 各種の安全運動に参加した回数や協力した内容,あるいはその行動を調べて記録する |