四 評価の具体的な着眼点はどこか

 

〔聞くことの評価〕

1 聞くことの指導において大事な、態度の評価については、単なる外面的な礼儀だけでなく、聞こうとする意欲に基く真剣な態度、、長い話を忍耐力をもって聞き終る態度、細かい点にも心をくばって聞きいる態度、反省的な判断を用いながら批判的に聞く態度などを評価しなければならない。

2 話題に関する興味の調査は、生徒の成長に応じて、時々行う必要がある。物語を好むかどうか、どんな物語を聞くことを好むか、などを調べることが必要である。ラジオの調査などはこれに利用される。各学級ごとの一覧表(チェックリスト)を作って、聞くことの態度の進歩を記入していくことも有意義である。

3 聞き取る力(聴取能力)を評価するには、講話などのメモをさせたり、聞き終った直後に選択法によるテストをしたり、再生法によって、感想をつづらせたりする。テストに用いられる材料は、適当な数の固有名詞、要点・場面・筋などに注意して選ばれる。

 話合いにおける参加や協力の程度によって評価したり、朗読や演劇などを鑑賞しているのを観察したり、または直後に感想を書かせて、感銘の度合を見ることも行われる。朗読や演出の練習をしているときに相互評価をさせて、注意力や熱心さ、批判力などを観察、記録することができる。

4 聞く力の総合的な評価は、評価記録簿のほか、生徒各人に自己評価のカードやノートを持たせておくとよい。

〔話すことの評価〕

1 話す力では、思いきって発表するという態度もたいせつであるが、場合をよく考えて、言おうと思うことを、不足なく効果的に表現する態度と技能と能力とが、各学年を通じて大事なねらいとなろう。正しい発音、適切な語いの使用、要点を順序よく発表する力などが評価のおもなねらいとなる。堅くなったり、不自然な誇張に陥ったりしないで、発表や報告・説明などができるようになるために、話合いのときの発言の意欲や態度を評価しなければならない。

2 小学校以来の発言の意欲や、場なれなどを調べておくとよい。会の司会をした経験の回数、班の責任者となって報告などをした経験、電話やマイクを使った経験、演劇活動などにどの程度参加したかなども調べておく。ことに、家庭における発言の様子、家庭が家族の人数、客の多少などでそういう発言を刺激するような事情にあるかないかなどを調べて表示しておくことも必要である。なお、言語障害の有無、気質の特性などで物の言えない生徒も多いから、ひとりひとりの調べが必要である。なぜ人前で発言しないかを質問紙法によって記述させることも効果がある。なおもっとよい方法は巧みにくふうされた面接法によって調べることである。

3 話す力については、学習中における発言の様子を観察して記録簿にとっておくほうがよい。黙っている生徒については、その原因を多方面から打診してやる。それには、面接法を用いて、親切に聞いてやるのがよい。演劇の学習のせりふや、朗読の際の技術などを観察して累加記録にするのは、たいせつな評価の一つだが、それだけに限定されてはいけない。高学年になれば、相互評価が有効であるから、適当な評価の形式を考え合って使うとよい。生徒が、意見を述べたり、報告をしたりしているとき、すぐ気がついてほめてやるような観察が必要である。

 図表や掲示物などを用いて発言する際は、主として態度や習慣が評価される。作品や本などを朗読しているときは、その声・発音などを見るのによい機会である。また、物語などの独話をしたり、司会をしたり、話合いのおもなメンバーとして発言したりするときは、まとめ方、効果的な表現法、場面への心くばりなどを見るのによい。いずれも、観察法を用いて教師ができるだけ多く評価してやるべきである。

4 話合いは、最も多く用いられる学習の形態であるから、全生徒について、別表のような評価の表を用意して、絶えずしるしをつけるようにし、その結果を個人ごとに判定すればよい。発表・説明・報告などの機会も多いから、それらについても、同じような表を用意することがよい。この表によって、発言の著しく少ない生徒、言う内容や速度・時間・機会などのかたよっている生徒を発見して指導を加えることができる。

〔読むことの評価〕

1 読むことについては、従来、主として、文字・語句の読み方を、音読によって評価したり、ふりがなを付けきせたりして評価した。これではじゅうぶんではないのであって、研究調査のための読みの習慣・態度・技術・能力をも重んじなければならない。図書館での態度や方法、書物の選択と利用法なども評価の重点となる。

2 これからの読む力(文章読解力)の評価では、文意を深く読み抜く力とともに、速度や正確さを重んじる。そのために、後で述べるような各種の客観テストの方法が行われる。

3 読みの力においては、習得している語いの数と質が重要な条件となるから、入学時や学年初めの実態調査においても、各教科書の語い表や、小学校の国語の教科書の語い表などを利用して調べておくとよい。漢字の習得については、各学年の初めごとに、当用漢字全体の読みについて調査すればよい。文学の趣味や読書経験、毎月平均の読書の数と質などについても、必要な調査が、質問紙法を用いて行われるようになった。

4 これからは、文章読解力については標準化されたテストも、おいおい現れるだろうから、それを利用して、各人の能力を調査しておくとよい。しかし、それはもともと生徒の長所と短所を診断するのに役だてるためであって、生徒を一定の標準にまで引き上げるためのものではないことを留意しなければならない。

5 ある本や論文などを読んだら、必ずその名・題目などを記録させて、感想・難語句などを記入するような自己評価を奨励するとよい。できればそのつど、速記を記録しておくようにする。音読させたり、語句の質問をさせたりして、その場で評価していくことも行われるが、まとまったものを読んだりすることが多くなると、読後感を発表し合ったり、総合的な読解テストを行うほうがよい。

 読む力は複雑で多方面にわたっているから、右のような各種の評価をひとまとめにした一覧表形式の読みの評価表を、各人ごとに用意するとよい。

6 読みの学習効果の判定は、読後の感想発表・話合いなどによる自己評価や、教師の観察によったり、読後の興味・行動などを質問したり、観察記録をしたりするが、そのほか一般に各種の形式による教師作製のテストを用いるのである。

〔書くことの評価〕

1 書くことの評価の基準として、直接目につきやすいのは、書写力である。ことに、従来文字の美しさが、その中心となるようにも考えられたが、美しさの前に、まず正しく読めるように書くということを考えなければならない。ことに、書くときに、その目的や相手を考えて、相手にわかる効果的な書き方をするかどうかを中心にすべきである。評価は、書くことの作業の終ったあとで、その作品について品等をつけるだけになりがちであるから、注意しなければならない。

2 文を書くためには、その前の準備として、必要・興味、読む力、身心の成長度、生活経験などをじゅうぶん考慮に入れなければならない。生徒について、今までの経験、関心の領域、創作の経験、今までに書いた文題表などを知っておくことが必要である。また、漢字の習得度を調べたり、身体的欠陥を見たり、筆や硬筆の用具を調べたりしておくことも必要であろう。

3 構想力・叙述力などを見るには、文章を書いているときの、生徒の状態を、よく観察することがたいせつである。教師は、特に注意すべき少数の生徒については、メモをするとか、項目についてチェックをするとかするとよい。

 途中で鉛筆をおいて考え込んだり、ゆっくり考えてから、一気に書きだしたり、人によっていろいろである、また書く内容によって速度や時間などが違う。それらを観察するのである。また、鉛筆をなめたり、毛筆でいたずらしたりするくせを発見したりすることもできる。文字の誤りや、漢字を使うべき所なども、その場で発見して、処理してやると効果がある。

4 作品の処理は、生徒どうしに相互評価させることは、従来も行われていた。教師が添削したり、簡単な批評を書くだけではふじゅうぶんで、生徒の自己評価や相互評価を重んずるとよい。評価の基準も教師の援助によってお互に考え合うこともできる。自作についての評価の基準を用意させておいて記入すればよい。文字のじょうず・へたは、品等法によって評価することができる。創作などについては、比較品等が困難であるが、これについても将来は客観的な学年の尺度も現れることであろう。毛筆習字などについてはすでに行われている。また、表記上の成績についても、適当な基準を立てて、段階をつけることができる。