第七章 国語科における漢文の学習指導

 

一 漢文学習の範囲

 

〔漢文体の文章はもとは漢民族の書きことばであったが、訓読された漢文体の文章は、わが古典の中にはいる。ゆえに、漢文は国語科の中で学ばれなければならない。〕  漢字・漢語はもと漢民族によって作られ、漢文体の文章はもとは漢民族によって書かれたものではあるが、しだいに、いわゆる漢字文化圏内の諸民族間共通の書きことばとして用いられるようになった。わが国においては、漢籍伝来のはじめには、漢文はそのまま音読され、そのような文体が学んで作られていたらしいが、やがて漢字の音や訓を借りて、わが国のことばをしるすようになり、いわゆる訓読が行われて、これを学んで作る場合にも、訓読する気持で作ることが多いようになり、自然に、純粋の漢語でないことばも文の中にはいるようになった。したがって、漢文とはいうけれども、わが国で読まれ、書かれてきた漢文は、わが文章語体の一種であり、わが国語として扱われてよい性格を有し、わが古典の中にはいるものである。

 ゆえに、漢文学習は国語の古典学習の一部分として当然行われるものであり、なお、漢字・漢語はわれわれの日常のことばの中にも生きているものであるから、漢文学習および漢文的なものの学習については、現代語の学習の中ででも行える部分があり、それらについては、これまでの各章の中で触れてきたのであるが、漢文の中の語の配置などは国語と違っており、訓読する場合には特別の符号もあり、いろいろ変った表記法があるから、漢文を原文のままで自由に読んでいくには、それだけの知識と技能とが必要である。また、高等学校においては、生徒の志望・趣味・個性などによって、そうした漢文のみを特に選択して学習することも必要である。

〔漢字学習のおもな対象は、訓読された漢文体の文章である。漢文は訓読されることによって、はじめてわが国語生活と結びつくものであるから、漢文学習は訓読の方法によらなければならない。〕  ここに漢文とよぶものは、 (一) 漢民族によって作られた文語体の詩文。

(二) それを学んで日本人が作った詩文。

のことであり、広い意味では、 (三) 日本語を混じた漢字のみの文。 もはいる。そして、これらの漢文は、昔からわが国のことばで訓読されてきたものであり、その訓読の形式が国語に大きな影響を与えてきたのである。したがって、漢文は訓読されることによって、はじめてわが国語生活と結びつくものであるから、訓読することは、漢文学習における必要な条件である。 〔漢字・漢語の中には、現代国語の中に、生きているものが多く、漢文の訓読がわが国語の中にいわゆる漢文口調の文体を生み出し、漢文でしるされた内容がわが文学にも影響したことが多いから、漢文的なものの学習は、一般国語学習においても必要である。〕  漢文学習のおもな対象は、前に述べたような国語となった漢文であるが、そうした漢文的なものの学習は、さらに広い範囲にわたる。元来、漢文はわれわれの言語生活を豊かに育ててきた重要な要素であるから、今日の国語の中にも、文字・語い・文法・文体などに多くの漢文的要素が生きており、これを無視しては国語学習は完全には成り立つまい。この漢文的なものの学習は、漢文学習の重要な手がかりとなるとともに、国語学習の効果を増すことになる。

 漢文的なものの学習の内容には、次のようなものがある。

(一) 漢字・漢語。

(二) 漢文の書き下し文。

(三) 漢文を国語に訳した文。

(四) 漢文訓読の影響を受けてできた、いわゆる漢文口調の文。

(五) その他、漢文学習の助けとなる各種の資料。