第Ⅴ章 高等学校数学科の各科目の一般目標と指導内容

 

§1.各科目の性格
 
どうして,高等学校で数学科が選択必修になっているか。

 高等学校の目標として,個性の伸長,社会人の育成,職業的資質の啓培の三つの面があげられている。この三つの面から考えてみると,高等学校では,中学校の数学科の指導を受けついで,これをさらに発展させていくことが,どの生徒にも必要であることは,論をまたないところであろう。しかしながら,一面,生徒はこの時期になれば,自分の将来の進路に対して,しだいにはっきりした考えをもつようになり,この進路に応じて,必要とする数学の方向や程度がいろいろ違ってくると予想される。

 それゆえ,高等学校の数学科では,いくつかの科目を設け,そのうちの少なくともひとつを必修にすることをたてまえとしている。
 
科目を分けるにあたって,どのようなことを考慮しなければならないか。

現在数学科では,どのように科目を分けているか。
 

§2.一般数学の一般目標と指導内容

〔一 般 目 標〕

一般数学の指導内容
 

指 導 内 容 一 覧 表


生 活 経 験
理 解 お よ び 能 力
用  語
①自然現象や社会現象を理解したり,これについての問題を解くために,公式やグラフを用いる。

(例)

 ○落体の運動を示すために,その位置とかかった時間との関係を式に書いたり,グラフにかいたりする。

 ○物価指数などの計算のしかたを示す式を調べて,なぜそのように,計算するのかを研究する。

○一次函数や簡単な二次函数のグラフをかいたり,これを用いたりする。

○公式の式の形から,比例関係や反比例関係を見いだす。

○一般角に対する三角函数の定義を知り,また,三角函数や,そのグラフを用いる。

○いろいろなグラフの特徴を知り,これを用いる。

○変化率の意味を理解する。

○函数

○変化率

○2乗に比例(反比例),

○一般角

○周期

○振幅

②日常生活に関係して起る問題を,方程式を用いて解く。

(例)

 ○単利などについての計算をするのに方程式を用いる。

○未知の量をxやyによって表わし,条件を方程式の形にまとめる。

○一般の一元一次方程式を解く。

○二元一次連立方程式を解く。

○元,一次,二次

○消去

③図形の取扱に慣れ,簡単な図形の性質を知る。

(例)

 ○測量や装飾をするのに,三角形や円などの簡単な性質を用いる。

 ○日常に用いている器具の形に回転体・対称形・平行線などが用いられているわけを研究する。

 ○工業などで,投影図がどんな役割を果しているかを研究する。

○公理・定義および定理・証明の意味を明らかにする。

○平行線の定義やその性質を理解する。

○合同相似の条件を理解し,これを用いて図形をかいたり,図形の性質を明らかにしたりする。

○対称形の概念や,その基本的な性質を理解し,これを用いる。

○回転体の概念や,その基本的な性質を理解し,これを用いる。

○公理,定義

○定理,証明

○同位角

④測定値について,その代表値の信頼度やその制限の意味を理解し,また,これを計算に用いる。

(例)

 ○具体的な物の面積・体積などを計算するのに,測定値の平均や,その制限を用いる。

 ○面積・体積などの概略の大きさを推定するのに概算を用いる。

○相加平均の意味を理解する。

○正しさ・くわしさの概念を理解し,これを用いる。

○測定値の正しさを標準偏差によって示す。

○計算尺を用いて,測定値についての計算をする。

○概算をする。

○相加平均

○代表値

⑤社会現象や自然現象について確からしさの意味を理解し,これに関する問題を解く。

(例)

 ○保険などに用いられる死亡率の意味を理解する。

 ○あたりくじを引くのは,くじを引く順序に関係あるかどうかを調べる。

○確率の意味を理解する。

○独立事象や,排反事象の意味を理解する。

○確率の加法法則・乗法法則の意味を理解し,また,これを用いる。

○場合の数を残りなく,また,重複なく数える。

○確率(数学的,統計的)

○独立,排反

○加法法則,乗法法則

○期待値

○順列,組合せ

⑥社会現象について,その実態を理解したり,将来を予測したりするのに,統計的な資料を用いる。

(例)

 ○身長が大きいほうか小さいほうかを判断するために,その年齢における身長の平均を調べる。

 ○社会のいろいろな問題についての世論調査を研究して,その価値と限界とを調べる。

○資料は,どんな性格のものでなければならないかを知る。

○全体調査・一部調査などの資料の集め方のあることを理解する。

○標準偏差の意味を知り,これを計算する。

○表によって,簡単な相関関係を知る。

○いろいろなグラフの用途を知る。

○モード

○中央値

○標準偏差

○相関関係

○カルトグラム

⑦経済や金融に関して用いられているいろいろな比率の意味を理解し,これに関する問題を解く。

(例)

 ○将来の職業生活に役だてるため,金融機関の利用法や商販引の方法を研究する。

 ○物価が何によって変動するかを明らかにし,家計や賃金の問題に対する理解を深めるため,統計資料として指数を用いる。

 ○家族の生活を保証する一つの方法として,保険や貯蓄の意義を研究する。

 ○税金を完納するため,一年の税額を見積り,貯蓄の計画をたてる。

○歩合・百分率・指数の意味を理解し,これを有効に用いる。

○加重平均などの考えをもとにして,総合指数の意味を理解する。

○歩合・百分率の三つの用法についての計算をする。

○小切手・かわせ・手形などの意味を知り,これについての計算をする。

○保険や貯蓄の意味を知り,これについての計算をする。

○複利か長期の融資や年金などの計算に用いられているわけを知り,表を用いて,これに関する計算をする。

○利まわりについての計算をする。

○数列の意味を理解する。

○等比数列の和を計算する。

○対数表を用いて計算する。

○年金,年賦金

○数列,等比数列

○対数

○加重平均

○相乗平均

⑧金銭に関する計画や記録の際にバランスを考えることが重要であることを理解し,これに関する計算をする。

(例)

 ○商店や農場の経営を合理化するため,簡単な簿記や青色申告の書き方を研究する。

 ○国の予算について研究する。

 ○生徒会の予算を編成する。

○収支や損益の計算に必要な量に正負の符号を考え,その和がいつも0であるとみなすことの意味を理解する。

○簡単な簿記をつける。

○予算・決算・家計簿・バランスシートなどの見方やその意味を知る。

 
⑨数学が文明の進歩の上に果している役割について理解する。

(例)

 ○幾何学によって,測量や地図製作がどんなに進歩したかを研究する。

 ○自然科学の進歩に数学がどのように貢献しているかを研究する。

 ○将来の危険や不安に詞なえる備えるのに,数学がどのように用いられるかを研究する。

 ○社会の秩序を維持し,公正をはかるために,数学がどのように用いられているかを研究する。

○関係を式やグラフで表わすことの意義を知る。

○確率や統計を用いることの意義を知る。

○図形による表現の意義を知る。

○図形についての研究の意義を知る。

○数計算の方法の進歩が,いろいろなことについての労力を節約してきていることを知る。

 

 

§3.解折Ⅰの一般目標と指導内容

〔一 般 目 標〕

 
 
指導内容とその配列の一例
〔指 導 内 容〕

Ⅰ.中学校の数学の復習

 

Ⅱ.比例および一次の関係を用いること

 

Ⅲ.函数の概念を用いること

 

Ⅳ.数や式についての計算をすること

 

Ⅴ.連立一次方程式を用いること

 

Ⅵ.二次式や分数式を用いること

 

Ⅶ.図形を式を用いて研究すること

 

Ⅷ.数計算を能率よくすること

 

§4.解析Ⅱの一般目標と指導内容

一 般 目 標

指導内容とその配列の一例
 

指 導 内 容

Ⅰ.確率を理解し用いること

 

Ⅱ.資料を整理し,解釈すること

 

Ⅲ.数列や級数を用いること

 

Ⅳ.函数の概念を拡張し,完成すること

 

Ⅴ.変化率を用いること

 

Ⅵ.計量において極限を用いること

 

Ⅶ.三角函数を用いること

 

§5.幾何の一般目標と指導内容

一 般 目 標

 
 
指導内容とその配列の一例
 

指 導 内 容

Ⅰ.中学校の復習

 

Ⅱ.幾何に用いられる方法を理解すること

 

Ⅲ.空間における図形の関係を理解し,用いること

 

Ⅳ.直線図形の性質を用いること

 

Ⅴ.円と球の性質を用いること

 

Ⅵ.軌跡の概念を発展させること