(三) 高等学校生徒の話すことの実態

 話すことの学習計画を立てるためには、ひとり教室内に限らず、広く生徒の生活の全面にわたって、話すことの実態をよく知っておく必要がある。

〔高等学校の生徒は、どんな話題に興味を持っているか。〕

1 高等学校の生徒は、一面非常に現実的であるから、そのときどきのできごとや見聞に興味を持ち、好んでこれを話題にする。反応が早いだけに、すぐ忘れてしまう。したがって、過去を語ったり、思い出を語ったりすることは割合に少ない。ジャーナリズムの影響が著しく強い。

2 生活の領域が拡大されているけれども、どの生徒も似たような生活をしているから、共通の話題となるものは、学校生活が最も多く、友人や教師のうわさ、学科の話、運動や競技の話が多い。

3 自分たちの近い将来に興味や期待を持ち、友人間では、その計画や希望を語り合うことが多い。遠い将来の夢や理想を話し合うことは、かえって少ないようである。

4 内省的な傾向が強く現れて、哲学や宗教に興味を持ち、社会・人生・神などを話題にする者もいる。

5 男子は、科学、特にその実際的な応用に興味を持っている。そこで、電気・ラジオ・写真などが話題に選ばれる。

6 女子は服飾に興味を持ち、洋服・化粧品などが話題に選ばれる。

7 男子も女子もスポーツに関する話題に興味を持っている。しかし、男女による差があって男子は野球に関する話題に特に興味を持っている。

〔高等学校生徒の話す態度はどうであるか。〕

1 生徒のある者は自己中心的で、強く自己を主張する傾向がある。少なく聞いて多く語るのである。他人の話を静かに終りまで聞かず、途中で妨げたり、早飲みこみをしたりして、自分の考えを話し続けるような者が多い。

2 一面多く聞いて少なく語る者が出てくる。会話や話合いに加わることを好まない者や、加わってもほとんど語らない者がある。聞くことに興味を持ち、語ることに興味を持たないのである。一つは内省的になったためと、一つは話すべき機会がとらえられないためとである。

3 きわめてぞんざいな乱暴な話し方をする者がある。その半面、妙にていねいな気取った話し方をする者がある。異性の前では、はにかんでろくろく話のできない者も少なくない。

4 だいたい共通語を話すことができるのであるが、親しい者どうしでは方言で自由に話し合うことを好む。共通語意識・文法意識がじゅうぶん発達しているとは言えないであろう。

5 相手にわかってもらうことを忘れて、ひどく早口で話したり、高低を加減しなかったりする者が多い。じゅうぶんな音量で話すことをしないのである。

〔高等学校の生徒の話す能力はどうであるか。〕

1 報告・発表など、独話の能力は、一般に高くない。不慣れのため、声量を加減することができない。時間と声量と聞き手とを考えて、ゆとりのある話をするまでになっていない。

2 社会生活のいろいろな場に立った経験が少ないから、未知の人との対談や会話を円滑に運ぶことができない。訪問・会見・紹介などの際の話ぶりは一般にじゅうぶんとは言えない。

3 話合いには割合慣れているが、司会者は経験のある特殊の生徒に限られている。しかし、大部分の者が訓練さえ受ければ司会者になれる。

4 意味のないことばを入れたり、やたらに接続詞をつけたり、言いそこなってくり返したり、改まった場合の話ぶりには、未経験を暴露することが多い。

 高等学校の生徒は、過去において、話しことばのじゅうぶんな学習指導を受けていないから、自分の話しことばを反省したり、これをよりよくするためにくふうしたりすることができない。自然習得に任せてあるため、一部の能力ある生徒や、必要があってその経験をより多く積んだ者以外は、その話しことばの能力は、まだまだふじゅうぶんと言わなければならない。