教科書は学習指導要領に基いているのであるから,学習指導要領をじゅうぶんに研究することによってのみ,採択基準をじゅぶんに理解することができる。
2.教師は一般に教育の目標,特に英語の目標を心にとめておくべきである。(第1章参照)それぞれの生徒の必要・社会の必要・市民としての必要および職業的必要に特に注意すべきである。
3.教科書は教師が指導活動をするにあたっての第一の教材となるものであるから,それぞれの学校の独特の英語課程を考慮に入れ,綿密な注意をもってさまざまな要素をじゅうぶんに考慮すべきである。
4.新しい教科書検定制度においてはすべての教科書の質が必ずしも同じではない。かろうじて検定に合格したものもあり,相当よいものもあり,優秀にしてきわめて良好なものもあり,また断然優秀なものもある。検定調査員にはいずれの教科書が優秀であるかを教師に示す方法がないから,英語教師はすべての教科書を評価し,最善のものを選択することができなければならない。
1.中学校における英語課程の目標
聴覚と口頭との技能および構造型式を学習することを最も重視し,聞き方・話し方・読み方および書き方に熟達するのに役だついろいろな学習経験を通じて,ことばとしての英語について,実際的な基礎的な知識を発達させるとともに,その課程の中核として,英語を常用語としている人々,特にその生活様式・風俗および習慣について,理解・鑑賞および好ましい態度を発達させること。
B.おもな機能上の目標
(1) ことばとしての英語を聞いてわかる技能を発達させること。
(2) ことばとしての英語を口頭で表現する技能を発達させること。
(3) ことばとしての英語を読んでわかる技能を発達させること。
(4) ことばとしての英語を書く技能を発達させること。
C.おもな教養上の目標
英語課程の中核として,英語を常用語としている人々の生活様式・風俗および習慣について,理解・鑑賞および好ましい態度を発達させること。
2.高等学校における英語課程の目標
中学校の基礎の上に,生徒および地域社会の必要および関心に応じて異なる技能を重視し,聞き方・話し方・読み方および書き方に熟達するのに役だついろいろな学習経験を通じて,ことばとしての英語について,技能および知識を発達させるとともに,その課程の中核として,英語を常用語としている人々,特にその生活様式・風俗および習慣について,理解・鑑賞および好ましい態度を発達させること。
B.おもな機能上の目標
(1) 高等学校卒業後社会に出ようとする生徒にとって,実際の役にたつような,「ことば」としての英語の技能および知識を発達させること。
(2) 高等学校卒業後大学に進学しようとする生徒が,英語を聞いてわかり,また,みずからも英語を用いて口頭および筆頭で効果的に表現できるような,「ことば」としての英語の技能および知識を発達させること。
(3) 高等学校卒業後大学に進学しようとする生徒にとって,それぞれの専攻部門において,英語で書かれたものを有効に使用できるような,「ことば」としての英語の技能および知識を発達させること。
(4) 高等学校卒業生にとって,英語で書かれた標準的な現代文学の作品を読んで鑑賞できるような,「ことば」としての英語の技能および知識を発達させること。
(5) 大学進学後商業英語の知識を必要とする生徒に対して,商業英語についての一般的な知識を与えるような,「ことば」としての英語の技能および知識を発達させること。
C.おもな教養上の目標
英語課程の中核として,英語を常用語としている人々,特にその生活様式・風俗および習慣について,理解・鑑賞および好ましい態度を発達させること。
話しことばと書きことばとの教材を難易によって配列すること。
語いを選択するということは,科学的に作られる教科書において,最も重要な要素の一つである。しかし,それぞれの学習段階に対する語いの幅は,多くの権威者間において意見の一致を見ていない。したがって次のような表をだいたいの手びきとして示すことにする。
中学校 第1学年
第2学年 第3学年 高等学校第1学年 第2学年 第3学年 |
300ないし600語
400ないし700語 500ないし1,000語 600ないし1,500語 700ないし1,500語 800ないし1,500語 |
語いの難易による配列(すなわち具体的なものから抽象的なものへ)は,中学校において特にたいせつである。なぜならば,初歩や初期の段階においては語いの習得のため生徒に過重な負担をかけることは,構文の型に重点をおいてことばとしての英語を学習することを妨げるからである。生徒が英語を運用する知識を比較的よく身につけるにつれて,語いの負担を増していくのがよい。
B.英語の文体
(1) 中学校においては口語体の標準英語
(2) 高等学校においては口語体の標準英語とともに現代文語体の標準英語初歩の課程においては,基礎的な言語材料を適当な間隔をおいて,またさまざまな文脈において反復することが必要である。またその内容と組織とは,認識する能力から,その材料を用いて自己を表現する能力へと移行するようにくふうされていることが必要である。
C.文の長さ
材料の編修にあたっては,難易の配列になんらかの基準がなければならない。そして文の長さもその要素の一つである。
(1) 聞き方および話し方の文の長さ
中学校 第1学年……………………
第2学年…………………… 第3学年…………………… 高等学校第1学年…………………… 第2学年…………………… 第3学年…………………… |
12語まで
16語まで 20語まで 制限なし 制限なし 制限なし |
中学校 第1学年……………………
第2学年…………………… 第3学年…………………… 高等学校第1学年…………………… 第2学年…………………… 第3学年…………………… |
18語まで
24語まで 30語まで 制限なし 制限なし 制限なし |
D.音声
教科書では,単語や熟語の発音のうちで日本人にとって困難であるか混同しやすくて聴取者に誤解されがちな要素をとりあげて,発音の指導をするための特別な手段を講ずることが望ましい。これは発音記号を用いても用いなくもくふうすることができる。しかし固有名詞の読み方は普通のかな書きで表わすべきではない。教科書は,教養ある英語国民の発音と抑揚とを教えやすいようにくふうしていなければならない。
英語はことばとして教え,また標準的な連続していることばの中で発音され抑揚されるように教えられなければならない。またイギリスの発音とアメリカの発音とを混同しないようにしなければならない。
2.教養的要素
内容の選択
内容は次のようにすべきである。
B.民主的な生活様式を発達させ,国際的観念と平和愛好心とを養うのに役だつこと。
C.教科書は,その見解が公正でなければならない。教科書には,政治上または宗教上の信条・党派または宗派に対して反対,または賛成の宣伝をしたり,または宣伝らしく解されるような内容をのせてはならない。信条・政党または宗派について純粋に客観的に取り扱うこと,民主的または科学的原理に従って,その課程の目標に役だつために言及すること,またはそこから発生してくる事がらを引用することなどは,このかぎりではない。英語の教科書が,特定の見解を示す材料を特に重く扱おうとしないかぎり,政治問題や宗教問題をとりあげて,政治上または宗教上の見解を述べる文学作品の古典と認められているものを含めてならないという理由はない。
D.英語を話す国民を理解するのに役だつこと
(1) 教科書が生徒に与えようとしているものは,学校教育法および学習指導要領外国語科英語編に示されている目標から見て,適切なものでなければならない。
(2) 教科書は生徒に英語を話す国民,特にその生活様式・風俗および習慣についての知識と理解とを与えるべきである。英語を話す国民の経験ならびにその考え方・概念・感情・教養および民主主義をとりあげるべきである。
E.現代社会の必要に一致していること
教材は時代に即応し進歩的であり,民主主義の発達と国際的理解の増進に役だつものでなければならない。
3.心理的要素
B.語学的観点からみた生徒の関心
(1) 語いを制限し難易によって配列することとは,目的に達するための手段であるが,それと関連して日本の生徒に特有な問題とともに考慮する必要がある。
次のことを心にとめていなければならない。
b.ある道具の名称のような,最もありふれたことばのうちには,日本の生徒にはあまり必要でないものがあること。
(2) 文の長さは唯一の要素ではないが,ひとつの要素である。
(3) 一つの要素をとりあげるにあたっては,他のすべての要素も考慮に入れなければならないが,抜粋の長さもまたよい教科書のもう一つの要素である。もちろん長さだけが唯一の要素ではないから,特に教材が興味深くて長いものであってよい場合にはそれでよい。
(4) 教材は生徒の精神的発達段階よりも高くても低くてもいけない。適当な,やさしく書き改められた教科書は,生徒にとって非常に役だつものである。
C.次の学習経験は適当な標準となるであろう。
指導計画についての章(第4章および第5章),「主として口頭に関するもの」の経験参照。
読 み 方
指導計画についての章(第4章および第5章),「主として読み方に関するもの」の経験参照。
書 き 方
指導計画についての章(第4章および第5章),「主として書き方に関するもの」の経験参照。
この学習指導要領に出ている学習経験は,経験の倉庫であり,教師はその中から適当に選択し,改作し,またそれに他のものを付け加えてもよいことに注意されたい。教科書に出てくる,またはその中で示唆された経験はこの方針に一致すべきである。
4.組 織
原則として単語や連語はやさしい規則的なものからむずかしい不規則なものへと配列するよりも,むしろ出度数の高いものから低いものへと配列すべきである。
教材間には適切な連絡がなければならない。たとえば出度数の高い基礎的な言語材料がくり返してあるか,新教材と既習教材との割合が適当か,既習教材の復習が適当か,などについて考慮されなければならない。
B.教材の適当な分量と区分
教材の分量と区分とは適切でなければならない。分量は英語の指導時間数の変比に応ずる幅がなければならない。意図されている時間より少いし(または多い)時間で教え終えられる教科書が,その理由のために劣っているということではない。教科書は教育課程に付与された学習経験の手段の一つにすぎないのであって,それ自体が教育課程ではないからである。
高等学校 5時間以上
C.課の中核としての練習問題の適当な配列
練習問題の配列は,言語能力の習得に役だつものでなければならない。
5.その他の要素
(1) 読みやすさ
文字の大きさ,字間および行間のあきは適切でなければならない。各課の題目・本文・注などの文字の大きさは適切で読みやすくなければならない。英語を母国語とするこども用の大きな活字を初期から用いることは,言語の学習指導の観点から避けたほうがよいであろう。中学校第1学年用の教科書の言語の学習指導の妨げとならないならば,12ポまたは10ポの活字を用いてもさしつかえはない。
b.印刷は鮮明でなければならない。つづり字および音節区分は正確で統一されていなければならない。つづり字は英語または米語で統一して両者を混用してはならない。
(1) 適切で有効であること
さし絵は教材の内容に適合していなければならない。また直接的確な目的にかなうものでなければならない。これは初学年では特にたいせつなことである。また誤解を招くものであってはならないし,生徒の興味に訴えるものでなければならない。
b.分 量
中学校第1学年の前半の教科書には,平均少なくとも1ページに1枚のさし絵,後半では最小限度2ページに1枚のさし絵のあることが望ましい。学年が進むにつれて,さし絵の数は減らしてもよいが,高等学校の程度においても,多くのさし絵,最低4,5ページに1枚は必要である。
c.配 列
さし絵の数と配列とが適切でなければならない。
教科書には目次が必要であり,特に必要な個所には注と参考事項とがなければならない。それはいずれも正確で適切でなければならない。
D.体裁と価格
教科書の表紙は生徒の興味をひき,よい趣味のものでなければならない。
教科書の価格は妥当でなければならない。
B.教科書は合理的によくつりあいのとれたものでなければならない。すなわち,一つの国民・団体・政党または信仰にかたよってはならない。そのようなことは教育的には不健全である。Ⅲ.2.C.参照。
C.教科書はかなり変化のある教材,たとえば,論文・詩・伝記・物語・小説など,または「スポーツ」や「伝記」の単行本とはならないで,それらの抜粋や短縮したものを内容とすべきである。
2.内容の変化とつりあい
教材は生徒の関心と社会の必要とに基いて選択されなければならない。その上,教材の割合はつりあいがとれていなければならない。教科書に選択された教材が,いわゆる文学面,ことに狭義に解釈される場合の文学面に限られることは必要でもないし,望ましいことでもない。歴史・地理・旅行・自然研究・趣味・科学・その他多くの方面のりっぱな作者の材料は,言語の学習指導の目的に適するかぎり,望ましいものである。
1.英語の性質
望ましい文体はだいたい口語体の標準語である。
2.教材の選択
すべての言語材料の目的がめいりょうでなければならない。材料は生徒の経験に基いていなければならない。
和文英訳のある場合,その分量は適当な範囲に限られるべきである。
3.帰納的な学習指導に適すること
教科書は定義を補充的なものとして,文法と作文とを帰納的に学ぶ助けとなるようにくふうされるべきである。
4.機能的な組織
難易による配列と進みぐあいとについては,注意深く配慮されなければならない。
B.練習問題の適当な分量と変化
C.他の種類の本との関連
文法をも含めて,すべては機能的でなければならない。
教科書を読本,文法およびその他の種類に分けることは,まったく便宜的なものである。文法と作文とは,別冊であろうと,読本と合わせて一冊になっていようと,読本または他の種類の本の内容と適切な関連をもっていなければならない。文法を知ることは,効果的に理解し表現することであり,よい文法書はこのようにくふうされていなければならない。
1.商業文の書き方
2.勘定書を作成すること
3.つづり字・句とう法および構文の型に重点をおくこと
4.その他高等学校に適当な商業上のすべての経験
文字の形・整列・間隔・傾斜・線の性質および大きさは,英習字の読みやすさに影響する要素である。
(1) 文字の形に注意しなければならない。(文字は正しく書いていなければならない。)
(2) それぞれの文字は,線の上にきちんと書いていなければならない。
(3) 文字と文字との距離および単語と単語との距離は,それぞれ等しく見えるようでなければならない。
(4) すべての文字同じように傾斜していなければならない。
(5) 線に強弱をつける場合には,横の線と上へ向かって書く線とは細く,下への線は太く書くべきである。
(6) 文字は,学習のどの段階においても,適当な大きさでなければならない。
B.体 裁
英習字帳の表紙は,生徒の興味をひいてよい趣味のものでなければならない。
2.取扱の容易さ
B.取扱は科学的に容易でなければならない。
C.紙はインキで容易に書ける程度の質のものでなければならない。
3.文字の形
文字はじゅうぶんに丸みがあって,よどみのないものでなければならない。
学 年:
書 名:
著 者:
発行所:
評 価 表
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全面的基準
A.一般目標 |
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B.おもな語学上の目標 | |||||
C.おもな教養上の目標 | |||||
共通の要素
1.語学的要素 A.語いの選択 |
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B.英語の文体 | |||||
C.文の長さ | |||||
D.音 声 | |||||
2.教養的要素
A.教育基本法 |
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B.民主的な生活様式 | |||||
C.見解の公正 | |||||
D.英語国民の理解 | |||||
E.現在の必要への即応 | |||||
3.心理的要素
A.生徒の発達 |
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B.生徒の関心 | |||||
C.必要最低基準
(聞き方・話し方・読
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4.組 織
A.学習活動の展開 |
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B.分量と区分 | |||||
C.適当な配列 | |||||
5.その他の要素
A.印 刷 |
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B.さし絵など | |||||
C.目次と注 | |||||
D.体裁と価格 | |||||
読本に特に必要な要素
1.教養面 |
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2.内容の変化とつりあい | |||||
実際的使用の教科書に特に
必要な要素 1.英語の性質 |
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2.教材と選択 | |||||
3.帰納的な学習指導 | |||||
4.機能的な組織 | |||||
商業英語教科書に特に必要な
要素 1.教材 |
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英習字帳に特に必要な要素
1.読みやすさ |
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2.取扱の容易さ | |||||
3.文字の形 | |||||
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合計は読本の場合と実際的使用の教科書の場合とは違うであろうが,それは問題ではない。読本の合計は,同じ種類の教科書の間でのみ比較されるものだからである。
上にあげた要素は,それぞれ等しい重要さをもつものではないが,読本と実際的使用の教科書との関連を考慮しなければならない。