三 国語科で用いられる評価の技術

 

〔学習指導の計画をするには、各種の調査や準備テストが用いられる。〕

1 前に述べたように、国語科の学習指導計画を立てるには、きわめて広い範囲にまたがって、必要な調査をしなければならない。たとえば、ある学習にはいるには、それに関する過去の経験を知り、その問題に対する関心の程度を調べ、国語の力がどのくらい発達しているかを計り、学習の途上に使われる各資料の有無を考えて、必要な準備をするなど、適切な処置が必要とされる。その方法として、普通、次のようなものが考えられる。

イ 各個人の言語経験を具体的に調べておく。

ロ 文字の力、語いの力などのいっせい調査をしておく。

(すでに習得している文字を一定の時期ごとに調べておいて、読むことや書くことの学習上の指導計画を立てる上の参考とする。特別の術語や人名・地名などについても、他教科の学習と考え合わて、習得の有無、学級や学年の全体の理解度などを知っておく。)

ハ 家庭や地域における言語生活の現状を質問紙法などを用いて、父兄に回答してもらう。

(ラジオや新聞に関する学習をするときには、各家庭における実情を、質問紙を作っておいて、調査しておく。古典や習字などの学習を計画する際にも、そのような調査が必要であろう。父兄や地域社会の人の世論を聞くために、個人ごとに、またはいっせいにその見解や要望を調査することもたいせつである。)

ニ 他教科の教師や、生徒が以前に在籍していた学校などから、必要な資料を手に入れる。

(社会科の教育課程を参照して、指導計画の助けとする。小学校や中学校、以前の在籍学校などの教育課程・学習状態・学力などについて調べておくことである。)

2 右のような各種の調査のほか、ある単元の学習に直接必要なテストをその時その時に行うこともある。

それには次のようなものがある。

イ 興味や関心の度合のテスト。

(あるトピック・古典、特別な内容の読み物について、どの程度の関心を持ち、興味をいだいているかを問答法によって尋ねたり、短い論文体テストによって生徒の一般的な傾向を知る。)

ロ 国語の力の予備テスト。

(文字の読み書きの力や、まとめる力、理解や発表力などを、次の学習のねらいとしている点について、簡単な問題を作って筆答させたり、口頭で答えさせたりする。)

ハ 学習動機の喚起と結びつけて行われるテスト。

(試みに、文を書かせて品等法により評価をして、本学習の導入とするとか、話させてみて、口頭表現上の改善の必要を指摘して、学習意欲を高めるようなこと。右のほか、テストとは言えないが、感想を発表させたり、図書館にはいらせて、その態度や習慣を観察したり、ノートについて品等をしてみたりして、学習の必要と興味を起させることもたいせつである。)

〔学習中には、直接観察法を用いてじゅうぶん評価しなければならない。〕

1 従来、評価というと、結果の処理、あと始末とばかり考えられる傾向があったが、それは、文字・文章の理解や表現力にかたよったからであった。話しことばの力は、どうしても直接それが行われているときに、細かい心くばりで観察して評価しなければならない。それには、話合いや発表の機会を利用する。

2 国語の力というのは、ペンと紙とによるテストでは評価しにくい面が多い。知識や理解や能力以外に、態度・習慣・技術・鑑賞・理想をも見なければならない。特に技術や能力は、実際の場面に使わせてみて、じゅうぶんに評価できるのであるから、学習の過程における評価はきわめて有効適切である。

3 ある作品を評価する場合でも、単に結果だけのでき・ふできを見て品等するのはよくない。その作品が作られつつあるときの評価をじゅうぶんに行って、欠陥の理由を発見したり、すぐれている条件を明らかにすることがたいせつである。

4 国語科以外の学習においても、ことばは常に使われている。他教科の学習中にそのことばづかいや、発表力や、書物の使い方や、聞く態度などを観察する機会が多い。そういう際に、記録しておくとか、他教科の教師に連絡してもらうとかが必要である。

〔学習の終ったあとで行う学習効果の判定には、選択法・真偽法・組合せ法・排列法・完成法および記述尺度法などの、いわゆる客観考査の方法を用いる。〕

1 従来の評価は、主として再生法によって、「次の文の大意をしるせ。」とか、「次の語句の意味を問う。」などの、論文体の、文字による再生表現によっていた。しかし、これでは、深い能力だけが調べられるのであり、わかっていてもよく書き表わせない者がいる。その上、判定にはとかく教師の主観がはいりやすい。

2 そこで、客観的な方法としては、次のようなものが用いられる。

イ 知識や理解を判定するためのもの。

 選択法・真偽法・組合せ法、完成法・配列法など。

ロ 表現力を判定するもの。

 記述尺度法・一対比較法など。

これらは、むろん種々組み合わせて総合的に用いることが多い。文字の力については再生法を用いても、かなり客観的に評価することができるが、選択法や真偽法によって、低い力を持っている者をも評価することができる。

3 習慣・態度・理想の評価は、テストすることが困難であるから、学習の目あてを適当な条項にまとめておいて、生徒の毎日の言語生活に際し、しるしをつけておく方法が用いられている。

4 鑑賞力の評価は、観察によるのが普通であるが、客観的なテストの方法もくふうされている。

5 これまで行われていた論文体のテストも、出題が適当であり、教師の判定が正しければ、やってもよい。観察法は、学習の終ったあとにもやらなければならない。

〔すべての測定や調査はその結果をじゅうぶん科学的に分析し、教育的に処理するのでなければならない。〕

 近ごろいろいろの測定や調査が盛んになってきたが、その諸条件や目的をじゅうぶんに分析しないで、なまの結果をそのままで使うと、かえって大きなあやまちを犯すことがある。テストや測定はその方法・結果をよく吟味して、その処理が教育的に行われなければならない。これが、「測定から評価へ」といわれていることで、われわれにとって測定それ自身でなく、生徒の成長のためにそれを有効に使うことが目的であることを忘れてはならない。