六 漢文学習指導上の注意

 

 漢文学習は決して古い東洋道徳を教えるためのものではない。漢文学習は、国語学習の効果を増大することが主眼である。漢文の影響を深く受けたわが国の文学を正しく理解、鑑賞するためばかりでなく、漢文と本質的な関係を持っている国語を正しく理解し、使用するために、漢文学習が一種の社会的要求の上に立つものであることを知らなければならない。ゆえに、漢文学習は、その資料を現代的な観点から批判せずに扱ったり、また、漢文を作るための細かい同訓異議の説明をしたりしてはならない。また、復文練習などをしたりすることは適当でない。漢文学習の方法は今まで一定の形式ばかりにとらわれていたが、第二章や第四章を参考にして、いろいろにくふうされなければならない。漢文学習指導上において、注意すべきおもな点を列挙すると、次のようになる。

1 国語学習の中でも、必要で適切な機会をとらえて、漢文的なものの学習をさせる。

2 漢和字書の組み立てを理解し、学習や生活上の必要に応じて、じゅうぶんにこれを活用できるようにさせる。

3 資料は、わが国で愛読されたり、また、わが文学やわが社会生活に深い影響を与えたりしたものを選んで、学習の必要と興味とを自覚させるようにする。

4 3にあげた資料を中心に、これを訓読によって学習させる。したがって、いわゆる支那時文・白話文(口語文)を資料に採り入れて、これを棒読みにすることは、漢文学習の本義にはかなっていない。

5 漢文の訓読にあたっては、国文法との関連に注意するとともに、いわゆる漢文口調の効果を生かした読み方も味わわせる。

6 漢文の語法・句法をだいたい理解させるとともに、国語の中の漢文的な特殊な言いまわしを理解させる。

7 われわれが使っている語いや、格言・故事・成語などを手がかりとして、興味深く学習させる。

8 漢文に関する生徒の学力は、同一学年においてもかなり差があるから、同一学年だからといって、機械的に同一内容の資料を扱うことをせずに、生徒の学力に適応した資料を用いることがよい。

9 各種の年表・地図・書籍・写真・書画などを利用して、生徒の理解を高め、興味を起すようにする。

10 芸能科書道との関連に注意し、学習に関係ある筆跡・拓本.法帖(じょう)などを用意する。

11 資料の中で、多読すべきものと精読すべきものとを区別して学習させる。

12 資料によっては、朗読・朗吟によって、漢文口調を味わわせ、生徒の興味を起させてもよい。

13 漢文の構造を理解させるために、漢文とその書き下し文とを対照して示すことは必要であるが、漢文を作る練習としてのいわゆる復文練習はさける。

14 一字一語の細かい解釈やむずかしい文字のせんさくに没頭しないで、文章全体の要旨をつかめるようにする。

15 わが国古今の文学への影響を明らかにするように心がける。

16 わが国の文化を正しく評価できるように学習させる。

17 作品と作者・環境との関連に注意し、作品の背景のあらましを理解させることは必要であるが、それがために、読むことの学習を軽視しないようにする。

18 文学的作品は、これを鑑賞させて、その文学史上における位置について理解するようにさせる。

19 思想的資料は、これを批判させて、その現代生活における意義を理解するようにさせる。

20 他教科との関連に注意し、常に広い視野に立って学習させる。

付 単元の例
 右に述べた漢文的なものの学習および漢文学習のために、特に次のような単元が考えられる。 1 漢文がわが国の文化にどのような影響を与えたか。

2 日本人の思想に漢文はどのような影響を与えたか。

3 日本の文学に漢文はどのような影響を与えたか。

4 漢文の影響によって、日本ではどのような文章が書かれたか。

5 現代国語の中にどのような漢文的要素が含まれているか。

6 国文と漢文との構造上の違いはどこにあるか。

7 漢文はどのように訓読するか。

8 漢和辞書を速く引くにはどうしたらよいか。

9 漢詩・漢文を味わう。

10 記録文書の文章をどのように読むか。

11 額・掛物・碑文などを読む。

 このような問題をとらえて、学習を進めることによって、生徒の理解と興味とが得られるであろう。