一 聞くこと

 

(一) 高等学校における聞くことの学習指導の意義

 実際生活においては、聞く一方で終ることは、むしろ少ない。対談や会話の形式が多く、互に聞き手になり、話し手になって、意志を通じ合っている。また、話す前提として聞いたり、聞きながら書きとめたりすることも多い。したがって、聞くことの学習は、話すことや書くことを結びつけて行うほうが、実際的でもあり効果的でもある。

 しかしながら、高等学校の生徒になれば、講演・演説・研究発表を聞くなど、相当長い時間を聞くだけの側に立たされる場合が多く、その必要もいよいよ増してくる。さらに、映画・演劇、その他美しい話しことばを鑑賞して、その内面生活を豊かにすることは、人間成長のために高い意味を持っている。

 ラジオは新聞と並んで現代生活に重要な役割を持っている。眼前に光景や姿の見えないラジオや蓄音器のような再生音の聞き方は、特殊な学習の領域であろう。

 学習効果のあがらない原因に、聞く力、読む力の不足が数えられることが多い。学習において、聞くことの重要さは、読むことのそれに決して劣らない。聞くことと読むこととは、直接の手がかりが音声か文字かの違いだけで、ことばの働きとしては、本質上同じものである。また、聞く能力のないところに、読む力の向上は期待されないであろう。聞くことは、瞬間に消える話しことばをとらえるのであるから、自分の好む速度で読め、再読・三読もできる書物に対する以上に、注意の集中とその持続とを必要とする。特殊の重要な能力として、聞くことを対象とした学習計画を立て、聞くことを中心にした価値ある学習経験を積むようにしなければならない。