(三) 中学校生徒の読むことの実態  読むことについては、聞くことや話すことに比べて、調査がしやすいために、各種の方法が行われ、大きな調査もだんだん試みられている。読む能力の科学的な測定や調査などの研究の成果は、今後大いに採用しなければならないが、ここに、各教室の実態に即する指導計画を立てるために必要な調査を考えてみる。 〔読みに関する調査の範囲と方法には、通常次のようなことが行われている。〕

1 読み物調査

イ 読んだ本のリストを調査する。印象に残っている本をあげさせる。好きな本、おもしろかった本などについて報告させる。

ロ 図書館利用の程度、本を買うこづかい、本の貸借の様子などを調べる。

2 読書の実際 イ 図書館における態度、本の取扱方などを観察する。

ロ 読後感などを話し合ったり、記録させたりする。

3 読みの基礎的能力 イ 文字を読む力、語いの力などのテストをする。

ロ 音読および黙読における文章読解の速度と読んだことの理解の程度を調べる。

ハ 文学の鑑賞力を調べる。

〔読むことについては、個人個人の力や条件をじゅうぶんに調べなければならない。〕
 読む力は、生徒個人個人によっていろいろである。地域的・家庭的環境の差、身体的条件・知能の程度によって大きな影響を受ける。だから、一学級や一学年を全体として調べるほかに、個人について、調査をすることがたいせつである。

 環境については、父兄の教養の程度とか文化的環境の度合とかを調べるほかに、職業・経済事情・交友・過去の経験の範囲などを考えに入れる。

 弱視・近視などは早く発見しなければならない。本の位置・姿勢・目の動かし方などを注意深く観察して診断する。これら本質的な条件のほか、疲労や倦(けん)怠の度合、持久力の不足などの一時的な身体障害も注意しなければならない。

 知能と読む力との相関は、かなり高いといわれている。知能が低いために、声を出して読んではいるが、内容はわかっていないという生徒も多い。

 適当な読み物を選ばせるためにも、右のようなことを調べておく必要がある。

〔中学生の読むことの一般的特質はどのようであるか。〕

1 当用漢字別表は、文脈中においては、だいたい読めるようになっているが、中にはじゅうぶん読めない生徒もある。日常必要な当用漢字について理解のじゅうぶんでない者がある。

2 語いは豊かになっているが、生徒によっては、著しくかたよっており、ことに語感のつかみ方などがまだじゅうぶんでない。

3 やさしい文語の文、古典などについても、知識がじゅうぶんでなく理解のしかたも知らない者が多い。

4 唇(しん)読・指読はほとんど無くなっている。眼球運動もなめらかで行を追うこともだいたい順調である。

5 好きな本は一気に読み、冒険ものや少女小説は週に数冊も読むが、価値の高いものに真剣に取り組む態度はできていない者が多い。

6 要点をつかんだり、細かな点に注意して読む力が欠けていることもある。

7 詩歌などに趣味を持つ生徒もできてくるが、正しい鑑賞のしかたはじゅうぶんとはいえない。

8 分析的に読んだり、全体をまとめたりする力は不足している。

9 良書の選択が適当でない。適切な読書の時間を見いだすことができない。

10 辞書の使用にはひととおり慣れているが、多くの参考書や資料を利用する力はふじゅうぶんである。

 これらが中学生の読みについて一般的に見られることであるが、むろん個人によって大きな差がある。多くの欠陥を持つ者と、少しも持たない者、またはほとんど持たない者があることに注意して、指導を計画する場合、ひとりひとりの実際をよく考えることがたいせつである。