1 化学分析課程の各学年において到達すべき具体的な目標
次に掲げる目標は将来化学分析に従事する中堅技術者の養成を目的とした場合の例である。
2.無機化学と関係ある化学工業を簡単な方法による実験を通じて理解させ,さらに実験室で行う実験と同じ原理が工業ではいかなる形で適用されているかを理解させること。
3.実験室および実験用具の管理方法を体得させること。
4.水および熱源の使用方法に習熟させること。
5.簡単なガラス細工に習熟させること。
6.化学実習用薬品・器具の取扱に習熟させること。
7.試薬試料の調整が正しくできること。
8.化学実習の基本的な操作(加熱・濾(ろ)過・洗浄(じょう)・沈でんの処理等)が正しく行うことができること。
9.計量器を使用しないで液量を推定できる習慣を養うこと。
10.イオンの分離・検出を正しく,そして研究的に行うことができること。イオン反応・化学方程式で諸反応を表わすことができること。
11.観察・推理・くふう,実験に対する計画の諸能力を体得させること。
12.定性分析でも量的な考えが必要であることを実験を通じて理解させること。
2.化学工業で使用される燃料と,それらの価値について理解させること。
3.燃焼の原理を理解させること。
4.燃料製造に使用される炉・蒸溜装置の構造と材料とを理解させること。
5.空中窒素の固定法と触媒の作用について理解させること。
6.気体相互の反応を行わせる方法と,その装置の構造と材料とを理解させること。
7.粉砕と分離用機器を燐酸肥料製造工業を学習する機会をとらえて理解させること。
8.高熱を使用する化学工業用装置の材料と構造の概要を理解させること。
9.高熱処理によって起る変化をセメント・ガラス工業の例によって理解させること。
10.酸・アルカリ工業を学習する機会をとらえて気体を液体に吸収または反応させる方法。触媒の作用,耐酸材料,耐アルカリ材料,乾燥機器の構造を理解させること。
11.高等学校理科指導要領に準拠して有機化合物の性質をできるだけ実験を通して理解させること。
12.生活と密接な関係をもつ有機化合物については簡易な方法で製造実験を行わせ,その工業の概要を把握させること。
13.実験室および実験用具の管理方法を体得させること。
14.無機化学工業製品を簡単な装置を使用して実験室で製造し,これによって大規模な工場における製造も実験室における研究から発展したものであることを理解させること。
15.固体試料について定性分祈を行わせ,系統的定性分祈を理解させると同時にそれに対する自信を高めること。
16.定量分析用器具の取扱方を体得させること。
17.定量分析は,定性分析において学習した反応を基礎にして,沈でんの量を測定する重量分析,標準溶液と指示薬とガラス量器を使用して行う容量分析の二方法によって,試料中の成分を正確に知ることができることを理解させること。
18.秤量を正確かつ迅速にできること。
19.標準試薬を調製することができること。
20.滴定に習熟すること。
21.観察・推理・くふう・実験に対する計画の諸能力および実験中に起る希望しない現象に対しては機宜の処理をなしうる能力を体得させること。
2.油脂原料の産出および原料から油脂を分離する方法を理解させること。
3.油脂の酸価,鹸(けん)化価,沃(よう)素価はその成分を知るため,または用途を考えるためたいせつな数値であることを理解させる。
4.油脂はエステルの一般的性質に従って加水分解する性質をもち,油脂分解工業はこの性質に基づくものであり,
触媒の存存する高圧下で水蒸気による分解,酸による加水分解,
アルカリによる加水分解,酵素による加水分解,
の諸法があること,およびこれらの分解を行う工業の実際を理解させること。
5.高圧油脂加水分解装置の構造と操業方法を理解させること。
6.油脂加水分解生成物の用途を理解させること。
7.油脂の成分脂肪酸によって油脂の定温における状態が異なることから,水素添加によって液体脂肪を固体脂肪に変化させうること,およびこの工業の実習を理解させること。
8.不飽和脂肪酸を主成分とする油の酸化,重合性質を利用して油脂ペンキを製造できることを理解させること。
9.混和・練捏用化学機械の構造とその機能を理解させること。
10.うるし・ニス類・醋酸繊維素・塗料・フタル酸樹脂塗料等の塗料製造工業の概要を理解させること。
11.でん粉の化学式からこれを加水分解すれば,低分子量の単糖類,または複糖類に変化させることができ,これが分解には酸または酵素を作用させること,およびでん粉糖化工業の実際を理解させること。
12.たんぱく質を酸で分解,アミノ酸を製造する工業の実際を理解させること。
13.酸による分解を行う装置の構造と分解槽を耐塩酸性にするために行われる槽の内張りの材料を理解させること。
14.でん粉の加水分解でけっきょく生成されたぶどう糖ほ酵母の作用によって分解し,エチルアルコールと炭酸ガスを生成すること。この作用を利用してアルコールや酒類を製造できることおよびこれらの工業の実際を理解させること。
15.蒸煮・醗酵・蒸溜・過装置の構造と機能と理解させること。
16.ハイドロメータによって,液体の密度を知ることができる。ハイドロメータの種類とそれらの相互の関係を理解させること。
17.溶液のPH価が反応の進行に重要な影響を与えることを理解させること。
18.各種化学工業の学習を通じて,化学工業の合理的経営法を理解させること。
19.人造絹糸・醋酸繊維素・セルロイドの製造工業の実際を理解させること。
20.潤滑剤の規格成分を理解させること。
21.化学分析を化学的学理を基礎として理論的に学習させること。
22.分析方法を立案計画し,しかる後実験に着手することができること。
23.分析に使用する衡器・量器の補正ができること。これによって実験の精度を定めること。
24.実験室(または製造実習工場)および実験用具(および工場設備機械・器具)の管理方法を体得させること。
25.有機化学工業製品を簡単な装置を使用(または工場的装置および機械を使用)して,実験室(または工場)で製造することによって,化学工業技術員たるに必要な資質を育成すること。
26.化学工業用原料・製品・操業の中間生成物の試験または分析に習熟すること。
27.工業試験または工業分析の結果を総合判断して操業上機宜の処置をすることができること。
28.化学分析を理論的に研究し,実験することができること。
29.化学分析方法を立案計画した後に,実験に着手する習慣を育成すること。
30.工業化学の学習単元を関係づけて,
粉砕・分離・洗浄・混和・輸送・吸収と吸着・蒸発・蒸溜・乾燥用機器の構造
と機能とを理解させ,使用目的に応じて選択する能力を体得させること。
31.化学機器製作用材料の適切な選択をなすことができること。
32.動力機の構造と機能動力機の調整法,伝導装置とその機構とを理解させること。
33.材料の強弱に関する知識をはやくさせること。
34.化学機器の部分品の図法を知り,かつそれを読む能力を得させること。
2 化学分折課程の各科目の内容
1.化学実習
2)陰イオンの検出 6)化学工業製品の実験室的製造実習または製造実習
3)陽イオンの定性分祈によって金属化合物の性質実験 7)工業分析
4)総合的定性分祈
2)非金属元素とその化合物 7)酸・アルカリ工業
3)電離とその応用 8)人造肥料工業
4)金属とその化合物
5)石炭・コークス・石炭・ガス・工業用ガス・石油
2)油脂硬化工業 5)醗酵工業
3)塗料製造工業 6)繊維を原料とする人造繊維工業と可塑物工業
2)分析方法の立案計画 4)定量分析用衡器および量器の補正
2)分離・洗浄 8)材 料
3)輸送・工場内測定 9)炉
4)蒸発・蒸溜 10)操業と管理
5)吸収・吸着 11)機械部分品製図
6)乾 燥 12)機器の見取図
備考——化学機器は工業化学を学習の際にも関係あるものは随時学習せしめる。
3 化学分析課程学習指導計画の試案
(1)教科課程の一例
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3
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3
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9
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10
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5
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5
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5
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5
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3
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3
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9
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5
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5
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6
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6
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4
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4
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10
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3
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3
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7
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10
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13
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30
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28
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26
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19
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73
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化 学 実 習 |
3
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3
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2
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2
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3
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3
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2
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2
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2
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2
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28
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28
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85
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1
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1
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1
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3
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1
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1
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1
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3
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1
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1
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1
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3
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1〜2
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1〜2
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1〜2
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3〜6
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4〜5
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4〜5
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4〜5
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12〜15
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化学実習 |
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工業化学1(無機化学工業) |
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工業化学2(有機化学工業) |
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工業化学3(分析化学) |
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割当時数(5単位) | 175 | 割当時数(2単位) | 70 | 245 | |||||||
非金属元素とその化合物生成,性質実験,陰イオンの検出実験 | 40 | 生活と密接な関係をもつ非金属元素とその化合物 | 27 | 67 | 27.3 | |||||||
電解実験 | 2 | 電離とその応用,水の電解工業 | 4 | 6 | 2.5 | |||||||
塩素の工業的
製造実験 |
8 | 酸と塩素の製造工業概要 | 4 | (吸収煮詰・冷却) | 12 | 4.9 | ||||||
陽イオンの定性分析により金属化合物の性質実験 | 105 | 主要金属とその化合物 | 25 | 130 | 53.0 | |||||||
簡単な治金実験
電鉱実験 |
10 | 冶金,金属の利用と加工 | 6 | 16 | 6.6 | |||||||
ルブランソーダ法による炭酸ソーダ製造実験 | 10 | アルカリ工業概要 | 4 | (抽出・過) | 14 | 5.7 | ||||||
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割当時数(6単位) | 210 | 割当時数(2単位) | 70 | 割当時数(2単位) | 70 | 350 | |||||
石炭乾溜工業 | 8 | 燃料工業 | 20 | (炉・蒸溜・粉枠・分離) | 28 | 8.0 | ||||||
脂肪族化合物の生成および性質実験 | 25 | 脂肪族
化合物 |
30 | 55 | 15.7 | |||||||
硫安燐酸肥料製造実験 | 6 | 人造肥料工業 | 15 | (吸収・蒸発・分離・乾燥) | 21 | 6.0 | ||||||
還式化合物の生成および性質実験 | 25 | 還式化合物 | 60 | 17.0 | ||||||||
炉および炉材粉砕機による演習 | 4 | セメントガラス | 15 | (炉・粉砕) | 19 | 5.4 | ||||||
たんぱく質の酸による分解酵素の作用 | 8 | たんぱく質酵素ビタミン | 5 | 13 | 3.7 | |||||||
同体試料について定性分析 | 26 | 26 | 7.5 | |||||||||
定量分析 | 100 | (工業原料製品の主要成分定量) | 100 | 28.7 | ||||||||
ソルベー法による炭酸ソーダ食塩電解実験 | 8 | 硫酸・硝酸合成,塩酸・アルカリ工業) | 20 | (吸収・乾燥) | 28 | 8.0 | ||||||
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割当時数(6単位) | 210 | 割当時数(2単位) | 70 | 割当時数(2単位) | 割当時数(8単位) | 105 | 455 | ||||
石鹸製造廃液から食塩回収とグリセリン製品試料・原料と製品の試験 | 30 | 油脂分解工業
油脂硬化工業 |
14 | 輸送・蒸留・蒸発・乾燥・混和 | 10 | 54 | 11.7 | |||||
ボイル油製造・ペンキの製造・製品の試験 | 15 | 塗料工業 | 10 | 粉砕・混合・吸着・分離 | 5 | 30 | 6.4 | |||||
でん粉糖化たんぱく質分解実験・製品実験 | 20 | でん粉糖化たんぱく質分解工業 | 12 | 炉過・蒸発・吸着 | 5 | 37 | 8.0 | |||||
化学分析実験 | 40 | 化学分析の理論的研究 | 35 | 75 | 16.5 | |||||||
アルコール醗酵実験製品について工業分析 | 20 | 醗酵工業 | 12 | 蒸煮醗酵装置・蒸留装置・吸着 | 10 | 42 | 9.0 | |||||
分析実験 | 20 | 分析方法の立案計算 | 15 | 35 | 7.5 | |||||||
人造繊維パルプ
製造実験パルプについて工業分析) |
25 | 植物繊維を原料とする人造繊維可塑油工業 | 20 | 蒸煮・叩解分離・紡糸 | 10 | 55 | 12.0 | |||||
工業実験 | 10 | 潤滑剤 | 2 | 動力機・伝動機構材料強弱 | 25 | 37 | 8.0 | |||||
製 図 | 40 | 40 | 8.6 | |||||||||
補正実験
自由研究実験 |
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衡器・量器の補正自由研究 | 20 | 50 | 12.3 | |||||||
計 | 595時間(17単位) | 140時間
(4単位) |
140時間
(4単位) |
70時間
(2単位) |
105時間
(3単位) |
(2)化学機器において学習すべき材料は工業化学を学習する際随時学習せしめる。
A.単元の展開
単元 |
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学 習
所要時間 |
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1.油脂の成分・性質 | 1)油脂の主成分
2)油脂の性質 |
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2.採油法 | 1)動物油脂の一般的採油法
2)植物油脂の一般的採油法 |
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3.加水分解法 | 1)アルカリによる分解法
2)酸による分解法 3)高圧分解法 |
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合 計 |
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1.油脂の比重・粘度・擬固点測定
2.原料から油脂をとる方法と油脂の精製法 1.油脂の酸価・酸化価・沃素価測定 1.せっけんの製造せっけん廃液から食塩とグリセリン水の回収 1.生徒が製作したせっけんの工業分析 |
1.比重瓶・粘度計・凝固点測定装置の使用法
1.採油と精製装置の取扱 1.酸価・酸化価・沃素価の測定装置と測定方法 1.せっけんの製造方法せっけん製造用機器および取扱とせっけん廃液の処理方法 1.せっけんの工業分析方法 |
1.油脂の利用的価値
1.油脂の需要量と産出量主要油脂の産地 1.原料から油脂を採る方法の発達過程,精製作業の変遷 1.油脂加水分解工業の発達歴史 1.油脂ならびに加水分解生成物の販路および対外貿易関係 |
1.油脂の種類と成分
1.酸価・酸化価・沃素価と油脂の利用との関係 1.採油・精製用機器の種類・構造・材料 1.せっけん製造工場に設置されている装置の構造,作動,流れ作業 |
Ⅰ.目 標
(1)アルカリによる加水分解法の原理とその工業的作業法を理解させる。
(2)加水分解用機器の機構とその材料ならびにその取扱方を理解させる。
(3)せっけんの製造ができること。
(4)せっけん廃液から食塩とグリセリン水を採ることができること。
(5)せっけんの分析ができること。
にまで発展させる。
Ⅱ.教師の準備と活動
(1)アルカリによる加水分解法の原理について生徒の学習経験を基準として発表討議させる(教師整理)。
(2)学習書について(アルカリによる加水分解工業)を学習し,その要点を学習ノートに発表させる。
学習上の要点指示
(1)硬せっけんを製造するのにいかなる油脂が原料として適するか,その理由をも考えること。
(2)原料油脂に対して必要な苛(か)性ソーダの量を概算すること。
(3)けん化の温度・時間,所要苛性ソーダ水溶液の濃度と,それの加え方およびそれらに適合した作業をしなければならない理由。
せっけん膠からせっけんを分離する方法。
(4)せっけん製造機器の材料と機構についてもその理由を考えること。
(5)廃液から食塩とグリセリンを回収する方法について考えること(廃液が沸騰する温度附近における食塩の溶解度,グリセリンの沸点を考えの中に入れて考えてみればよい)。
(6)この工業の社会的必要性,輸出産業としての将来性について調べてみること。
b)生徒の学習および実験活動に対して指導をする。
c)学習指導票に基づく学習の際行う実験に必要な原料・薬品・器具(または機器)の整備をする。
Ⅲ.生徒の活動
(2)この化学反応を応用する化学工業の社会的必要性と輸出産業としての将来を調べる。
(3)指示された学習上の要点によって硬せっけん製造法とせっけん廃液処理方法について学習する。
(4)実験室(または工場)で硬せっけんを製造する。
(5)生徒が製造したせっけんについて工業分析を行ってその結果を発表し批判し合う。
(6)塩祈の原理から塩析剤として食塩の代りに苛性ソーダを使用しても同一の結果を得られるか否かについて研究し合う。
(7)化学工業製品過程中において強電解質を加えて塩析またはこれに類似の結果をまとめて他の例を調べてみる。
Ⅳ.結果の考査
1.原料の概量を計算によって定める。 2.けん化する。 3.塩祈する。
4.せっけんを試料として工業分析する。5.せっけん水分試量をダイアグラムで表わすなど。
(2)作業中の観察・研究事項については実習報告書を通じて,また学習によって把握した知識と理解の程度については学習ノ一トや生徒の討譲を通じて記述尺度法によって測定するか,もしくは課題に対する解答によって測定する。
(3)学習および実験作業中の観察によって生徒の態度や習慣を記述尺度法などで測定する。
著 者 書 名
工学博士 友田宣孝 応用化学精義 〃 厚木勝基 化学工業通諭 |