(三) 高等学校生徒の書くことの実態

1 聞き書きをする場合。

 講義や報告などを聞きながら、その内容を速記することが学習の手段としても必要であるが、その能力はじゅうぶんとは言えない。

(1) 聞くことに欠陥のある場合が多い。

イ 注意の集中・持続が足りない。

ロ 内容を理解することに努力せず、機械的に書いている。

ハ 大意・要旨がつかめない。大事なところとそうでないところを聞きわけられない。

(2) 書くことに欠陥のある場合のほうが多い。

イ 文字が速く書けない。

 必要な文字を知らないため、行書や草書を知らないため、速書きの技術未熟なためなどが原因である。

ロ 書いたものの利用を考えない。

 書くのは、何かに利用するためである。後の利用を考えて、利用しやすいように書くことができない。紙面の活用、文字の種類・大小の区別、記号の使用などがふじゅうぶんである。

いかにノートするか、どうメモを取るかは、高等学校の生徒にたいせつな技術である。

2 写し書きをする場合。

 書き方・習字の学習で、手本を見てこれをまねることはたびたび経験しているから、書式や手本を見て、そのとおり書くことはだいたいできる。しかし、長い文章を書き写すとか、必要な箇所を書き抜くとか、要点を書きつづるとか、他の必要からする場合、効果的な能率的な写し書きは、なおふじゅうぶんである。これにも、

(1) 読むことに欠陥のある場合。

(2) 書くことに欠陥のある場合。

が考えられる。

 聞き書き、写し書きの技術や態度ができていない者が多い。したがって、日常生活において、聞いたこと、読んだことを理解し利用するために、ノートしたり、メモしたりする習慣ができていない。

3 自分のことばを書く場合。

 実用的なものと創作的なもの、形式の固定しているものと自由なもの、読んでもらうためのものとそうでないものなど、この種の文章はさまざまである。

 高等学校の生徒の書くことの実態として、一般的に考えられることは、次のようなものである。

イ 実用文の書き方に慣れていない。

ロ 形式や書式を知らない。

ハ 相手を考え、相手に適したものを書くだけのゆとりが少ない。

ニ 論理の発展が適切でない。

ホ 創作に対する意欲のある者は、限られた数である。

へ 必要以外、書くことの習慣ができていない。

ト 類型的なものが多く、個性的な文章が書けない。

チ ひとりよがりの難解な文章を書く。

リ 文章を速くまとめることができない。

ヌ 考えをまとめるために文章を書くということをしない。

ル 箇条書き・表を作ることに慣れていない。

ヲ 聞くこと、読むこと、話すことと結びつけて、書くことをしない。

ワ 書くことの価値や、その楽しみを知らない。

カ 必要なことをメモにとる習慣ができていない。

ヨ 文章を練って書く、手をいれる、書き直すなどの労をいとう。

 文字面については、欠点として次のことがあげられる。

イ 読めればよいといったような乱暴な字を書く。

 書けば正しいよい字が書けるのに、その技術を文字生活の上に、広く生かしていない。

ロ 当用漢字別表の文字を書けない者がある。

ハ ことばの表現として、正しい文字が書けない。一般に、表記法が身についていない。現代かなづかい・送りがなの誤りが多い。