五 習字学習指導上の注意

 

 これまでの学習では、生徒はただ手本の字をまねて書くという、受動的の学習が多く行われていた。そのため、とかく、模倣だけに終って、自主性に欠けたうらみがあった。

 しかし、すべての学習は、生徒の必要と興味から生じた自発活動でなければならない。習字も生徒自身で理解しなければ、よりよい結果は期待できない。

 自己の文字のよしあしを見るにしても、手本に似ているからよいと考えるのではなく、自分の立場で、正否を判断し、推理し、必要に応じていつでも自分の理想とする文字が書けることを喜ぶ態度やよい技術を身につけるように指導する。

1 国語や他教科の中で、文字を書く場合を常にとらえ、必要に応じ効果的に指導する。

2 習字の必要と価値と興味とを自覚させ、進んで練習に身を入れるように指導する。

3 身心の発達段階と個性に応じ、学年・学級・個人の具体的な到達目標を立て、すべての書く力の水準を高めるとともに、個人個人が、それぞれ個性に適した文字を書くように指導する。

4 かい書と行書、大字と小字、漢字とかな、毛筆と硬筆、それらにおける書体・書風の異同を考えて効果的に指導する。

5 習字学習指導においては、技術の練磨(ま)に重きをおくことがたいせつであるが、一律の受動的な学習に陥ることなく、個人指導、グループ指導、学級指導の取り合わせをくふうし、おのおの個人個人の必要と興味との上に立って、適切な自発的学習をさせる。

6 特に、生徒の特別教育活動の場においては、単なる教室の延長に終らず、興味と必要に応じ、習字学習が効果的に進みうるように考慮する。

7 たなばたや書きぞめなどの年中行事や展示会のために習字学習をすることは、時としては有効であるが、それにかたよらないようにする。

8 速書き(視写・聴写)の速度の改善のために計画的の指導をする。

イ 必要な実際の場をできるだけ利用する。

ロ 行書および一般化された草書などに習熟する。

ハ 自己流で他人にわからない文字を書かないように指導する。

ニ 常に多くの資料を見ることによって、反省できるように指導する。

ホ 短時間の基礎的練習をくり返し、その時間・文字数・巧拙などを記録して評価資料にする。

9 毛筆の場合には特に次のことを注意する。

イ 書法の説明や鑑賞指導はなるべく実例・実物について具体的、実際的に行う。

ロ 手本にとらわれすぎないで、実際に応用できるようにする。また、臨書のみに陥らないで、個性に適した書風を育てるようにする。

a 用筆の末端にとらわれすぎない。

b 手本に酷似するのみを求めない。

c 楽な気持でのびのびと自由に書く。

ハ 門標・標札・看板・手紙・石碑・掛物・額・色紙・たんざくはもちろん、実用的な文書の文字を鑑賞する習慣をつける。

ニ 実用的な面と美的な面と一貫した発展をはかり、これを結びつけて書くようにする。

ホ 美しく文字を書くことの喜びが味わえるようになる。

10 用具の取扱については、次のことを注意する。

イ 用具のそれぞれの特徴を理解し、無理なく使用させる。

ロ 用具の選択は文字表現の巧拙に大きく影響することを理解させ、これを正しく指導する。