第Ⅳ章 中学校数学科の指導内容の説明

 

はしがき 中学校で指導するのに適当であると考えられる数学的内容は,前章において,生徒の生活経験との関係において,一覧表の形で示した。しかし,この示し方では,生活面との関係はめいりょうになるが,その反面,生徒の心の中に流れていく数学的な内容についての理解の発達のしかたは,明確に示されないうらみがある。

 一方,第Ⅰ章においては,数学科の指導は,「理解」と「よさを知ること」とをもとにして,展開されなければならないことを述べた。

 そこで,この章では,いろいろな数学的内容について,どのような理解がたいせつであるか,それがどのように発達していくことが,生徒にとって,円滑で,しかも効果的であると考えられるかを説明して,ひとつの系統的な発展の形を示し,指導の参考に供したいと思う。

 もとより,理解の発達のしかたは,個々の子供によっても違うであろうし,また,その系統の立て方も,数学に対する見解によって,いくつかの違った系統をつくりうるものであるから,ここに述べる系統は,ひとつの参考例にすぎないことは当然である。

 ここでは,次々の発展が,できるだけ,それまでに理解したことを逆転させずに,それを包括しつつ,しかも新しい内容を含んでいく,雪だるまのような発展のしかたを考えた。これは,試行錯誤をくり返したり,または,一つ一つばらばらに内容を理解していったりすることに比べて,能率的であり,また,理解したことの中核,すなわち,雪だるまの中核に当るものが,生徒に,より先のほうに発展していく見通しを与えるようになるという考えから,とったものである。

 数学的内容の面からいえば,このような発展は,一つの樹木の成長にたとえることができよう。すなわち,生活経験という肥料によって,理解という幹や枝を,しだいに伸ばし,そのよさを知るという根を張って, しっかりした樹木となり,技能の花を咲かせるといえよう。

 この際に,ここでとった系統は,むだな枝ぶりのない,まっすぐですっきりとした樹木の形を予想したといえる。

 さて,以上のような考えで発展的系統を立てようとするとき,数学的内容は,その概念的な区別によって,いくつかに分類して考えたほうがわかりよい。われわれは,これを,次のように分けて考えた。

 このおのおのについて,雪だるまの中核となり,発展の洞察を考えるところのものを その概念のもつ長所として,まず,掲げて,次に,概念の内容として生徒が理解していくことがらをあげた。この二つは,その概念についての指導を集約していくところを示したものといえる。次に,その発展の指導として,理解事項によって指導の面を主要な領域に分け,この領域において,小学校からの発達と中学校までの指導を説明するという方法をとった。

 この説明のしかたは,指導の実際に当って,この領域内における発達の中の二・三の段階を毎時間に指導し,その指導を通して,いつも,初め長所としてあげたようなことを感得させつつ,その時々の理解を,しだいに,初めに分析したものに発達させていくようにするということを,予想している。

§1.数

 Ⅰ.十進数

A.十進数の長所

 数を十進歩で表わすと,数の大きさを示すにもわかりよいし,数を用いた四則の計算も,簡単な原則をもとにして,きわめて機械的に処理できるようになる。

B.十進数についての理解
 
1.十進数の規約

各位の数字は,小数点の位置を中心として,左の方へ順次に1,10,100……と,それぞれ,前の位の単位を10倍にしたものを単位とした個数を示し,右の方へ順次に1/10,1/100,1/1000……と,それぞれ,前の位の単位の1/10を単位とした個数を示している。
 
2.小数点の位置

 小数点の位置を,ある位のところに移すと,その位の単位を1としても,この数を表わした数が得られる。いいかえると,小数点の位置を動かすだけで,もとの数を10倍100倍,……,または1/10,1/100……にすることができる。

C.十進数についての指導

 Bの1.十進数の規約は,すでに小学校で習得されたものとしてよい。中学一年で,小学校の復習として,整数・小数についての大小の比較や,整数の四則の筆算形式を復習している間に,Bの1の理解から,しだいに2の理解へ高めていくようにすることが必要である。
 
1.復習の留意点

2.数範囲の拡張

 上のような復習と平行して,または,それに続いて,数範囲を拡張して,億・兆の単位名や,十進命数法の規約を知らせつつ,この記数法によれば,10種の数字を用いるだけで,どんな大きな数も,どんな小さな数も表わされること。(特に,空位に示す0のはたらきを強調して)それらの取扱の原則は,これまでの原則(十進数の規約)がそのまま保たれていることを明らかにするがよい。この際に,ローマ記数法やその他の記数法との比較は,生徒の理解を助けていくことになるだろう。
 
3.三けたくぎり

 けた数の大きい数を取り扱うときに,三けた区切りが,世界でも,また日本でも,広く用いられていること。三けた区切りの数を読むときには,コンマのところの位が右の方から順次,千・百万・十億・兆……となっていることを知っていると便利であること。これらのことがらを理解させ,このような読み方になれるに従って,百万なり,十億なりを単位にして表わす方法,たとえば,120百万円のような,数の表わし方もあることを知らせていくがよい。(このときに,この読み方を,「ひゃく2じゅうひゃくまんえん」という読み方をせずに,「1おく2せんまん円」,または「百万円を単位として120」という読み方をするように指導した方がよい。)
 
4.小数の乗除に関連しての指導

 中学一年では,十進数についての新しい計算として,小数による乗法・除法がはいってくる。この計算の方法をくふうするときには,さきに明らかにしたBの2の理解を基底において,これに結び付けて考えていくように指導するとよい。そして,小数を含んだ十進数の乗法・除法では,小数点の位置を除外すれば,いつも整数の場合の計算と同じであること。いいかえると,数字の並び方は小数点の位置に関係のないことを理解させ,小数点の位置の決め方のみを,新しく拡張された乗法・除法の意味から考えればよいことを明らかにする。そして,十進数を用いることによって,計算のために考えるべき点として,小数点の決め方と数字の並び方との二つに分解し,しかもそのおのおのが,きわめて機械的なルールによって処理できるようにすることによって,計算に伴う労力を軽減している点を感銘させていくがよい。
 
5.近似値の取扱における十進数

 こうした計算法について,十進数のよさと意味を理解させていくことから進んだ機会としては,近似値を取り扱う場合がある。近似値の取扱を明らかにしていくのは,二年の仕事であるが,その背景としての概数や四捨五入・切り捨て・切り上げによる端数の処理のしかたは,小学校から指導されてきている。
 
6.四捨五入
正しさ・くわしさ

 四捨五入・切り捨て・切り上げという簡単な手順で,機械的に,よい近似値が得られることも十進数の利点の一つである。すなわち,ある位までの数字を保留して,その位より小さい部分を切り捨て・切り上げ,あるいは四捨五入するという簡単な操作だけで,その位の単位の1より小さい誤差で近似値が得られる。これは,分数などを用いた時には得られない利点である。

 (たとえば,12/33の分母,分子の1の位を省略して10/30,すなわち1/3として,近似値が得られるが,このときの誤差については,一般的なルールがない。)

 こうしたことを一年のころから理解させ,二年に進むにつれて,これに,くわしさ・正しさの概念を与え,十進数では,数のくわしさが有効数字のけた数で示され,正しさが有効数字の末位の1または1/2で見積られることを理解させて,これを四則計算に活用できるようにすることが,二年のおもな仕事である。
 
7.a×10nの記法

 その際に,十進数の相対的な大きさを利用して,数をa×10nの形にかき直すことができること。こうすると,有効数字の0と,位取りを示すだけの0とを分離して示せることと,乗除の結果の見積りが10nの部分から容易にできることを明らかにし,このために,近似値の取扱がいっそう能率よくなることを感銘させることがたいせつである。
 
8.2,5などの倍数

 なお,十進数のいま一つの利点として,2,5,4などによる乗除の簡便法があること,その倍数が容易に見分けられることなどがある。これらは,いつと限らず,適当な機会に指導していく程度でよい。

D.指導上の諸注意

 十進法と時間のような六十進法との区別も,その機会を見て,はっきり指導することが必要である。

 生徒によっては,10時25分を10.25時とかいて,十進法と同じように扱う誤りをよく見うける。

 これは,小数点の意味を機械的にのみこんだことから起るものである。また,10時25分を10.25とかくような習慣が一部に行われているが,これは,上のような子供の誤りを防ぐためからも,10:25のようにかいて,小数点と区別するようにしたほうがよい。

 

 Ⅱ.分  数

A.分数の長所

 分数は,除法の結果としての数値を,その除数および被除数といっしょに正確に表わしているので,理論的な取扱につごうがよい。しかし,大ききを人に伝える点では,明確を欠く。

B.分数の理解
 
1.分数の意味

 分数は,分母にある数で分子にある数を割ったときの商を表わす。
 
2.分数の大きさ

 分数は,分母にある数を分母とし,分子が1である単位分数がいくつあるかを,その分子にある数で表わしているとみられる。
 
3.分数の相等

 分数の分子・分母に同じ数をかけても,また,分子・分母を同じ数で割っても,その値(表わす大きさ)は変らない。

C.分数の指導
 
1.小学校との関連
 小学校では分母が,2,3,4,5,6,7,8,10,12,16,32などのごく簡単なものについて,異分母の加減をすることまで指導してある。これは,これらの分母をもつ分数が,量や比の大きさを表わすものとして日常に用いられていることと,この程度のものしか,日常的な意味での便利さ(表現として用いたときのわかりよさ,たとえば,67%というよりは,2/3といったほうがわかりよい。しかし,88%というよりは,15/17というほうがわかりよいとはいえないこと)がないことがらである。
2.中学校での重点

 中学校では,これらの日常的な場合における分数の用法を主とするが,それにとどまらず,分数を一般的な数として自由に扱えるところまで高めることも必要である。たとえば,自動車の時速を毎時xキロメートルと表わして,この分速が必要なとき,これを毎分x/60キロメートルとし,これを用いて,その他の量を表わしたりする。これは,分数を,日常的な意味でのわかりよい表現というよりも,分数が一般的な数として,演算といっしょに,その結果である数を正確に示している利点を用いているのである。

 このような用い方ができるためには,分数を除法の結果的な表わし方としてだけでなく,さらに,これに,演算を施していくことのできる数として理解されていなくてはならない。すなわち,分数は,量や比の大きさを表わす表わし方という程度の理解から,進んで,演算としての除法と同時に,その商を数として正確に表現して,量関係を正確に記述していくための理論的な数にまで高められなければならない。これが中学校での新しい仕事である。

 このような理解をもってはじめて,数計算の場合に,分数を用いて能率のよい方法を考えたり,(125×25を,12500×1/4とするなど)計算の途中は分数を用いながら,必要な結果としての答には小数を用いて,分数と小数とを使い分けたり,分数の表現を用いて公式をかき,その公式をじょうに利用したりすることができるようになる。(たとえば,S=a×b÷2というように,三角形の面積の公式をかいたとすると,これは,Sの求め方・計算のしかただけを示すにとどまる。これをS=ab/2とすると,計算のしかたを示すとともに,ひとつの数として量の大きさを表わす。したがって,たとえば,三角柱の体積Vを求める公式をつくるときに,V=ab/2×c=abc/2といったように簡単に計算することができる)

 それゆえ,中学校での指導は,量を表わす分数から,計算の対象としての分数,一般的な関係記述の方法としての分数記法へと,流れていかなくてはならない。
 
3.量や比を表わす分数

 量や比を分数で表わして,これを人に伝えたり,比較したりすることは,小学校での学習の復習として,まずなされることである。この際に,理解にあげた1.2.3.のおのおのを明確にしておくことが,後の発展のために必要である。そして,この機会に,小数による表わし方と比較して,分数による表わし方が,どんな場合に便利であり,どんな場合に悪いかを明らかにしておくがよい。

 こうした理解が成り立つときは,量や比の大きさを概括して見通しをつけるような場合に,たとえば,99/215などを1/2とみなすように,数値をまるめて,簡単な分数として用いることができるようになるだろう。こうした用い方は,割合についての概算を手がるにしていくためには,便利である。(なお,比としての分数については,比の節参照)
 
4.分数の大小及び加減

 分数の四則が,いつでも一定の方式でできることを理解するのは,一年の仕事である。その第一歩は,小学校の復習と,その発展としての大小の比較および加減であろう。

 そのときの基本的な原則として理解さるべきことは,次の事がらである。

 こうした基本的な事がらが明確になるにつれて,これを実行していくときの手段として,最大公約数や最小公倍数についての理解を与えていくがよい。(これについては,10,約数・倍数 参照)
 
5.分数の乗除

 分数の乗除における生徒の理解の根本になることは次の二つのことである。その一つは,分数をかけたり,分数で割ったりすることの意味(……の2/3を求めるときに,なぜ,……×2/3とかくかということ)で,いま一つは,乗除の計算の方法をどのようにするかということである。

 このうち,乗除の意味については,整数についての乗除の意味からしだいに発展していくものであるから,これは次の節の四則において述べる。ここでは,乗除の意味がわかってから,その計算法どうするかという点について考えてみよう。

 計算法の理解の根底になることは,やはり,前にあげた理解の2.3である。このことをもとにして考えたものを,結果的にまとめたものが,よく知られた計算法である。たとえば,2/3×4/5を考えるときに,2/3を,1/3が2個あるものと考えたのでは2を5等分できないのでゆきづまる。それゆえ,2/3の分数の値を変えないで,単位分数の数,すなわち,分子が5等分できるように変形できないものかと考えると,それは,分子を5×2とすればよい。したがって,2/3×4/5=2×5/3×5×4/5と考えると,これは,1/3×5が2×5個あるものの4/5であるから,1/3×5が2×4あることになる。こうした計算の過程を省略して,結果だけについてみると,分子の積を分子とし,分母の積を分母とする分数が,もとの二つの分数の積になっているということができる。

 また,2/3÷4/5を考えるときに,この二つの単位分数を同じ単位で表わせないものかと考えると,それには1/3×5を単位とすればよい。したがって,2/3÷4/5=2×5/3×5÷4×3/5×3となり,この結果をまとめれば,被除数に除数の逆数をかけたことになっていることがわかる。
 
6.計算の洗練化

 上のような指導においては,結果として洗練された形式を理解することは,計算を能率よくしていく上に必要なことであるが,これと同じ程度に,この結果にいたる途中の考え方も重要なのである。このような途中の考え方を上すべりにすることは,生徒たちに誤算の癖をつけていくもとにもなるし,生徒たちの自主的な研究態度を伸ばしていくのを妨げることにもなる。

 それゆえ,上のように,意味を考えて,途中の過程を一歩一歩たどって計算していくことがはっきり理解されてから,さて,このような同じ考えをいつもくり返していくのは能率の悪いことであるが,何とかもっと手軽に,正しい結果が求められないかということから,計算の法則をまとめていくように指導すべきである。

 このような計算法に習熟したら,さらに,これをもっと能率よく処理していくことも考える必要がある。

 たとえば,2/3×6/7を計算するのに,

 とすれば計算がしやすいこと,乗除の混合の場合には,全部を一度乗法に直してから計算するほうが,計算しやすいことなどを明らかにしていくことが,計算を手ぎわよくしていく上に必要なことである。
 
7.整数・小数との関係

 乗除の計算の指導の間に,これと平行して理解を深めていくべきことは,整数・小数と分数との関係である。すなわち,小数が10の累乗と分母とする分数であること,整数は1を分母とする分数とみられること(特に,1がa/aとみられることやab/aがbであること)を明らかにして,整数や小数を含めても,上で考えた計算法がそのままに当てはまることを理解させることが,計算をじょうずにしていく上に必要である。
 
8.分数を用いることの指導

 分数が数として計算できるものであることが理解されてから後の指導は,どんな場合に分数を用い,どんな場合に分数を用いないかの区別を,はっきりさせていくことである。この場合の根底になることは,分数の長所にあげたことであろう。

 このような指導の第一段階は,問題解決のための数計算における区別で,計算の途中では,手数を少なくするために分数を用いていくが,結果として量や比の大きさを人に伝えるためには,分数よりわかりよい小数を用いることなどがこの例である。(このような指導は,特に,二年,三年になって,方程式を用いて問題を解くときに必要になる,方程式の解法の途中の除法で,割り切れないために近似的な小数を用いていくと,明確さを失ってくる。また,数計算に手数がかかる。したがって,方程式の根を求めるまでは,分数で計算したほうがよい。しかし,その根を問題の条件に当てはめて,実際の量として考えるときには,なるだけ小数に直したほうがよい。)
 
9.文字を用いた分数

 次に,文字を用いて公式や方程式を作る場合がある。このようなときに,÷の記号を避けて,数として扱える分数の形を用いていくことが指導されなければならない。

 こうしたことから,文字で表わされた分数についての簡単な計算を,中学三年あたりで指導されてよいであるう。この場合に生徒が理解すべきことは,文字でかかれた分数についても,普通の分数と同じ原理で計算できることである。こうして,数という表現の世界から,文字を用いた変数という表現の世界へと,生徒の理解を高めていくことが,中学校での仕事である。
 
10.約数・倍数

 約数・倍数は,約分とか通分とかの計算の際に,このような計算を機械化するために考えられたものとして扱う程度でよい。その際の理解事項としては,次のことがある。

 この二つの理解を中心において,分数を扱う際に,素因数分解による最大公約数・最小公倍数の求め方や,2,4,5,10,25の倍数の見分けを指導し,それに加えて8の倍数や3,9の倍数の見分け方を教えていく程度でよいであろう。

 

 Ⅲ.正の数・負の数

A.正の数・負の数の長所

 正の数・負の数を用いて量を表わすことにしておくと,表現の形式が単一化される。いいかえると,表現の形式が同じでも,その意味内容が豊富になる。しかも,その取扱(計算)がまた簡単になるので,形式的に考えを進めていける点で便利になる。

B.正の数・負の数の理解
 
1.負の数の意味
 負の数は,正の数と同じ単位で表わされ,しかも,反対の性質や方向をもった量を表わす。
 
2.符号の役割

 十,—の符号は,そのあとにある数の正負を表わすものともみられるし,また,計算の記号ともみられる。

 +3は,ひとつの数とみてもよいし,数直線上で正の方向に3だけ動かすという演算とみてもよい。また,3は,0よりも3だけ小さい数とみてもよいし,数直線上で負の向に3だけ動すという演算とみてもよい。
 
3.四則の理解

 正の数・負の数についても,正の数のみの場合についての四則の意味をそのまま拡張して,四則の計算をすることができる。正の数の場合に成り立つ演算の基本法則は,そのまま,同じ形式で成立する。

C.正の数・負の数の指導
 
1.準  備
 正の数・負の数を用いて量を表わすことは,二年から指導される。その前に,次のような考えが,小数・分数の乗法・除法の意味などを通して,導入されていることが望ましい。すなわち,数量についての処理のしかた,たとえば計算などは,形式をそのままにしておいて,その意味内容を豊かに拡張していくことによって,処理の能率をあげるようにできる。(§2四則の項参照)こうした形式不易の原理が,正の数・負の数を生み出していく原動力になるのである。
2.量を表わすものとしての正の数・負の数

 収入・支出とか,ゲームの得点・失点とか,資産・借金とかいうような,反対の性質をもちながら同じ単位で表わされる量が,正の数・負の数で表わされることから,指導が始まるのが普通であるが,この場合に,次のような点を明らかにしておくことが必要である。

3.正の数・負の数の大小

 こうしたことから,正の数・負の数が一定の順序をもつこと,その順序が正の数の範囲では,これまでの大小と同じものであることを明らかにし,大小の考えが,そのまま正の数・負の数の範囲に不合理なく拡張されることを理解させ,同時に,正の数・負の数が,量を表わすだけでなく,ひとつの順序に並んだものの位置を表わすことを理解させていくがよい。
 
4.正の数・負の数の加減

 正の数・負の数についての加法・減法は,計算として正面きってとりあげる前に,すでに,正の数・負の数を量を表わすものとして用いるときに,しらずしらずのうちにはいっているといってよい。

 たとえば,5円の損失を5円と赤字でかかないで,5円とかくときには,(0−5)円と,この量が計算されるものであることを認めているのである。また,5円の増加を+5円,5円の減少を−5円と表わすときには,たとえば,8円から増減の結果が,この表記をそのまま使って,(8+5)円,(8−5)円と計算される点の便宜を認めて,+・−の記号を用いているのである。

 こうしたことを学習していく間に,たとえば,

  (利益)=(売価)−(もとで)

 という表現が,正の数・負の数を用いることによって,損失の場合にも適用されていくというように,負の数を用いることが,形式を保持しようというねらいをもっていることを明らかにしていくことが必要である。そして,正の数・負の数にまで数を拡張した場合の,加法や減法の意味(たとえば,a+bはaからbだけ増えた量,または,aだけ増え,さらにb増えたときの結果としての増え方を表わす)を理解させ,次に述べる計算法についての理解の発達をまって,−bが+bの加法に関する逆元であること,ある数をひくことは,その数の逆元を加えることとみられること,これによって,加法・減法がひとつのものに統一されることを理解させることが必要である。

 また,こうしたことを理解することによって,文字を用いて式を作ることが簡単になることも理解させるがよい。
 
5.加・減の計算法

 上のような考えで,加法や減法の意味やその必要が明らかになると,これについての計算を能率よくするために,一般的な問題として,正・負の符号のあらゆる組合せについて,加・減の計算の規則を発見することが問題となるであろう。この必要性を背景として,具体的な例をとりあげてこそ,これから,一般的な計算の法則が生れてくるのである。

 こうして,加法の規則・減法の規則が理解されたら,ついで,上に述べたような加・減の関係を理解させ,これを用いて計算するとよい。
 
6.正の数・負の数の乗法・除法

 正の数・負の数の乗法・除法で生徒が最も困難を感ずるのは,乗法の意味,特に,なぜそんなものを考える必要があるのかという点であろう。これまでの指導において,公式などの形をそのまま保つように演算を拡張しておくと,場合場合で違った式を用いることなく,問題の性質に応じて一度式を作っておけばよいという点で思考が楽になることや,正の数・負の数が数として自由に扱えるためには,その計算法がはっきりしていなければならないことなどが明らかになっていないと,これからあとの指導に無理が生じてくる。これまでの指導でこうした点が明らかになっていれば,正の数 負の数について乗除の計算を考える必要も,また,その計算の意味や方法は,これまでのどんなことをもとにして,これを拡張していけばよいかということも,楽に考えられるだろう。

 こうして,乗法が,ある量Aと,他の量BのAに対する割合を知って,Bを求める計算であるというこれまでの理解が,(四則の項参照:たとえば,時間A,距離B,BのAに対する割合としての速さをとって考えてみよ。)割合やA・Bの量に符号を考えても,やはり成り立つことを理解させていくがよい。

 そして,乗法の意味が明らかになれば,符号のついた数の除法は,これと同様に,また,乗法の逆算として,やはり,今までと同じことになっていることも,理解されるであろう。

 このようにして,乗法の意味が理解され,次に述べる計算の規則が理解されたならば,逆数の考えを負の場合をも含むように拡張して,加・減を一つにまとめたように,乗・除もまた,一つにまとめられることを理解させる。こうして,式を扱う場合に,和と積とが,その基本的な構成要素と考えられることを理解しやすくしておくがよい。
 
7.乗・除の計算法

 乗・除の計算規則の基本は,その符号の法則である。これは,乗法の意味や必要がわかれば,いろいろな種類の手がかりから帰納させていくことができる。さらに,こうした符号の法則は,単なる積の計算だけでなく,かっこをはずすような式の計算のときにも役だつことを理解させ,その応用を広くするようにしたほうがよい。
 
8.さらに進んだ指導

 こうして,正の数・負の数が,計算のできる数として確立されたならば,そのあとは,この見方で,いろいろな数量的な処理の原則や方法を単純化・機械化していくことが必要になる。この機会としては,式の計算(同類項の簡約・かっこの用法),方程式の解法(移項の法則,一般の形にまとめること),公式の変形などがある。

 これとともに,正の数・負の数の意味を考えたり,加法・減法を考えたりする時に用いた数直線を一般化して,数と直線との対応を明らかにしていくことが,座標の考えを理解していくために必要になる。

 座標平面や,その上の直線の方程式が,自由に扱えるようになってはじめて,正の数・負の数の理解が確実になったといってよいであろう。

 

§2.四  則

A.四則計算の長所

 四則の計算を用いることによって,既知の量や数,あるいは,より容易に測定できる量から,必要な量や数を,正確に,しかも能率よく求めることができる。

B.四則についての理解
 
1.四則の意味

2.四則の間の関係
3.計算の方法
C.四則の指導

 四則の計算については,既知の数・量と未知の数・量との関係がわかっているとき,その既知の数量から,未知の数量を求めるのに,すぐに,どんな計算を適用してよいかが判断できるようにすること,および,その判断が一度下されれば,あとは機械的な手続きの適用として,問題の関係から思考をきりはなし,簡単に,しかも正確に問題が解決されるようにすることがたいせつである。

 それゆえ,ある量を求めることが必要になって,問題の場面を一度文章で表わしたならば,その文章の中にある数量とことばから,どんな計算が必要であるかが機械的に判断できるようになること,その数字に基く計算ができるだけ機械的になるようにすること,さらに進んでは,問題の場面から,このような解決を可能にするように,必要な数値と関係を取り出すことができるようになることがたいせつである。
 
1.復習の要点

 さて,小学校においては,数の四則については,次のようなことを学習してきている。

 中学校においては,これらのことの復習から,指導が始まるとしてよい。
 
2.加・減の指導

 加法・減法では,小学校で学習した加減の意味を明らかにし,日常に用いられる加減を指示することばについて理解を深めるとともに,諸等数や分数などを含めて,計算の基本原理として単位をそろえること,上位の単位と下位の単位との関係に基いて,繰上がり・繰下りが行われることの理解を深めていくのが,一年の仕事である。二年になって,正の数・負の数を扱うときになって,加・減の意味は,小学校で学んだものから,全体・部分という関係にこだわらない意味(すなわち,さきに四則の意味のところにあげた(1),(2)の(a)から(b)のほうに)にまで高めていく。同時に,文字式についての計算において,同類項の考えが,数の場合の単位に相当するものであり,同類とみられない項の間には,繰上がり・繰下りのないことを理解させることが必要である。
 
3.乗・除の意味

 乗法については,小学校では,累加として理解してきているとみてよいであろう。また,除法については,包含除・等分除の意味を理解してきている。中学校では,これらの復習から指導が始まるが,乗法について,いつまでも累加の意味にだけとどまっていると,小数や分数による乗法や除法の意味が理解できず,これらの用法や比例の概念などの指導がむずかしいものになる。

 累加としての乗法から,一般の乗法へと高めていくには,次のような段階を経ていくのが妥当であろう。

 これらの指導において留意すべき点は,A,Bの位置を取り違えて書いたり,乗除を取り違えて計算したりすることである。このような誤りを犯すのは,A×pや,B÷A,B÷pの形を,上のような考えのもとに,これまで考えていなかった範囲に拡張して,思考の形式化をはかって精神的労力の節約をはかろうとする考え方が,まだ,はっきり成立していないうちに,形式的に学習したためである。
 
4.乗・除の意味の発展

 こうして,乗・除の意味を理解していくとともに,実際の場合に,どんなことばを用いてこの関係を表わしているかを知り,この言葉の種類をしだいに豊かに知っていくように指導し,ある機会にこれをまとめてやることも必要である。

 ついで,AのBに対する割合は,BのAに対する割合の逆数になっていることの理解から,除法は乗法の逆の計算であることの理解を深め,逆数の考えを用いれば,除法で表わした計算は,乗法で表わすことができることを理解させるがよい。このようにして理解を深めていくならば,たとえば,S=abやS=b/aのような関係式に基いて,Sとbとの比例の関係を認めていくことが容易になるであろう。
 
5.四則の計算法

 整数の加法や乗法の復習の間に,交換・結合・分配の法則を明らかにし,われわれの用いている計算法が,これらの法則を利用して,数の計算をより簡単な場合の計算に帰著させて,計算法を機械化していることを理解させ,この理解に基いて,しだいに計算法をくふうし,必要に応じて,いろいろな簡便な計算もできるようにしていくことが必要である。このような例としては,25をかけるかわりに4で割る計算とか,そろばんの計算で,258を引くかわりに1000を引いておいて742を加えるとかいう例がある。

 そろばんの使用については,小学校では,加・減について基本的な理解とある程度の技能が,身についているものとしてよい。中学校では,この技能を,さらに,正確さと速さとが増すように伸ばしていくことが必要である。

 乗・除の計算については,乗数・除数が整数である場合について,小学校で指導してあるから,上にあげた法則の理解と,十進数・分数の意味,新に拡張した乗法・除法の理解とに基いて,乗数・除数が,小数や分数の場合にまで拡張し,その技能を身につけることが,中学一年での仕事である。(十進数及び分数の項参照)
 
6.計算尺による乗・除

 乗・除の計算法としては中学二年になって,計算尺による方法が指導されることになっている。この場合に,次の二つのことをはっきり理解させる必要がある。その第一は,乗・除の場合の位取りの決め方であり,その第二は,乗・除の場合の目盛の読み方である。

 第一の方は,積や商の第1位を概算して位取りを決める(たとえば,概算の結果が9×103となり,目盛の読みが1.05となれば,10500を答とする)ことを理解させていけばよい。

 目盛の読み方としては,次の三つのことが理解されなければならない。

 この指導では,まず,C尺,D尺を用いて,1から10までの数について,目盛のつけ方を観察によって理解させ,目盛線にある数値を読んだり,その目盛を見いだしたりすることから,しだいに,目盛線をはずれる数値になれさせる。ついで,首位が1の位にない数値についても,その位取りをかえて,これを1から10までの数として,目盛を合わせることを指導していくがよい。このうちに,計算尺をもつ姿勢や目の位置,カーソル線の合わせ方を指導するがよい。

 次に,乗法・除法の目盛のとり方を理解させていくのであるが,このときも,初めは目盛線にきっちり合うような数値で,原理を理解させ,ついで,目盛の端下を読むような場合に移るがよい。そして,この間に,カーソルやC尺・CI尺の動かし方(両手の指をかけて,左右から力を働らかせつつ移動させ,移動が円滑にゆっくりといくようにする。)を指導するがよい。

 こうして,くわしさに対する理解の発達をまって,計算尺は乗・除の計算に便利な道具であること,計算尺による計算では,数値のくわしさが自然にそろってくることなどを,理解させていくがよい。

 

§3.計  量

A.計量の長所

 どんな量を表現しようとしているかを考えて,その目的に応じた単位とくわしさとで,量を数に表わしておくと,量の大きさが明確に示されるので,その量についての判断が客観的になる。

B.計量の理解
 
1.測定の意味
 測定とは,基準にとる量(単位)を決めておいて,ある量を基準の量と比較して,その何倍あるかという数値と基準の量とで,量を表わす手続である。

 この基準にする量は,その大きさが客観的なものであって,他の基準の量との関係が,計算につごうよくできているものほど,目的にかなう。
 
2.測定の方法

 計器をくふうして,計器の目盛を読んですぐわかるように(たとえば,電力のメーターのように)するか,もっと容易に測定できる量をもとにして,これから計算して求めるように(たとえば,長方形の面積の公式のように)するかなどして,できるだけ測定の労力が少なくてすむようにしている。
 
3.測定値

 測定して得る値には,個数を直接数える場合を除いては,いつも誤差が伴っている。この誤差の大ききは,正確にはわからないが,その測定の方法から,どの程度以下であるかは判定できるし,また,必要に応じて,測定の方法をくふうすれば,もっと小さくすることもできる。

C.計量についての指導

 計量についての指導は大きく分けて,直接測定による場合と間接測定による場合とになる。直接測定は,主として中学一年で指導され,間接測定は,中学二年で指導されるとみてよい。
 
1.直接測定の指導

 中学一年では,長さ・角・時間・時刻・ます目・重さなどの基本的な量について,小学校からの学習をまとめることから指導が始まる。そして,どんな場合にこれらの量を用いたらよいか,どんな計器で,どんな単位で,どのようにして測るかなどを理解させるのが,おもな仕事である。ここで,中心となる理解事項としては,次のようなことが考えられる。

 こうした理解をもとにして,日常用いられる各種の計器の種類や使用法を知らせ,その取扱,特に,目盛の読み方に習熟させるのが,中学一年の仕事である。

 そして,測定して得られる値には,避けられない誤差のあることに,漸次,目を向けていくがよい。こうした測定値をいかに処理するかは,間接測定のような,誤差の大きくなりやすい測定の発展をまって,中学二年で指導していくのが適当である。
 
2.各種の量の意味

 なお,各種の量が,どんな場合に必要になるかのまとめの例を,次にあげてみよう。

3.ヤード・ポンド法および計量法についての指導

 なお,単位系として,ヤード・ポンド法の単位系については,英米では,これが主として用いられていることを知らせ,そのメートル法との換算の方法を理解させればじゅうぶんであって,換算の率や各種単位間の関係を覚えさせることは必要ではない。また,度量衡原器や各種単位の発生の歴史などの話は,単位のもつ社会的な意味を理解させるのに役だつであうう。しかし,このような知識は,それ自身として,重要なものではない。

 直接測定の指導で,知識として重要なことは,次のことである。

        
        


4.測定値の処理

 測定値の性質については,一年のころからしだいに理解を深めていって,二年になって,その適切な取扱方を問題にしていくようになっている。この間に,次のようなことを,主として,理解させていくがよい。

5.直接に測定できるようにするためのくふう

 二年,三年と進んで,比例に対する理解が深まってくるに応じて,その応用として,次のようなことを理解させることができる。すなわち,われわれは,できるだけ直接に測定することによって,手軽に量の大きさを知ろうとして,いろいろな器具をくふうしている。そして,その場合に,いろいろな比例関係をもとにして,目盛を等間隔にして,読みやすいようにくふうしている。このような例としては,温度計・さお秤・バネ秤・雨量計などがある。
 
6.間接測定の指導

7.概  測

 概測についての指導は,小学校から行われている。この概測についての重要なことは,次の事がらである。

8.その他の場合の測定

 量を数で表わす場合として,以上のほかに,個数を数える場合と,平均値などによって集団の傾向を表わす場合とがある。これらについては,やはり,上に述べた基本的な理解事項の多くは,そのまま当てはまる。その指導において注意すべき点は,次の点である。

D.指導上の注意  

§4.比および数量関係

 Ⅰ.比および比例

A.比および比例の長所

B.比および比例の理解
 
1.同種の量の比の理解

 同種の量についての比は,一方が他方の何倍になるかという関係を表わす。この場合には,両方を同一の単位で測りさえすれば,何倍かという値は,単位によって変らない。(この数値を比の値という)
 
2.異種の量の比の理解

 異種の量についての比は,一方の単位量当りの他方の量を表わす。この場合には,それぞれの単位を決め,その単位で表わした数値の比用いる。この比の値は,用いた単位によって異なるから,その単位を明示しなければならない。(たとえば,人口の面積に対する比は,人口密度といわれている。これは,面積を表わす単位として,km2をとるか,平方里をとるかによって,値が異なる。)
 
3.比の値と二量の大きさの関係の理解

 比の値と,基準になる量の大きさとがわかっているときは,その基準の大きさに比の値をかければ,比で表わされた量の大きさが,基準の量と同じ単位を用いて求められる。
 
4.比例の理解

 二量ABが比例していて,Aがx1,x2,x3,……の値をとるとき,Bがy1,y2,y3,……の値をとるように対応していると,

5.その他の比例
 相伴って変化する二量A,Bがあるとき,一方の量Aの逆数をとったり,Aと一定数との和や差をとったりして,これと他方のBとの比例関係をみつけることができることが多い。

C.比および比例の指導

 小学校では,同種の量についての比の意味や比の値について,ごく簡単な場合について指導され,比・比の値・割合・百分率・パーセントなどのことばに親しんできているものとしてよい。

 中学校では,これらのことの復習から始まって,比が広く社会で用いられていることを理解し,そのいろいろの用い方に親しんでいくとともに,進んで,これを適切な場合に自由に使えるようにしていくことがおもなねらいである。そして,中学校におけるおもな指導内容の多くは,この比の考えを用いるためのものであり,また,比の応用であり,発展であるといえる。(数計算・経済的な応用・指数・比例・相似・三角比など)

 したがって,この比の考えをはっきり理解し,これをいろいろな場面に使いこなしていけるようにすることは,中学校数学科の指導のねらいの大部分を占めているといって,過言ではない。
 
1.小学校の復習の要点

 中学校での発展は,だいたい,次のように考えられる。まず,小学校の復習として明らかにすべきことは,次のことである。

 同種の量について比を用いる場合

2.中学一年の指導

 こうした理解をもとにして,比の意味を,同種の量についての場合から,異種の量についてのものに広げて,比の用いられるいろいろの場合を通して,比の用い方の理解を深めていくのが,一年としてのおもな仕事である。そして,この間において,理解すべき事がらは,次のようである。

3.中学二年における比の指導

 二年になって指導することは,根本において,上と同じことである。それに加える新しい内容をあげると,次のようである。

4.比例の指導(二年)

 こうして,比についての理解が深まっていくについて,二量が比例して変化する場合の多いことに気づくであろう。その関係のしかたを表わすことばとして,比例を導入してくることが,一つの仕事である。すなわち,

5.三年の指導

 二年から三年にかけては,次に述べる数量関係についての理解を深めるとともに,上に述べた理解をいっそう深め,一次の関係などについても,その中に比例を見いだすことができるようにし,比例という概念を用いて,思考を簡潔にできることを理解させていくがよい。こうした理解を深める機会としては,税金の計算や平方根の用い方などがある。

 以上を要約すると,比の指導においては,基準が何であるかを明らかにして関係を考えること,および,基準量・比の値・比で表わされた量の,三者の間の関係を理解させ,これをいろいろな問題に用いていくことなどが重要なことであるといえる。

 

 Ⅱ.数量関係

 (ここに数量関係としてとりあげたのは,いくつかの決まった数量を比較した場合の大小相等の関係と,いくつかのいろいろな値をとりうる変量の間の函数関係とをさすものである。)

A.数量関係をみることの長所

B.数量関係の理解
 
1.比較の方法の理解
 数量を比較するには,大小でみる場合と,比でみる場合とがある。どちらの場合にも,基準となる数量を明らかにしなければならない。
2.対応を用いる原則

 いくつかの数量が互に関係して,いろいろな値に変化ている場合には,そのうちの一つの数量の値一義に決めるために必要な数量が,何と何であるかを考えて,これらを対応させ,次に,その対応している数値の関係をグラフや式に表わしていけば,一般に成り立つ規則が見つけやすくなる。
 
3.変量による考察の原理

 二つの量がいろいろな値をとりながら対応しているときに,一方の量が他方の量にどのように影響しているかを明らかにするには,一方を一定の順序に変化させ,これを独立の変量とみ,他方をそれに対応る変量として,独立変量の変化の順序に従って比較していくとよい。

C.数量についての指導

 大小や相等の関係を変化しない二量について考えることは,すでに小学校で終っているとしてよい。ただ,この場合に,いつも基準となるものを明らかにすること,および基準にとるものが両者で違っているときは,基準をそろえること(これは,比のときに説明したことである)に注意していけばよい。そこで,二量が変量である場合について,次に述べる。
 
1.変数・変量の考え

 変量や変数の考えをはっきりとりあげて指導するのは,中学二年からの仕事であるが,中学一年のときには,その素地になることとして,次のようなことを理解するように指導することが必要である。

 こうした指導によって,問題の解決に必要な数値が何であるかを見いだすことができ,また,二量の関係をグラフにかいたとき,そのグラフについて,傾向を見いだすことができるようになるにつれて,変量に対する素地が豊かになってくる。

 また,二年になって,比例や反比例の関係を考えるときに,変量による考え方が生れてくる。
 
2.一次の関係

 そして,三年になって,この考え方は,文字を用いて表わした公式を,単に数値を計算するためだけでなく,二量の関係としてみるようになって,いっそう伸びていく。

 この場合,主としてとりあげるのは,一次式で表わされるような関係である。これについては,次のようなことが理解されればよい。

§5. 表・数表およびグラフ

A.表・数表およびグラフの長所

B.表・数表およびグラフの理解
 
1.表の理解

 表は,実験・実測・調査などによって得た数値をひとまとめにしたもので,次の特徴がある。

2.数表の理解

 数表は,特殊な函数関係を数値によって示したもので,そのもとになっている函数の性質によって,表に出ていない数値についても,表を利用することができる。
 
3.グラフの理解

 グラフは,資料の数値を図形の大きさにおきかえたもので,次の特徴がある。

4.表・グラフの用い方

 表もグラフも,ある約束に基いて関係を表わしたものであるから,この約束を守って用いないと,明確な表現とはならない。

C.表・数表およびグラフの指導
 
1.表の指導

 小学校では,表を読んだり作ったりすることについては,簡単な二次元のものについて,自由にこなせる程度にまで指導されているとみてよい。

 すなわち,表が数値の記録や比較に便利なものであること,二次元の表で必要な数値をどのように見いだすかの方法,二次元の表を作るときに気をつけるべき事項などは,だいたいの生徒はわかっているものとしてよい。

 中学校では,与えられた表(たとえば,年鑑などにある統計表)を自分の目的にかなうように作りかえたり,表から傾向を読み取ったりすることに指導の重点をおいてよい。
 
2.表についての復習の要点

 小学校の復習をしている間に,ます,次のことを明らかにしていくがよい。

3.中学一年の指導

 このような復習とともに,二次元の表では,縦に数値の変化を見ていって傾向を見いだすこともできるし,横に数値を見ていって傾向を見いだすこともできること,すなわち,縦どうしの傾向を比較することもできるし,横どうしの傾向を比較することもできることを理解させるがよい。

 そして,一年の指導では,資料から差や比を求めたりして,このような傾向を発見することに主眼をおき,縦横に項目を配列することが,傾向を条件づける要因を分析していることになることを理解させていくがよい。
 
4.中学二年の指導

 二年になって,数値のくわしさや正しさに対する見方がはっきりしたころ,あるいは,その前において,数値の信頼性を示すのに,—,?(),0などの記号が用いられていること(普通,—は,そこに該当するものがないこと,0は,実際に数値が0であるか,または無視しうるくらいに小さいことを示す。?は,数値の信頼性が他の数値より劣ることを示す。)や,表中の数値は,多くは近似値であるから,個々の数値の総計と表にある総計とは,少しは違いのあることがあるということを理解させていくがよい。

 なお,数値を縦横に配列するとき,その間に,けい線をあまりいくつも入れると,かえって見にくくなるから,けい線をとっても,縦横にきちんと数字が並ぶようにし,数値が5個ぐらいになるごとに間をいくらかあけるようにするなど,見やすくする上の注意も必要なことである。
 
5.特殊な函数関係を示す表

 計算の手数を省くために用いる表についての指導は,次のようになる。

 一年ないし二年では,換算の計算のように,日常くり返し必要になる同種の計算については,その結果を表にしておくことによって,いちいち計算する手数が省けいること。このような例として,旅客運貸・複利表・税額表などがあること。比例の関係にある二量についての表では,表にある数値aと位取りだけが違う数値bに対する数値b’は,aに対する数値a’の位取りを同じように変えて求められること。換算の表では,十進法をもとにした誘導補助単位についての換算にも,上と同じようなことができること。これらのことを理解させるがよい。

 さらに,三年になって,一次の関係や比例の関係がもっと問題になってくるときに,一次補間の方法(比例部分)が適用されること,およびその他の関係の場合にも,連続した二量の差があまり変らないときには,近似的に一次捕間(比例部分)が用いられることを理解させるがよい。

 そして,この理解と平行して,平方表・平方根表の使い方として,もとの数の位取りと平方あるいは平方根の位取りとの関係を理解させ,平方表・平方根表がさらに広い範囲に適用されることを知らせ,その能力をうるようにすることが必要である。
 
6.グラフの指導

 小学校で指導されているグラフとしては,絵グラフ・棒グラフ・折れ線グラフ・円グラフ・帯グラフおよび正方形グラフなどがある。

 中学一年では,これらのグラフの作り方を復習するとともに,そのおのおのの特徴やグラフ・表のそれぞれの長所を明らかにして,いっそう合目的的にグラフを用いて,いろいろな数量関係を明らかにしていくようにすることがねらいである。そして,これらのグラフを適当に組み合わせて,より複雑な関係を分析していけるようにしていくのが,一年から二年にかけての主要な仕事である二年から三年にかけては,グラフが函数関係を表わすものとして,しだいに函数概念の理解に役だたせつつ,函数のグラフについての理解を深めていく。
 
7.グラフについての小学校の復習の要点

 小学佼の復習としては,まず,次の事がらを明らかにする。

8.柱状グラフの指導

 一年から二年にかけて,棒グラフからさらに進んだものとして,柱状グラフが必要になることが多い。これらについての理解は,次のようなものである。

9.さらに進んだ指導

 このようにして,一つ一つのグラフの用い方が明らかになるにつれ,これらを組み合わせていっそう複雑な関係を表わしていくようになる。

 これについての理解は,次のようなものである。これを指導するのは,一年の中ごろから,三年・三年にわたっている。

10.座標の概念

 このようにして,函数のグラフにまで理解が高まるときに,これに座標の概念が裏付けになっていることを理解させるがよい。

 すなわち,表の読み方もグラフの読み方も,横・縦の直交軸を基準にして点の位置を決めていること。また,その他の場合にも,このような点の位置の表わし方が用いられていることを理解させ,正・負の数を用いることによって,平面上の点が座標によって一義的に表わされることを理解させる。これをもとにして,平面上の直線が,また,一つの式で表わされるという,これまで函数のグラフとしてみてきたものに,逆の方から意味づけを行って,式・座標・グラフの結び付きを理解させるがよい。

 

§6.代数的表現

A.式による表現の長所

 数量的な傾向や法則,あるいは数や量についての相等の関係を式を用いて表わすと,次のような利点がある。

B.代数的表現の理解
 
1.文字の表わす意味
2.等号についての理解

 

 等号は,用いる場合によって,次のような意味の違いがある。

3.数量の間の関係を表わす式

 公式は,ある数量が他の数量の値からどのように計算して求められるかを,計算式で一般的に示すことによって,数量の関係を表わしたものである。
 
4.方程式の意味

 方程式は,特定の場合だけに成り立つ相等関係を等式で示すことによって,式中の文字のとる値を条件づけたものである。

 

C.代数的表現についての指導
 
1.数量の関係を表わす式についての指導

2.式の計算の指導

 公式や方程式を用いていく過程において,式を計算することが必要になる。式を計算するというのは,式を期待する形のものに変形することであり,期待する形としては,多くの場合,最も項の数の少ない形にすることが普通である。

 この計算における理解事項としては,数計算の場合と,どんなことが同じで,どんなことが違うかを知ることが中心といえよう。

 中学二年では,さきに述べたように,式の規約としての乗・除の表わし方,かっこの用法,および計算の順序などを知るわけである。そして,式の計算においても,この規約がいつももとになっていること,すなわち,式を計算するときも,文字を数と同じように考えて,乗除の順序やかっこの使用が行われることを指導することが必要である。

 このことから,式における項の意味が生れてくる。すなわち,文字や数について,乗除の計算で結び付いた一かたまりが,加・減の対象となることをまず理解することが必要である。そして,同じ文字因数を持った項は,同じ単位を持つ数のように,その数係数についての加減ができること,および,異なる文字因数を持つ項は,それ以上簡単にならないことを理解させ,同類項の計算になれさせることが,式の計算としての第一歩であろう。

 次に,式についても,分配や結合の法則が成り立つことをもとにして,かっこをはずしたり,くくったりすることなどの指導に移るがよい。このときに注意すべきことは,係数としての1および0についてである。係数1は,特別の場合のほかはかかないこと(1・x=x),係数が0のときはその項は0であって,これもかかないこと(0・x=0)をはっきり理解させないと,式の計算が困乱する。また,負号を前にしたかっこの式をはずすときに,符号の誤りをしやすい。これも−(a−b)=+(−1)(a−b)と考えて,まちがえないような癖をつけていくことが必要である。

 文字式の乗除についても,根本は上と同じことで,そこに適用する数の法則が指数法則であることを理解されればよい。このときも,指数1について,特に注意して指導することが必要である。(a1=a)
 
3.恒等的な関係を表わす等式

 計算のもとになる結合・分配・交換などの法則や,等式の持つ性質などを簡潔に表わすためにも,等式が用いられる。

 この等式として指導されるものには,結合・分配・交換の法則,指数法則,二乗公式および和差の積の公式などがある。これらについての理解事項としては,

4.文字を用いる際の生徒の誤りやすい点
5.方程式についての指導

 方程式の考え方として,未知のものをわかったものの如く考え,わかったものとの関係を等式にかいて,未知のものを条件づけることは,小学校では,逆算として,除法や減法の意味を考えるときに指導されている。(すなわち,□×8=40のような表わし方で,除法を考えた経験はもっているものとしてよい。)

 こうした考え方を,公式などを利用するのに積極的に用いたりして,方程式という概念がはっきり取り上げられるのは,中学二年である。中学二年以後の指導においては,このような考え方で,未知の数量についての条件を等式にかくこと,およびこの等式を数値の計算の関係を示すものとみて,機械的に解けるようにすることの二つに,指導の重点が置かれる。
 
6.方程式のたて方の指導

 方程式のたて方の指導としては,方程式の意味の理解(方程式は,文字が特別の値をとったときにだけ成り立つ等式で,この等式が文字のとる値に条件を与えていること)と,何を未知数として,どのように方程式をたてていくかという方法についての理解とがたいせつである。

 そして,後者については,次のような順序で考えていくことが,一般的にいって能率がよいことを理解させるがよい。

 このようにして,二年から三年に進むにつれて,どんな条件が方程式に表わしやすいかを理解させつつ,しだいに複雑な関係が式にかけるように指導していくがよい。

 三年になって,上の(2)については,さらに文字(未知数として一つの文字ばかりでなく,二つの文字を用いることもあること,および,文字の数を少なくするよりも,文字の数を多くしても,条件を式に表わすことが簡単になるように考えていったほうが,考えを進めていく上に楽であることなどを理解させるがよい。

 同時に,これらの指導を通して,方程式で表わされるのは,問題の数値の間の相等関係だけであり,その他の条件は表わされていないこと,したがって,ある場合には,方程式だけでは問題の条件を尽していないことがあることを理解させ,方程式を解いて得た答を,さらに,検討して,問題の答とするような習慣をつくることも必要である。
 
7.方程式の解き方の理解

 方程式は,思考を形式的機械的にして,思考過程をだれにもわかるようにし,しかも,楽に進めていけるようにするためのものである。したがって,その解法も,だれにもわかる原理に基いていること,しかも,その原理の適用が機械的にできるようなものにすることが解法としての重点である。

 逆算による解き方から等式の性質を利用した解き方へ,さらに移項による解き方へと指導していくときには,いつも,あとの考え方が,前のものより,いっそう計算を進めるのに形式的で,楽になっていることを確認させることがたいせつである。

 それとともに,複雑な形の方程式に対して,一般にどんな順序で計算を進めていくかの方針を理解させ,一つ一つの方程式については,できるだけ計算が機械的になるように心がけていくがよい。

 根の確め方についても,上の解法の原理が,いつも同値な関係をたどっていることを考えさせ,代入して等号が成り立たないときに,そこからあとの計算に誤りがあることを理解させるがよい。

 グラフによる解法は,根が近似値でよい場合や方程式の意味を考える場合には便利であるが,正確に能率よく根を知るためには,あまり便利でないことをよく理解させる。また,グラフを手がかりとして,二元の方程式の意味にはいっていくことは,わかりよい方法であろう。

 二元の方程式では,方程式一つでは未知数が決まらず,二つの未知数の間の対応関係しか決まらないこと,および,これが二つあるときにはじめて,二つの未知数が決まることを理解させる。こうして,二元方程式を解くことの意味の理解を確立することが,まず,必要である。その解法については,消去の意味や消去のための機械的な方法としての加減法を理解させればよい。

 

D.指導上の注意

 

§7.図形による表現(縮図・地図・投影図)

A.図形による表現の長所

 物の形・位置・つながりなどを,目的に応じた適切な図を用いて表わすと,ことばでいうよりもわかりよく,他の方法では表わせないような複雑な関係をも,明確に示すことができる。

B.図形による表現の理解
 
1.表現についての理解

 平面の上の図で,物の形・大きさ・位置・つながりなどを表わそうとすると,そのおのおのの場合の目的に応じた約束や記号が必要になる。
 
2.縮  図

 平面の上の物の形と大きさは,その形と相似な図形とその相似比とで示すことができる。
 
3.地  図

 地形は,水平面上で考えた地物の形,および,水平面に平行な一定間隔の平面で切った切り口を水平面へ投影した形の相似形と,その相似比とで示すことができる。
 
4.投 影 図

 人工物では,互に垂直な部分が多いので,等高線のような方法では,形が示せない。そのため,互に垂直な二つ,あるいは三つの平面を考え,この平面へ投影した形の縮図を,一枚の平面の上に,一定の約束で広げた図面で示すようにしている

 

C.図形による表現の指導

 小学校では,案内図をかいたり,簡単な縮図や地図で方位・道のりを求めたりすることが指導される。社会科でも,これらのことのほかに,等高線の意味や,等高線の状態と地形の特徴との間の対応が,ある程度までわかるように指導されているとみてよい。

 中学校での指導は,これらの背景として,相似の概念が含まれていることを明らかにし,相似の条件から縮図や地図を作っていく方法を理解し,図的表現を,一つのことばとして,自在に使えるようにしていくことがねらいである。この間の指導において,それらの図表示では,何が正しく表現され,何は表現されていないか,どんな約束で表現しているかなどを理解させていくことが重要である。
 
1.小学校の復習の要点

 まず,小学校の復習として明らかにすべきことをあげると,次のようになる。

2.中学一年の指導

 こうした復習とともに,縮図が地面の上のものを示すだけでなく,人工物の形を示すものとして,断面図や平面図などとして用いられることもあること,また,縮図とは逆に,拡大図も用いられること,これらの場合に,図では示せない重要なものは,いろいろな記号をくふうしてわかるようにしてあることなどを理解させるがよい。
 
3.中学二年の指導

 中学二年では,縮図を作ったり,縮図を作って必要な部分の長さや角を測ったりすることが指導される。その際の基本的な理解事項は,次のようなことである。

4.等高線の指導

 こうした理解をもとにして,相似の概念を実際的に役だつように理解し,用いていくことができるようにするとともに,等高線についても,次のような理解を深めて地図の用い方になれさせ,他の概念の理解の素地を作っていくがよい。

5.中学三年の指導

 中学三年では,図的表現として,これまで二次元的なものしか扱わなかったのを,三次元のものにまで押し進めていく。すなわち,平面図や断面図などで示した物の形の表わし方を発展させて,投影図にまとめていくのである。そのときの理解事項としてたいせつなことは,次のことである。

 中学三年では,このような基本的な理解をはっきりさせ,簡単な投影図を読んで実物とよく対応できるようにすることや,これをかくことができるようになればよい。

 この指導に当って,実際の技法については,図画工作科の指導とよく連絡することが必要である。

 

D.指導上の注意

 

§8.簡単な図形

A.図形の長所

 日常に用いている物の形や位置関係には,その物を使う目的に応じて,美しさ・安定性・扱いやすさ・作りやすさなどの点で,何らかのよい点をもっている。そして,そのよいところは,図形についての簡単な数量的な関係に基いている。

B.図形についての理解
 
1.関係のとらえ方

 いろいろな図形や図形の間のいろいろな関係は,図形を組み立てている点・線・面の結合しかたや位置の関係あるいは,線の長さや角の大きさの関係で,特徴づけることができる。
 
2.図形の分解

 複雑な図形について,その性質を調べたり,これをかいたりするときには,その目的に応じた簡単な基本図形,(たとえば,性質を調べるときには三角形,長さ・面積などの計算のためには正方形や直角三角形など)に分解して,調べやすい部分になおしていくことができる。
 
3.平行・垂直の理解

 直線や平面の間の平行・垂直の関係は,物の形をきちんと組み立てたり,長さを測ったりするときのもとになる。
 
4.合同・相似の理解

 図形の形を区別したり,実際にあるものを模写したりするときは,合同や相似の条件によって,そのものを構成している直線や角の関係をもとにすればよい。
 
5.美しい形

 きちんとまとまった単一の図形やそれを一定の規則で配列した図形は,美しい感じを与える。そして,これらの図形の特徴は,その角や辺の間の関係や合同・相似などの関係によって,とらえることができる。
 
6.直角三角形

 直角三角形の辺や角の間には,簡単な式で表わされる関係がある。この関係を利用して,必要な長さや角を,計算によって,正確にしかも能率よく求めることができる。

 

C.図形についての指導

 図形についての指導では,いろいろな図形や図形の間の関係を見いだし,それをもとにして,実際の問題を解決していくことをねらうのが中学校での仕事である。図形について論証の性質を明らかにすることは,高等学校での仕事である。

 小学校では,直観的に立方体・直方体・円・長方形・正方形・球などの図形を見いだし,他と区別することや,平行・垂直を直線どうしの組について見いだすことが指導されている。中学校では,これらのものについて数量的な特徴づけをして,そうであるものとないものとを,測定によって区別できるようにするという点で,小学校の扱い方より論理的になるが,公理などを設けて,それから証明するということは考えない。
 
1.平行と垂直の関係についての指導

2.いろいろな形の名まえおよび合同・相似についての指導
3.形の美しさや有用性

 形の美しさや有用性についての指導は,前の二者の指導に並行して行われるのがよい。

 

D.指導上の注意

 

§9.実  務

A.実務における数学の長所

 おかねは,経済的な価値の尺度であって,正確なおかねの計算によって,経済的な関係を,円滑しかも公正に取り扱っていくことができる。

B.実務についての理解
 
1.バランスの原理

 ある期間のおかねのやりとりでは,たとえば,収入と支出のように,はいってくるおかねの合計と,出ていくおかねの合計とは,等しくなっている。
 
2.比例の原理

 おかねを貸借したときの報酬やおかねの生み出す利益は,期間の長さと金額に比例する。
 
3.おかねのはたらき

4.信  用

 おかねは信用をもとにして流通している。このはたらきをいっそう円滑にするために,いろいろな信用制度が作られている。
 
5.記録と計画

 おかねを有効に,かつ公正に使っていくためには,数量的な記録や計画が必要である。
 
6.指  数

 時間的に変化していく生産量・物価・賃金などの諸量は,ある時期におけるこれらの量を基準として,他の時期の量を,その基準に対する百分率で表わしておくと,その量を表わす単位に関係なく,量の変化が比較できて便利である。

 

C.実務の指導

 数学科の指導内容として,利率・税・手形などの経済的な事項があげられているのは,次の理由による。

 したがって,この内容を,ただ単なる知識として,指導するだけではふじゅうぶんであって,数学の重要な応用面として,どんなふうに数学が応用されていくかという,その根本になることを理解して,気やすくこれらの数量的な処理ができるようになることが必要である。

 こうした見地から,その根本になることを考えてみると,経済的事項を,加・減の計算にのせていくための基本として,バランスの原理があり,乗・除の計算にのせていくための原理として,比例の原理がある。そして,比例という見方が,ある意味で当てはまらなくなる場合として,上の理解の3であげた事実がある。こうしたことの理解の上に立てば,おかねの計算が気やすく,しかも能率的にできるようになる。また,新しい事がらにぶつかっても,その意味をやさしくはあくしていくことができる。
 
1.小学校との連絡・中学一年の指導

 小学校では,こうしたことについては,おつりの計算,仕入れ,売買の利益・損の関係,簡単な記帳や予算のたて方,郵便料金,預貯金の手続きなどが指導されている。中学一年では,こうしたことの復習から始まって,そこに割合の考えを取り入れて,もっと関係を明確にしていくことから指導が始まる。

 その主な理解事項をあげると,次のようである。

 この面の理解は,さらに,中学二年・三年となったとき,株券や手形・小切手などの信用制度・保険証書などを知るときにも,そのまま伸ばされていく。

 さらに,中学一年の重要な仕事としては,損や利益がおかねの単位を用いて表わされるだけでなく,もとでに対する割合で表わされることを理解することである。
 
2.売買における実務の指導

3.必要な実務についての知識

 上に述べたような数学面の理解とともに,次のような事がらについての知識も指導されてよい。

 このような社会における実務の理解とともに,これを個人生活に適用していく面として,予算についての指導がある。この場合に必要なことは,数量的な記録と計画の必要性,分類した費目ごとの計画と記録の必要性,バランスと比率を考えることの意味などがおもなものである。
 
4.中学二年の指導

 中学二年では,株式や債券・複利計算について学習するが,この場合に理解させることは,次の点である。

5.中学三年の指導

 中学三年では,いっそう進んだ実務として,小切手・手形についての知識,保険・税についての知識が指導される。この場合に主要なことは,次の事がらである。

6.指数についての指導

 品物の値段は,時期によって,値上り・値下りがあること,この値上がり・値下がりが生産に大きな影響を与えること,および,これを数量的に明確につかむことが重要なことがらであることは,中学二年ぐらいで理解できることである。こうしたことを理解するものとして,指数を用いる考え方が,中学二年から三年にかけて指導される。

 その中心となることは,次の事がらである。

 

D.指導上の注意

 

歩 合 に 関 す る 実 務 の 用 語


場  合
歩合高
歩   合
期  間
元  金
元金±歩合高
売  買

割引(売買)

利息計算

株  式

債  券

証券投資

手形割引

保  険

利益・損

割引高

利 息

利 息

配当(金)

利 息

利 益

割引高

税 額

保険料

利益・損の歩合(歩合,%)

割引率(歩合,%)

年利,月利(歩合)

日歩(100円当り…銭厘毛)

配当率(歩合)

利率(歩合)

利まわり(歩合)

割引率(日歩)

税率(%)

保険料率(10,000円につき…何円)

 

 

年,月

 

 

 

原 価

定 価

元 金

元 金

額 面

額 面

買 価

額 面

課税額

保険金

売  価

売  価

元利合計

元利合計

現価(手取り)