一 聞くこと
(一) 中学校における聞くことの学習指導の意義
従来の国語教育では、読み書きが国語の中心であって、聞くことの指導は、教育計画の中で、じゅうぶんには取り上げられていなかった。しかし、言語生活という点から見ると、聞くことの範囲は非常に広いから、その学習が大いに問題にされなければならない。
〔聞く力は、中学校において、じゅうぶんに伸ばさなければならない。〕
従来、聞く力の発達は、自然習得に任されていた。また、小学校で聞く態度や習慣をつけておくだけでよく、中学校では特別に計画的に指導する必要はないと考えられた向きもあるが、これは誤りである。現代においては、耳をとおして営まれる文化活動が多くなった。高度の知識や情報を、敏速に正しく受けとることは、実にたいせつな能力であって、小学校よりも、さらに高い程度まで指導を高めなければならない。
聞くということは、ただ聞くだけでなく、じゅうぶん考えたり、深く聞きいったりする技能が必要になってくる。その上、各種の社会関係の場においては、多くの人から、違った種々の内容を聞かされることも多くなるので、それらの場合に慣れて聞きわける力をつけておくことはぜひ必要である。
〔聞くことは話すこととあいまって行われるが、聞く力を伸ばす学習計画も立てる必要がある。〕
聞くことは、実際には、聞いて、すぐ答えたり、意見を述べたりしなければならないことが多い。しかし、中学生になると、演説会や報告会や、ラジオのように、聞く一方の生活も多くなるので、聞く能力を高めるための計画も必要である。
中学校において、話す力が足りなかったり、学習の効果がじゅうぶんあがらなかったりする原因の一つは、生徒の聞く力に即する適切な指導がないためであって、聞く力の発達上、中学校がたいせつな時期であることを知らないからである。だから、すべての中学校生徒に、聞くことの態度や技能が、生活にとって、いかにたいせつであるかを自覚させるような学習計画が必要である。