§1.単元による学習指導のねらい
単元による学習指導はどのようなことをねらっているのであろうか。—般に,単元学習はこどもの問題解決の学習であるといわれているが,これがいわゆる書かれた問題の解決による学習と,どのように違っているか,その相異を明らかにすることによって,このねらいを明らかにしてみよう。
単元でとりあげる問題を解決していく過程は,書かれた問題を解決していく過程と比べて,どんな点に相違があるか。 |
いま,この相違を,次のような二つの問題を例にして,考えてみよう。Aの問題は,ひとつの単元の中心となる問題であり,Bの問題は,これまでの数学科の指導の中心におかれていたような書かれた問題である。
B.こづかい150円を毎月もらっているこどもがある。その40%を本代の予算に割り当てたとすると,毎月の予算は何円になるか。
なぜそのことが問題となるのかということ,すなわち,その理由となることが,こどもたちの生活の中にあり,こどもの必要に基いたものである。問題を解決していくためには,このなぜということを,こどもたち自身で考えなければならない。 |
なぜということは,教師がおもにこどもたちのことを考えて,説明して与える。このような形で問題を与えれば,あるこどもは必要を感ずるし,他のこどもは感じないかもしれない。なぜということを考えなくとも,問題はとける。 |
Aのような問題を解決していくためには,なぜこづかいを問題にするのか,そのわけをはっきり考えなければならない。そうすると,ほしいものが買えないとか,むたづかいをしすぎて困ったとか,いろいろなこどものトラブルがまず考えられるだろう。そして,なぜそのトラブルが困ったことになるのか,その理由を反省していけば,自主的に消費生活を規正していって,りっぱな中学生としての生活をしていきたいというような,こどもの必要につきあたるであろう。
こうした必要をはっきり自覚して,これを分析していってこそ,この問題が解決されるのである。
Bのような問題では,このなぜは教師の考えた数学の指導過程の中の一つの手段にすぎず,こどもたちの生活の中から題材を取ってはいるが,生活を高めようとする点が反省されてないから,このなぜの生まれる理由がない。たとえそれが反省されたにしても,問題が特定の状態のものに限定されているから,すべての生徒が,その必要を感ずるとはいえない。たとえば,毎月定額のこづかいをもらっていない生徒は,この問題にそれほど必要を感じないであろう。また,本代の予算をどうして40%ときめたのかわからないから,本を買うことにあまり重きをおいていない生徒は,なぜそんなことをするのかわからないであろう。また,こづかいを豊かにもらっている生徒は,何も予算などたてなくてもよいではないかと考えて,この問題にあまり必要をおぼえないかもしれない。また,こうしたことを教師がていねいに説明して必要をおぼえさせたとしても,また次の問題について,同じようなことをくり返さなければならない。
2.問題の分析について
この問題を解決していくためには,さきにあげたなぜということをよく考えて,問題を分析したり,限定したりして,Bのように数量的に解決できるいくつかの問題に分析していかなくてはならない。 |
この問題を解決していくためには,問題のなかにある条件に基いて,与えられた数量の間の数量的関係を明らかにし,どんな計算や測定などを適用すればよいかを考えればよい。解決のために必要な仮定や資料はいっさい与えられている。 |
「こづかいをどのように使ったらよいか」というAの問題を解決するためには,自主的にこづかいを使うという観点に立って,これを「予算生活の計画を立てる」という数量的な問題におきかえる。しかもこの問題を自分の個性を生かしつつ,合理的にという観点から,次の二つの問題に分析する。
(2) その総額をどのように使ったらよいか。
さて,この二つの問題は,このままでは解決できない。そとで,たとえば(1)について適当ということを,いろいろな過去の経験や教師の助言に基づいて,ある基準を設け,あるものに対するある割合にするというような見とおしをたて,その基準や割合のとり方の資料として,どんなものが手に入りそうかを考えるであろう。いま,その資料として入手できる見込のあるものとして家計調査の資料があるとすれば,この基準を「普通の家庭の教育費中に占めるこづかいの割合」と仮定することもできよう。そうすると,(1)の問題は次のような小問題に分けられる。
(b) 教育費の中におけるこづかいの割合はどれくらいか。
(c) 自分の家の家計費はどれくらいか。
(d) この基準から見て,自分のこづかいはどれくらいが適当か。
すなわち,単元の問題は,それがしだいに分析されて数学的解決のきく問題に到達する。いま,この問題の系列を示せば,次のようになる。
単元の問題 |
問題(a) | |||||
問題(イ) | ||||||
問題(b) | ||||||
問題(1) | 問題(ロ) | |||||
問題(c) | ||||||
問題(d) | ||||||
問題(ハ) | ||||||
問題(e) | ||||||
問題(2) | 問題(ニ) | |||||
問題(f) |
この表でいえば,問題(a)(イ)(ロ)(c)(d)(ハ)(ニ)(f)が数量的に解決される問題であり,このひとつひとつが,Bの型の問題に当る。
こうした分析の過程は,Aのように,限定されてない現実の場におきてくる問題に特有なことであって,Bのような問題での分析とは,まったく異なるものである。Bのほうは,与えられた,きちんと条件のそろった場面にある,隠された数量的関係をとりだすための分析であって,初めから解決可能なことが前提とされているのが普通である。Aにあっては,解決可能であるように限定していくために,自分で条件と前提をつけていくことが必要になる。
注※ 成果を得るための過程については,その教科の学習にゆずることにして,結果だけを,資料としての知識として利用したりすることを考えておかないと,指導が散漫になり焦点を失うおそれがある。
3.解決の多様なことについて
分析のしかた,限定のしかたは必ずしも一義的でない。したがって,分析や限定のしかたに応じて,いろいろな程度の一連の問題が起ってくる。解決も同一の結果にはならない。 |
解決のためにとり出される関係は,一義的である。その関係の処理のしかたには,いろいろな方法が考えられても,結果は同一になる。 |
たとえば,(1)にあげた総額をきめる基準として,これまでのクラスの生徒たちの毎月の記録のうちから,むだ使いの分を除いた額の月平均をとることも考えられるし,また,クラスの生徒のこづかいの平均の,クラスの生徒の家の家計費の平均に対する割合をとることも考えられる。
また,こづかいの配分を考えるとき,何に重きをおくかによって,いろいろな配分のしかたも考えられる。この配分のしかたをきめることは,ひとつの問題の限定であるが,この限定のしかたにも,百分率によって詳しくきめることもできるし,簡単な分数を用いて大ざっぱにきめる方法もとれるし,100円に対する内訳で示す方法もある。このように方法上にもいろいろな変化をとりうる。これは分析された後の問題に対しては,いろいろな条件となるわけのものである。こうして,限定のしかたと方法的な条件をきめても,また,ひとりひとりのこどもによって,こづかいの高も違うし,大ざっぱに200円とか300円とかいう程度にしかきめられない事情のものもあろうし,250円とか175円とかいうように,細かくきめられる事情のものもあろう。このような数字のくわしさが違えば,そこに遭遇する数学的な困難さの違った問題が起ってくる。このように,こどものもつ見とおしによって,条件や限定,資料となる数量が異なり,したがって,数学的な困難さの程度の違った,しかも同じ種類のいくつもの問題が起ってくる。これは,Bのように,条件を明示し,状況を一義に指定した問題には起ってこない点である。
4.解決の限界について
得られる結果は,自分できめた仮定や条件に基くものであるから,それが実際にどんな意味をもっているか,どんな限界をもっているががめいりようになるし,まだどんなことが残されているかも明らかになる。 |
仮定や条件がどうして生れたかが明示されていないから,その結果を実際の生活の上にどう適用してよいかがはっきりしない。 |
前にあげた問題について,総額や配分の計画ができたとすると,これに基いて,生活していくことを考えるときには,この解決が,さきにあげた基準なり,条件なりを認めた上のものであり,そのかぎりでの解決であることが明らかであるから,この解決を実際に照して反省する場合にも,反省すべき点がこれらの基準のたて方,条件のつけ方にあることがはっきりする。たとえば,こづかいを家計と教育費などの割合からきめたとして,その額がなお現実の家計に大きな負担を与えるということがわかれば,家計と教育費との割合は,どの家庭でも一様であるとするわけにはいかないのではないかという点に反省が向けられ,ここからまた新しい問題が生れる。予算を配分して,それに基いて実行したとき,ある費目はばかに苦しくなり,ある費目は余ってくることがわかれば,配分のときに考えた仮定としての自分の個性を反省しなくてはならない。
これに反して,Bのような問題にあっては,その結果の反省は,問題の条件に対してなされるだけであって,実際への適用については,明確に判断する資料が与えられていない。しかも,結果は一意にきまってきて,それ以上に発展するものをその中に含んでいないのが普通である。
単元による指導はどんなことをねらっているのか。 |
上のように比べてみると,問題の解決を中心として指導するにしても,単元による指導と,書かれた問題による指導では,その過程が大きく違ってくる。これは,そのねらい自身に違いがあるのであって,書かれた問題について指導することが無意味であることを意味するのではない。
Bのような問題は,百分率の用い方についての理解を深めていく練習のためや,百分率の意味を知っていく資料としては意味があるのであるが,そのねらいとするところは,百分率の理解やこれを用いる技能を伸ばすという狭い場面に限られているのである。
これに対して,Aのような問題を中心とする指導は,次のようないくつかのねらいをもっている。しかもこのねらいの一つ一つは,ある場合には,同じ単元で同等な重みをもっている場合もあるし,ある場合には,その一つ,ないし二つに重きをおかれているという場合もある。しかし,人によって,どれを重くみるかに違いはあるにしても,いずれもBのような問題の指導では,達成できにくいものである。次に,そのねらいの一つ一つについて考えてみよう。
なぜそのことが問題となるのか,その理由となることが,こどもたちの生活の中にあって,その問題を解くために,この理由となることをもとにして数学を用いて解決できるように分析していくことや,一応の解決のできた後に,さらにこれを反省して,また解決されてないことと解決できたこととを明らかにしていくことなどは,数学を用いて,生活を改善していく人間の姿そのままである。単元による学習指導は,この人間の姿をそのまま教室でとりあげ,その人間としてのはたらきを指導しようとしているのである。さきに例にあげたような日常生活に密接した問題についてもそうであるが,日常生活からさらに深くつきこんだ精神生活における問題として,たとえば「式による表現は,どんなにわれわれの生活を高めていくか。」のような問題も,これを生徒がとり上げる段階になったならば,ここでいうねらいにかなったものとなる。要は,われわれの生活を高めていくためのはたらきとして数学を用いていくことが,このねらいである。
2.自主的に学習していくこどもの育成をねらっている。
第Ⅱ章においても述べたように,自主的に学習していくためには,生徒が目標をはっきりはあくしていくことがたいせつである。目標をはっきりはあくするためには,なぜそのことが問題になるのか,どうしたら解決できそうかという点を,生徒がはっきり考えることによって得られる。さきにあげた1,2で説明した特徴は,こうしたねらいに合致しているものといってよい。すなわち,生徒がなぜそのことを問題にするか,その理由を考えて,問題を分析していき,数量的な見とおしによって,解決可能な問題に帰着させていくことは,生徒に目標をはっきりつかませ,自主的に学習ができるように指導していくことになる。また,その時のなぜという理由が,生徒の必要に基いているゆえに,この面からも,自主的に学習していくことが可能になる。
3.個人差に応じて問願を解決しながら,しかも,みんなが協力して仕事をしていく人間の育成をねらっている。
クラスとして取りあげる問題は同一でありながら,3で説明したように,問題の分析,限定のしかたによって,いろいろな程度の違った問題が起きてくる。しかも,この違いは,生徒のもつ数学的な見とおしに基いた限定のしかたによることが多い。したがって,こうした問題を取りあげていけば,各人の能力の違いに応じて,それにふさわしい問題を取りあげ,その解決をクラスとして統合することによって,みんなが協力して仕事をしていくことになる。また,なぜという理由として考えることが生徒の必要によるものであるから,そこに個性に基く差異が起って,こうした面から個性の個人差に応じた問題限定も可能になる。また,この問題の解決は,違った角度からの解決であるから,やはり統合して考えることによって,クラスの仕事として統一していくことのできるものとなる。
4.今までに得た能力を用いて問題を構成することや,既習の技能の用い方を適宜に指導していくことをねらっている。
そのことが問題となる理由を考えて,これが数量的に解決できるような形の問題にまとめていくには,どうしたら解決できそうかの見とおしをいつももっていなけれはならない。これは,あとの分析や限定においても同様である。このような見とおしは,百分率とか比とかいう数学的な概念を用いる高い意味での能力によるものである。数学を実際に用いる場合には,いつもこのような問題解決の過程のように,こんとんとした状況を整理し,あることは仮定し,あることは資料によって数値を定め,必要な計算が適用できるようにくふうしなければならない。こうしたくふうをする能力は,書かれた問題などによっては,不可能とは言い得ないとしても,なかなか指導することが困難なことである。単元による指導は,この過程を教室でとりあげることによって,この能力を積極的に指導しようとするものである。
また,こうした見とおしによって構成された問題には,前の3に述べたように,同じ程度の困難度をもった多くの小問題(これは書かれた問題と同じものである)が含まれている。したがって,その困難を克服することの指導が,既習の技能を適宜に指導していくことになっているといってよい。
ま と め |
② (1)の①②の特徴から,自主的に学習を進めていくこどもの育成をねらっている。
③ (1)の①③の特徴から,個人差に応じた問題を解決しながら,しかもみんな協力して仕事をしていく人間の育成をねらっている。
④ (1)の①②③の特徴から,既習の能力を用いて問題を構成することや,既習の技能を適宜に指導していくことをねらっている。
§2 単元を構成するときの留意点
単元による学習指導のねらいを前節において明らかにした。このねらいに合うように指導していくためには,ばく然と生活に関係したことを取り上げて,なんらの目あてなしに指導したのでは単元の学習にはならない。何よりもまず,単元の学習は問題の解決でなければならないことは前節で述べたとおりである。ところがこの問題も,ただでたらめに生活の問題をもってきて,生徒たちにかってに解決させればよいというわけにはいかない。このねらいに合うように問題を取りあげ,計画をたて,重点をはっきりつかんで,このねらいに合うように生徒の学習を指導していかなくてはならない。この節では,主として,構成の際の留意点を,次の節では,指導の際の留意点を述べることにする。これは,実際にどのような方法で構成し指導するか,という方法のもとになる原則である。その実際の方法・手順については,4節以降で述べることにする。
すなわち,この節の問題は,次のことである。
単位による学習指導のねらいに合うようにするには,単元を構成するときに,どんなことに留意したらよいか。
単元を構成するときに,原則的に留意すべき点としては,とりあげる問題の内容や性格の面と,そこに含まれる数学的な内容——主として技能——の面とである。これを前節にあげた四つのねらいについて考えよう。
数学を用いて生活を改善し続けてやまない人間の育成をねらうためには,どんなことに留意して単元を構成したらよいか。 |
社会から見て有意義なものであるということは,その問題が教育の目標(教育基本法)としているような,人間としての生活から起ってくるものであるかどうかできめられるし,こどもに有意義であるかどうかは,こどもたちがそのような問題の場面になじみがあるかどうか,こどもたちの生活を指導するのに有意義であるかどうかできめられる。たとえば,「規律ある生活によって,楽しくしかも価値ある生活をしていくには,与えられた時間やお金をどのように使ったらよいか。」という問題は,自主的な態度を目ざす人間の生活に起る問題であり,ようやく自我に目ざめはじめた中学一年ごろの生徒の必要に答えるものである。(こどもの必要に答えるということについては,第Ⅱ章を参照されたい。)
(b) 問題を限定して,問題の焦点を明らかにすることのできるものであるとともに,今後の研究がさし示されるものであること。
前掲の例でいうと,「楽しく価値ある生活をするにはどうしたらよいか。」というのでは,問題の焦点が明らかでない。これに対して,楽しく価値あるものになし得ない最大の原因が,時間とお金の使い方にあることがはっきりしているときは,これを前掲のように限定して,焦点を明らかにすることができる。このような焦点の明らかにできないものは,問題の分析ができないから,学習活動が起らないのである。
しかも,このような問題は,一回かぎりの学習によって万事完了となるものでなく,一応解決できても,そこに新しい問題が生れてくる。たとえば,お金をうまく使う問題も,中学一年でおこづかいの予算をたてて生活をするというように解決されても,これは一時的な解決で,さらに消費面として買物をじょうずにすることも,貯金をしたり,あるいは,投資によって生産に協力しつつ利殖の道を講じたりすることも,お金をうまく使って生活を向上させていく方法である。また,予算にしても,家庭の予算や学校の生徒会・市町村・国の予算等も,将来研究すベき残された問題として,今後の研究方向が明らかになるわけである。
(c) 数学が問題解決の焦点に対する判断のかぎを握っているものであること。
前掲の例でいうと,「こづかいをうまく使っていくにはどうしたらよいか。」
という問題で,予算生活を取り上げれば,これはその総額の配分をどうしたらよいかいう二つの小問題に分けられる。すなわち,こづかいをうまく使っていくという問題の解決に,総額と配分という数学的処理を要するものが重大な解決のかぎとなっている。総額や配分を解決していくためには,資料としてのこれまでの記録を整理したり,平均値とか,比とかの慨念を用いて判断したりすることが必要となる。また,たとえば,将来の不安に対する対策をたてるときは,不安の起る確からしさの計量とか,損害の公平な分担のしかたとかが,解決のための要点であり,その判断のかぎを握るものは数学である。判断のかぎを数学が握っていないものを指導しても,数学科の学習指導にはならないのである。
注 (b),(c)二点はよく考えて単元を選ぶ必要がある。(b)の焦点が明らかにならないものや,多肢にわたるものをとると,学習が散漫になり,時間の余裕がなくなる。また,(c)が考えてないと,他教科で取りあげるべきものと区別が明らかにならず,数学科の目標を見失った指導になる。
2.取りあげる問題の契機について。
数学が有効にきいてくるような問題をとりあげることは,前の(c)でのべたことであるが,これは,問題の取りあげ方と問題の契機に多分に関係する。どのような角度から問題にするか,その契機となることは,数学が有効にきく,きき方の上から,次のように考えられる。
(b) 自分の思考や行動を,いっそう能率的にするために
(c) 自分の思考や行動を,いっそう的確にするために
(d) 自分の思考や行動を,いっそう気楽にできるようにするために
3.取りあげる数学的内容について
その数学的内容−技能−が生活を改善していくのに重要な役割を果していくことがわかるようなものであること。
すなわち,これは,1.であげたことの(a)と(c)とが一体になっていてはじめて可能なことであるが,それだけではじゅうぶんでない。その数学の適用が,一回ならず,くり返し有意義な場面に利用されて,こどもがその役割を一般化できる程度に変化のあることが必要である。こづかいの例でいえば,百分率なり比の概念なりが,基準の異なる二量の関係の比較のためや,またある量を配分することのためにくり返して用いられる。したがって,こうしたことから百分率や比についての望ましい一般化が期待できるのである。こうした一般化をもとにして,はじめて,生活の改善に数学を用いていく能力と態度とが発達するといえる。
自主的に学習していくこどもの育成をねらっていくためには,単元を構成するときに,どんなことに留意しらよいか。 |
こどもの必要については,第Ⅱ章を参照されたい。ここに附言しておきたいことは,これらを伸し続けるということについてである。必要や興味は,ただ単に問題の導入において,その動機づけのために利用されるというような,一時的な好奇心のようなものではない。問題を分析し限定していく,その一回一回において考慮されるべきものであり,問題の解決をとおして,さらに深い興味,新しい興味を喚起し,必要についての自覚を深めていくことが必要なのである。
(b) こどもに,解決できたときの喜びがある程度予期できるものであること。
問題として取りあげていることが有意義なものであり,それを問題にしなければならないようなトラブルが生徒の経験の中にあること,その問題の特定な状況の下における解決が身近にあって,それが望ましいとみられていることなどがはっきりしていれば,解決できたときの喜びが生徒にある程度期待できる。
たとえば,さきにあげたこづかいの例についていえば,そのような自主的な生活をすることが有意義なものであることは生徒がわかるであろう。しかもこのことが問題となる理由として,こづかいの額が少ないとか,買いたいものが買えないとかのトラブルは,身近に起きて経験しているとしてよい。しかも,なかには,少ないこづかいをうまく使うことに成功している友人や事例などを見聞して,これをうらやましい,望ましいと思っていることもあるであろう。このように,解決の可能性が現実的に存在する例を知ることは,解決の喜びへの期待を明るくし,解決の途上の困難にうち勝っていく勇気を与え,自主的に学習していくようになる。
(c) こどもが解決しうる希望をもてるものであること。
こづかいの問題を分析していけば,その途上で,ある種の資料を集めて,傾向を見いだしたり,ある高の金額をある比率によって配分したりすることが予想される。こうした困難に対して,たとえば,その資料の入手が容易にできるとか,配分するということが,条件や数値が簡単な場合には,解決できるとかというさきの見とおしがついていることも,途上の困難にうち勝って,自主的に学習していくための原動力である。(b)は解決の結果に対する楽しみであるが,この(c)は解決していく過程への見とおしといってよいであろう。たとえば,全国の家計についての資料は,教科書にあるとか,みんながこづかい帳をつけているから,クラスのものについてのこづかいの資料は計算さえすればすぐに集まるとかという見とおしや,だいたいこういう方針でやっていけば解決できそうだという見とおしが,この例である。こどもたちが「やれそうだ」と思うことは,自主的学習の原動力である。
(d) こどもの当面しているトラブルや困難をとりあげたものであること。また,必要に応じて,そのトラブルや困難をこどもに印象づけて,問題の解決に向けていくことのできるものであること。
こどもの当面しているトラブルや困難を取りあげることの意味は,(a)で説明したところである。こうしたトラブルや困難をこどもが自覚している場合もあるし,自覚していない場合もある。たとえば,前出の例のこづかいのような場合には,多くのこどもはそのようなトラブルを自覚しているであろう。また,自覚していないこどもにも,その二,三の例を話し合えば容易に自覚させることができるものである。また,社会や自然の中でわれわれの生活がいろいろな不安にさらされていて,これに対してなんらかの対策をもつことが必要であることを問題にしていくときには,このような場合のトラブルを,あまりこどもたちは自覚していないかもしれない。しかし,ある年齢,たとえば,中学三年や高等学校の年齢になって,将来に対する必要や見方が高まってきたころになって,新聞などに現れてくる風水害・火災・交通事故などの実例を取りあげ印象づければ,こうしたトラブルは,自分たちの問題であることが容易に自覚されるであうう。こうした自覚は,問題の解決に生徒たちを向けていくときの原動力となるものである。したがって,取りあげるトラブルや困難が,こどもたちの発達や理解の程度から考えてみて,こどもたちに印象づけ,自覚を呼び起すことのできるものかどうかをよく考えておかなけれはならない。
こどもが自主的に学習していくための数学的な内容の面からの条件は,そのむずかしさが,こどもたちの発達の段階にちょうど合ったもの,すなわちこどもたちが,「やれそうだ」と思うような程度のものであることである。こどもたちはあまりむずかしすぎると手をつけないし,やさしすぎるとばかばかしくてやる気がしないものである。程よい困難さがあると,一歩々々困難を克服することができ,解決できたときは非常にうれしいものであるから,喜んで進んで学習していくようになるものである。また,新しい数学的な概念が構成されるのは,具体的な問題を解決していくとき用いた方法をまとめて一般化していくのであるが,この一般化(抽象化)が飛躍なしに,やさしくできるようになっていることも,数学的内容に親しみをおぼえさせ,こどもたちに喜んでやろうとする気を起させるものである。そしてさらに,この新しく学習することが既習のものの一歩上に築かれたものであり,その発展がこどもたちによくわかり,また類似の既習のものとの異同がはっきりわかることも,これらの理解を助け,こどもたちが近親感をおぼえて,自主的に学習していくようになるものである。
これらをまとめると次のようになる。
(b) 新しい原理・法則・規約・用語・記号などが一般化しやすいように,言い換えると,抽象化しやすいようになっていること。
(c) 新しい原理・法則・規約・用語・記号などが,既習のものとどんな関係があるかが明らかになるようになっていること。
(d) 新しい原理・法則・規約・用語・記号などとまぎらわしいものがあるとき,これを比べやすいようになっていること。
個人差に応じ,問題を解決しながら,しかもみんなで協力して仕事をしていく人間の育成をねらっていくには,どんなことに留意したらよいか。 |
たとえば,前出のこづかいの例でいうと,こどもの中には,毎月一定額をまとめてもらっている者もあるだろうし,必要のつどもらっている者もあるだろう。また,その使い方としても趣味や個性によって,何に重点をおくかは違っているだろう。したがって,このこづかいの問題は,これらの生活面における個人差に応じて,問題を取りあげることのできるものである。
(b) ひとつのテーマのもとに,能力に応じて問題を取りあげることのできるものであること。
また,こづかいの配分のしかたをテーマとする際にも,こどもが百合率や比について,どれだけのことを理解しているかによって,問題の中の数値をやさしくしたり,限定のしかたをかえたりして,能力に応じて問題を取りあげることができる。
(c) どんな取りあげ方をしても,そのテーマに対して,すべてのこどもが貢献することが明らかなものであること。
前の例でもそうであるが,いろいろな問題限定のしかたによって,こどもの個人差に応じた変化ある問題が解決されていて,はじめて,それから一般的な解決が帰納される。
したがって,この一般的な解決に対して,各個人の研究が役だっていることが明らかになる。また,町の人の商売のことを問題にして,いろいろな商売の人たちが,どのようにしてもうけを見積っているかを分担して研究したとすれば,各人の研究が全体の解決のために資料となって,貢献していくことが予想される。
もうけの見積りを考えるときにも,能力の低い生徒には,一回だけ売買するときにはどうか,多数回その品物の売買をくり返したときにはどうかというように,直接比の考えを用いず,その背景となる考え方による解決をさせ,能力の普通の生徒には,10,000円のもとでに対して,どれくらいもうかるか,どんな割合になるかなどを考えさせ,能力の高い生徒には,さらに,もとでの回転も考えに入れて考えさせるなどする。このように解決を一様にしないで,いろいろな手法で解決できるようになっていることが必要である。こうすることによって,各人がその能力に応じて苦心しながら,全体の解決に貫献することができる。
(b) 取りあげるものに,なんらかの意味で同じ面があるようになっていること。
前出のもうけの例でいうと,上のような違った問題からも,もうけは,もとでと売り値の差になること,くり返し売買するときのもうけの大小は,差によるよりも,比によるほうが正しく比較できることなどが共通になる。そして比としてどんなものを考えるか,どのように扱うかという点で個人差がうまれる。このようになってはじめて,各個人を個人差に応じて指導しながら,しかも全体としてひとつになって仕事をしていくことをも,指導できるのである。(このためには,教師の側において,第Ⅲ章にあげたような,概念の理解の発達の段階を詳しく分析しておくことが必要である。)
既習の技能を適宜に指導していくことをねらうには,どんなことに留意したたよいか。 |
能力を用いて問題を構成していく面についての注意は,いちばん初めおよび三番目のねらいについて述べたものと同じであるから省路する。
前にも述べたように,過去の経験や既習の技能をもとにして,こうやればできそうだという見とおしをもって問題を構成していくのが普通である。これは,一面からいえば,既習の技能についての復習の機会でもある。そして,この復習の機会に,教師と生徒とが協力して,各人の能力を評価していけば,これによって,教師はさきの指導の重点を,生徒は学習の重点をつかむことができる。このようになるためには,問題構成のときに必要になる技能が,その後の学習で指導しようとする技能と対応しているものでなければならない。
(b) 特に,こどもの困難を感ずるものに対しては,問題の解決に際して,指導の機会のあるものであること。
すなわち,(a)で説明したように,構成に際しての研究をとおして,こどもがどんなところに困難を感ずるかが教師にわかったならば,後の指導において,この困難点に重点をおかなくてはならない。問題の分析がまずいと,この困難点を指導するのにふさわしい問題が起ってくるのを,見のがしてしまうことがある。こうした指導の機会があるように問題を分析して,単元を構成しなければならない。
§3.単元による学習指導上の留意点
前節では,学習指導にはいるまえの教師の計画としての単元構成上の留意点を述べた。この節では,この計画のもとに,実際に教室で生徒を指導するときの留意点を述べる。すなわち,この節で取りあげるのは,次の問題である。
単元による学習指導のねらいに合うようにするには,学習指導に際して,どんなことに留意したらよいか。
これについては,これまでに述べたことや,第Ⅰ章,第Ⅱ章で述べたことを教室の場面に置き換えて考えればよい。したがって,そのひとつひとつをくわしくのべることはやめて,一括して,箇条書の形にあげておこう。
A.数学を用いて生活を改善し続けてやまない人間の育成をねらうためには,どんなことに留意して学習指導をしたらよいか。
(b) 数学を用いると,思考や行為がいっそう能率的になることを,生徒が確認できるようにすることに指導の重点をおく。
(c) 数学を用いると,思考や行為がいっそう気楽にできるようになることを,生徒が確認できるようにすることに指導の重点をおく。
(d) 数学を用いると,思考や行為がいっそう的確になることを,生徒が確認できるようにすることに指導の重点をおく。
(b) 問題が解決されると,生活面からみても,数学面からみても,まだ解決しなければならない問題が残されていることを生徒にわからせる。
(c) どれだけのことがわかって,まだどれだけのことがわからないかを生徒に確認させる。
(b) 定められた技能を,はやく行うことができるようにすることに指導の重点をおく。
2.生徒の当面しているトラブルや困難がどんなところに原因があり,また,これらは何によって克服できるかを明らかにするとともに,必要に応じて,学習の場を単純化したものに置き換えて,その場の構造を明らかにし,問題を構成しやすいようにしてやる。
3.今までに学習したものに比べて,どんなところを,どんなに改善したらよいかがわかるようにする。こうして,生徒に目標がはっきりつかまれるようにする。
4.問題の解決ができたら,どんなに望ましい生活ができるようになるかを明らかにする。
5.生徒の能力に応じた努力に対して,ほめてやるしかも,成功したかどうかが生徒に確認できるようにする。
6.失敗しても,これをけなすようなことをせず,これを生かして,次の学習に役だてるようにする。
7.生徒のたてた計画などを,できるだけ尊重してやる。
8.生徒に自分のわかったことを発表する機会を,豊富に準備してやる。
9.展示物や見学などを利用して,生徒が進んで学習していくように環境を整える。
2.グループ研究を進めて,これをうまくまとめて主要問題の解決に導くようにする。
2.各生徒について,どんなところが弱くて,どんなところが強いか見定めて,指導のねらいを各生徒に応ずるようにする。
3.各生徒について,どんなところに伸びる可能性をもっているかを見いだすように努める。
4.生徒の誤りを早期に発見して,指導の時期を失わないようにする。
§4.単元による指導計画のたて方Ⅰ:−年次計画−
本節以後においては,単元による学習指導をしていくため,具体的に,どのように準備をしたらよいかということを,学年の初めの年次計画,各単元にはいるときの単元構成,毎時間の指導計画の三つについて述べてみよう。
もとより,これらの計画のたて方は,教師各自の考え方の得意・不得意,熟練の程度などによって,いろいろ変ってよいものである。一定の型があって,これにむりに合わせなければならないといったものではない。以下に述べることも,各人がその個性を生かした方法をくふうするためのひとつの示唆である。
この節以後の説明では,学年初めの計画から,毎時の計画にいたるまで,しだいに粗なものから密なものへと,時間的な間隔をおいて考えていく方法をとった。これは,一時に精密な計画をすっかりたてておくようにしたり,または,大ざっぱな計画のままで指導にのぞんだりするのに比べて,より実際的であると考えたからである。また,この説明では,主として教科書などを参考として指導計画をたてていくような方法をとった。これは,現在多くの教科書がなんらかの指導計画を予想して書かれてあること,多くの教師は,教科書を参考としながら,これを生徒や地域の実際に合うように修正して指導しようとしていること,などの実状に合わせるためである。もとより,指導計画は,学習指導要領,生徒および地域の実状に基づいてたてられ,教科書は,この指尊計画に便利なものを選ぶことが理想である。ここに述べたのは,この理想に近づいていくためのひとつの方法であるといってよい。
以上のような考え方のもとに,本節では,まず年次計画について考えてみよう。
年次計画はなぜ必要か。 |
学年の初めに当って,1年間のだいたいの見とおしをつけるため,その学年度に指導すべき単元名,単元で取りあげる生活や数学的内容を考え,取扱の時期や時間数などの目安をたてておくのが普通である。この全体計画を年次計画ということにする。この計画をたてずに,指導を進めると,次のような欠点を生じ,指導が計画性と一貫性を欠いたものになる。
2.もっとよい取扱の時期をみのがしたり,準備が不完全になったりする。たとえば,前掲の一年でおこづかいの予算をたてることを6,7月ごろ扱うとする。年次年画がよく考えられていなければ,いよいよ学習にはいって,これまでのこづかいについての資料が必要になったとき,生徒は全部が全部こづかい帳をつけているとは限らないから,不完全な資料しか集まらないということが起るかもしれない。もし4月に年次計画がたててあって,6月ごろこのような資料が必要になることが前もってわかっていれば,4月の1時間の授業をさいて,出納簿のつけ方や意味を指導しておき,必要なときまでに,資料を整えることができるようにすることができるだろう。また,単元によっては,地域社会の事情や他教科との関係から,教科書にあるよりも,ちがった時期に扱ったほうがよいものもあるだろう。これも,年次計画をたて,連絡をはかれば解決されることである。また,測量器具の整備や種々の器具の調達も,その時になって急にはまに合わないものもある。これらの用意も,年次計画をたてることによって,ぐあいよくすることができる。
3.各単元を何時間で取扱ったらよいかわからない。どの教科でも同じであるが,12学期のうちは比較的ゆっくり取り扱って,3学期になって時間が不足し,大事なことを残してしまうことはありがちである。年次計画をたてることのねらいは,このことを防ぐことにもある。
年次計画は,どのようにしてたてたらよいか。 |
年次計画は,上述のように,取りあげる生活経験と数学的内容の前後の連絡と程度の概観をつけ,取扱の時期と時間数の目安をおき,必要な準備をその時期までに整えることによって,指導の一貫性と計画性とを確保することをねらっている。その根拠となるものは,学習指導要領,生徒の実態,地域社会の事情,利用しうる教科書等である。このうち教科書は,最も具体的なものであるから,これを手がかりとして考えていく方法が最も実際的であろう。そのとき,特に重要なことは,学習指導要領に基いて,生徒や地域社会の実情に合うように,教科書の計画を修正していくことである。
このときの要点をまとめてみると,次の表のようになる。
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①どんな生活の場から問題を取りあげているか。
その場は,地域社会の実態に合つているか。また,生徒の経験から見て必要や興味を感ずるものであるか。
②問題を解決するのに必要な資料は,教科書にあるものでまに合うか。
③他教科や前後の単元に類似な生活経験があるかどうか。あったら,その相違や関係はどうなっているか。 |
①生活の場が地域社会の実態に合わなかったり,生徒が必要や興味を感じそうでないときは,次のようなことを考える。
(ⅱ) 教科書以外の導入のしかたや分析限定の方法を考える。 (ⅲ) 重要でないものは省略する。 (ⅳ) 取扱の時期を変更したほうがよいときは数学的内容の発展段階に注意する。
③ (ⅰ) 他教科で,類似なものがあるときは,指導する内 容や時期を打ち合わせる。
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①各単元で指導する数学的内容は何か。そのうち,新しいものは何か。既習事項は何か。これらがじゅうぶんあるか。
②指導内容一覧表に示された内容のうち,必要と思うものが全部計画の中にはいっているか。 ③取りあげた内容が自分の生徒にとって,むずかしすぎることはないか。やさしすぎることはないか。
④数学的内容の前後のつながりはどうなっているか。 |
①単元によって,指導内容が豊富すぎたり,貧弱すぎたりして,指導上都合が悪いときには,内容の変更や省略を考える。
②計画もれがあったら補充の方法を考える。
③数学的内容の難易が生徒の発達に合わないときは,次のようなことを考える。
(ⅱ) 省略する。(必要なものは,どこで補充するかを考える。) (ⅳ) 補充する。(どこで,どんな材料でするかを考える。) (ⅲ) 取扱の程度を変更する。 (単元の順序を変えたときは,特に必要である。) |
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①各単元には,どれくらいの指導時間が必要か。いつごろ扱ったらよいか。 | ① (ⅰ) 学校の時間配当の方針から,毎週の時間数の少な い学校では,単元の省略統合を考える。
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年次計画の例 |
次に,年次計画の例を示しておく。形式は,このようなものに限るわけではない。作りやすく,見やすく,使いやすい形式をくふうすることが必要である。そのためには,このような一覧表にして,見やすいところにはっておいて利用するようにしたほうがよい。
この例は,週3時間だけ数学のある学校でたてた案である。この学校で用いている教科書では,その学年に8単元扱うことになっているが,時間数を考慮して,数学的内容から見て省略してさしつかえないような単元三つを省いた。その単元で扱う数学は,他の単元を扱うときに参照することにしてある。
なお,この案を作るときは,はじめ,教科書の単元と章・節(生活経験を示す)と数学的内容を一覧表の形に書き抜き,取扱の時間数や数学的内容・生活経験を考えて,単元を省略統合したもので,次に示す表は修正の終った結果を示したものである。この表ができ上るために,もうひとつの修正用の表があることに注意されたい。教科書の指導書等に年次計画の一覧表がついているときには,その表を,このように修正して用いることもできる。
年 次 計 画 (中学二年)(例)
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一、地図の作り方 | 1.広い地域の地図
経度緯度の測り方 経緯網の書き方
平板測量法 |
⑩
⑧ |
○球(直径・大円) ○緯度と北極星の高度 経度と時刻 ○心射図,メルカトール図 ○平板測量法 三角形の決定条件 |
○円,円周率(大) ○比 ○縮図,縮尺 |
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○Ⅰ単元(わたくしたちの地球)
比例,反比例はⅣ単元へ ○測量器具整備,補充(8班分)
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二、わたくしたちの測量 | 1.測量と誤差
測定値の取扱 2.面積と体積
面積 体積 |
⑨
①
⑩ ⑪
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○誤差
有効数字 測量値計算(加減乗除) ○面積と体積
円柱,角すい,円すい
公式 |
○百分率
○概算(乗除) ○面積,体積の計算
曲線形の面積(方眼) 立方体 |
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○Ⅲ単元(わたくしたちの計量)
Ⅰ単元の狭い地域の地図との連絡考慮
○三角形等の求積法について既習の程度を調べる ○文字の使用については次の単元との関係考慮 |
三、お金のはたらき | 1.お金の価値
2.お金のはたらき
利息の計算
3.生産と家計
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④
③
②
⑨ |
○複利法 ○文字の使用
同類項,係数 括弧の 法,指数法則
配当(率),利まわり
価格,物価,単純,綜合, 生産,賃銀,生計費
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○単利法 ○文字使用の約束・公式
○歩合
○百分率
○折れ線グラフ |
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○Ⅲ単元(お金のはたらき)
○取引所見学の計画
○指数は省略したⅡ単元(天然資源)参照
○家計費調査の計画
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1.数・量と生活
割合の表示 差の表示
関係の表示 |
⑫ ④ ②
⑥
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○十進法
○正の符号,負の符号 ○方程式
等式の基本性質 ○比例,反比例
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○比
○公式,等式
○不等号 |
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○Ⅴ単元(日常生活における数と式)
○歩合,百分率の取扱いは
Ⅳわたくしたちのからだを参照 ○比例,反比例は
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五、数量と図形 | 1.図形と生活
合同,相似の条件 相似形の大きさ 3.数と式
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⑦
⑫ ⑤ |
○合同,相似 ○相似の位置,比,中心 ○相似比と面(体)積の比 ○ピクトグラム ○正の数,負の数
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○三角形の決定条件 ○棒グラフ,折れ線グラフ,面積グラフ ○式の計算
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○Ⅷ単元(数量と図形)
○図工科
(簡単に復習) |
§5.単元による指導計画のたて方Ⅱ:−単元構成−
単元構成とは何か。それはいつ,だれが構成するか。 |
学習および学習指導は,いつの場合でも計画的であって,生徒も教師も,いつも現在行っていることが全体とどう関連しているかを,明らかにわきまえていなければならない。特に,単元による学習のように,毎時間の学習がひとつの問題の解決として有機的に組織されていくことを重要なねらいとするものにあっては,周到な準備と全体的な見とおしとが欠くべからさるものとなる。このひとつの単元に対する学習指導の計画をたてることを単元構成という。
2.単元構成はいつだれがするか。
単元による学習の計画は,通常,次の三つの段階を経て修正実施される。
(b) (a)を基にして,教室において教師と生徒と共同して計画をたてる。
(c) (b)を基にした学習展開の途中で,教師および生徒の評価によって,(b)を修正しつつ実施する。
単元を構成するときには,どれだけの事を考えておかなくてはならないか,これらをどのように整理しておけば,指導に便利であるか。 |
単元の学習において,重要なことは,問題としてとりあげた生活と数学とのかみ合いと調和,分析された諸問題の有機的なつながりと価値,すなわち目標との関係,問題分析の観点等である。これらに対して,その重点とするところをおさえ,実際の指導に必要な準備を手落ちがないようにするには,次のような六つの点をよく考えておかなくてはならない。
(b) どのような生活経験を指導するか。それは,どのような価値をもっているか。
(c) 問題をどのように取りあげ,どのように分析していけば,生徒の学習活動が円滑に喚起されていくか。
(d) どんな目標を考えたらよいか。
(e) 生徒の学習活動として,どんなものが予想されるか。それと,上の目標とはどのように関係してくるか。この目標をよりよく達成するためには,どんな指導法が必要か。
(f) 生徒の学習活動や成果をどのように評価するか。
以上の六つの項目について,考えたことをそのまま記録していっても,あまり見やすいものにはならない。考えたことを簡潔に見やすい形に整理して,一目でひろい部分が見わたされるような形にしたほうが便利である。また,指導計画として,他人にこれを見せて,指導の連絡をはかったり,批判を受けたりするにも,思考過程をそのまま書いたながながしいものよりも,表のような形にまとめたもののほうがわかりよい。どのような形にするかは,人によってもちろん異なるものであるが,次のようなまとめ方もその一例である。
Ⅱ.「学習の展開計画」という見出しによって,(c)(d)(e)の結果をまとめる。
Ⅲ.「評価の計画」という見出しによって,(f)をまとめる。
1.この単元を選んだ理由 |
年次計画の予定に基いて,教科書を研究しながら,次のことを考える。
(ロ) 既習のどんな技能を指導できるか。
(ハ) これまでの指導によって,年次計画予定とは違っているものに,特に注意する。
(ロ) 前には,どんなことを学習したか,後には,どんなことを学習するのか,その指導内容と関連した事項をめいりょうにする。
たとえば,二年で平板測量を指導しようとするとき,指導内容一覧表や教科書,あるいは指導記録等を見て,中学一年あるいは小学校では,どんな測量や測定を学習しているか,また,年次計画表を見て,合同や相似のことは,いつごろまとめる予定になっているか,この単元のあとで,それまでに,また,どんな機会があるかを調べる。
新しく受持ったために,生徒の力がわからないとき,あるいは,関連事項をまえに指導してから,かなり日時がたって,その後生徒が学習したことをどの程度持続させているかが不明なとき,次のような事項について調査する。継続して受持っている生徒であって,別に調べなくてもわかっているときは,必要はない。むしろ絶えざる指導と評価によって,そうなっていることのほうが望ましい。
① 調査する内容
新指導内容について:—既習事項のうち,新指導内容の基礎となることが,どの程度わかっているか。(第Ⅳ章参照)
復習事項について:—既習事項がどの程度理解され,記憶されているか,理解していないのか,忘れているのか,まだよく身についていない程度なのか,ちょっとヒントを与えればすぐできる程度なのかが,わかるようにくふうする。
② 調査は必ずしも筆記テストによる必要はない。時間の関係や内容によっては,一部の生徒との問答によって調べることもできる。
(ロ) 困難度に対する考慮
取りあげる数学が,生徒が努力しさえすれば克服できる程度のものであるか,一面生徒が成功感を味うことのできるだけの困難さをもっているかの二つの点を(イ)の実態と,第Ⅳ章で示したような発展の段階とから考える。そして,この点から無理があれば,(a)の計画を変更する。
数学的内容を社会的に見た価値は,生活改善すなわち問題解決に対してもっている数学のよさ(正確さ,的確さ,気楽さ,能率のよさ)であり,数学的に見た価値とは,数学の系統から考えたときの発展段階としての意味である。
たとえば,文字を用いて式を書くことは,数量関係を正確に,簡潔に表わすための道具であり,これはまた,数学において抽象的に関係を扱うことの基礎をなし,いわゆる算術的な扱いから代数的な扱いへいく段階をなし,今後公式等の関係表示や一次方程式などに発展していくものである。
こうした価値を明らかにすることは,この単元を指導するときの教師の根本的な態度を確立するために必要なことであり,後の問題の分析に当っても,目標の確立に当ってもその基礎となるものである。
年次計画でとりあげようと予定した生活経験を再検討して,次の点を考える。
(b) この前後の連絡,他教科との関係,将来の発展はどうなっているか。
この二つによって年次計画のとき考えたことを再検討し,生活に数学を用るときの考え方が,しだいに広く,深くなっていくように考慮するとの観点から後に問題を分析するときの観点を明らにし,無用の重複をさけることができる。他教科とは,学年初めの打合わせに基いて,特にこの点の連絡をはかる。
(c) とりあげる生活経験は,その地域の生徒の発達に合致し,その必要に基いたものであるか。
ここでは,特に,第2節で述べたことを考慮する必要がある。すなわち,
(ロ) 地域社会の特殊性や生徒の生活経験をどう生かしていけるか。
教科書に米の収穫高の変化が取り扱ってあっても,漁村では数学的内容を同じにしたままで,自村の漁獲高の変化を見ることに変えることもできるであろう。また,工業地帯の生徒には,副尺を問題にして,くわしい測定を研究することができるし,農村の生徒には,測量などを,問題にして,くわしい測定を研究するようにすることもできる。地域社会の特殊性と,そのうらにある一般性とをよく考えて,特殊な親しみのあるもので,しかも一般的な必要にこたえうるように問題を与える必要がある。このとき,地域の特殊性やそれに基く生徒の生活経験は,積極的に利用したほうがよい。
(ハ) 生徒たちの当面しているトラブルや困難をとりあげられるか。
このときには,これまでの数学科の指導をふりかえって,そのような場をつかむことはもちろん,他教科の教師にもたずねて,他教科の学習におけるいろいろなトラブルで利用できるものは,利用した方がよい。
(ニ) 生徒たちは,その問題をはっきり自覚でき,また解決できたことを喜ぶような状態にあるかどうか。
これは,社会人として望ましいと考えられる生活態度や習慣が養えるかどうかを考えることである。これについては,第2節で述べたことである。そして,ここでは,1.の(d)とのかみ合わせを特に考慮してみることが必要である。たとえば,こづかいの予算をたてるということは,社会人としての自主的な態度をねらったものであり,そこに百分率を用いるということは,百分率が数量の関係を明確にする道具として生きてくるからである。このように1.の(d)で考えた価値と,この2.の(d)で考えた価値がかみ合うことによって,はじめて,この単元の価値が明らかになる。
次のような形が,便利なものの一例として考えられる。
(1) 数学的内容
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〔注〕
(ロ) 番号とあるのは,指導内容一覧表の番号である。
(ロ) 要すれば,生徒の実態,能力差に応ずる考慮
生 活 経 験 |
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予 定 の も の |
の 関 係 |
(b) 生活経験のもつ価値と指導の重点
① どんな望ましい態度,習慣が養えるか。
② 生徒の必要,興味との関係
生徒の心理の発達,地域の実情,生徒のトラブル等。
(ロ) 指導上の要点
① 数学的内容の社会的な意味と望ましい態度習慣との関係
② 問題分析の主要な観点
Ⅱ.学習の展開計画 |
一般的な注意としては,前に考えた問題分析の観点から,合目的的に,言い換えると,論理的に,しかも数学的な処置のきくように分析して,数学を適用しうるだけ条件のそろった問題群に帰着させることである。
そして,この間に,生徒たちがはっきり問題の焦点をつかむことができるよう。必要あれば,問題を限定したり,条件をつけ加えたりすることが必要である。これらについては,第1節の2で説明したことを参照されたい。
(b) 具体的なひとつの方法
教科書を参考にしながら問題を分析していく,ひとつのしかたを説明してみよう。
① 教科書では,どのように問題を分析しているかを調べる。
教科書には,この分析した問題をはっきり書いてないものもあるが,注意して読めば,これを読み取ることができる。このときには,単元でとりあげている問題,各章の問題,各節の問題,各分節の問題をめいりょうな問の形の文章に書きなおし,問題の系列の全体的構造を明らかにしてみるがよい。
② 分析された小問題を解決するのに,どのような数学を用いているかを研究する。
③ 問題を分析していくのに,どのような限定のしかたをしているかを調べる。
(ロ) 教科書の問題を生徒に合うように修正する。
① 自分の考えた問題分析の勧点から見て,教科書の分析の系列が合理的になっているかどうかを見る。
必要があれば,教科書の限定のしかたや分析の観点を修正して,分析のしかたが合目的的になるように直す。
② とりあげている数学的な解決がほんとうに有効なものがどうかを考えて,必要あれば,教科書以外の限定のしかたや条件のつけ加え方を考える。
③ 生徒の能力や個性に応じて,幅のひろい問題がとりあげられるように,限定のしかたや条件のつけ方をいろいろと変化させる方法を考える。
たとえば,項目別の予算の配分のしかたは,一様なものに限らず,いろいろな型を考えておくとか,基礎の数値を,概数にしたり,くわしい数にしたりするとか,測量で要求する精度をいろいろに変えるとかということがこの例にあたる。
(ハ) 時間数を考慮する。
年次計画でこの単元に配当した時間数を再検討し,これを各小問題に配当する。このとき,必要によっては,問題を省略したり,附加したりする。
単元をきめてから目標を考えると,ややもすると,その内容にひきずられて,全体的な数学科の目標,教育の目標とつながりを見失いがちになる。そうすると,単元による学習から得られるものが,その単元かぎりのせまい知識や技能に終始しがちである。それが望ましい人間の働きとして一般化されるためには,これらが,常に数学科の一般目標の方向に統合されていくものでなければならない。それとともに,一般目標として述べられているような抽象的なものであってはならない。そのような抽象的なものにとどまっていては,実際の指導において,何を重点とし,生徒の活動をどのような方向にまとめていったらよいかが,すぐに判断しにくいからである。
(ロ) 生徒にどんな学習活動を期待するか,言い換えると,どのような型の指導が必要になるかがわかるように目標が考えられていなくてはならない。
このことは,上に述べた具体的であることの必要性のひとつである。目標を設定することは,ひとつは,生徒の学習活動として,いろいろなものがあるとき,そのなかから適切なものを選ぶためである。したがって,どんな型のものが必要であるかがわかるようになっていることが必要である。
(ハ) 前後の単元とにらみ合わせて,生徒の発達段階がはっきりわかる程度に具体化されていなくてはならない。
ただ単に,比の概念とか,比の計算とかいうようなことばで考えておけば,同様な目標は,前の単元にも,後の単元にもでてくるであろう。
そのとき,いつも同じような扱いをするものとは考えられない。それは比の概念にしてもその計算にしても,いくつもの発達段階があり,この段階に沿って,一歩一歩生徒を高めていってこそ,望ましい達成が可能になるからである。それゆえ,その単元で重点をおく段階がはっきりと考えられていなくてはならない。
(ニ) 全体の目標が有機的なつながりをもつように考えておくこと。
単元は,ひとつの問題の解決をとおして,望ましい人間として,いろいろな知識や能力を統合的に身につけ,統一ある人格として発展していくことをねらっているといってよい。したがって,そこで得られる数学的な知識や能力が,人間的な生活としての働きとして一般化されなければならない。そうなるためには,学習をとおして得られる生徒の成果が,ばらばらなものでなく,生徒にわかるような統一のあるものでなければならない。
これは,(a)の(ロ)に対する解決のひとつである。すなわち,数学科の指導として,学習活動の型を大きくわけてみると,次のように見られる。
① 一般的な原則や概念を明らかにするために,いろいろな具体例を集めて考えたり,すでにわかっていることをもとにして演繹的に考えたり,わかったことを一般的な法則にまとめたりする活動。
② 一般的な原理や法則を実際問題に適用して,理解した内容を豊富にしたり,適用の練習をして,適用するときの正確さや速さが増すように努力する活動。
③ 数学的な内容の,生活−ひろく精神活動をも含めて−に対する価値を検討して,これらがなぜたいせつなものか,どんな場合に用いたらよいかを考えるための活動。
①のような活動の必要になるものを理解の項目に,②のような活動の必要になるものを能力の項目に,③のような活動の必要になるものを,態度の項目にわけて考え,これを,1.の分析によって得られた小問題のおのおのに配当しておけば,各問題の解決をどんな学習活動によって行わせるのがよいか,そのとき何を重点において指導すればよいか,どうまとめてやればよいかなどが明らかになる。
(ロ) 理解,能力,態度に分析していくには,次のような二つの方法が考えられる。
① 数学的な内容から出発するもの。
「この単元をとりあげた理由」のところで明らかにした数学的な内容−主として技能に関係する−を,まず考え,その取扱の程度をきめる。
これを能力の項目とする。次に,その能力のもとには,どのような理解が必要であるかを第Ⅳ章等を参考にして分析して考え,これを理解の項目にまとめる。次に,そのような能力が,とりあげた生活の上で,なぜたいせつなものか,どのように用いていくことをねらうのかを考えて,——これは,Ⅰ.2.(d)で考えることと同じである——これを態度の項目にまとめる。
② 生活経験から出発するもの。
「この単元をとりあげた理由」のところで明らかにした生活経験の価値の内容を生徒の望ましい行為として考えて,これを態度の項目に配当する。そして,このような行為が実際にできるためには,どのような能力が必要かを,Ⅰ.1.(b)を基礎にして考え,これを能力の項目にまとめる。
次に,その能力のもとになる新しい理解事項は何かを考えて,これを理解の項目で考える。
(ハ) 上の目標を,分析した各問題に割り当て,問題を取りあげて行く順序をきめたり,問題を修正したりする。
このような目標は,分析した同問題の解決をとおして達成されるはずである。それは,問題の分析と,目標の分析とは,同じことの違った観点からの分析であるからである。したがって,実際の多くの場合には,上のような対応ができるのが普通である。しかし,目標や問題の分析におちがあれば,これがうまく対応してこないこともある。このようなときは,その両方の修正を考えて,両者の対応がうまくつくところまで研究していくことが必要である。
その場になって集めたのでは間に合わない,資料や教具を必要とするものも予想される。また,練習のために与える問題なども,教科書だけでは不足する場合もあるだろう。こうした準備を,2.で見当をつけた学習活動に対して用意する。
(b) 教科書のどこを利用するかを考えておく。
(c) 目標を達成するのに有効な説明のしかた,まとめのしかたの要点を考えておく。
(d) 時間配当をしておく。
以上のようなことを考え,詳しい学習活動の計画等は,毎時の指導計画をたてるときにゆずっておいてよいだろう。
学習する問題と目標との関係,教科書と問題との関係,時間配当等は,この計画を遂行していくときに,いつも一目で見わたせるようになっていることが望ましい。そのために考えたのが,次の形式である。
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備考欄には,テストの時期,特別な問題練習,その他を書いておく。
Ⅲ.評価の計画 |
評価については,第Ⅶ章を参照されたい。ここでは,単元の構成に際して,計画しなければならない事項と手順とを簡単にまとめておこう。
生徒たちが学習の目標をどのくらい達成できたか。またどんな指導が必要かを考えて,次に何をなすべきか,指導計画をどう修正すべきかをきめていくのが,評価のはたらきである。評価すべきことは,この計画の修正に意味をもってくるような生徒の学習の成果である。
これを,ひとつの単元で考えてみると,
たとえば,新しく,比の二段階を指導するときには,比の概念や比の基準が何であるかの理解などの程度によって,後のまとめ方や指導のしかたが違う。
(ロ) その単元の間で,二・三段階の発展が計画されている場合,第二の段階に進むために,第一の段階にきているかどうか,第三の段階に進むために第二の段階にきているかどうかという意味での生徒の発達段階。
(b) 年次計画の修正のために
年次計画では,ひとつの単元で指導する目標がある程度達成されることを前提として,次の単元がたてられている。したがって,単元の目標が達成されたかどうかによって,次の計画を修正しなければならない。
ここでは,このような意味での生徒の発展を調べなくてはならない。
このなかにはいるものとしては,高い意味での能力や態度のように,長い期間をへて徐々に形成されていくものが含まれる。
(b) 1.(a)(ロ)のための評価は,その段階の学習が終ったあと,次の学習にはいる前の時期がよい。
(c) 1.(b)のための評価は,その単元の学習直後,および,そのあとひきつづき継続して行われる。
能力や態度のように,長い間かかって形成されていくものは,その後関係ある環境が起る場合をのがさずとらえて,評価していくとともに,定期的な機会などを作って,集積された総合的な能力の発達を評価することが必要である。
3.評価の用具を考える。
(b) テストを利用できるものについては,なるたけこれを用いるように計画をたてる。もちろん,観察してわかるものまで,いちいちテストをする必要はない。
(c) レポートやノートによって評価することのできるものについては,レポートやノートを調べるときの目的を明らかにしておく。
観察して得た結果等は,記録しておかないと,忘れてしまうことがある。そのことを防ぐためには,手軽に記入できるような帳簿を用意しておくとよい。その形式は,いろいろあるが,次のようなものもその一例である。
(例)
項 目 |
生 徒 名
評価の観点 |
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出納簿を項目別に整理する意味 | |||||||
円グラフの利点 | ||||||||
a:bの形での比の意味 | ||||||||
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帰一法による比の二段階 | |||||||
分数の乗除 | ||||||||
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予算等による生活の規正 | |||||||
5.1.から3.までに計画したことを,前につくった学習の展開計画の中に記入する。
このときは,目標の欄に簡単な記号で,さきの1.の(a)(イ)(ロ)や(b)のねいらの区別を記入し,テストによるか観察によるか等の方法も注記しておけば,その時までに準備を整えるのに便利である。
〔 単 元 構 成 の 例 〕その一
単元名 わたくしたちの予算生活(中学一年)
取扱時期 6月中旬—7月上旬(約14時間)
この生徒たちは,当町の二つの小学校の卒業生で,受け持って二カ月しかたっていないので,本単元に予想される復習事項や基礎事項がどの程度わかっているかを知るために,予備テストを行ってみた。その中の代表的なものとその誤答率を示してみる。
① 2/5=□(小数)=□%(40%)
② 4gの20gに対する割合はいくらか。(80%)
45円は150円の何パーセントか。(70%)
③
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12
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13
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7
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6
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12
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左の表は,ある学級の生徒の趣味と人数を調べたものである。この学級の生徒の趣味が,どんな割合になっているかがわかるようなグラフをかきたい。どんなグラフをかけばよいか,その名前をいえ。(70%)
そのグラフをかけ。(85%)
この調査で,次のようなことがわかった。分数・小数・百分率の関係は,ちょっと指導すればすぐ思い出せる。BはAのいくらに当るかという割合の考えは,まだむすかしい。テスト②の前者は「に対する割合」ということばが困難であったようだ。比の一段は,初めからやり直すつもりで指導する必要がある。グラフもその特質を知って適当なものを選ぶ力はないといってよい。これらのことから,次のように内容をきめた
(ロ) とりあげる教学的内容とその前後の連絡
既習事項 | 指導内容 | 今後の発展 | ||
番号 | 新指導内容 | 復習事項 | ||
比,比の値(小六)
分数 (小各学年) 小数 (小三) 百分率(小六) 分数・小数・百分率の関係(小六) 小数÷×整数(Ⅱ)(小五) 分数÷×小数(Ⅱ)(小六)
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②
⑧④ ⑦ ⑤ ④ ⑥ |
比の二段
整・小数×小数 整・分数×分数 |
比の一段
整数×÷整数
分数・小数・百分率の関係
折れ線グラフ・円グラフ |
各種の率(中一,二,三)
利率,利迴,出生率等
比例,反比例(中二) 比の三段(Ⅴ) 利息計算(Ⅶ) 小数÷小数(Ⅳ) 分数÷小数(Ⅳ)
グラフのまとめ(Ⅷ) |
注,ローマ数字数字は,その学年内の単元の番号
これは,数学の基礎的な計算技能に属し,日常生活にもしばしば用いられる重要なものである。分(小)数×整数の意味から,分(小)数×分小数の意味に発展させるところに,本単元の重点がある。これは,比の二段の計算を,比の値が整数のときも,小数・分数のときも,同じ計算式で表わそうとする,思考過程の能率化のための規約として扱うことにする。その計算については,本単元でゆっくりと意味と手続とを理解させて,しかるのち,練習にはいる。
〔比の一・二段〕
ここにおける比の取扱は,全体と部分,および部分相互の関係を明確にするところに重点があり,このようなことによって,分配を公平かつ計画的にし,計画の見とおしをつけやすくすることができる点を生徒に感得させたい。割合でものを考えることは,たいせつな考え方であるから,割算と比の一段,かけ算と比の二段の関係の理解は,ひとつの重点である。初めは,分数で帰一法的に扱い,分数の乗法を次に導入し,ついで,比が百分率の場合にはいっていくつもりである。
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こづかい帳(小四)
収支勘定(小五) 貯 金(小六) 生活時間(Ⅰ) |
予算生活
出納簿の整理 予算をたてて生活する |
貯蓄(Ⅳ)
商店と買物(Ⅴ) 貯蓄と投資(中二) 税,保険(中三) |
職業・家庭科
わたくしの生活 |
(b) 生活経験のもつ価値と指導の重点
① 生徒たちに,きまったお金を,計画的にうまく使っていくことを指導することは,経済的に自主的生活を営んでいく態度を養うのに役だつ。むたづかいをしている生徒もかなりあるが,こうした生徒たちに貯蓄の習慣をつけていくようにもしたい。このような生活態度には数量的な処理の能力が必要であり,数学的内容の価値として考えたことが,うまく生かされていく最もよい場面のひとつである。
また,計画的であるためには,これまでの実情を数量的にまとめ,分析することなども必要になる。この点も重要である。
② 必要と興味
○一面,新しい生活にはいって,学用品とかスポーツ用具とかの購入に際して,ほしくても買えなかったというようなトラブルは,どの生徒も経験しているだろう。
① 計画的な考え方として,計画しうる量を見つもること,無理のない配分を考えること,実情をもとにしてそれを改善すること,一度の立案で満足せず,実行しては修正していくことが重要である。問題はこの点から分析していきたい。
② 毎月きまった額をもらっていない生徒もかなりある。
このような生徒でも,一か月にもらう額をきめておいて,その範囲内でうまく使うように指導したい。これらの点は,P.T.Aの会合で打ち合わせることにする。
③ 資料としては,四月につけるように指導しておいた,生徒たちの出納簿を主に用いる。
(ハ) 他教科との関係
生徒の現在つけている出納簿を整理して,これをもとにして学習を進めることにしたので,問題の分析は,教科書のそれとは違ってきた。
以下に示すのは,分析された問題と目標,その他との関係である。この案では,目標のもっと詳しい分析は,毎時の計画の際にゆずってある。評価の観点として,( )で示したのは,評価の方法とねらいの心おぼえであって,次のように記号で示してある。
Bは,そのときの学習によって,どれだけ到達できたかをみる評価。
Cは,単元の学習全体によって到達されるもの,または,今後とも指導の必要なもので,長期にわたる評価の一環として行うもの。
Oは,観察。
Tは,テスト。
Rは,レポート,ここではレポートと出納簿提出とを含めている。
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配当 |
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1.総額
わたくしたちの1月のこづかいはどれくらいが適当か。 |
§1.自分たちは毎月どれくらい使っているか。 | 出納簿の整理法
収入,支出,残高(A.O)1 |
問題構成の能力
(C.O)1 そろばんの加減 (B.O) |
物を大事にし,お金をむだづかいしない
(C.R.家庭通信) |
P.105−P.119
p120のこづかい帳の例表参照
教科書にはない。 |
2
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○単元導入を含む
○各自の出納簿の持参,整理
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§2.自分は学級のなかで,多いほうか少ないほうかを考えて,自分に適当な額をきめよう。 | 度数分布表
度数分布の意味(B.T)1 (平均の意味(A・O)2 折れ線グラフ,棒グラフの意味(A・O)3) |
柱状グラフをかく 能力(B.T)2 |
2 | ○B.T.20分 | |||
2.項目別金額
こづかいを,どのように使ったらよいか。 |
§1.自分たちは現在どんな使い方をしているか。
b.いくらずつ c.友人との比較 |
項目にわけることの意味(B.O)1
(学用品費,日用品費等(A.O)4 比の一段(A.T)1 割合のよさ(C.T)1 円グラフの意味とかき方 (A.T)1(B・T)4 分数,小数,百分率の関係 (A.T)2 |
比の値を求める
(B.T)3 円グラフをかく (B.T)4 |
自分の希望や興味を生かすように考えていく(C.R.O)2 | P.120の例を共同研究
P.120−P.124 |
3 | ○A.T.20分
○B.T.20分 |
§2.どんな項目にいくらずつにしたらよいか。
b.総額と割合から項目別金額決定。 |
比の二段
a: b(A.O)5
整数×小数(B.T)7 (小数の位取り(A.O)6) |
整・分数×分数(B.T)6
整・小数×小数(B.T)7 概数とくわしい数を見わけ使いわける(C.T)3 |
P.125−P.130
分数の計算 (P.152) 小数の計算 (P.156)参照 |
5 |
○B.T.20分 |
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3.予算の実行
予算を実行するときに,どんなことに注意したらよいか。 |
進度表の意味(B.O.R)3
計画修正の必要性(C.O.R)2 |
出納簿の整理(C.T)2 | 計画を実行しつつ評価し改善していく(C.R.O)3 | P.132−P.133 | 2 |
○C.T.20分 |
Ⅲ.評価の計画
(A.O)2 比較の一応の基準として,平均という考えが浮ぶか。
(A.O)4費目に何が含まれるか例示できるか。きわどいものがはっきりわけられるか。
(A.O)5 帰一法の考えが使えるか。
(A.O)6 .234は1/1000が234,1/100が23.4,1/10が2.34であること。
(A.T)1 数値のやさしい場合。
(A.T)2 相互の変形ができるか。基準がいえるか。整数が分母1の分数とみられるか。
(B.O)1 速さ。
(B.O)2 項目が便宜のためであることを知って,適当に修正できるか。
(B.O.R)3 実施と予定と対照できるように考えるか。
(B.T)1 なまの資料を階級わけして分類できるか。(身体検査の資料)
(B.T)3 分数および小数で答える。
(B.T)4 円グラフ・折れ線グラフ・棒グラフを選択させる。
(B.T)6 なぜ比の二段を×で表わすか。
(C.O)1 必要な限定条件を考慮するか。
(C.R)1 むだを指摘して直そうとしているか。
(C.R.O)2 自分の個性を考えて,項目の重みを修正しているか。
(C.O.R)3 計画をときどき修正しているか。修正によって,どんな点を改善しようとしているか。
(C.T)1 比の二段を用いる総合的な問題
(C.T)2 学校の売店の帳簿整理
(C.T)3 端数をまるめて,各項目の数値をもとの割合とは多少違っても,きっちりした数値にとれるか。
〔 単 元 構 成 の 例 〕その二
〔備考〕単元名 方程式のはたらき(中学三年)
これは,このような単元における学習指導計画の最低の必要として,指導内容の前後との連絡,指導の重点と展開計画をしるしたものである。その他の計画は,細案のときにゆずってある。
Ⅰ.
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正の数.負の数(二年)
方程式(一段階)(〃)
文字の使用と公式(〃) 式の変形 (〃) 同類項の簡約
式の計算 (Ⅰ)
単項式の四則
実際とグラフ (Ⅱ)かっこの用法 |
④ |
一次方程式 (複雑なもの)
連立方程式 二元一次連立方程式
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一次方程式 (一段階のもの)
式とグラフ 関係概念 |
三平方の定理(Ⅴ)
a2+x2=c2を解く 一元二次方程式(高校)
平方と平方根(Ⅵ) y=x2のグラフとy=a |
(ロ) 指導の重点
方程式のよさは,問題解決の思考を機械的にして考えやすくしている点,明確な原理に基いて,その解法をだれにもわかりやすく示している点にある。思考を機械的にするためには,文章で示された問題に対して,その文章の文脈どおりに,これを方程式になおすことができるようにすることが必要で,このためには,二元方程式も生れてくる。思考過程をわかりよくするためには,一度式にかいたあとは,問題の内容にわずらわされず,計画的な関係——これによって式が書かれている——だけに基いて,解法が進められることが必要で,この必要に答えるものが,等式変形の原理であり,連立方程式の加減法等による解法である。
これらの点を明らかになるように指導するのが重点である。そして,このように,思考過程を機械化し気楽に進められるようにしたり,明確にしたりすることは,ひとつの重要な生活経験で,一年のときの計算やグラフの研究,二年の時の方程式の研究に引きつぐものであるし,この学年での投影図の研究などにも発展していく生活経験である。
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配当 |
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1.
方程式にはどんなよさがあるか,どうしてたてるか。 |
§1.方程式を用いた場合とそうでない場合をくらべてみよう。 | ○方程式のよさ
○一次方程式 定数項,未知数 |
○方程式のよさを知って,これを用いて問題を解決しようとする。 | 補充 | 1 | やや複雑な例で | |
§2.どうすれば方程式がうまくたてられるか。 | ○公式から方程式をたてる考え方
○文章に書かれた関係から方程式をたてるときの考え方 |
○関係を理解して,これから方程式をまとめる。 | |||||
2.
方程式はどのように考えたら,うまく解けるか。 |
§1.グラフを用いて方程式を解くにはどうしたらよいか。 | ○方程式とグラフの関係
○グラフを用いると便利な場合 |
○一元一次方程式をグラフで解く。 | ○得られた結果を確かめてみようとする。 | P121−P123
簡単に |
1 | |
§2.計算で方程式をもっとやさしく解くには,どうしたらよいか。 | ○等式変形の原理
移項,分母を払う ○検算の意味と方法 |
○一元一次方程式を計算で解く。 | P124−P126 | 4 | 練習問題のプリント | ||
§3.方程式を用いて問題を解いてみよう。 | ○根の解釈
応用問題の検算の必要 |
○方程式を用いて,問題を解決する。 | P127−P128
P129−P130 |
2 | 問題練習 | ||
3.
複雑な関係を,方程式を用いて解決するには,どうすればよいか。 |
§1.複雑な関係を方程式に表わすには,どうすればよいか。 | ○二元一次連立方程式
○連立方程式のたて方 ○連立方程式の根 |
○複雑な関係を理解して,これを簡単な表現にまとめて解決しようとする。 | 補充 | 1 | ||
§2.連立方程式をグラフを用いて解くには,どうすればよいか。 | ○一次方程式のグラフ
○グラフと根の関係 ○ダイヤグラム |
○二元一次連立方程式をで解く。
○一次方程式のグラフをかく。 |
P131−P132 | 2 | ダイヤグラムの準備 | ||
§3.連立方程式を計算で解くには,どうしたらよいか。 | ○消去の意味
○加減法,代入法 ○検算法 |
○二元一次連立方程式を計算で解く。 | P133−P137 | 4 | 練習問題のプリント | ||
§4.連立方程式を用いて,問題を解いてみよう。 | ○根の解釈
○応用問題の検算の意味 ○方程式のたてるときの考え方 |
○連立方程式を用いて問題を解決する。 | P138−P140 | 2
1 |
問題練習テスト |
§6.単元による指導計画のたて方Ⅲ:−指導細案−
本節においては,前節のような単元構成の計画に従って,実際の教室に臨むまえに立案する細案について述べる。この細案は,一週間分ぐらいな幅で,二,三時間分まとめてたてることもあるだろうし,各時間ごとにたてることもあるだろう。まとめてたてた場合,第二時間目からは,それまでの進行状況によって,次の時間の計画を適当に修正しなくてはならないのが普通である。それゆえ,ここでは,だいたい各時間ごとに考えるような行き方を主体にしてかいていく。これは,週間計画を詳しくたて,また,各時間のことを詳しく考えるということを意味するつもりではない。
細案ではどんなことを考えておかなくてはならないか。 |
生徒との話し合いで問題の分析のしかたが違ってくる場合もある。また,計画どおり指導を進めても,予期した成果があがらなかったり,生徒の困難点として予想しなかったものが表われたりして,計画を修正する必要がおきてくる。このくいちがいが大きいときは,単元を組みかえなくてはならないが,さして大きくないときは,細案で修正していけばよい。
2.指導を有効にするための処置
単元の計画のときは,目標は,比の二段とか,整数×分数とかの理解というように,大ざっぱなものである。しかし,指導が展開されるにつれて,生徒の発達の段階もめいりょうになってくるから,もっと,はっきりと生徒の発達段階に応じたように,目標の内容を考えることができる。しかも,この内容を詳しく考えておくことは,生徒の学習活動に必要な助言を与えたり,生徒が学習してわかったことをまとめるのを助けたりする際に必要な準備となる。そのためには,内容を概念的なことばでなく,生徒がまとめるようなことばで考えておくことが必要である。
たとえば,比の二段を理解するというのでは,その段階が多様であって,(第Ⅳ章,§4参照)指導を集約する焦点が明らかでない。これをAのq/pの大きさは,Aをp等分したものをq倍すればよいことを理解するというように考えておけば,指導の重点のおき方が,基準の量を1に対するものから1/pに対するものに変換する考え方におけばよいことが明らかになるし,また,生徒がまとめるときにも,はっきりわかるようにまとめられ,評価がしやすくなる。
(b) 生徒の問題を詳しく考えておくこと。
生徒は,この問題の解決を目標として学習するのであるから,生徒の学習活動を自主的にするためには,生徒がはっきりと問題をとらえていなくてはならない。教師のほうで,この問題を詳しく考えていないと,その指導がむずかしくなる。単元の計画では,この点が徹底的に考えてあっても,それまでの学習の進行のいかんによっては,それを修正する必要も起ってくる。それゆえ,指導の各段階に相当する問題をはっきり考えておかなくてはならない。
(c) 評価の方法を具体的に考え,用意すること。
観察の観点を計画に基いて具体化したり,テストが必要なときはその計画をたて,プリントしたりする。
(d) 各段階の目標が,できるだけ単一になるように,指導のくぎりをつけること。
一時にあまりに多くの目標をもることは,かえって,指導を混乱させ,評価をむずかしくする。また,生徒にも重点がわからなくなる。一時には,ひとつないしふたつの目標をねらうようにしたほうがよい。
(e)(b)のおのおのについて,生徒の学習活動を予想し,これに(a)(c)で考えたことを対応させ,指導の要点を明らかにするとともに,必要な資料や教具を用意すること。
(f) 以上で考えたことを,簡単な形式にまとめ,見やすく,使いよいように表にしておくこと。同時に,この表に,指導した上での反省や,生徒の学習について記録しておくべき事実などをかきこむものをつけておくこと。
これは,表の余白にその欄をつくったり,座席表をはりつけたりしておいてもよい。
細案の一例 |
ここでは,一例として,前にあげた単元の例その一の展開計画中,節2章こづかいをどのように使ったらよいかのうち,§2どんな項目にいくらずつにしたらよいかの部分5時間中の,第一時間目について考えてみよう。
(b) 比の一段の(AT1でわかったことであるが,分数や百分率でいうよりも,a:bの形で比を考えるほうが,わかりよいと考えている生徒がかなりある。
(b) 比の二段では,a:bから考えていくものもとりいれ,これを分数の場合に統一する。
どんな項目に,いくらずつにしたらよいか。
(ⅱ) 毎月の額がほぼ一定になるような使用目的の分類は,どんなものか。
(ⅲ) 不時の入用には,どのようにして準備しておけばよいか。
(ⅰ) どれをこれまでよりも節約するか,どれを重くみるか。
(ⅲ) その表わし方で実際の金額がきめられるか。
(ⅳ) 各項目の割合を,自分の個性が生かされるようにきめよう
(ⅱ) 項目の割合が百分率のときは,どのように計算したらよいか。
(ⅲ) 項目の割合が分数のときは,どのように計算したらよいか。
項目を考えるときは,次の点が重要である。
(ⅱ) なるべく,各項目がいつも一定の額にしてもさしつかえない程度に,大きくわける。
(ⅲ) 予備,その他の形で,ゆとりをとることが必要である。
(ⅳ) 項目の重みには,目的から考えた重要性を反映させる。
(ⅱ) 割合が分数のとき,単位分数に当る量を新しい基準と考えれば,分子の数がその基準に対する割合になる。
(ⅲ) 上の計算はa×q/pとかいておくと,いつも同じ意味の計算が同じ式で表わせるから便利である。
(ⅳ) 割合が百分率のときは,百分率を,100を分母とする分数で考えれば,上と同じことになる
(ⅴ) 100を分母とした分数を小数で表わすと,上の計算は,小数のかけ算で表わせる。
(d) 小数のかけ算(省略)
5.第一時の評価の方法
(b) 指導中,各自の家庭の事情の違い,たとえば,こづかいをもらう目的が日用品の購入も含めているとかいないとかを考慮して発言しているか,これまでの実績からみて,まとめているかどうかを観察する。
(c) 次のテストにより,目標(b)(ⅰ)(ⅱ)を評価する。
へやのかざり1,菓子4,余興の費用3
① へやのかざりに75円をかけることにすると,菓子の費用はいくらになるか,余興の費用はいくらになるか。また,全体の費用は,へやのかざりの何倍になるか。
② ひとりの会費70円として,52人のクラスでは,各費用はいくらずつになるか。
(Ⅱ)次の計算は,1200円の5/8を求める計算である。□の中に適当なことばをいれて,説明をわかりよくせよ。
1200円÷8=150円 □に当る量
1200円÷8×5=750円 □に当る量
6.学習活動の計画
指導にまとまりのあるようにするため,(a)の問題と(b)の問題の間に,まとめの時間をおきたい。また,(a)(ⅲ)(b)(ⅰ)では,各自のこれまでのこづかいを整理したものの反省に注意して指導したい。そのためには,個別に学習させて,特にマークしておいた生徒の研究を注意してみて,発表する者を指名する。(b)(ⅲ)では,このような方法で解釈できるかという見とおしをつけさせながら,計算の方法にはいっていきたい。したがって,扱う数は,生徒がいちばんやさしいと考えるような数で扱うことにする。個別指導は,時間があれば行う。これを表にまとめると,次のようになる。
学習活動の計画 (第2章,第2節,第一時)
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(a) | 話し合い | (a)1.2.3. | 各自の違いに注意1.2.3.の観点がでるように助言。 | 10分 |
(a)(ⅰ)(ⅱ)(ⅲ) |
個別学習 発 表 |
同上 | これまでの実績に注意させる。
整理のときの「むだづかい」の項目に対照 |
15分 |
まとめ | 発表 | 評価(b) | ||
(b)1.2. |
個別学習 発 表 |
(a)4. | 実績の評価に注意。割合としては連比と百分とどちらでもよい。
評価(b) |
5分 |
(b)3. | 話し合いと個別計算 | (b)1.2. | 総額は話し合いで簡単な数にきめる。
解決の見とおしをつける。 |
15分 |
テスト | (b)1.2. | 評価(c) | 4分 | |
(b)4. | 家庭課題 | 評価(a) | 1分 |