(二) 中学校生徒の話す経験にはどんな種類があるか  前にも述べたように、話すときには聞く相手を考え、場合を考えることがたいせつである。事情によっては、相手の社会的地位や、上下の関係を考える必要もあるが、どんな場合でも相手に対するていねいさと誠実さとを忘れてはならない。そして、同じ相手であっても、改まった場合とそうでない場合とではおのずから違っている。中学生の話すことの経験を、一般的に次のように分けてみることができる。 〔自分だけが話す場合。〕  中学生になれば、ひとりまたは何人かの相手を前にして、筋のある、まとまった話を、一定時間続ける発表の機会も多くなる。小学校のころは、相手への考慮もじゅうぶんでなく、話す内容も高い程度のものではないが、中学生としてはグループの研究報告や特別教育活動の発表会とか、生徒会での意見を述べる機会とか、ホームルームのときのテーブル‐スピーチとか、芸能会その他公開の会合でのあいさつとかのように話の準備や技術についてのくふうのいる学習がたくさんある。

 朗読というのは、読み方であるが、また、この場合の一種でもある。自分の話の癖や特長を反省して、声の調子や速さなどに特別のくふうが必要である。

 劇や、紙しばい・人形劇・校内放送なども、小学校で学習してきた表現力をいっそう高め、効果的に相手を動かすためにことばのいきいきした力を身につける学習として、国語科で計画しなければならない重要な学習の一つである。

〔話し合う場合。〕  われわれが日常経験している話合いは、通常この形式である。日常の会話や雑談など、ひとりが話す人になったり、聞く人になったりする場合は、自然の経験に無数にあるので、特別な学習計画をする必要はないように考えられやすいが、おもしろい話題の選び方や相談の進め方などの、習慣や態度には、中学生として指導すべき点が多い。

 会見のように、相手が未知の人とか、特別の人のような場合には、特別の心構えや技術が必要である。また、応待や接待のしかた、紹介などの日常的なことから、対談・質疑応答に至るまで、実生活に役だつような学習指導が必要である。ことに電話のかけ方などは、地域によっては、今後、ますます必要となってくるから、中学校の国語学習でこの方面を完成するようにしなければならない。

 討議や会議においては、ことばのやりとりが自由に行われ、みんながそれぞれの立場や考え方で見解や心持を述べ、問題解決に協力し合うことがたいせつである。これは、社会科その他の学習でも行われるが、その基礎的な能力については、国語科で責任を持たなければならない。