(五) 学習指導上の注意

 書くことの理解・技能・態度は、書くことをとおして伸びるのである。したがって、書く機会をできるだけ多く考えるようにしなければならない。事実、生徒たちは、学校の内外の生活で、書く機会をたびたび持ち、書いたものを多く持っているのである。その生活を広く見渡し、書いたものをくわしく調べて、高等学校の生徒として、書くことの一般に深い理解を持つとともに、絶えず個人差、個性的な成長ぶりをつかまなければならない。ことばによる純粋な自己表現は、書くことによってなされる。書いたものによって、個人個人の内面生活に触れ、生徒たちの真実な喜びや悩みを理解することができる。生徒の書くことの実態をつかんだ上で、書く機会をできるだけ多く与えるべきである。

 書くことは、作文の時間に限らない。単元の学習にあっては、いたるところに書く機会が用意されている。右にあげたような具体的目標を達成するには、学習の過程に、必要なすぐ役にたつ書くことの活動を用意し、書くことや書いたものが、どのくらい効果的であったかを、すぐさま評価できるようにするがよい。書き方や作文を中心とした学習は、国語学習の過程で発見された欠陥を治療したり、必要を強く感じた技術を練習したり、切実な表現意欲を満足させるための創作活動であったりすることが望ましい。

1 生徒の用具・用筆を調べて、書くことをより効果的にする立場から指導する。ノートを調べて、その取り方や文字について指導し、反省し、評価する機会を与えて、進歩改善のくふうをさせる。

2 速記・速写の大事なことを理解させ、そのための短い練習の時間を定期的に設け、速度の改善、書き方技術の進歩、利用のためのより効果的な整理法を試みさせる。

3 書き方技術は、理解と実行とが伴わない。すればできるのに、実際面では、乱暴なことが多い。理解や技能を実際生活にそのまま役だたせるようにさせる。

4 当用漢字別表の漢字、その他必要な当用漢字の書き方に慣れるために、ノートや作文をよく調べて、書写上の欠陥を修正させるようにする。

5 送りがな・かなづかい・句読点などの符号の正しい使用に注意を払わせる。文法上の誤りを犯さないようにすることは、特にたいせつである。教師としては、必要な場合に生徒の書いたものについて、これを訂正する労をいとってはならない。

6 新聞・雑誌・パンフレット・広告・掲示・看板など、日常目に触れるものについて、その文章・文字に注意を払わせ、そのよい悪いを批判させ、その理解を、ただちに自分の書くことの上に役だたせるようにする。

7 文章や文字に対して、批判力・鑑賞力を高めることがたいせつである。そのためには、くわしい的確な評価の基準を用意し、自他の書いたものにつき、くわしい客観的な批判を加える機会を多くするがよい。

8 実用文の指導にあたっては、できるだけその必要な場を用意し、すぐ役だつものを書かせるようにする。相手・場合・用件など、きびしい条件の下に、これをじゅうぶん満足させる内容・形式をくふうさせることがたいせつである。

9 文学的創作は、これをしいてはならない。学校生活や国語学習を高めて、じゅうぶんな材料と創作意欲を持つように導き、書きたいから書く、書かずにいられないから書くように導くことが望ましい。

10 文学的な創作を試みることの価値をじゅうぶんに認識させることがたいせつである。創作という精神活動をとおして、経験がより深まり、より豊かになって、人格の深化、生活の豊富がもたらされる。その創作表現の技術は、実生活に必要な文章を書くことの上に生きてくる。

 国語学習の中に、創作の機会を多く用意するとともに、余暇を利用していろいろな創作を試みるように剌激し、その作品に対しては、適正な批判を加えたり、学校新聞・学校雑誌に発表するようにする。

11 書くことの指導においては、特に個人的な指導が必要である。特殊な才能を持った者に対しては、学問的、職業的な指導を与えることが望ましい。

12 日常卑近な実用文に書き慣れ、おっくうがらず書くように、その書いたものが、実生活にじゅうぶん役だつものであるようにするための理解・技術・態度を身につけさせることが特に重要である。

13 主観的、個性的、創造的な文章表現に慣れさせるとともに、客観的、論理的、実際的な文章表現に慣れさせることが必要である。記事・記録・調査書・報告書など、事実を事実として、これを冷静に記述する文章を書く機会を多く持たせることが望ましい。

14 いろいろな豊富な材料を取捨選択して、首尾一貫した論文・論説を書く技能を身につけさせることが必要である。論理的に考えを進める習慣、わかりやすく筋道の通った話し方をする心構えを養い、こうした生活態度が、そのまま文章表現の上に生きてくるように指導する。

15 生活を能率的にするために、書くことをおっくうがらず、書くことを楽しむ習慣を身につけさせる。メモを取り、メモを活用することから始まり、自分の生活を深化させるために、見聞や思索を書きとめておくようにさせる。

 話しことばと書きことばの特質をよく理解させ、後の利用に役だつように、書くことの習慣を身につけさせることがたいせつである。