五 文法学習指導上の注意

 

(一) 知っていることと用いることとは別であって、用いることは用いることによってのみ上達する。だから、ことばを実際に使用することによって、その法則を自分のものとすることが必要である。法則を法則として覚えても、具体的、経験的な手がかりとして実例を伴わないときは、ことばを正しく使うことには役だたないし、また、それを実際の生活経験に実践するようにならなければ、文法学習の価値はない。

 もちろん、文法の一つ一つの項目は互いに関連を持ったものであって、指導者は手落ちなくその体系をのみこませていく必要があるから、あらかじめ系統を立て、組織を作っておかなければならない。といっても、文法をそれだけ取り出して一個の独立した教科として学習させたのでは、実際のことばの使用の上にはあまり役だたないであろう。むしろ話したり、聞いたり、読んだり、書いたりする実際の生活経験から実例を求め、それを手がかりとして正しいことばづかいの基準を与え、文法の規則を理解させるようにしたほうがはるかにすぐれた方法である。文法は話すとか、聞くとか、読むとか、書くとかいう日常の言語生活の場面に関係づけて習得させなければならない。

(二) また、文法学習に当って、まず、規則とか、用語とかをあげ、それにあてはまる例をわざわざ作って反覆練習させることは適当な方法といえない。文法はでき上がった規則を与えるというのではなく、経験によって得られた事実を整理し、まとめ上げていくものとして指導されなければならないのである。したがって、生徒が一つ一つの正しいことばづかいを実際の例によって集め、それを分類組織してその性質を明らかにし、他のいろいろ似かよった場合にもあてはまるような、普遍的な規則にまとめるように指導するのである。こうして実際に生きて働いているところを見て、文法上の規則が理解されると、その規則に含まれた意味もじゅうぶんにわかるようになるから、その知識や能力がいっそう確かに自分のものとなるであろう。