(三) 中学校生徒の書くことの実態
書くことの実態のうち、漢字を書く力については、多くの具体的な調査が試みられているが、学習指導の計画を立てるには、もっと広い範囲について、できるだけの調査研究の成果を利用する必要がある。
〔書くことの調査には、どんな範囲と方法があるか。〕
1 ノート・答案などをよく調べる。
2 書くことのできる漢字を調べる。
3 書写力の速度、聴写力の速度を調べる。
4 感想文や随筆などの取材についての傾向を見る。
5 類型的な叙述の形式に陥ってはいないかを調べる。
6 生徒の書いたものについて、新しい語い、気のきいた言いまわしなどを注意して調べてみる。
7 手紙のやりとりの数や相手を調査し、日記を書いているかどうかなどを調査する。
8 表記上の誤りや個人的な癖を調べる。
9 文学上の趣味について調べ、読むことの評価と関係づけて、書くことの個人的特殊能力を見いだす。
10 学級文集や新聞の編集発行、学校の諸行事に伴う書くことに、どれだけ熱心であり、積極的であるかなどをよく観察する。
〔中学生の書くことの興味と必要とは、どういう点に向けられているか。〕
1 いろいろの学習のためのノートを作る。
2 文集や新聞を作るために、原稿や依頼状を書く。
3 発表会や芸能会をするための、プログラム・案内状などのくふう・作成・発送などをする。
4 研究発表や公演などをするために、原稿や脚本を書く。
5 読書したものについて感想文を書く。
6 旅行記を書いたり、見学の大要などを書いたりする。
7 標語や文学作品を学校内外の新聞や文集・雑誌に投稿する。
8 学校の行事に連関して、規約・式辞・掲示・立札・道案内などを書く。
9 色紙・たんざくなどに書いたりする生徒もある。
10 実生活に必要な履歴書・届書などを書く。
これらについては、各生徒に、ひととおり経験させることがたいせつであるから、この種の経験の有無を調べておくことが必要である。ことに、家庭の実情から、必要とされる点を個人ごとに明らかにしておかなければならない。
〔中学生の書くことの一般的特質は、どのようであるか。〕
1 文字が乱暴であったり、筆順の正しくない生徒がある。ゆっくり書かせると、ていねいなわかりよい字を書くが、ノートや答案などを調べてみると、悪い癖が出ていることがある。
2 符号の使い方がじゅうぶんでない。効果的な紙の使い方に注意の足りないものが多い。
3 箇条書きにまとめて書く力が足りない。
4 聞いて書くことや、メモを書くことはむずかしいので、じゅうぶんに慣れていない。たんねんに書くという習慣も不足しているようである。
5 速く、しかもきれいに書くという力がじゅうぶんでない。どちらかにかたよってしまう。
6 実用的な各種の文を書く経験にはよく慣れていない。
7 日記を書く習慣は案外少なく、ことに、各種の手紙について書いた経験が乏しい。
8 一部の生徒を除いては、雑誌などに投稿したり、自作を公表したりすることをおっくうがる。
9 文学的創作を高い程度のものと考えて、気楽に楽しんで作る態度ができていない生徒が多い。
10 草稿を作ったり、何遍も書き直したりする態度ができあがっていない。
右にはごく一般的の欠陥を述べたのであるが、個人個人についてじゅうぶんな観察を常に怠らないようにすべきである。