第一学年

単元 伝記の選び方と読み方

(一) 単元設定の理由 1 読書に関する調査の結果は、この年齢の生徒は、読み物として一般に伝記を好むことを示している。

2 中学校は、生徒が将来の進路を決定する重大な時期である。こういうときに、すぐれた人物の伝記に接することは、大いに必要である。

3 生徒は相当の読書力を得て、かなり長い材料を読破するだけの準備と能力を持っている。

4 生徒が社会生活をしていく上に欠くことのできない言語上の技術を発達させるのに必要な、読んだり、話したり、書いたり、聞いたりする諸活動を、伝記を読むことを中心にして組織化することができる。

(二) 目標 1 どんな見地から伝記を選ぶべきかを学ぶ。

2 伝記を読むことの意義と価値とを知る。

3 一生を通じて喜びと感激とを得る源として伝記を読むことを学ぶ。

4 人々が身をささげて社会生活に寄与したことを学び、また、その真価を認める。

5 さまざまな国の多くの人々が文化に対して質献していることを学ぶ。

6 生徒に対して生活の指針となる実例を示す。

7 生徒が、めいめいの人生観を発達させるのを助ける。

8 教養と楽しみのため、伝記を読む習慣と養う。

9 伝記を効果的に読む技術を身につける。

10 書物をとおして他人を理解する能力を身につける。

11 長文を読みぬく能力をつける。

12 有名な人々の一生について、他人の前で話すことを覚え、話す技術を増進する。

13 伝記的な文体で書くことを学ぶ

(三) 内容
 この単元の内容は、いろいろの伝記であって、それをもとにして読んだり、それについて話し合ったり、書いたりするのである。 1 科学者や文学者・政治家の伝記(野口英世・キーリー夫人・リンカーンなど)

2 自叙伝・評伝・逸話など(福沢諭吉・エジソン・二宮尊徳など)

3 郷土の偉人などの伝記

(四) 学習活動の例

A 思い思いの読書

1 個人個人の生徒に、ひとりの人物を選ばせ、思い思いの読書によって、その人物について話をさせるとか、おもしろい逸話を語らせるとかする。

2 学級をいくつかのグループに分ける。そして、それぞれのグループでひとりの人物を選び、その人物について、できるだけ多くの本を読み、その生活のあるできごとについて短い劇を作る。

3 生徒たちが読んだ本の中で、好きな人物を選び、その人物についての絵入りの小冊子を作る。

B 読んだ伝記についての批判 1 めいめいの読んだ伝記について受けた感じを要約する。

2 書物から与えられた興味を書きとめながら、一つ一つの伝記について学級内でそのよしあしを検討する。

3 学級の相当大ぜいの者が、よいと判断した伝記はどんなものであるか、また、わるいと判断したものはどんなものであるか、伝記の一覧表を作る。

C 伝記の読み方についての研究 1 その人について数多くの伝記が書かれており、そしてそれらの伝記を手に入れることのできる人物を選ぶ。

2 学級をいくつかのグループに分けて、このようにして選んだ同一人物についての数種の伝記を、各グループで一種ずつ読む。読みながら、要点や、その人物を最もよく描写している箇所や、その人物の語ったよいことばや、その他書きとめておいたほうがよいと思うことを書きとめる。

3 読み終ってから互に報告し合って、異なった事実がしるされている点が何かあるかどうか、または、同じ事実が異なったしかたで取り扱われているかどうかを知るために照合する。作者の態度と作者の使用した材料に注意する。事実の記事と仮定の記事とを区別するように努める。

4 伝記を読む際に心にとめておくべき要点、またはどんなふうに伝記を読んだらよいかという点を要約して、それらのことを問答体で書く。

D よい伝記の選び方についての研究 1 生徒たちが好んで知ろうとするような伝記の中から、ひとり人物を選び、その選択に従っていくつかのグループをつくる。選んだ人物について、どれだけの異なった伝記が書かれているかを調べて、できるだけ多くの異なった伝記を集める。これらの伝記を読む。それについて学級で批判する。

2 伝記を選ぶにはどうしたらよいかについて、要点をまとめて、それを問答体で書く。

E 読んだ後の諸活動 1 広く読んだ伝記の中から、人類の生活の改善に貢献した人々の実例を見いだして列記する。二つの欄にしきった表を作って、一つの欄には人々の名をしるし、もう一つの欄には、かれらがどんなふうに人間生活に寄与したかをしるす。これらの人々の寄与について学級で討議する。

2 「わたくしはわたくしの学校や地域社会の改善にどんなふうに貢献したらよいか」というような題で短い論文を書く。

3 読んだ材料の中から、各生徒にひとりの人物を選ばせ、その人物を偉大にしたものはなんであったかを研究させる。生徒にその座席で短い演説をさせて、かれが選んだ人物の性格について述べさせる。

4 学級が学んだことのある人物の一生について、何か一つのことを簡単に、ある生徒に語らせて、それからその人物がだれであるかを、聞いている者にあてさせる。これはラジオ放送の形式をまねてさせることができる。

5 各生徒に自叙伝を書かせる。

F 伝記の選び方および読み方についての練習

 読んだ伝記の一覧表の中から、各生徒がひとりの人物を決め、その人物の伝記を一冊選ぶ。どうしてその本を選んだかその理由を発表する。読んだ伝記について、その人物がどんな人物であるかを簡単にまとめる。(各グループがひとりの人物を交代に選んで、どのくらい時間がかかるか記録しながら、練習をくり返す。)

(五) 評価

1 もし、ふたり以上の作者が同じ人物について書いていたなら、生徒たちにそれぞれの著作を比較させる。生徒がいちばんよい伝記であると信じるものを選択する際の判断のしかたを観察する。

2 学習活動Bの3で、学級の相当大ぜいの者がよいと判断した伝記と、わるいと判断した伝記の一覧表を作るときのやり方を観察する。

3 学習活動Cの伝記の読み方についての研究において、伝記を選んだり、読んだり、また、それらについて報告するときの生徒の態度を観察する。

4 学習活動Fの伝記の選び方および読み方についての練習の結果を観察する。

5 各生徒が学校図書館で読んだ書物や図書館から借り出して読んだ書物の一覧表を作り、どのくらい伝記が読まれているかを見る。

6 最近の六か月間に、生徒たちが読んだ書物の名を書かせ、そのうち何回ぐらい伝記が選ばれたかを調べる。この単元が終ってから三か月後にもう一度調べる。

7 毎日の読書する時間が、増したかどうか、読書記録を用いて調べる。

8 生徒たちがほんとうに興味を持っているかどうかを知るため、かれらがうち解けて話し合っている話題に注意する。

9 生徒たちと話し合って、次のような点について教師として反省する。

イ 単元の計画と準備が適当であり、じゅうぶんであったかどうか。

ロ 具体的な指導が適切であったかどうか。

ハ 生徒たちが読みたいと思う材料を自由に選ぶことができたかどうか。

ニ 時間の使い方が適当であったかどうか。

10 次の点について、生徒たちに話合いをさせる。 イ この単元の計画・編成および学習活動の実施方法の欠点。

ロ この単元の計画・編成および学習活動の実施方法の長所。

11 学習した人物中、二、三の人の一生について、問題を与えて生徒に答えさせる。

12 この単元によって学んだ、いろいろのりっぱな行為の一覧表を記憶によって各生徒に作らせる。

13 伝記を読むことが生徒たちの行動に何か影響を及ぼしたかどうかを知るため、ある期間、観察する。

(六) 資料
 この単元を開始するに先だって、教師は生徒の程度に応じたことばでしるされた伝記関係材料をできるだけ多く準備しなくてはならない。 1 採用した教科書

2 他の教科書などにある伝記関係の文

3 その他の資料(付録 三 参照)