(二) 高等学校生徒の読む経験にはどんな種類があるか

 高等学校の読むことの学習指導においては、いろいろの読書技術の指導と同時に、読書の内容的方面の指導としての文学の指導に注意しなければならない。

 高等学校の文学の学習指導にはもちろん、文芸の学習指導が一つの地位を占めるが、狭い文芸だけでなく、広い読書指導が必要である。

〔高等学校の生徒が学習しなければならない読書技術にはどんなものがあるか。〕

 読むことは理解することである。読む材料に注意を集中すること、かつ、これを持続することは、理解のための基礎である。長文を読みぬく力の根本は、注意を長く持続できるかどうかということである。高等学校の生徒はただばく然と読むだけでなく、特に読んだ事がらを組織だてる力が養われなければならない。理解ということは、この再組織に成功したということである。高等学校ではそのほか、次のような読み方の技術の完成を目がけなければならない。

1 中心思想をとらえること。

2 重要な事項とそうでないものとを見分けること。

3 概観を得るため、特殊の点を見つけるために拾い読みすること。

 ある書物の概観を得ること、ある書物から特殊の点を見つけ出すことは、読書の上にすこぶる重要な意味を持つ。通読は、時間の空費にすぎないことがしばしばある。

4 速く読むこと。

 多くの場合、効果的な読書に必要な条件は、理解をそこなわないでいかに速く読むかということである。

5 批判的に読むこと。

 読む場合には、常に著者の立場を考えなければならない。特に、新聞・雑誌の読み方においては、批判的に読まないと宣伝に乗ぜられてしまう。読んだことについて、どれが事実であり、どれがその事実についての作者の意見であるかを見分ける態度と能力とが必要である。

〔高等学校の文学の学習指導にはどんなものがあるか。〕

 娯楽のために本を読むということは、余暇を善用するための読書であり、教養のための読書である。それは人間として成長する上に、その生活を豊富にする上に、重要な意義を持つ。高等学校の生徒は、中学校の教育で得た現代文学や古典に対する理解力・鑑賞力を土台として、その読書領域をいよいよ広く深くして、正しい読書習慣を確立させるまでに至らなければならない。すなわち、高等学校では、

1 現代文学の理解と鑑賞

2 古典の理解と鑑賞

3 世界文学の理解と鑑賞

4 映画や劇の理解と鑑賞(これは聞くことの学習指導でもある。)

5 よい書物の選び方

6 正しい読書習慣の確立

などを目標として、文学の学習指導の計画を立てなければならない。